えぴそど148 いってらっしゃい
ブーメルムの城門前に全員が集合していた。
メイエリオ、ユージリン、ハピスさんにシュナ、そしてトモはそれぞれ荷物を持ち、並んでいる。
「あー来た来た、みんなそれじゃーねー!ユージリン、荷物持ってきてねー」
馬車が乗合所に来ると、ハピスさんは存外素っ気なく挨拶を済ませ、馬車に向かって行った。
「コースケ、長らく世話になった。しばしの別れだが、俺は強くなって帰ってくる。だから、帝国に行ってもあまり無茶はしないようにな。」
「ああ、ユージリン。帰ってきたら組手をしよう。俺もそれまでにこの武器を使いこなせるようになっておくさ。もし俺が勝っても、またすぐ旅に出るとか言わないようにな。」
「ああ、そうだな。後悔しないようにやってやるさ。」
俺とユージリンは固く握手を交わし、お互いの顔を見合わせながら笑った。
「ヤッパスタも元気でな。」
「おうよ!次会う時は俺の武勇伝をしこたま聞かせてやるからよ!」
「ははっ、朝までかかりそうだな。楽しみにしてるよ……メイエリオ、一緒に帰れなくてすまない。」
「いやいや、全然大丈夫だから。私には私の目標があるし、ユージリンにはユージリンの目標があるんだし。お互いレベルアップしていこうよ。」
何かを考え込む様な表情を浮かべるユージリンとは対象的に、清々しい顔を見せるメイエリオ。
そんなメイエリオの言葉を聞くと、ユージリンは目をキリっとさせ、覚悟したかの様に口を開いた。
「ああ……強くなって、今度こそ君を振り向かせ──」
『ぶえっっくしっ!!』
「もー!!鼻水飛んで来たし!!きったなーい!!だからヤッパスタ、まだ冷えるから裸で寝ちゃ駄目だって言ったんじゃん!!!」
「す、すまねぇ嬢ちゃん。」
「で、ユージリンなんだっけ?何か言いかけてなかった?」
「い、いや!なんでもない!頼もしくなったメイエリオと、またダンジョンに潜れる日を楽しみにしてるさ!」
「それじゃぁ今まで頼もしくなかったんだね…」
「ち、違う!そういう意味じゃ…!」
「ふふっ、それくらいの方が燃えてくるよ。ユージリンをびっくりさせてやるってね。」
「……あ、ああ、楽しみだ。」
顔が真っ赤なユージリンだが、今確かに告白染みた事をしようとしてた筈だ。
ヤッパスタの邪魔で出来なかったが、俺だけはしっかりと見届けてやったぞ。
頑張れユージリン、一年後にリベンジだ。
「ユージリン!はやくー!」
「はいっ!今行きます!みんな!元気でな!」
「いってらっしゃいユージリン!」
馬車は出発し、既に本を読み始めこちらを見ようとしないハピスさんの横で、ユージリンは俺達に向かい、見えなくなるまで手を振っていた。
「さてと、私達もそろそろ行こうかな。シュナちゃん大丈夫?」
「うん…」
実は、朝からシュナの元気が無い。
「シュナ、そんな暗い顔してないで、なーに、すぐ会えるさ。メイエリオと一緒にしっかり勉強するんだぞ。」
「そうだぜ、シュナ!何か困った事があったら俺や旦那がすぐに助けに行ってるからよ!」
「……うん…」
一年という期間限定的な所もある為、シュナはあえて学校には編入させず、メイエリオと一緒にギルド管轄の訓練学校に入る事となっている。
魔法適正が高いシュナなら、まず問題無く上手くやっていけるだろう。
「そうそう!シュナにこれをあげようと思ってたんだ。」
俺はそう言うと、鞄からタクトを取り出した。
「お?出来たんですかい?」
「ああ、なんとか間に合わせて、昨日取りに行ったんだ。」
「なにそれ?なんの棒?ちっちゃいけどすごく綺麗だね。」
タクトを不思議そうに覗き込んで来たメイエリオに、タクトを渡し、俺は自慢気に話した。
「これはユニコーンの角で、シュナのサイズに合わせて作ってもらった魔道具だ。」
「私の?」
「そうだシュナ。元々は俺がダンジョンで手に入れた素材なんだけど、加工してもらって魔法の威力が上げる道具にしてもらったんだ。すっごく貴重な素材らしいし、これをシュナに託すから、何かあったらこれを使って、メイエリオを助けてあげてほしい。」
シュナは複雑そうな表情のまま、メイエリオからタクトを受け取ると、空に向かって2回、3回と振っていた。
「ありがとう。頑張る。」
「偉いぞシュナ。」
「私、お姉ちゃんに料理も教えて貰うから、帰ってきたらお兄ちゃん達に…つ、作ってあげるね。」
「ああ、それだけを楽しみに明日から生きていくよ。」
俺は微笑みながら、タクトを大事そうに抱きかかえるシュナの頭を優しく撫でた。
「くぅ~ん」
それに嫉妬したのか、トモが顔を寄せてくる。
人の言葉を理解しているトモには、昨日しっかりと説明している。
「トモ、何よりもお前の事を信用している。いざとなったら頼むぞ。」
俺はトモの頭も撫でながら、まっすぐと目を見て言った。
「わふっ」
トモの返事を聞くと、俺は二人から離れた。
「じゃ、一年後ね。二人共死なないでね。」
「ああ、メイエリオ。シュナとトモを頼む。」
「うん。行ってきます。」
「ああ、いってらっしゃい。」
トモに乗った二人を見送り
俺とヤッパスタはどこか物寂しい空気を噛み締め
酒場へと向かった




