えぴそど143 毎日パーリー
俺達はハピスさんの傷が完治するまで、ダンジョンの低階層から中階層を行ったり来たりと、訓練を兼ねた出来得る限りの探索を行っていた。
ハピスさんとアルネロ、二人のレンジャーが居ない状況での探索に、俺とメイエリオのプレッシャーは凄まじく、中々下層まで行く勇気が出ない。
今は我慢の時だ。
そんなある日の事。
「ねぇ、コースケ。ハピスさんの状態も良くなってきたし、これからどうするの?」
ダンジョンから帰る途中、トモに乗ったメイエリオが不意に問いかけてきた。
「これから?これからってのは?」
「うん、このままダンジョンに潜って素材集めを続けるのかなって。」
俺は最初、メイエリオの質問の意図が分からなかった。
「メイエリオは何かしたい事があるのかい?」
「ううん。そういう訳じゃないけど…」
むむむ、こういう時の女心は本当に分からないものだ。
きっと腹に何か思いを抱えているはず。
年齢や戦闘能力から、いつの間にか俺がリーダーの様に立ち振舞い、あれやこれや方針を決めてきていたが、実質みんながそれに従う理由は無い。
形式上とは言え、俺は今上司の立場でもあるのか、相談しやすい環境を整えなければ、前世となんら変わらない社畜ルートへみんなを誘ってしまう。
「べ、別に決まってる訳じゃないさ。みんなと相談して皆のやりたい事をやっていこうよ!」
考えた結果、焦りに焦った表情で皆に丸投げした。
「うん…」
「なら、コースケ。今夜は久々に全員で今後の方針や目標について話していかないか。」
「あ、ああ。そうだな。今夜は呑みに行こう!」
「今夜はというか、毎日呑んでねーか?俺達……え!?」
メイエリオ達が居る右側の顔は笑ったまま、余計なツッコミを入れたヤッパスタが居る左側の顔だけ、鬼くそ睨んでやった。
家に着くと、ハピスさんとシュナが魔法の練習をしている。
この練習は、戦いからすでに一ヶ月近く経ち、ようやく松葉杖無しで歩ける様になってきた、ハピスさんのリハビリも兼ねている。
その所為かお陰か、シュナの魔法の成長が著しく、メイエリオとユージリンがそれを見る度、複雑な笑顔を見せていた。
「おーみんなおかえりー」
「おかえりなさい!!」
いつもの二人の歓迎に、俺達もいつもの様に笑顔で応える。
「ハピスさん、ちょっといいかな。」
「んーもちろんだよ。なんだい?どうしたんだい?どうどうどうなんだい?」
「今夜、街に皆で街に呑みに行こうと思ってるんですよ。今後の事についてみん──」
「え?毎日の様に呑みに行ってない?」
「……ごほんっ!今後の事について、みんなで改めて話し合いをしたいと思ってまして。」
「オケマル水産、上場企業だよ。行こう行こう。私もちょうど話したいと思ってたんだー」
「よ、良かったです。じゃぁ、風呂入って準備しますね。」
俺達は、3日ぶりの風呂に入り、身なりを整えていく。
ダンジョンに潜ると、中々風呂に入るのが難しい。
もちろん、水と火の魔法を使えば、それも叶うのだろうが、これまでの経験からだろうか、魔力の使用にみんな慎重だ。
俺もワガママは言ってられないので、日本人として心苦しいが、ダンジョンに居る間は風呂を我慢する事にしている。
その分、自宅の風呂がこれだけ豪勢だと、疲れも一気に吹っ飛ぶ。
ジャクシンさんには、この家を用意してくれた事を本当に感謝している。
風呂を上がると、怪我でまだ歩けないコノウさんの代わりに家を管理してくれている家政婦の人に、シュナとトモの面倒を見てもらうようお願いした。
俺、メイエリオ、ユージリン、ヤッパスタ、ハピスさんの5人で酒場に向かっていると、道中で顔見知りに出会う。
「アルネロ!久しぶりだな。何をしてるんだよ。」
橋から川を見下ろして物思いに耽るアルネロを見つけた俺は、なんだか嬉しくなって声をかけた。
アルネロは目と耳だけをこちらに向け、全く興味が無さそうに気怠く応える。
「………あ?きさまになにをしているのかいちいちほうこくするぎむはあるのか?」
「い、いや。無いけど…報告って……なんやかんや一ヶ月ぶりだなって。怪我の状態とか、それなりに心配してたんだぞ。」
俺がそう言うと、アルネロはこちらに居るメンバーを端から見渡し、少し呆れた様に話を続けた。
「いらんしんぱいだな。」
「そ、そうか…今日は仕事はオフなのか?いつもジャクシンさんの護衛に付いてるイメージだったから、一人で居るの珍しいよな。」
「……だから!なんできさまにいちいちそんなはなしをしなければいけないんだ!!」
アルネロはいつも以上にかなり不機嫌だった。
「待った待った。アルネロ嬢、落ち着きなせーな。良かったら俺達今から呑みに行くんだ。一緒にどうだい。」
ヤッパスタが割って入り、アルネロをなだめだした。
「今後の事を話すんだってージャクシンへの手土産に、話を聞いててもいいんじゃないー?」
ハピスさんの言葉に、アルネロは眉間にシワを寄せたまま、黙って俺を睨んでいた。
「…い、行こうよアルネロ。」
「……わかった。」
少し気まずい空気が流れたまま
俺達は酒場に入った




