えぴそど123 Just a knight
魔物は二体。
大型の羽の無い鳥と、こちらも大型の鰐の魔物だ。
「カルフィーラ!魔法は使えるの!?」
テオドラが走りながら腰のレイピアを抜き聞いてきた。
「ああ!初級は全て使える!中級も少しなら!」
「上出来過ぎよ!貴方は動きの遅そうなあの鰐を!私が鳥型に行くわ!」
「分かった!…………テオドラ!」
「何!?」
「武運を!無茶はしないでくれ!」
「…ふふっ、分かったわ!私達でやるわよ!」
街に入りかけている鳥型の魔物に向かい、尚も加速したテオドラはそのまま攻撃を繰り出した。
〈初級刺突剣スキル ポンパドール〉
波打つ様に放たれたレイピアの剣先が、鳥型の足に当たり、そのまま皮を剥ぐかの様に上部に流される。
『キェェェェェェェ!』
不意を付いた攻撃に、鳥型は大きく叫び辺りをおかまいなしに地団駄を踏みだす。
〈初級刺突剣スキル セレーネカラッチ〉
テオドラは鳥型の背後に回り、鳥型の足と胴体の付け根に高速の突きの連打を放つ。
鳥型は尚も暴れながら脚を振り回すも、テオドラはそれを避けつつ、更に攻撃を浴びせていた。
「硬いわね…なら!!」
テオドラは何かのタイミングを図っている様だった。
私の方はと言うと、剣を抜き、鰐型の周りを走り、正面を取らせないように立ち回った。
鰐型は動きが鈍く、私を追いながらゆっくりと旋回する。
この隙に魔法でも放ちたい所だったが、今の私では動き回りながら魔力を込めたり、魔法陣を組む事が出来ない。
「テオドラ!深く入り過ぎだ!もっと距離を!」
テオドラの戦い方を横目で見つつ、歯がゆい気持ちを抑えながら、なんとか切り込むタイミングや魔法陣を組む時間を覗う。
〈初級格闘スキル スピンソバット〉
その間にテオドラは、鳥型の脚の付け根に突き刺したレイピアの柄に向かい、蹴り技のスキルを使い更に深くねじり込んだ。
「くっ!これでもダメなの!!?」
鳥型は痛そうにしているものの、動きが止まる事は無く、尚も暴れだし、ついに鳥型の脚がテオドラを捉える。
「ぐっ!!」
テオドラは手に付けていた小さな甲を使い、ガード体制に入るが、攻撃をいなし切れず地面に叩きつけられた。
「テオドラ!!」
その時、鰐型の魔物から目を完全に逸してしまうと、私は強い衝撃とともに、前方へ飛ばされてしまった。
「かはっ……」
どうやら鰐型は尻尾を大きく振り、私の背中に叩きつけた様だ。
街の城壁近くまで地面に当たりつつ飛ばされ、息が詰まる中、その目はすぐにテオドラの姿を探す。
テオドラは鳥型の足元でうずくまっており、鳥型はテオドラには気付いておらず、ただただその場で暴れていた。
「ダメだ…テオドラ、逃げろ…ふみ…つぶされるぞ…」
声もまともに出ない状態だったが、私は足に力を込め立ち上がる。
すぐにテオドラの救出に向かいたかったが、鰐型がこちらに向かい走って来ていた。
「ちっ!」
私はすぐに魔力を練り、魔法陣を展開させる。
間合いに入るまで時間にして数十秒、ここしか無い。
テオドラを守りたい一心からか、恐怖心はいつの間にか薄れ、いつもより高密度の魔力を流し込めている事が分かる。
しかし、魔法発動までは間に合わず、鰐型が目の前にまで来ると、口を大きく開けた。
「今だ!お前ら!!!」
「「「「おー!!!」」」」
私のすぐ後ろから声が聞こえると、街の方から矢や石が飛んで来た。
ダメージを与えられている様には見えなかったが、それでも鰐型の注意を逸し口を少し閉じかける。
〈初級魔法 サンダーボール〉
完全に閉まり切る鰐型の口の中に向け、私は雷の魔法を放つ。
口は閉じられた直後、魔法が喉の方にでも当たったのか、鰐型は口を半開きにし煙を吐きながら苦しそうに悶だした。
私はその姿に注視しつつ、尚も飛んでくる矢を確認する為に後ろを向くと、街の人間達が低い城壁の上から必死に攻撃している。
その先頭には、街で私にゴミを投げつけて来た三人組の姿もあった。
「おい!三男坊!ボケっとしてんじゃねー!」
「早くあの女の子を助けに行きやがれ!!」
「それでも貴族か!急げ!走れ!」
私はその声に頷き返すと、尚も暴れている鳥型に向け走り出した。
距離はそう遠くは無い、後は地面を踏みつけている鳥型のあの大きな脚を掻い潜ればいい。
私は身体に残る痛みに顔を歪めつつも、鳥型の間合いに飛び込む。
鳥型も流石に気付いたのか、私にターゲットを定め、脚を蹴り上げる様にこちらに対し攻撃をしてきた。
ギリギリで身を捩り躱すも、あまりの速さに恐怖心が沸き上がり、身体が震えだす。
しかし止まってはいられない。
鳥型の次の攻撃を感じ、私は力を振り絞り前転しつつ攻撃を更に躱すと、直ぐに立ち上がりテオドラの元へと向かう。
「テオドラ!」
「カル…フィー…ラ…」
テオドラのダメージは思った以上に大きく、身体を起こす事が出来ていない。
『キェェェェェェェ!』
「がっ!……ぐぅ…」
鳥型の脚が私の肩をかすめ、私は勢いのまま半回転しながら倒れるが、それでも歯を食いしばり、ようやくテオドラの元へと辿り着いた。
「テオド…ぶはぁっ!」
先程の攻撃で肋骨がやられていたのか、胸の急激な痛みと共に血を吐き出した。
気配を感じ、後方を見ると、鰐型の魔物がこちらに向かい走ってきている。
私は焦り、血だらけの手でテオドラを抱きかかえようとするも、胸の痛みで腕に上手く力が入らなかった。
更に、眼前には鳥型の大きな脚が迫まる。
それは死を覚悟さるには十分だったが、私は臆する事無く目を見開き正面から対峙する。
私もフルブライト家の男
いつまでも意気地なしの泣き虫ではいられない
最後くらい誇り高く毅然としてみせる




