えぴそど128 狙い
「ええ加減おねんねしーやぁ!緋猫ぉ!!」
康介と紫熊が対峙している間に、碧栗鼠はハピスに向かい攻撃を仕掛けた。
ハピスはトモの魔法と自身の薬で若干傷はふさがりかけているものの、まだ一人では立ち上がれる程回復しておらず、コノウに抱きかかえられている状態だった。
「ワンっ!」
碧栗鼠が一本になった斧を振り上げ、魔法陣を展開すると、最初に反応したのはハティのトモ。
〈初級魔法 ホワールウィンド〉
風魔法を得意とするトモは、黄金の毛並みを逆立て魔法陣を描き、跳んで来る碧栗鼠との間に小さな竜巻を起こした。
〈中級剣スキル アイアンラッシュ〉
「ひっこんどれやワン公!」
碧栗鼠は過去に模倣した剣スキルを斧で竜巻に向かい放ち、渦を消すと、そのままトモに向かい斬撃を続ける。
「キャィン…」
トモは首の辺りから血を流しているものの、なんとか姿勢を戻し、尚も魔法陣を展開し始めた。
「どら!もう一発!」
「だめだ!トモ下がって!」
咄嗟にハピスがトモに下がる様に指示をするも、碧栗鼠の攻撃がトモに襲いかかる。
「私が行きます。」
碧栗鼠の攻撃は、トモと碧栗鼠の間に割って入ったコノウの短刀に阻まれるも、碧栗鼠は尻尾を使い体勢を変え、靴に仕込んでいた刃をコノウの胸に向かい突き上げた。
「ほんま!邪魔ばっかりうっとーしいねん!」
コノウは左手からクナイを取り出すと、碧栗鼠の仕込み刃を防ぐ。
〈初級魔法 ウインドブラスター〉
同時にトモの魔法が発動すると突風が吹き、碧栗鼠の身体は宙に浮いてしまう。
「ちぃ!」
しかし、碧栗鼠はそれ以上飛ばされまいと身体を回転させ、蹴りでコノウのクナイを弾くと、そのまま斧の刃では無く腹で、コノウの腰骨を思い切り殴りつけた。
「がはっ!」
「コノウちゃん!大丈夫!?トモ!もっと下がって!」
「ガルルルル!」
完全に骨が砕けた音が響き、コノウは腰を押さえながら膝を突き、痛みに苦しんでいる。
「残ってるのはハティだけやな、そしたらおんどれ緋猫。いよいよあんただけや覚悟しいや。」
ハピスは苦い表情を浮かべながら、立ち上がった。
「あはっ、あのねー…ここに、康介が来た時点でこっちの勝ちなんだよ!」
ハピスは落ちていたコノウのクナイを拾うと、トモの前に出て魔法陣を展開させ、碧栗鼠に挑んだ。
碧栗鼠は口元をニヤつかせ、足元のおぼつかないハピスに対し斧で斬りかかる。
〈初級魔法 ウインドブラスター〉
直前にトモの風魔法が発動し、碧栗鼠は若干顔を歪めるも、斧はハピスの元へと届いた。
ガキィィィ!
「くっ!」
小さなクナイを両手で持ち、ハピスが斧を受け止めるも、ふさがりかけていた傷口が開き、体中から血がしたたり落ちる。
「どらぁ!」
尚も続く碧栗鼠の横薙ぎの攻撃に対し、ハピスは準備していた魔法を発動させる。
〈中級魔法 フラッシュバン〉
魔法陣が収束し光の玉となると、ハピスは碧栗鼠の攻撃を避けながらそれを掴み、碧栗鼠に向かい至近距離から投げた。
「アホかいな!自爆する気なん!?」
碧栗鼠の胸に当たると、光の玉は瞬く間に強く輝きを増し、みるみる膨張するとすぐに破裂した。
強烈な光を残しながら爆風が巻起こり、碧栗鼠とハピスはそれぞれ反対方向へと吹き飛ばされる。
ハピスはそのまま起き上がる事ができず倒れ込むが、碧栗鼠は空中でくるくると威力を殺し、体勢を立て直すと何事も無かった様に着地する。
しかし、胸当ては壊れ、身体の至る所には小さな傷を負い、若干ながら血を流していた。
「手かかるわほんま。面倒くさっ。」
その瞬間、隣で戦っていた紫熊より放たれたスキルにより、爆音が響き、同時にスキルで吹き飛ばされた木々が時折パラパラと降ってきている。
「ド派手やのー……ん?まじかいな、あれで無傷ってか。あっちも骨が折れそうやなぁーこらのんびりしてられんで。」
碧栗鼠は斧を拾うと、ハピスに回復魔法をかけているトモに向かい跳んだ。
◇
(身体強化は10分!それまでにこいつを!)
康介は穂先の無い槍を構えたまま紫熊に突っ込んだ。
「動きは格段に早い……が、これはフェイクですね。」
紫熊は康介の攻撃を避けようと身体を反らしかけたが、何か狙いがあると感じ、避ける事無くそのまま槍で攻撃を受けた。
「もらったぞ!!」
康介はここぞとばかりに槍に一気に魔力を流し鎌化させ、鎌化槍を左右上下へと振り回した。
強化された康介の攻撃は、ただ単純に振り回すだけでも十分ななほど威力も速さも備えていた。
紫熊は魔力の流れを確認すると、鎌化で現れた刃先を何事も無く避け、更に康介の素人の様に振り回す斬撃も軽々と避けていった。
「その形状は先に見ていましたよ?見てなかったからと言って当たる訳ではありませんが……そんな無茶苦茶な攻撃で倒せると本気で思われたんですか?………ん?」
紫熊の目に映る康介の姿が一瞬、映像を早送りで見ているかの様に歪んだ様に見えたが、気付いた時には康介が変なポーズを取り立ち止まっている。
「またな、ぐっすり眠れ。」
康介がそう言い放つと
紫熊の身体に痛みが走った




