えぴそど115 忍び寄る闇
ダンジョンを出た俺とジャクシンさんは、ダンジョン外で待機していた馬車に乗りブーメルムへと戻った。
ダンジョンから地上に出た時には、アルネロと最下層で出会った怪しい二人の姿も既に無く、帰りはジャクシンさんとひたすら談笑を重ねながら帰った。
ブーメルムに付くと、ジャクシンさんと分かれ家路に着く。
「おかえりー!私達もさっき着いた所なんだー!」
庭で装備品を洗っていたみんなの姿が目に入ると、メイエリオがこちらに気付き声をかけてきた。
それぞれダンジョンで得た素材のお陰で、格段に装備が充実してきている。
(ヤッパスタも元の大きさに戻っている)
「お兄ちゃんおかえりなさい。」
「ただいまみんな。無事だった様で何よりだ。シュナはコノウさんの言うことちゃんと聞いてたか?」
「うん!私ね、新しい魔法を使える様になったんだよ!」
「お!まじか!後で見せて!」
「うん!」
シュナは魔力操作だけでは無く、ハピスさんのお陰で魔法陣の勉強も熱心にやっており、今では魔法が使える様になっている。
「おー旦那ぁ!見てくれよこれ。宝箱ですんごいお宝を見つけたぜ!」
俺は以前、いつまでも敬語のヤッパスタにもっと砕けて接して欲しいとお願いした。
その結果、口調はフランクになったものの、未婚の俺が旦那呼ばわりされるのは未だに慣れない。
そんなヤッパスタが、何かの剣をこちらに見せていた。
俺は持ち帰った荷物を庭に降ろし、ヤッパスタの方へ近づいた。
「俺はこういうのが分からないんだけど、どう凄いんだ?」
剣の刃には溝が走っており、鍔の所に大きな水晶玉の様な装飾がされている。
それ以外は普通の長剣となんら変わり無かった。
「これはなキュアソードだ。別名『健康棒』だな。」
「なんだよその腰痛に聞きそうな名前。」
「いやいや旦那。まじでそうなんだって。こいつで魔物を切ると、傷や魔力を微量ながら回復してくれるマジックウエポンだぜ。」
「あ、なるほど。あったったそういうの!へー実際に見るとなんか面白いな。そうだ、剣ならユージリンが使えばいいんじゃないか?」
ゲームにもその手の武器が確かにあった。
きせきのつるぎとかブラッドソードとかそういう類だな。
俺はヤッパスタの説明を受けながら、そわそわとしつつ、こちらを見ていたユージリンにふってやった。
「え!?いいのか!?本当に!?いいのか!」
「え?あ、ああ。いいよなヤッパスタ。」
「ああ、もちろん俺はかまわねーぜ。」
「ありがとう!コースケ!ヤッパスタ!」
何かの琴線に触れたのか、テンションが高すぎるユージリンが喜びを爆発させていた。
「コースケ知ってたんだ。私はハピスさんに聞いて初めて知ったよ。弓でもあるのかなぁそういうの。」
「いや、これを知ってた訳じゃないんだけど、似たようなやつを知っててさ。あれ?そう言えばハピスさんは?」
「コースケが帰ってくるちょっと前まで一緒に居て話してたんだけどね、なんか知り合いって人が来てどこかに行っちゃった。」
俺は嫌な予感がした。
「どんな奴だった!」
「え?ど、どうしたの急に。女の子を連れた背の高い男の人だったけど……」
やはり。
ダンジョンの最下層で会ったあの二人だ。
あの会話のやり取りで、俺達が何か関係してると勘付いたのだろう。家の場所を抑えられているのは想定外だった。
「ハピスさんに変わった様子は無かったのか!?」
「もしかしてヤバイ人達だったの?変わった様子は…最初はあちゃーみたいな顔してたけど、普通だったよ。」
俺の思い過ごしなら構わない。
本当に旧知の中で、久々に訪ねて来たとなれば感動の再会を邪魔する必要は無い。
「なんでぇ、もしかしてあれはハピス嬢の彼氏だったのか?」
「子供も居たのなら旦那さんじゃないのか。」
「でも、子供って言っても獣人だったし、二人の子供じゃないでしょ。」
俺が考えている間に三人のよくわからない考察が流れていた。
だが、その考察も完全に違うとは言い切れない。
これは…困った。
「ちょっと俺、ジャクシンさんの所へ行って来る!トモ!来い!」
「わふっ!」
「え?ちょ、ちょっと。コースケー!」
俺はメイエリオの声には反応せず、一直線に騎士の詰所に向かった。
「ジャクシンさんにお取次ぎを!冒険者のコースケです!」
到着するや否や息も整えず、詰所前の門番兵に頭を下げる。
「ああ、君の事はもちろん知っているが、ジャクシン様は来客対応中だ。すぐ通す訳にはいかない。」
「緊急なんです!お願いです!」
「そう言われてもな…」
「どうされましたコースケ様。」
後ろから俺を呼ぶ声に反応し振り返ると、フルブライトさんが居た。
「フルブライトさん!お願いです!ジャクシンさんにすぐ報告と確認をしないといけない事が!」
「落ち着いて下さい。現在カカ様が来られており、私であっても割って入る事が難しい状況なんです。」
「そんな…じゃ、じゃぁフルブライトさん!アルネロが戻って来ているかだけでも教えて貰えませんか!」
「……アルネロはまだ戻って来ておりませんよ。」
「やっぱり…」
「私で良ければ話を聞かせて下さい。お力になりましょう。」
「はい!お願いします!」
久しぶりの再会に対する挨拶もないほど
俺は焦っていた
 




