えぴそど156 忍者クノイチ
「大丈夫なのです!この苦難、共に乗り越えるのですよ!」
「え、あ、ああ!」
突如現れたお面黒装束の女の子を、一言で形容するなら忍者だろうか。
「てやっ!!はぁ!!!」
俺はその女の子と共に、綿毛ポメに攻撃を加えて行く。
「旦那!嬢の指示だ!俺も加わるぜ!」
「ああ!頼む!」
「そちらのお仲間なのですね!心強い!たぁ!!とぅ!!」
俺は、レベル差がある為、念の為にヤッパスタをフォローしつつ女の子を観察してみる事にした。
レベルは25とそこまで高くは無い。
身長もメイエリオより若干低いくらいだろうか、背が高いという印象は持てない。
その分、身のこなしは軽く、格上の綿毛ポメの攻撃を、素早く回避しつつ攻撃を繰り出しているし、身のこなしから戦闘には相当慣れている様子だった。
違和感があるとすれば、その武器である。
以前、フットプリンツとの戦いの時、コノウさんがクナイ型のナイフを使っていたのを見た。
日本の神が創った設定なら、忍者や侍の設定があってもおかしくないとは、時折考えていた。
まぁ、俺の気持ちで、この容姿で持つ武器といえば、短刀かクナイ、なんだったら手裏剣の様なものか、せめてもの二刀流を持っていてくれれば良かったのだが…彼女が手にしているのは大きな回転式のノコギリだった。
言葉のまま、あの芝生とか雑草とかを刈る様な回転ノコギリ。
いや!いいんだよ!?
全然それもありだと思う!
ファンタジーだもの!
刃物であるには変わり無いし、器用に戦ってるしさ!
俺もこの世界には無い鎌なんてものを使ってるしさ!
ぜーんぜん納得はしている。
そもそも、この世界の女性って、身体の大きさと武器の大きさが基本合っていない。基本みな大きな武器を好んでいるようだ。
「たぁー!!!」
そう叫んではいるものの、ジャンプする訳でも無く、回転ノコギリを前に突き出してブンブン振り回してるだけだし。
普通『たぁー!』って言ってら、飛び込んで切りつけたりして欲しい所だ。
特に魔法陣が展開されている形跡は無いが、丸いノコギリの歯は、勢いよく周り続けている。
手元を見ると、石が黄色く輝いているのを見て取れた。
ハピスさんが言うには、帝国では魔鉱石を使って馬等に頼らない馬車も出来ているのだとか。要は電力としての文明が開かれている。
この回転ノコギリも同じ原理なのだろうか。
そんな事を考えながら戦っていると、いつの間にか、綿毛ポメを全て倒す事に成功した。
「ふぅ、そちらの方々!怪我は無いですか!」
「あ、ああ。助かったよありがとう。」
「俺っちも大丈夫だぜ。」
「危ない所なのでした。まさか、パルプダイモーンに襲われている人が居るとは思いもしなかったのです。私がたまたま近くに居て心底良かったと思うのです。」
この子、なんか言葉がおかしい。
「そう言えば名乗って無かったね、俺は康介。こっちはヤッパスタだ。君は?」
「コースケと……ヤッパスタなのですね。私は冒険者をしています、グリュンゲルガー・ゼゾイボットというのです。よろしくなのです。」
おいまじか。
中二病なんて目じゃないくらいとんでもない言葉の羅列が来たぞ。
なんだよゼゾイボットって。
「そ、そうなんだ、えーとグ、グリュンゲルガーさんはこの辺に住んでるのかい?」
「グリカと呼んで下さい。みんなにはそう呼ばれているのです。」
彼女はそう言うと、お面を取り、素顔を見せてくれた。
特に取り留めの無い、どこにでもいる可愛らしい女の子だ。
「あ、ああ。分かったよ。グリカ。」
「私はこの近くにある、旧王朝の権威の象徴だった、天照の塔の調査に来たのです。」
おうちょうのしょうちょうね。
俺はグリカと何気ない話をしながら、彼女の後ろの木の上で観察しているアルネロを確認する。
何かしらのブロックサインを送っている様に見るが、正直何を言っているのか分からなかった。
とりあえず、俺は怪しまれないように適当に話を合わせることにする。
「あ、ああ。天照の塔ね。でも調査って言っても一人で来たの?確かにグリカは相当戦いに慣れていそうだったけど。」
「はい、私は一人なのです。と言うより、仲間とか正直面倒臭いし、邪魔なだけなのです。」
曇りの無い眼でまじまじと怖い事を言いだしたこの子を見て、どことなくメイエリオの面影を追ってしまった。
「そ、それにしては、よく助けに来てくれたね。」
「困っている人を見捨てる様な外道を私は許さないのです。」
んもうこの子の理念が無茶苦茶だよ!
わっかんないよおじさん!
「コースケ達はここで何をしていたのです?」
「あーえーと…俺達は…」
再度アルネロの方を見ると、先程まで居たはずの場所に居なくなっていた。
「グリカとやら。ツレがせわになった。わたしはアカーシャ。わたしたちもトウにいきたい。だが、ちずをおとしてしまってな。よかったらみちをおしえてもらえないか。」
木の上から声がする方に目線を落とすと、アルネロがグリカのすぐ横にまで来ていた。
「まだお仲間の方がおられたのですね。いいですよ、アカーシャ。入り口までならここからすぐです。案内しましょう。」
偽名を名乗ったアルネロを見て、一瞬だがグリカが睨んだ様に見えたが、気の所為だろうか。
再び面を着けたグリカの後に付け、俺達は再度塔を目指し歩き始めた。
この時の俺は
まだどこか観光気分で楽観していたのかもしれない




