えぴそど132 巨大な何か
「トモ!!!」
戦闘の場から離れ、フルブライトさんの所へ向かっていた俺達だったが、直ぐにハピスさんを乗せていたトモが地面に伏せ、塞ぎ込んでしまった。
「コースケ様。ハティの傷が浅くないのかもしれません。血がまだ止まっておりませんし、止血だけでも。」
「あ、ああ。でもどうやれば……」
「せめて、ハピスさんが目を覚ましてくれれば良いのですけどね…ひとまず、これを使って傷口を押さえて見て下さい。」
コノウさんが自身の服を破り、ハンカチ状にして渡してくれた。
俺はハピスさんをトモから下ろし横に寝かせると、トモの傷口を確認する。
毛で覆われており、暗い森の中でもあった為、傷の深さはわからないが、首元と言うこともあり、ひとまず俺は言われた通り布で傷口を押さえた。
「トモ、回復魔法は使えないのかい?」
「くぅ~ん…」
押さえた際に若干痛がる素振りを見せたトモに対し、魔法を促すも弱々しい返事が返ってくる。
戦闘中、攻撃だけでは無く、ハピスさんの回復にもかなり魔力を使っているはずだ。今更使えないからと言って仕方が無い。
むしろ、ここまでよく頑張ってくれたと、俺は少し泣きそうになってしまった。
「しかし、どうしましょうコノウさん。フルブライトさんとアルネロも心配ですし。コノウさんも含め、ハピスさんもトモも早く治療しないと。」
「まだまだ夜は明けそうにありませんし、私は回復系の魔法が使えません。増援でもあれば、この場所を知らせる事は可能なのですが…」
なんとか全員息はしており、御の字だと思った自分が恥ずかしい。
正直な所、完全に八方塞がりだ。
俺は歯を食いしばりながらも、打開策を見つけられないまま、その場でトモの傷を押さえ続け、魔物が出ないか警戒をしていた。
そんな中、しばらくすると遠くから何かが聞こえてくる。
それは地響きと共に木々が倒れる音の様に感じた。
「な、なんだ!?」
「何か巨大な物が歩いていますね。音から察するにこちらにでは無く、先程戦っていた場所に向かっている様です…魔物でしょうか。コースケ様、あまり大きな音を立てないように。」
「は、はい…」
俺は息を殺しながら、音がする方向を警戒する。
「わ、わおぉ…ん…」
「ト、トモ。静かに。どうしたんだよ。」
しかし、トモが急に立ち上がり、遠吠えをしかけた。
俺はトモを押さえつけようとするが、トモはそれを拒み、顔を空に向け、ついに遠吠えをしてしまう。
「ア…アオォォォォォォォォォォォォン!」
静かな森に、トモの透き通った鳴き声が木霊する。
コノウさんはクナイを取り出し構えると、辺りを見回していた。
「トモ!やめろって!魔物が寄って来たらどうするんだよ!」
俺が強めに叫ぶと、トモは力尽きた様に顔を地面に伏せてしまった。
少し止まっていた地響きの主が、明らかにこちらに向かい再び侵攻を始める。
「やばい!来る!コノウさん!ここを頼みます!見つかる前に、俺が先行して倒します!」
「…はい。ですが、実際の所私はお役に立てそうにはありません。期待しないで頂けると嬉しいです。」
俺はその言葉に頷くと、みんなを残し、こちらに来る巨大な何かに向かい足を進めた。
数百メートル進むと、はっきりと分かる程に音が近付いている。
ドシン、ドシンと、足跡だと分かる音と、木が倒れる前に聞こえる衝突音により、明らかに得物を使い木に攻撃を打ち込んでいるのが分かった。
更に音は真っ直ぐにトモが遠吠えをした方向に向い進んでくる。俺は木に背を付け息を殺していた。
もう少しで目視も出来ようかという時、不意に巨大な何かが叫び出した。
「ウオォォォォォォォォォォォォン!」
腹に響く低音の振動に、俺は耳を塞ぐと、トモが反応し再び遠吠えをした。
「アオォォォォォォン!」
すると、巨大な何かの歩みが早まり、俺のすぐ近くにまで来てしまった。
俺は直ぐに木の影から飛び出し、槍を鎌化させ、進路を塞いだ。
「止まれ!これ以上先には行かせないぞ!!!」
すぐ前まで来ていた巨大な何かが止まり、こちらを見ていた。
暗闇ではっきりと分からなかったが、巨大なハンマーを手にしたオーガの様でゴーレムの様な魔物だ。
レベルをすぐに確認すると、27!!……25、21、2…ん?
なぜか視界に沢山の反応が見られた。
「あー居たー!お兄ちゃーん!!」
「コースケーだいじょーぶー?」
月を隠していた雲が晴れ、暗闇に慣れていた目が、巨大な何かの姿を鮮明に映し出す。
「おーい!大丈夫か!フルブライトさんとアルネロさんは一緒だ!」
それは、巨大化したヤッパスタの背に乗ったシュナとメイエリオとユージリンだった。
「みんな!どうしてここに!?つか、ヤッパスタのその姿は!?」
「帰りが遅いからお兄ちゃんを迎えに来たの!」
「シュナちゃんがコノウさんのクナイに反応する魔鉱石を渡されてたからさーそれを追って来たんだー」
「ハピスさんから貰った薬を飲めば、ヤッパスタはいつでも巨大化出来る様になったんだ!」
ヤッパスタが振り向き背中をこちらに向けると、足場型のバックパックが付けられており、フルブライトさんとアルネロの姿が見えた。
「はは…はははははっ!あははははははっ!」
俺はただただ笑いながら
みんなの元へと駆け出した




