えぴそど119 集まれ戦闘の森
「フルブライト様、コノウ到着致しました。」
「この短時間で良く追いついてくれました。早速ですが…」
街道で20分程待っていると、コノウさんが追いつき、合流した。
フルブライトさんは経緯を手短に話すと、コノウさんは森の方向を確認し探知魔法を発動させる。
「半径300メートル以内には魔力を感じません。ひとまず罠は無いでしょう。魔物もいません。進軍を提言します。」
コノウさんの言葉に俺とフルブライトさんは顔を見合わせ頷き、俺はトモに指示を出す。
「トモ!前進だ!ハピスさんのところへ!」
「わふっ!」
月明かりで目が慣れてきたとはいえ、木々が生い茂る部分は真っ暗になっており、手元の発光魔鉱石だけでは数メートル先は真っ暗なままだ。
それでもトモを先頭とし、コノウさんも照らされていない暗い道を走り抜けていく。
はぐれないように必死に走る俺は、木の枝や草で手足を切ってしまう。
「大丈夫ですかコースケ様、毒草もあるかもしれません。具合が悪くなったらすぐに教えて下さい。」
「はぁ…はぁ…あ、ありがとうございますフルブライトさん…はぁ…はぁ…」
つくづくファンタジーの世界の人は、体力が無尽蔵すぎる。
しばらく進むと止まり探知魔法を使う。
罠と魔物を確認し、また走り出す。
それを繰り返している所で、トモとコノウさんが同時に止まり、前方を見ていた。
「フルブライト様、会敵です。完全にこちらの位置もバレています。この距離まで気付けませんでした。申し訳ございません。どうか、ご指示を。」
俺とフルブライトさんが追いつくと、暗闇の中にぼんやりと人影があった。
「本当に来たかよー!ぷるぴっぽーい!あんたらさー!これ以上先に行っても良い事無いぜ!止めときな!これやるから素直に帰りなよ!ぎゃー俺優しいー!!!」
甲高い声の男がこちらに歩いて来ると、月の光で照らされた男の足元に、鎖で繋がれたアルネロが引きづられていた。
「アルネロ!!!」
アルネロは声に反応する事無く、ぐったりした様子で倒れている。
「お前達はフルブライトとコースケとコノウだな!知ってるぞ!俺は何だって知ってる!俺は無敵だー!がひゃーかっこよーすーぎーてー失禁するー!!」
「コースケ様……私がやります。コースケ様はコノウとハティを連れてハピスさんの所へ。」
フルブライトさんは杖と剣を両手にそれぞれ持ち、魔法陣を展開させた。
「いや!でも!」
「おいおいおいちょいちょい!聞いてた!?なあ!聞いてたんかんかん!?引き返せって言ってるぜ!?」
「コースケ様!!早くお行きなさい!!」
「…アルネロをお願いします!コノウさん!トモ!迂回しよう!!」
「…はい。」
「わふっ!」
俺達が男を避け迂回するが、男はこちらには目もくれず、フルブライトさんの方を見ていた。
◇
〈上級槌スキル ダタンボイヤーカルマ〉
ハピスが、地面に展開した巨大な魔法陣に向かい鉄球を勢いよく叩きつけると、地割れと地響きが起こり、裂け目より魔力の棘が無数に飛び出した。
「いったぁい!アホんだらー!なんなん!?紫熊!こいつなんなん!めっちゃ強いねんけど!!」
碧栗鼠は俊敏な動きで棘を避けるが、大きな尻尾に棘が刺さってしまう。
「眼を使わずにこれほどまでに戦闘センスに長けているとは驚きですよ。貴女本当に学者なんですか?」
〈中級風魔法 ウールガード〉
紫熊は魔力の流れを読み切り、最小限の動きで棘を交わしつつ、魔法陣を展開させると、碧栗鼠を綿状になった魔法の壁が包み込む。
「そんなもので!!」
ハピスが叩きつけた鉄球に更に魔力を注ぎ込むと、棘の大きさと速さが増す。
碧栗鼠を包んだ魔法障壁を貫き、棘は少女の身体に突き刺さった。
「ちぃ!いったぁ……あかん!この攻撃はウチとは相性が悪すぎるわ!」
「本体を攻撃したい所ですが、緋猫に近いほど数が多い。止むのを待つしか無いですね。」
「おどれー!はよ魔力切らさんかいなー!」
「にゃはは!それはどうかなー!!」
ハピスは腰に付けた鞄からアンプルを3本取り出すと、上部を割り中身を飲み干した。
「ん……馬鹿な、魔力を……そんなものまで開発していたのですね。」
「なになに!?なんやの?もしかして魔力を回復する薬がついに出来たんか!?」
「ええ恐らく。彼女の体内にある魔力の流れが一気に膨らんでいます。さすが天才科学者クワトロの娘と言った所でしょうか。」
ハピスは最初に使用した身体強化剤の影響で鼻血が止まらなかった。
「あんなクソと一緒にするんじゃない!」
ハピスは鼻血を拭きながら激昂しつつ、更に魔力を注ぎ込むと同時に、鞄から血の様な液体が入った袋を取り出し、つながった針を腕に刺した。
「もうなんなんよこいつ!なんかキモいって!」
ハピスはその言葉に
笑っている様な表情を浮かべながら
再び腕時計に目を向けた




