えぴそど139-勇40 meltdown
私は装置に誤って搭載された魔鉱石を引き抜こうと近付いたが、装置の周りを発光と共に魔力を帯びた光がうねっており、容易に近付けなくなっていた。
隣を見ると、ユウジすらも苦しそうな表情を浮かべている。
被検体自体がどうなろうと、何も感じはしないが、弐過変速型複写装置のメルトダウンだけは阻止しなくてはならない。
高威力の魔鉱石が、多数同時に限界を迎えれば、この施設は跡形も無く吹き飛んでしまう。
「くっ…魔力供給をカットだ!何をしている!止めろ!」
「既に魔力は止めています!しかし!稼働が止まりません!」
「数値が上昇し続けています!完全に暴走です!」
「………………所内、全職員に通達。実験は失敗だ。弐過変速型複写装置は間もなくメルトダウンと共に爆発する。各階層の隔壁を閉め、職員は速やかに避難しなさい。」
終わった。
私が今まで積み上げてきた功績が、ここで全て終わる。
まだ、クワトロにすら報告していない研究成果が山程あるが、これが爆発すれば何も残らないだろう。
私が運良く生き残っても、想定される被害を考えれば、責任を取らされ廃棄されるだけだ。
「ケイブル博士!こちらへ!」
「私に構うな。先に行け。」
「何を!」
「さっさと行け!私は開発者として責任を取り被害を抑える方法を最後まで試す!」
これも嘘だ。
私は意識を持ってから自分にも他人にも嘘をつき続けている。
既に魔力を帯びた光のうねりは、ユウジも巻き込み、どうにか出来る状況では無くなっている。
最後の職員が施設を出ると、分厚い防護壁が第8実験室を覆い始め、遠くからはけたたましい警告音が鳴り響いていた。
私はまだ光のうねりが届いて居ない器の元へと向かい、苦しむオナガリスの子供の頭を撫でると、ユウジが言っていた言葉を思い出す。
「モフモフか。よく分からん言葉だが。なるほど、妙に的を得ている表現だ。」
私は覚悟を決め、最後の抵抗を試みる事にした。
〈中級魔法 サペリオシールド〉
〈中級魔法 ウールガード〉
〈中級魔法 ストーンウォール〉
〈中級魔法 ベノムカーテン〉
いつも持ち運んでいる鞄から、自身で特別に配合した身体強化剤を数本取り出すと、それを全て飲み干し、立て続けに持てる限りの防壁魔法を発動させる。
私の体は即座に赤黒く変色していき、鼻血が流れ出すと、幾重にも重ねられた魔力で出来た壁により、様々な色に発光し始めた。
白衣を脱ぎ捨て絶縁仕様のグローブとラピッドグラスをはめると、深い深呼吸し、私は光のうねりの中に向け走り出す。
飛び込んだ目的は一つ、白く発光しているイルミナの魔鉱石を取り外す。明らかに原因はこれだ。
光のうねりが魔力の壁に当たると、1~2発で硝子が割れる様に脆く砕けいくが、これも想定内だ。目に見えてうねりの魔力は高い。
それでも石の所まで辿り着き手を伸ばし、イルミナ魔鉱石を掴むが、魔力と圧着しており簡単に抜けなくなっていた。
「…ぎぎぎぎぃ!」
強化剤の効果があるにしろ、元々ひ弱な私の力では限度がある。この強化剤にしろ、人体が生命維持を行えるギリギリの強化量だ。
こんな事であれば、5分ほどしか効果は無く絶命してしまうが、飛躍的な身体強化を見込める薬もあった。それを持ち運んでおくべきだった。
既に魔法の障壁は全て砕け、光のうねりは私の体と融合し、私から魔力を奪っていく。
それでも、私は力を緩める事無く、魔鉱石を必死に引っ張り続けた。
魔力を吸い出されると同時に、装置と魔力で繋がった私に、様々な意識が入ってくるのが分かった。
それは、今まで装置に繋がれていた器達のものだろうか、
明らかに自分のものとは違う記憶が私の頭の中をいくつも巡っていった。
「がぁぁぁ!!!これがぁぁぁががが!かかかかか神の力をがをがぁ!神の!神のぉぉ神の力をぉぉ得ようとした代償かぁぁ!!思っていたより生ぬるいぞ!!あぁぁぁぁぁぁ!!!!俺がぁぁ!!!私がぁぁぁ!…僕がぁぁぁ!…私達が!!これまで受けて来た仕打ちはぁ!!!こんなものでは無いぃぃぃぃ!!!」
自分の中にいくつもの人格を取り入れてしまったかの様な錯覚に襲われつつ、最後の力を振り絞り引き抜こうと足掻くと、ついに、魔鉱石が装置から抜けた。
その瞬間、今までとは比べ物にもならない光と化した魔力が放出され、私の意識はそこで終わる。
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「おい、おいって。おきーなハピオラちゃん。おーい。」
私は薄い意識の中、目を開けると、目の前に傷だらけのユウジの姿があった。
「大丈夫かいな、どえらい派手にやらかしてもうてるみたいやけど。」
ゆっくりと身体を起こし、周りを見渡すと、実験室の天井に巨大な穴が開いており、壁も所々崩れていたが、爆発は免れた様子だった。
「なんだろね……私にもよくわかんないや……え!?」
私はそう言うと、咄嗟に口を手で覆った。
なんだ今のは。
己から発せられた台詞と、頭の中で思い描く自身のイメージが言葉が一致しない。いや、一致はしているのか。自分が自分であって自分で無い感覚に襲われる。
「ど、どういうことなのこれ…………なに!?」
「ど、どないしたんや急に。」
「分からない!分からないのよ!なにこれ!なんなの!」
明らからに発せられる口調が今までと異なり、私がパニックに陥っていると、崩れた壁から一人の男が入ってきた。
「お二人とも、無事でしたか…ユウジ様、記憶の方は如何です?」
それは、ゼニア副所長の側近であるクラバナ上級研究員だった。
「ああ、全部や無いけどスキルについては思い出せたで。苦労かけたなクラバナ。ほでも、これ、危うく俺死んでたんやないか?」
「はは…リスクを伴うと申し上げたはずです。それに、結果が出て良かったでは無いですか。神託を受け驚異的な強化を施された貴方が、これくらいの事故で死ぬはずはありませんよ。」
「それもそうやな!ははははっ!」
「そうですよ。ははは。」
私は自身の事もあり、今の会話に付いていけてなかった。
「クラバナ上級研究員!これは一体どういうことなの!」
「……ハピオラ・ケイブル博士。貴方を騙す様な事をして申し訳ございません。説明を差し上げたい所ですが、ここに居続ければ貴方は捕まり処罰されます。ひとまず身を隠され、時期を見てお話しましょう。」
「そうなん?ほら可哀想やなー……せや!ハピオラちゃん!ワイらと一緒にこーへんか?どうせかくれんぼさんするなら一緒にいこや!」
ユウジは笑いながら、私に手を差し出してきた。
「?????」
私は訳も分からないまま
ユウジが差し出した手を掴んでしまう




