えぴそど166 眼球クリティカル
クリスタルウルフに追われる馬車を助けるべく、俺達は街道を外れ、草原を走り抜ける。
「ヤッパスタ!派手な技を使って狼を引き離せないか!?目くらましでもいい!」
「任せろ旦那!そういうのは得意だぜ!」
あと100メートルほどだろうか、ヤッパスタが魔法陣を展開する。
〈中級魔法 身体強化〉
「たまれたまれたまれー!!」
ヤッパスタの魔法陣に光がどんどん集まっていくのが目に見えて分かった。そのままヤッパスタが速度を上げ、強化した状態で馬車に向け大ジャンプを見せる。
「こいつを使う時が来るとはな!!ひゃっはー!!いくぜー!!!ヤッパスタ奥義!!ヤッパスターーーサーン!シャーーーーーイン!!!」
〈ヤッパスタ奥義 ヤッパスタサンシャイン〉
※中級槌スキル オーロラビット
空中のヤッパスタは、七色に強く眩い程に輝き始め、辺りを照らし始めると、狼達の足が止まった。
「おっしゃー!狙い通り!どうだ旦那!嬢!」
「ば、馬鹿野郎!!!!俺も何も見えねーよヤッパスタ!!!目がやられた!!」
「目がぁー!目がぁーなのですー!!」
俺と、見えてはいないが、どうらやグリカにもクリティカルヒットした様子だった。
「ふん、じょうできだとうぞく。」
「だろ!?だろー!?」
『キャイン!!』
俺はまだ眩しさにやられた目に視力が戻っていない。その間に、狼達の悲痛な鳴き声が所々聞こえ始めた。
「とうぞく!そっちをやれ!」
「あいさー!!」
その後、俺は手探りのまま、声を頼りに地面を転げ回っているグリカを保護し、(胸に手が当たってしまったがこれは不可抗力だ)視界が戻るまで、アルネロ達に任せる事にした。
10分と経たず戦闘音は止み、近付いてくる足音が聞こえる。
「旦那ぁ、すまねぇ。気合が入りすぎてよ、いつもよりすげぇ事になっちまってたぜ。」
「いや、頼んだのは俺だ。謝ることはないけど…まぶしいよ!こら!!!ああいうのはやるまえに言えよ!」
俺は薄っすら戻った視界から、ヤッパスタの頭をどこから出したのかスリッパで叩いた。
「へへ、すまねぇ旦那。」
「何も役に立てなかったのです…」
「いまのはしかたない。きにするなグリカ。」
グリカを慰めるアルネロの背後には、鉄甲と金槌で潰された、クリスタルウルフの死骸がいくつも横たわっていた。
「お?馬車がこっちに戻ってきやすぜ。」
俺は細部まで見ていなかったが、視界が戻った時には既に馬車の姿が無かった。
そのまま離れ街に向かっていたのだろう。
わざわざ戻ってくるとは、中に乗っている人は律儀な良い人に違いない。
「下民共、近くに居たのならもっと早く助けんか馬鹿どもが。」
さっきまでの気持ちを返してくれ。
馬車が止まり、後部のドアが開くと同時に、椅子に座り足を組んだ太った子供が、罵声を浴びせてきた。
でっぷりと肥えた顔と腹、きらびやかな装飾が施された服装。椅子の両脇には美人過ぎるメイド。
間違いなく貴族のおぼっちゃんだ。
「おい、クリスタルウルフを回収しろ。」
従者に指示をすると、中からこれまたきらびやかなな鎧を来た兵士達が数人が降りて来て、狼の死骸を集め始めた。
倒したのは俺達だが、別段ここで揉めるつもりは無い。
それこそ、頼まれた訳でも無く勝手に助けたのは俺達なのだから、どういう結果になっても仕方ない。
アルネロは我関せずと言った様子で、馬車に半分背中を向け顔がよく見えない様にしていた。
グリカは無表情が極まった様子で、狼の回収を眺めていた。
ヤッパスタは、澄ました顔をしながらも、眉間の辺りに青筋が張っている。流石に苛ついている様だが、なんとか思いとどまっている様だった。
「おい、そこの下民、何を見ている。よもや俺様が連れてきたクリスタルウルフを、横取りしようと考えているのではあるまいな。」
目が合ってしまった俺に、太った子は言ってきた。
「……いえ、もちろんお引取り頂いて構いません。私達は旅の者で、ただ、通りかかったまで。」
我ながら大人の対応が出来たと思う。
「下民が、許可なく俺様に話しかけるな。」
ぐぬぬ
あのヤッパスタですら耐えているんだ。
俺がキれてしまっては…
そう思い、ヤッパスタの方を再度見ると、青筋を通りこして顔が真っ赤な状態だった。
「い、行こうみんな。」
俺はヤッパスタの肩を引っ張り、みんなを連れてその場を離れようとした。
「待て下民共。何を勝手に帰ろうとしている。許可なく動くな馬鹿が。俺様に付いて来い、仕事をくれてやろう。涙を流しながら喜べ。」
その言葉にヤッパスタの頭から
蒸気が吹き上がっているのが見えた




