えぴそど162 弾劾ジャッジ
「ゆ、許せ。お前にした事は謝る。だから見逃してくれ。」
ザブザザは手を床に付け、頭をより一層深く落としサブダブに謝罪した。
サブダブは腰を下ろし、その姿を目に焼き付ける様に睨みつけながら、口を開いた。
「あんたにとって、謝罪なんてものは息をするより簡単な筈でしょうよこれ。それに、あー、分かるかな~もう許す許さないとかいう次元の話では無くなってるでしょうよこれそれ。」
冷たく、ザブザザにだけ聞こえる声で話かけるサブダブの眼は、更に鋭さを増していた。
「じゃ、じゃぁ何が望みなん……ひっ!」
ザブザザは顔を上げ、サブダブの顔を再び見ると、サブダブの眼に恐怖を抱いた。
「はぁ……ひとまず、遺産相続でもさせてもらうでしょうよこれ。あんたこれまでに善良な市民から巻き上げたものはどこにある。」
「そ、そんなものは…この状況を見ろ。皆がロコナ病に倒れ、このコミニュティーには労働力が無いのだ。私の財は皆を守る為、既に使い果たしている。」
「……ははっ…はははっ…あーはっはっはっははー!!!!!!!」
その言葉を聞き、サブダブは大きく笑い、胸から取り出した魔鉱石をザブザザに渡した。
苦しそうに休んでいた周りの民も、その声に流石に身体を起こし状況を確認した。
「ふざけるな!!お前が人の為に金を出す訳が無いだろうが!!!いい加減にしろ!」
「なっ、何を馬鹿な事を!…うぅゴホッ!ゴホッ!」
「嘘の咳も止めろ!!お前はロコナ病にかかっていない!!!おい!!お前ら!!全員聞け!!」
サブダブはザブザザに背を向け振り返り、生気を失った者達に向け声を張り上げた。
「この男の本当の名前はテンペラーゼ!キジュハの末裔でも何でも無い!!ザブザザは末裔を名乗る為につくった只の偽名だ!これまでにも、お前らの様な本物のキジュハの末裔を騙し、数多くの詐欺を働き!私服を肥やしてきた本物のクソ野郎だ!この写真を見ろ!!」
サブダブは天井に向け、写真の束を投げた。
「自分の子にすら、偽りの名を付けるカスだしな…くくっ。」
「な、これは!?」
「ザブザザ様!?」
「う、嘘だ!うっゴホッゴホッ!」
グリカも写真を数枚拾い、手にする。
そこには、ザブザザが金銀様々な装飾を付けた格好をし、見知らぬ場所で、豪華な食事や女性をはべらせているものだった。
更には、過去のものと思われる、若いザブザザの写真もあり、今とは違う凶悪な人相と、人々を脅しているものや、人を剣で刺し笑っている場面の写真があった。
「こいつはお前らから巻き上げた財を、ただ己の為だけに使っている根っからの詐欺師だ!そして、この塔にロコナ病を広めたのもこいつの仕業だ!!自分だけが薬を飲み、金を出せなくなったお前らを始末して、また違う街で同じ様な事を繰り返す!こいつはそうやって今まで生きて来たんだ!!」
サブダブの声が止むと、祭壇の間は異様な静けさに包まれた。
「ふん、後はどうするか、お前らで考えるべきでしょうよ。」
「ま、待てサブダブ!待ってくれ!!」
サブダブは振り替えず扉に向かい歩き出し、グリカの横を一度は通り過ぎるが、不意に立ち止まる。
「……ちっ」
振り向き、グリカの元に戻ると手を引っ張り共に祭壇の間を出る。
サブダブが扉を閉めると、部屋の中から罵詈雑言がうずまく怒声が響き、ザブザザが問い詰められているのが分かった。
「え、あ、これ。」
扉の前で、グリカが手にした写真をサブダブに差し出す。
「はぁ?いらないでしょうよこれ。その辺に捨てとけ。」
「はい…なのです…」
グリカは写真から手を離すと、考えを失ってしまったかの様にただ立ち止まっていた。
「サブダブ隊長。」
「おう、オールシャ。どうだった?」
「はっ、隊長の読み通りです。食料庫の奥にて、地下への入り口を見つけました。通路の先に通貨や貴金属類を発見致しました。美術品や武器等も多数です。」
「あいつのいつものパターンだからな…全部回収するでしょうよこれ。」
「はっ!」
オールシャは他の甲冑兵を伴い、再び食料庫へと向かった。
「グリュンゲルガー!」
階段下から縄をほどかれたジュビデュア達が、グリカの無事を確かめるかの様に名を叫んでいた。
その声から間もなく、開放された若者は全員、階段を駆け上がってくる。
「大丈夫かグリュンゲルガー!」
「え、あ、うん。私は問題無いのです。」
「良かった。おいあんた!縛ったり解いたり何がしたいんだよ!」
サブダブは、食って掛かるジュビデュアを面倒臭そうに見つめると、祭壇の間を指差した。
「いいのか?中は楽しそうだぞこれ。」
「あ?中?」
「お、おいジュビデュア!これ!」
ガガオブガはグリカが捨てた写真を拾い、驚いた表情をしたままジュビデュアに渡す。
「ザ、ザブザザ様!?なんだこれ!」
サブダブの片方の口角が不敵に上がり、ジュビデュアに肩を組み、祭壇の間の扉を少し開いた。
「ほら、見てみろってよ少年。中は楽しそうだろ?」
扉から漏れていた罵声が、一際大きくなり、中からは熱気すら感じられる程に、ザブザザを糾弾する声が響いていた。
「くっ…ガガオブガ!い、行くぞ!」
「あ、ああ!」
ジュビデュアはサブダブの腕を振り払い、仲間を連れて祭壇の間へと入って行った。
その姿を見届け、サブダブは静かに扉を閉める。
「さてと、もうそろそろだな。おい、女、少しここを離れるってよこれ。」
「え?あ、はいなのです。」
グリカは未だに心ここにあらずと言った様子で
手を握られたまま階段を降りて行った




