えぴそど141-勇42 FootPrints
私が事の経緯を聞きながら馬車に揺られていると、とある断壁の場所で馬車が止まった。
「おーここかいな!なーーーーんもないなー(笑)!」
「はい、まずはここを拠点にしていければと思います。」
「ええんとちゃうのー?こういう所の方が、なんか、秘密結社ぽいやん!なぁ!ハピオラちゃん!」
「………」
案内されるまま、壁に大きく空いた洞窟の中に入っていく。
進んで行くと、先には鉄製の大きな扉が開いた状態で設置されていた。
中では幾人もの作業員が、洞窟の中を整備する作業をしていた。
「彼らも?」
「ええ、全員洗脳していますよ。」
「この人数を同時に…効果の期限は?」
「それは秘密です。」
その言葉に私は鼻を鳴らし、更に奥へと進む。
大きな穴の中の一角には、既に完成された家屋が用意されていた。
中に入ると必要最低限の家具等があり、生活するには充分な環境が揃っている。
「げほっ!げほっ!」
部屋に入るなりソファでくつろぐユウジの脇で、オナガリスの子供が目を覚ました。
「……!?」
オナガリスの子は周りを見渡し、不安そうにしている。
「な、なんやのここ…え?なにこれ…なんや、変やで…うち…」
「おー凄いな関西弁やん(笑)関西弁使うモフモフとか(笑)あかん!腹いたいわ(笑)!!」
恐らく、オナガリスの子は、装置の暴走の影響で、ユウジの意識か思想が強く流れてしまい、同じ様な口調になってしまっていた。
「大丈夫や、もう痛い事も怖い事もされへんで。ここにおったら安全や。クラバナ、なんか飲み物持ってきたってや。」
「はい、ユウジ様。」
「あんぜん…?あんた…誰やの…」
「そや!安全や!ワイはユウジ!ユウジ君って呼んでや!」
「ユウジ…くん?」
「せや!偉いなー!よーしよしよしよしよし。」
まるで、動物をあやす様に笑顔で頭を撫でまくるユウジ。
不安そうになりながらも、動物の勘なのか、オナガリスは私の方を警戒しながらユウジにしがみついていた。
「そろそろいいかな。」
「……わぁーっとる。あれやろ、ワイらの目的やろ。」
私が質問の機会を伺っていたのが分かっていたのか、ユウジはこちらに目を向けず、オナガリスをあやしながら答えた。
「簡単や。ワイの目的はこの世界の真実を知りたい。」
「この世界の真実?」
「ああ、ワイはこの世界とは別の世界で生きてたんや。何の因果か知らんけど、神さんに送り込まれた。ほでも、スキルも使ってへんのに、神さんとの記憶が全く無いねや。うっすらと、気持ち悪いおっさんやった気がすんねんけどな。」
「別の世界……そういえば、実験の最中に言ってたね。ピンクのドレスを着ていたとか。」
「そう、それやねん。つか、神さんがワイを送り込んで来た目的が分からんのやったら知るしか無いやろ。クラバナに大まかには聞いたんやけどな、この世界、なんかおかしいと思う所がいっぱいやねん。」
「それを知ってどうする。」
「壊して牛耳る。」
「ん!?」
突如こちらを向き、即答したユウジに気後れした私は、喉に何か詰まったかの様な声を出してしまった。
「はははっ!どしたん!?どえらいかわいい声出すようになったんやな!なははははっ!」
「………」
私は自分の顔が火照っているのが分かる。
「ははは……ほんでや、ハピオラちゃん。できればワイらに協力してほしい。もちろんタダでとは言わん。ハピオラちゃんにもスキルをあげたるからさ。」
「待って、まださっきの話しが終わってないよ。壊すって具体的に何を?この世界の何がおかしいの?」
「そらもう何もかもや!何もかもがおかしいんや!明らかにこれは仕組まれたもんやで!?オンラインのソシャゲで街造って互いの街攻め合うみたいな。聞けば聞くほど、変な意図しか感じられへん。でも、それがなんなのか分からへん。だからまずは知るんや。この世界が何なのかを。」
仕組まれたもの
変な意図
この世界の真実
ソシャゲ?
いつの間にか、私はユウジから発せられる言葉の一つ一つが、まるで神の言葉の様に神々しく思えてきた。
「な!?おもろそうやろ!?ハピオラちゃん!一緒にやろうや!この世界の歴史にや、ワイらの足跡くっきり残したろうや!なんやったら全部壊して、ワイらで新しい世界を創ってやるんや!な!?な!?あかんか!?」
「歴史に…随分な野望なんだね。」
「野望とかいうあやふやなもんとちゃうねん!!絶対やるんや!足垢でベッタベタにしたろやないか!」
「足跡…フットプリンツか……」
「お?ええやん…ええやんそれ!決めた!クラバナ!ワイらは今からフットプリンツやで!ハピオラちゃんが決めてくれたぞ!」
「分かりました…皆にも伝えておきましょう。」
「ちょ、ちょっと………分かったわ。様子見だけど協力はするよ。どのみち、研究所を出た私に行き場なんて無いしね。」
「ほーか!いやぁ、良かった………ほら、ハピオラちゃんって背はひっくいけど、よく見たらごっつい美人やろ。外人さんって歳の割に大人ぽく見えるもんなーそれに、胸もこーんなにでっかし!!実はワイ……ハピオラちゃんに惚れたんや!」
「……待って、何の話しをしてるの?」
するとユウジは急に立ち上がり、自身の服で手をごしごしと拭うと、私の前で頭を下げ、手を差し出してきた。
「ワ……ぼ…僕と!付き合って下さい!」
「は?」
なんとも言えない気まずい空気が
ただただ流れていた




