えぴそど158 酒盛スパイ
「「かんぱーい!!!」」
何度目の乾杯になるだろうか。
俺とヤッパスタは、ボロボロの街でボロボロの廃れた酒場を見つけ、酒を呑みまくっていた。
キャッシュオンで呑んいるものの、アルネロから貰った帝国の通貨も既に底を突きそうだった。
「で、勇者様は空に穴を開けたって話よ。」
「まじか!空に穴って、もうそれ神様じゃねーか!だはははっ!」
テーブルには現地のよれよれの鉱夫が相席しており、俺達の金で酒を呑んでいた。
ヤッパスタの悪く言えば馴れ馴れしい高コミュ能力で、最初は不機嫌そうだった鉱夫達も、今ではすっかり上機嫌そのものだ。
もちろん、情報収集の為に俺達から誘っただけで、決して大人数で呑みたい訳では無い。
無いったら無い
「そういや、一年くらい前か、レベリオンの兵士がこの辺りにも一ヶ月近くウロウロしてたんだけどな。」
「魔物に襲われてたのか?」
ここまでの話で、勇者が組織するレベリオンは、地方の、正にここの様な自衛出来ない街や村々を、魔物の驚異から救う活動をしていると聞いた。
「うんや!この辺りの魔物は大人しい奴が多い。不用意に手を出しちまえば恐ろしく強えが、攻撃さえしなけりゃ、真横を通っても反応しねぇぜ。」
「それに、あそこに見えるスタンレー山脈は、魔物避けの魔鉱石が採れる岩石地帯だ、俺達が毎日掘り出してるしよ、大量に保管されてるこの街にわざわざ好き好んで魔物はこねぇんだ。」
「……じゃぁ、レベリオンは何をしに?」
正直、魔物の驚異が無ければ、この街に滞在した理由は気になる所だ。
なにせ、ここから半日と離れていない場所に、王国と帝国を結ぶレアダンジョンがある。
勇者達がこの道を確立させていれば、ブーメルムの防衛網を抜け、王都へ回り込む事が出来るからだ。
「俺達も働いてたしよ、直接見た訳じゃねーんだけど、天照の塔に行ってたっていう話は聞いたぜ。」
「あの塔か…」
「あそこはなんなんだ?地震が起きりゃすぐ崩れそうだったけどよ。」
「ああ、ありゃ天照の塔って言われてる一部の奴らからしたら神聖な塔だ。」
「宗教が絡んでるのか?」
「うんや、違う。400年前に滅んだキジュハ王朝時代の建造物だ。崇めてるのは、旧王朝時代の王族の末裔どもだろ。」
キジュハ王朝、最初に王国と戦った国。
話はアルネロから聞いている。
帝国の前身となる王朝は、国と呼ばれる物が無い時代、初代勇者とその仲間達が築いた国らしく、今の帝国の半分ほどの領地を収めた国だった様だ。
しかし、今の帝国の様に合理主義では無く、民を中心に政治を回し献身した国の為、滅びた今なお根強い信者がいるらしい。
もちろんと言えばそこまでだが、滅びた理由は内紛。
民を優先する事業を続けた事により、不満を持った軍部からのクーデターを受け、割とあっけなく滅んでしまった様だ。
「そういやーよ、あの塔でお面を付けた女の子を見たんだけどよ、あれはこの街の子なのか?」
ヤッパスタが、グリカの事を話を始めた。
「あ?ああ、あれか。あれは可愛そうな子だ。」
「なんかあるのかよ。」
「お前さん達が言うように、元はこの街の子だ……だがよ、あれの親の頭がイっちまっててよ…」
「それこそ、今話をしてたキジュハ信仰者だったんだ。それも…間違った方向によ。」
「詳しく聞かせて貰えますか?」
俺は情報量替わりと言わんばかりに、鉱夫に新しい酒を渡しながら質問を続ける。
俺達の本来の目的から見れば、寄り道になってしまう様な話だが、レベリオンが塔に行っていた事を考えると、聞いていても損は無い。
まぁ、それは建前で、何やら事情がありそうな女の子を放おっておけなかったのかもしれない。
◇
「誰なのです!!」
グリカは人の気配を感じ、すぐさま武器を構える。
日は暮れ、魔鉱石の灯りが届かない場所に、誰かが立っている。
「きゅうにすまないな。きさまにはなしがある。」
暗闇から姿を現したフードが着いたコートを着た者は、グリカが昼間に森で見つけた三人の内の一人だった。
「貴女は……アカーシャでしたね。偽名でしょうが、わざわざ初代キジュハ王朝の姫君の名前を使うとは、最初に聞いた時は怒りでぶち殺してやろうと思ったのですよ。」
「はなしがはやくてたすかる。わたしもきさまが、きにくわないとおもっていた。」
アルネロはフードを上げると、背中に背負っていたケースから大きな鉄甲を出し装着し始める。
「獣人?…なぜ我々を狙うのです。この塔の宝はもう何も無いのです。」
「われわれ…?ふんっ、たからとか、そんなくだらないものがもくてきじゃない。きさまのつけているそのめん。そのもようをどこでみた。」
「……そういう事ですか……その殺気、貴方はサブダブ様の敵なのですね。なら……賊よりも罪は重いのですよ!!!!」
「ふっ、おおあたりだな。」
グリカは巨大回転ノコギリを突き出しながら、一直線にアルネロに突進してきた。
眼前まで迫るグリカのノコギリを見てもまだ
アルネロは不敵な笑みを浮かべていた




