えぴそど160 破滅のキジュハ
「貴女は自分の信じるものがあるのですか?」
グリカはダメージのある腹部を押さえながら、天照の塔の内部にある、螺旋階段をランタンに入れた光る魔鉱石を手に登りつつ、アルネロへと問いかけた。
「……ないな。あったきもするが、あのおとこにすべてをうばわれた。」
「そう…なのですね。」
塔の中層まで来ると、グリカは階段脇の扉を開ける。
「中を見てみるのですよ。」
「む……これは……」
扉を開け部屋に入ると、正面の祭壇の周りに、いくつものミイラ化した死体が、ぎっしりと棚に積み上がっていた。
「この塔に住んでいた者達です。」
「きさまがやったのか?」
「まさか。私にこんな魔法は使えぬのです。」
「………はなしがみえんぞ。」
「……2年前、この塔に住む者はほぼ全員、ある伝染病にかかっていたのです。帝国内には既に薬は完成していたのですが、皆は血が穢れると飲む事を拒んでいたのです。」
グリカはランタンを近くの椅子に置くと、別の椅子をアルネロの前に差し出した。
アルネロは出された椅子に座り、その様子を見たグリカが話を続けた。
「私も例外無く感染し、まともに起き上がるのも苦しい程に弱わりながら、皆の介抱を続けていたのです。そこにサブダブ様が来られました。」
「………」
◇
【一年前 天照の塔】
「リューバドジー……ガジャラダ…しっかりするので…コホっコホっ…」
グリカは、祭壇の広間に何人も寝かされている病人の介抱をしていた。
人々の顔には赤い発疹が出ており、咳と発熱がひどい状態だった。
しかし、まともな治療を受けておらず、また、食事もままらない状況から、並べられた者の中には、既に息絶えている者も混じっている。
「グ、グリュンゲルガー…はぁ…はぁ…こっちは俺がやる…サブザザ様にこれを頼む…」
「はい…なのです…」
グリカが渡された盆には、野菜とは言えない葉っぱが数枚浮かんだ粗末なスープと、薬に見立てた何かの根っこが置かれていた。
盆を持ったまま、人の間を縫うように祭壇に来ると、祭壇に一番近い場所に横たわる老人の元で、グリカは膝を折る。
「サブザザ様…お食事をお持ちしましたのです。コホっ…」
「……すまないな。確か、ゼゾイボットだったな……母はどうした…」
「母はあちらにおります……サブザザ様、私含め、この病に感染しておらぬ者が、ついにいなくなったのです……」
「……そうか……いよいよ持って、潮時か…」
「サブザザ様、お気を確かになのです…コホっコホっ…」
グリカの言葉を聞いていたかは分からないまま、サブザザと呼ばれた男は、スープには口を付けず、身体をお越し何かをブツブツと言い始めた。
グリカは盆を置いたままその場を離れ、母親の元へと向かう。
「お母様…容態はどうなのですか。」
「……グリ…カ…今日の…任務はどうだったの…」
グリカの母親は薄目を開け、問に答える事なく質問を返してきた。
「……問題ないのですよお母様。付近への侵入者は居ないのです。」
「…そう……いいことグリカ。我ら…崇高なキジュハの民が…再び世界を正しい道へと導くその………ゴホっゴホっ!ゴホっ!」
「お、お母様、大丈夫なのです。大丈夫だからゆっくりお休み下さいなのです。」
「ゴホっ!ゴホっ!………信じられるのは…ここに居る者達だけ……他人を、外の人間を信じては…いけませんよ…グリカ…」
「はい…分かっているのです、お母様……さぁ、お休みになるのですよ。」
母親の額に当てられていた布を、横に置いてあった器の水に付けしぼると、グリカは再び母親にかけ、祭壇の部屋を出た。
「グリュンゲルガー!ここに居たのか。まずいことになった、一緒に来てくれ。」
祭壇の間を出たばかりのグリカの手を、武器を手にした若い男が掴み、駆け足で階段を降りていく。
「ま、まって。コホっコホっ。そんなに慌てて何があったのですジェビデュア。」
「帝国兵だ。こっちに向かってきてる。」
「帝国兵!?なんで今更!?」
「俺にも分からないが、疫病の事かもしれない…ともかく戦える者だけでやるしかないだ。辛いだろうが一番強いお前抜きじゃ勝てない。頼む、手を貸してくれ。」
「……分かったのです。ヤるです!」
グリカがジュビデュアと共に塔から出ると、数人の若者達が武器を手に街道の方を見ていた。
「ガガオブガ!帝国兵はどうだ!」
「ジュビデュア!グリュンゲルガー!遅いぞ!奴らまっすぐこっちに来てる!ゴホっゴホっ!数は少ないが、こっちもこれだけだ!」
「何人で来ようが神聖な天照の塔へ入れる訳にはいかない!守りきるぞ!」
「「「「おー!!!!」」」
グリカも塔の入り口にあった剣を取り、街道から向かってくる帝国兵の動向を覗う。
「来た!」
仲間の声に反応するまでも無く、その場に居る全員が正面から歩いてくる兵士の集団を見ていた。
「白い甲冑?本当にあれは帝国兵なのか?」
「間違いない!マントに白獅子の紋章が刻まれてたんだ!」
「なら…遠慮はいらないな!突撃だ!」
手に龍の紋を刻んだ若いキジュハの民は
近づく兵士に向かい走り出した
・
・
・
私事ですが
先日2021/4/20 誕生日を迎えると共に
入籍致しました
だからなんだと言う訳ではありませんが
これからもハートフルで心安らぐお話を
続けられたらなと思う所存です。
そうですこれは
心がどこかほっこりする様な
そんなお話だったのです。
え?合ってますよね?
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
青狗
 




