えぴそど167 帝国ヒエラルキー
勘違い豚野郎…いや、相手は子供だ、流石に今のは訂正させてもらう。
勘違い子豚…いや、勘違い坊っちゃんだ。
その勘違い坊っちゃんに、辛辣な言葉を並べられた挙げ句、仕事をやるからと引き止められた俺達であった。
「おいゴミ。ことわれ。」
「ああ、分かってるよ。」
こんな傲慢なキャラに付き合っても、トラブルしか起きない自信がある。密入国で無ければ、冒険としては出会いの王道パターンだろうが、いかんせん間が悪い。
「申し訳ございませんが、先を急ぎますので失礼致します。」
「ならん。下民が俺様の言を拒否するな馬鹿が。付いてこい。付いて来ないのであれば逆賊として手配をかけるぞ。」
あかん、こいつちっちゃいアルネロみたいな口調だ。
「………どうするアルネロ……全力で走るか?俺達の方が早いぞ。」
俺は、真横のヤッパスタにすら聞こえない程の小さな声で喋った。
「いくさきざきに、てをまわされるとやっかいだ。なんとかことわりきれ。」
「う…ら、らじゃ。」
「旦那、俺がやっちまおうか?今なら一撃で全員ふっとばせる気がするぜ。」
ヤッパスタの我慢が臨界点を越えようとしていたので、俺は何も言わず、ヤッパスタの肩を叩きながら、勘違い坊に向かい数歩近寄り、膝を付いて答えた。
「どなた様かは存じ上げませんが、我々は旅の途中。元来この土地の者ではありません。命令に従うべきでは無いかと思われます。何卒お見逃し頂きたく──」
「うるさい。話くらい聞け下民。それから断るかどうかの交渉をしろ。はぁ…これだから馬鹿どもは。」
確かにそれはそうだが…
内容も聞かずに即答で答えるのは、階級社会において無礼だったかもしれない。
だが、聞いた所で断れない様に持っていくのも、また権力者の常套手段だと思える。
そもそも、高圧的な態度の時点で、関わりを絶ちたい気持ちしか芽生えない様に思える。
「…………分かりました。内容だけでも。」
「当たり前だ下民。屋敷まで俺様の護衛をしろ。その後、我が家自慢のシェフによる料理を嗜み、最高級ベッドで就寝するのだ。旅の続きはその後にすればいい。ん?聞いてるのか下民。」
俺は話の途中からあっけにとられていた。
この勘違い坊っちゃんは、口がかなり悪いが、恐らく俺達に助けた礼をしようとしている。
なんと誤解を招くタイプの子なんだろうか。
「あ、しょ、少々お待ちを。」
「早くしろグズが。」
俺はそのまま振り向き、アルネロを様子を確認する。
アルネロはフードを深く被ったまま肩をすくめ、俺に任せると言った様子だった。
「………じ、実はですね……問題が。」
「どうした、言ってみろ下民。」
「た、旅の途中に魔物に襲われですね、その、み、身分証的な物を無くしてしまいまして…街には入れないのです。」
「身分証?ギルド発行のものか?そんなもの不要だ。我の街ぞ。さっさと付いて来い。」
「え、あ……じゃ……じゃあ。」
俺は答えながらも、再びゆっくりとアルネロの方向を振り返る。
アルネロは手で顔を覆い、天を仰いでいた。
断れる気もしないし、良く分からないまま街に入れる事になったので、俺はそのまま付いて行くことにした。
アルネロは何も言わなかったが、俺の横まで来ると、わざとらしく大きく溜息を吐く。
ヤッパスタの怒りは収まっておらず、目に付く兵士や侍従を全て睨みながら横柄に歩く。
俺達はそのまま、馬車の荷台の更に後ろに付いているバルコニーの様な場所に乗せられ、遠くに見えるジャンカーロに向かった。
「旦那ぁ、俺はあのガキいかんせん好きになれませんぜ。」
「お、おいヤッパスタ。声が大きいよ。聞こえたらどうする。」
「それにしても、良かったのです?本来の目的を考えますると、これは悪手に思えるのです。」
「む、難しい言い方をするなよグリカ。大丈夫。俺達には今拠点が無いんだ。まともな情報を得る為にも、あの大きな街に入れるのはチャンスだよ。」
俺は不満を言うヤッパスタとグリカをなだめた。
「もうこうなってはしかたない。それに、ゴミのいうこともいちりある。めだたぬようこうどうするぞ。」
「分かったよアルネロ。」
そうこう話している内に、ジャンカーロの城壁へと到達する。
俺達はバルコニーから身を乗り出し、城門の状況を確認すると、予想通り、入城審査が行われており、長い列を成していた。
馬車はその横を素通りすると、立っていた城門兵が道を開ける様に綺麗に整列し、手にした剣や槍を頭の上に掲げ、この馬車を歓迎している様だった。
この坊っちゃんは、おそらく相当な権力者の子に違いない。
多くの兵士達の横を通り、俺達は無事ジャンカーロ城内へと入る事に成功した。
そこはアスタリアとは違い、幾分か文明的な造りになっており、中央に位置する城ですら、城と言うより高層ビルの様になっていた。
「凄いなこれは…」
「帝国領南部で一番の主要都市です。私も見るのは初めてなのですが、これほどまでに栄えているとは思わなかったのです。」
馬車は尚も街の中心部へと向かい進み、俺達は街の景色や人々の雰囲気などを確かめていく。
そうして馬車は城の近くまで来ると
大きな豪邸の敷地の中へと入って行った
 




