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泥酔社畜は異世界召喚でカマ切り戦士になる  作者: 青狗
陰謀渦巻く夢の果て
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えぴそど135-勇36 Unforgiven

私はゼニアに連れられ、とある研究棟の外壁上に来ていた。


「見えるかケイブル博士。あの者だ。」


「はい。見た事の無いデザインの制服です。少なくとも帝国内の貴族のものでは無い。王国の者でしょうか。」


壁で囲われた庭の一角、研究員達の監視下にその男は座っていた。


何をするでもなく、ただ虚ろに噴水を眺めている。


「資料にもある様に、一通りの検査は終わっております。本人には記憶が無いらしく、唯一あの服にだけ異様な執着を見せている状態です。どうされますか?」


私はクラバナ上級研究員の言葉に即答せず、男の姿を見ていた。


「ゼニア副所長、資料にあったスキルを使えないと言うのは。」


「ああ、記憶喪失の影響だとは思われるが、あれが本当に天舞の刻印だとしても、スキルはおろか、魔力操作すら出来ない状態だ。剣を持たせ、簡単な模擬戦もしてみたが完全に素人だったな。」


「……分かりました。彼と話をさせて下さい。」


私は下に降り、男が立っている噴水の所まで歩いて行った。


「被検体KP383。こちらを向け。」


近くまで来ると、私は彼の管理番号を呼んでみた。


「……はぁまったく…ワイをそんな変な数字で呼ぶなやーキモいで。何度も言うてるやろ、ワイの名はユウジや…」


男はそう言いながらこちらを振り向いた。


「ん?なんや、めっちゃちっちゃい子が白衣着とるやん!!コスプレなんそれ!?」


「……君の処遇を引き継ぐ事になったハピオラ・ケイブル上級研究員だ。悪い様にはしない。我々の実験に是非協力して欲しい。」


私は生きた標本に対するマニュアル通りの言葉を並べ、左手を差し出した。


「実験て。ワイはなー食べるもんと寝る所を用意してくれるって言うから付いて来たんやで?それをこんな所に押し込めてからに。はぁ、ほんまどこやねんここ。」


男は不満を口にしながらも、私の左手を握る。


その手には資料で見た通りの天舞らしき刻印が刻まれていた。


「ん?ああこれか。散々聞かれてんけどな。ほんまよう分からんねんなーこんな入墨入れてたっけな……おとんが寝てる間にやってもうたとかもしらん…あの人アホやし。」


「分かった。ひとまず今日は私と話をしよう。付いて来なさい。」


「あ、ああ……なんや偉そうなおこちゃまやな。これ、あんたの子か?」


私の後ろで、男はクラバナに向かい何かを言っていた。


敷地内に設置されたテラス席に座り、所員に飲みものを持ってくる様に指示をした。


ゼニアとクラバナも含め、四人で小さな円卓を囲む。


「君の事は資料で予め確認をしている。今まで聞かれた内容と同じ事を聞いてしまうかもしれないが、許して欲しい。」


「ああ。かまへんでーなんぼでも聞きーな。どうせ暇やしな。」


「感謝する。早速だが、記憶の欠損があると報告されているが、具体的にどの辺りから無くなっているのだい?」


「あー、うーん。なんて言うたらええんやろなー俺の中では普通に起きて、学校行って、授業受けて…そんで帰ってて…その時、確か車に轢かれたんだよな。」


「クルマ?」


「そ、車。でもなーんで車道なんかに飛び出したんやっけなー子供を助ける為?いやいや、ワイ絶対そんな事せーへんわー(笑)ま、それでふと気付いたら、見た事も無い場所に寝てたんよ。どうやってそこに来たんか分からんくって。ほんで、馬車っつーの?それに乗ったそこのお兄さんに拾ってもらった訳ー」


「ふむ……その服に執着があると聞いたが、それは君が通っていた学校の服で間違いないのかな。」


「せやで、吸田高の制服やわ。」


「君が言うそのスイタコーを調べてみたのだが、その名前の施設はどこにも見当たらなかった。もしかして辺境等の地方だったのかな。」


それを聞くと男は首をかしげ、不思議そうにこちらを見ていた。


「地方…?いやーそら、駅からは若干距離はあったけど、別に地方って言われる程の場所でもないねんけどなー」


「…正直な所、君の言葉。特に語尾などに特異なものを感じる。聞き取れないものでは無いが、初めて聞く訛りだ。それ故、地方等と発言してしまった。申し訳ない。」


「いや、ええんやで。ワイも周りから大阪弁きつい言われとるしな。おとんとおかんの川内弁の影響やねんこれー、ツレとかはもっと標準語に近い喋り方やし。」


「ふむ……今日はこれくらいにしておこう。君はゆっくりしていなさい。明日、また寄らせてもらう。」


「おお。ええで。じゃあなちびっ子ー」


私はゼニアを連れ、男から離れた。


「どうだったかね彼は。」


「はっ、被検体の視線、癖、脈拍など、どれを見ても嘘を言っている様子はありません。資料にある様に妄想・妄言の線が濃厚です。」


「だとすると、あの天舞印はなんとする。」


「スキルが使えない時点で神の子とは思えないのが一つですが、郭東神の傾向から察するに、歴代の勇者と賢者は心に何かしらの歪みを持つ者でした。あの被験体にはそれが感じられません。神が、勇者の天啓が無いまま300年近い時が過ぎた結果、全く新しい天舞を創造した。ありえなくは無いでしょう。」


「そうか。では、彼の研究を引き受けてくれるかね。」


「はい。対象が円滑なコミュニケーションを測れるのは大きい。良い結果をお持ち出来るでしょう。」


「そうか。クワトロが唯一完成させられなかった人工天舞スキル『巫舞』。君なら出来るかもしれんな。しかし、約束だけは必ず守って欲しい。いいかね。」


「はっ、譲渡期間は1ヶ月、また、その期間分の研究資料について、クワトロ副所長への報告は無いものと致します。」



私は守るつもりもない約束を交わし

被検体を引き取った

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