えぴそど120 勧善懲悪のすゝめ
フルブライトさんに行く手を阻んで来た謎の男を任せ、俺達はハピスさんの元へ急いでいた。
「やっぱり、俺の勘は正しかった!ハピスさんは敵の手にあるんだ!早く助けないと!」
「……コースケ様はご存知無いかもしれませんが、あれは帝国一狂った集団と言われる、神格達久遠級真理回路錬金機関の者ですよ。スパイの可能性も十二分に──」
「知ってるよ!でも"元"だろ!今は俺達と一緒にダンジョンに潜ったり酒呑んで馬鹿やったりする、大切な仲間だ!」
「私には…よく分かりません……」
そう言ったコノウさんは、少し俯き加減のまま、フルブライトさんが居た方向に向い、短刀の様な物を投げた。
「ん?何か聞こえる!」
「はい、おそらく戦闘音だと思われますが。」
まだ遠いが、轟音が聞こえて来る。
暗闇の中、時折魔法陣の輝きが薄っすらとこちらまで漏れていた。
「急ごう!!」
早る気持ちを抑えながらも先に進もうとした矢先、コノウさんが立ち止まり、俺の腕を掴んだ。
「え?な、どうしたんですかコノウさん!」
「申し訳ございません。一つ、確認させてください。」
「そんな場合じゃないでしょう!?急がないと!」
「……もし、彼女が…ハピスさんが敵のスパイだった場合、貴方はどう責任をお取りになりますか?」
「え…?スパイって、さっきも言いましたけどあのひとは──」
「無いと言い切れますか?……そうですね、例えば彼女は帝国側のスパイで、敵対する別の組織から狙われているだけだとしたら?コースケ様はどちらの味方をされますか?」
俺はその言葉に一瞬戸惑いを見せてしまう。
「王国か、帝国か。さあ、お答えください。」
「それは……」
腕を掴み、無表情のままこちらを見つめ答えを待つコノウさんに対し、俺は返答に完全に詰まってしまった。
その時、後方から轟音が鳴り響く。
フルブライトさんが戦闘を始めた音だ。
それを聞いてますます焦り出した俺が、頭を振り絞った言葉がこれだ。
「知らん!!そんな事は知らん!!誰の味方とかそんな事は今は心の底からくだらねーよ!仲間だと思った人を助ける!裏切られてると知るまで俺は信じる!」
コノウさんは表情を変える事なく俺の腕を離した。
「本で読んだ事があります。人の善悪は他者の妄想に依り生まれるが、凶悪は生まれると同時に育まれる。と。」
「え?どういう意味?」
「約束して下さい。最前が最善ではありません。必ず彼女にこうなった理由を明確にさせると。」
「え?あ、ああ!約束するよ!」
「……分かりました。行きましょう。」
俺はよく分かっていないまま、ハピスさんの元へと向かった。
◇
「まずは彼らを見逃してくれてありがとうございます。」
〈中級水魔法 ウォーターポール〉
フルブライトは武器を構え、魔法をいつでも発動させられる状態のまま、敵に向かい少しだけ頭を下げた。
「いや!全然!ぜっんぜん気にしなくていいぜ!!むはー!!だってコースケって言うやつのスキルを見る限り、俺じゃ足止め出来るか微妙だしな!」
「そこまで知られているのですね。そう言えば、知られているとはいえ、私からちゃんと名乗っておりませんでしたね。私はカルフィーラ・フルブライト、軍人です。貴方は?」
〈中級水魔法 ジャミングミスト〉
自身に補助魔法を掛けながら、ゆっくりとした口調で目線を一時も離す事無くフルブライトは質問する。
「あーご丁寧にどうもどうもだひゅー!俺はリオン・ピンク!桃犬って呼ばれてるぜ!むはー!ぷるぴっぽーい!ぃよろしくぅ!」
「随分とご機嫌なんですね。」
〈中級水魔法 アクアベスト〉
「あー!?そりゃご機嫌ご機嫌ごきげんようだぜ!この素晴らしい世界に酔いしれてるからな…カルフィーラはご機嫌斜めなのか?」
「いえ…ふふっ、貴方は敵なはずなのに、何故でしょう。とても優しい方に見えてしまいますよ。」
「そりゃ俺はカルフィーラの敵って訳でも無いからな!あれ?……違うな。こうじゃない。えーと確か、敵じゃ無いかもしれないし、敵なのかも知れない。敵だと思えば敵だし、敵じゃ無いと思えば敵じゃない。だ!」
「なんですかそれ。それより、もしよろしければ、ハピスさんとのご関係を聞いても?」
それを聞くと、桃犬は口角をにやりと上げた。
「対価を貰っていないぜ!!がひゃー!タダで情報を寄越せとはカルフィーラは悪人だぜ!悪人!悪人!むひょー!」
同時に右手で引きずっていた鎖を引っ張ると、禍々しい形の剣が繋がれていた。
それを手にすると桃犬も魔法陣の展開を始め、暗闇の中、辺りは二人の魔法陣で眩く照らさる。
「結局戦うしか無いのですね。」
「何言ってんだ阿呆。仕掛けてきてんのはお前らだろうが。」
桃犬は笑みを止めると冷たい口調になり、フードを深く被ると、剣を構えフルブライトに向かい跳んだ。
「簡単にくたばってくれるなよカルフィーラ!」
〈中級剣スキル ブラッドラット〉
「私なら勝てると踏んだなら大間違いです!」
〈中級剣スキル ゲインスラッシュ〉
二人それぞれのスキルを発動させた剣がぶつかり合うと、凄まじい衝撃派が巻起こり、遅れて轟音が辺りに響いた。
戦う理由を持ちながらも
戦う意味を持たない戦闘が始まった
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