えぴそど127 びた止め
〈身体強化(死神)〉
俺の背後に死神が出た気配を感じると、直ぐには憑依させず、相手の出方を覗う。
「なんやあれ、魔力をあそこまで鮮明に実体化させられるもんなんか?」
「今までのもとと違い魔力はしっかり流れていますね。恐らく身体強化の一種でしょう。碧栗鼠使えますか?」
「あかんあかん、模倣は出来るけど普通の身体強化になってまうな。こんなんなるんはユウジ君とベルっちのスキルだけやわ。」
「確かに特徴的には神の力の線が大きいでしょう。しかし手に刻印が無い。調べてみる価値はあるでしょうが…」
「分が悪いな。奴さん怒っとるし今更話し合い言うても。」
「そうですね、それに緋猫をここで逃す訳にはいきません。碧栗鼠、貴方は予定通り緋猫を仕留めなさい。私がコースケの相手をしましょう。」
二人はこちらを見たまま何かを喋っている。
漫画なら『何をこそこそとしている!時間だ!さぁ答えを聞こうか!』とかの台詞を出したい所だったが、腕組仁王立ちをスルーされている様で今更自分から動けなかった。
ふと油断した瞬間、獣人の女の子はハピスさんの方へと跳んだ。
「しまっ──!」
『ガキィィィィィ』
【経験値50を獲得しました】
「装備はへこんだが、外傷は無し…ふむ…これも効きませんか。」
ハピスさんの方を向いた一瞬の間に距離を詰められ、青白い顔の男がこちらに魔力を込めた蹴り技を使ってきた。
「くそっ!もう手加減しないぞ!」
俺は〈小かま〉を連続で出すが、動きが捉えきれない。
「当たれ当たれ当たれ!」
狩りやダンジョンで溜めていた男気ポイントを惜しげも無く消費する。
「やはり早いな…………そうそう、落ち込む事はありませんよ。これでも私は避けるのにいっぱいいっぱいです。相当なものですよ、この技は。素晴らしい。」
男は言葉とは裏腹に、余裕のある素振りを見せながら攻撃を次々と躱していく。
「くそ!」
俺はくねくねと身体を捩りながら、手の動きがさとられぬ様に、始点と終点を決める動きにフェイクを混ぜていく。
それでも軽々と避けられてしまう。
これはハイロックオーガと戦った時と同じ、発動するゆらぎを見られているのかもしれない。
このままじゃ拉致があかない上に、男気を失ってしまう。
「がはっ!」
「コノウちゃん!大丈夫!?トモ!もっと下がって!」
「ガルルルル!」
後方ではハピスさん達の戦闘が始まってしまった様だ。
戦闘音とそれぞれ苦戦を敷いられている声が聞こえてくるものの、今この男から目を離す事は危険だ。
この男は俺と対峙しながらも、ハピスさんに対する攻撃を狙っている気がして止まない。
今は二人とトモを信じて、俺がこいつを仕留めるしかない。
焦る気持ちをあざ笑うかの様に、男は〈小かま〉を避けながらも、巨大な魔法陣を槍先に展開させた。
魔力操作を使い出してから分かった事だが、かなりの集中力が必要になり、とてもじゃないが、普通は攻撃を避けながらあの規模の魔力を練る事はできない。
「む、無駄だぞ!俺にそんな攻撃は効かない!」
「そうかもしれませんね。ですが、せっかくです。お付き合い願いましょう。」
〈中級槍スキル ギルペイン〉
展開が終わると同時にこちらに向け放ってきた。
魔法陣ごと貫いた槍からは、巨大な魔力で出来た輝く双頭の鮫が現れ、俺ごと飲み込まんと凄い速さで向かってきた。
そしてそのまま避ける暇すらなく、その技は俺に直撃し、轟音と衝撃派を撒き散らしながら、辺りの景色を一変させていく。
しばらくしてスキルが収まると、俺はその威力によりかなり後方に飛ばされており、装備も全て無くなっていた。
いつものすっぽんぽんだ。
「多少外傷が見られる様になりましたね。だが、スキルで付けられた傷では無さそうだ。はははっ…ギルペインでほぼ無傷とは、貴方……本当に面白いですね。」
強肉弱食のお陰でスキルは完全に無効化される。
しかし、吹き飛ばされた石などで手足を切ってしまい、体中が傷らだけになった。
こうなるといつものパターンだ。
強肉弱食ではじけない攻撃を見つけられる前になんとかしなければ。
俺は敵にこれ以上余計な事を悟られまいと、ポーカーフェイスで前を向くと、俺が元居た位置に浮かんでいる死神が、どことなく悲しそうにこちらを見ていた。
「あ…ご、ごめん、忘れてた!」
つい声に出してしまうと、死神は更に伏し目がちになり頭を若干下げ、とても悲しそうに地面を見つめる。
「あ!いやいや!本当にごめん!来い!!死神!!」
死神はなんだかとてもやる気の無い感じで俺に近付き、俺は死神と融合し、身体強化を行う。
手足を確認すると真っ黒になっており、力がみなぎり感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。
さぁ、ちゃっちゃと仕留めちゃいましょうか。
「………凄まじい増幅量ですね。強欲と傲慢でもここまでの上昇率は無かった。」
「悪いが、もうあんたとゆっくり戦ってる暇は無い!」
俺が跳ばされた槍を拾うと
青白い顔の男は若干不機嫌そうにこちらを睨んだ




