えぴそど142 教えてハピス先生2
「その後、私とユウジは男女の関係になって、徐々にメンバーを増やしつつ、幹部はユウジから眼の能力を貰ってだね、それぞれ新しい名前と役割を貰ってーまぁ、そんな感じでなんやかんや各地で情報収集してたってわけー」
ハピスさんのとてつもなく長い話が一区切り付いた。
ヤッパスタはユウジが出てきた辺りで、既に鼻提灯だ。
「貴様が狙われた原因は出ていないぞ。」
「えー?出てるよ。むしろ、ここで終わらせた私を褒めてよ(笑)誰も止めなかったら後8話分どころか、なんだったらそのまま新たな物語が始まってたよー(笑)、いやまじで。」
ジャクシンさんもハピスさんも正しい。
この話が二回目の俺からすれば、正直、寝ていても咎められないヤッパスタが羨ましい。ずっといびきをかいてやがる。悪魔的鬱陶しさだ。
眠気覚ましに、俺が補足を入れる事にした。
「弐過変……なんとか装置ですよ、ジャクシンさん。ハピスさんは紅梟と呼ばれるクラバナと一緒に、その装置を改めて造り、スキルで記憶を失うユウジの記憶を取り戻していたんです。」
「そーそー、最後にユウジがスキルを使った時に無くした記憶は私の事を愛していた事。私はそのまま弐過変速型複写装置を破壊して、アジトを抜けだしたってわけー」
ハピスさんは急に立ち上がるとテーブルに足を乗せ、痛々しい手でピースサインをジャクシンさんに向けた。
「もちろん私なら神真機関の時の記憶で、幾らでも複製できるんから、私が何をしてても始末する事まではしなかったんだろうけどね。今回の事には少し驚いたよ。」
『いてて』と言いながらゆっくりとソファーに腰をかけるハピスさんを尻目に、メイエリオは何か悲しい顔をしている。
「ちなみに、クラバナが人を集めて、世界各地で複製の研究をしてるって知ったからさー旅しながらついでにその施設を壊して回ってたの。今回の襲撃で、複製を諦めたか、はたまた完成したのか。単純にキれただけか、それは分からないなー」
「ねぇ…ハピスさん…そのユウジって人は、愛してたハピスさんの記憶を無くしたって事だよね?」
最初は無反応だったメイエリオだが、ユウジがハピスさんに告白した事を聞いた途端、目が輝き出していた。
「そー、厳密には私の事というより、私を好きでいた事をって感じなんだけどさーほんと最悪だよねー……でも、ちょうど良かったんだよ。これで。」
「なんだか可哀想…」
「え?いやいやいや、メイメイ大丈夫だから。私達の関係はその時にはもう終わってたっていうか…ユウジは、記憶の復元も間に合わない程にスキルを使っちゃってさ、日を追う事に、どんどん人が変わっていくのが分かったんだ。だから、あんな奴もういいの。」
俺には、包帯越しにハピスさんが表情を和らげ、過度に明るく振る舞っているように見えた。
「貴様が狙われた理由は分かった。フットプリンツ自体の目的はなんなのだ。こちらでも確認してみたが、その様な名前の組織は確認されなかった。」
ジャクシンさん軍人チームだけは、相変わらず硬い表情でハピスさんを見ていた。
「ユウジは秘密結社って言うのに重きを置いてたから、表立って見つからないと思うよ中々……で、目的かー……それも、今回対立した原因にもなったんだけどさ、ユウジの考えって結構コロコロと変わっちゃうし、私が最後に会ったのは一年以上も前の話だからねー違ったらごめんだよ。」
「構わん。」
「一言で言えば、王国も帝国も滅ぼして、まとめて一つの国を創って、自分がその王様になりたいんだとさ。」
「ふむ、存外分かりやすい目的なのだな。しかし、貴様の目的は違うのか、ハピス。仲違いしたのなら滅ぼすのには否定的だと見えるが。」
「いやいやいや、だからさ!そこが難しいんじゃん!まぁぶっちゃけ、私の願いもさ、帝国とか王国とか関係なくさ、人の命が弄ばれない世界を創りたい訳よ!」
そこまで言うと、ハピスさんは顔の包帯を取ると、傷だらけで腫れ上がった顔を上げ、ジャクシンさんを真っ直ぐに見つめた。
「だが、奴は何者かに操作されたこの世界の中で生きようとしている。しかも、それがこの世界の運命であり真実だと思いこんでるから尚一層タチが悪い。私はそんな事認めない。決して、何があっても。必ず諸悪の根源を突き止め、最後まで抗ってやる。」
「………分かった。まだまだ、聞かねばならない事は沢山あるが、病み上がりで疲れただろう。日を改める。行くぞ。」
ジャクシンさんはそう言うと立ち上がり、チーム軍人を引き連れ扉の方へと向かう。その途中、ハピスさんのちょうど真後ろにまで来ると立ち止まった。
「覚えておけ、貴様の言葉を全て鵜呑みにする訳では無い。しかし、ここに居るメンバーの信がある限り、我々は貴様の処遇について制限を掛けない事にする。」
「し、信!?……あ、あるかな~(笑)」
「む?コースケ、メイエリオ、ユージリン、あとそこのふざけた盗賊…此奴、ハピスの事を信じているか?」
「もちろん!」
「信じてます!」
「聞かれるまでもなく!」
「んごぉぉぉぉぉぉ!!」
「……ふっ、ということだ。追って連絡する。」
ジャクシンさんは、ハピスさんの肩に優しく手を置くと、そのまま帰って行ってしまった。
「ふー、なんかごめんねーみんなを危険に巻き込んじゃってさーにゃはははー!……これからは…気をつけるね、ごめんちゃい………信じてくれてありがとう……」
緊張の糸が切れたのか、傷が痛むのか、ハピスさんの目に涙が浮かんだ。
俺はその姿を微笑ましく見つめ
寝こけているヤッパスタにスリッパを投げつけた
 




