えぴそど114 青白い男
ダンジョン周回のお陰か、トモとのコンビネーションも大分と良くなった。
「トモ!Bダッシュ!」
「わおぉん!」
トモが風を起こす魔法を使うと、俺の背中から突風が巻起こり、体ごと前に飛ばされると、俺は姿勢を保ちつつ骨の魔物との距離を一気に詰める。
その勢いのまま鎌で骨の魔物の半身を砕くと、すかさず指示を出す。
「トモ!エアバッグ!」
「わふっ!」
しかし、トモはとても頭が良い。
俺が指示をする前から次の魔法陣を展開しており、壁まで飛ばされた俺の身体を、トモが発動した風のクッションが包むと、俺は身体をよじり方向転換する事ができた。
ちなみに名称は俺が勝手に付けただけなのだが、トモはどの魔法の事かをちゃんと理解してくれている。
「ナイスタイミングだトモ!ありがとう!」
「わんっ!」
トモの顔を両手でわしゃわしゃしながら、俺の心の中には野望が一つ生まれていた。
いつか言ってみたい。
10万ボルトと…
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「最下層だな。コースケ、準備はいいか?」
ジャクシンさんがレイピアを抜き、こちらに優しい表情で振り向いた。
「大丈夫です。いつでも行けます!」
このダンジョンのボスはこれで5度目の対決になる。
基本的にダンジョンボスは数時間ほどで復活するらしく、一度外に出て再到達するまでには必ず復活している。
はずだったが…
アルネロが扉を開けると、そこには既に別のパーティが、ボスであるスケルトンリザードと戦っていた。
「せんきゃくのようです。ジャクシンさま、どうされますか。」
こちらに気付いたのか、先に戦っていたパーティの一人が、首を振りながらこちらに向かい斧を上に掲げる。
アルネロもそれに応える様に手甲を上げた。
「『援護不要』か。二人で戦っているにしてはもう少しで倒せそうだ。望まれていない加勢は失礼だろう。一旦扉を閉めよう。しかし、そうなると復活まで時間がかなりあるな…」
「たいきされますか。」
「いや、復活まで待っていては日が変わってしまう。コースケ、最後が締まらない形になってしまったが、彼らがスケルトンリザードを倒したら、そのまま地上に出ないか?」
ジャクシンさんが少し寂しそうにこちらを見た。
「ええ、俺は何でも大丈夫です。残念ですが、また三人…いやトモも入れてまたみんなでダンジョンに行きましょうよ。それまでのお楽しみって事で!」
俺が元気よく答えると、ジャクシンさんの表情は和らいだ。
「ふふっ、そうだな。これが最後と言うのは癪だな。うむ、また行こう。」
「ええ、是非!」
俺とジャクシンさんは笑顔で握手をする。
ついでに不機嫌そうなアルネロにも握手をしようと手を出すと、手甲の爪を振りかざしてきたが、強肉弱食ではじかれ、更に不機嫌そうになっていた。
そうこうしていると、扉が中から開けられ先程戦っていたパーティの一人が顔を出す。
「いや~すみません。先に頂いちゃって。一応終わりましたのでご報告ですね。」
顔を出した男は、青白い顔をした長身で、中に残っていたもう一人は素材を取り出す作業をしていた。
「ああ、構わない。先に到達した者の手柄だ。気にする事は無い。」
「そう言ってもらえるとなによりですよ。ん?もしかしてあなた、テオ・ジャクシンさんでは?」
その言葉を聞くと、アルネロが若干警戒態勢に入ったのが感じ取れた。
「如何にも。私はジャクシンだ。」
「いや凄い。まさかこんな所で英雄のお孫さんにお会い出来るとは思いませんでしたよ。あ、申し遅れましたね。私はケルガー・バイオレット。ちょうどお聞きしたかった事があるんですよ。」
そう言った男に、俺もどことなく警戒心を抱いてしまった。
この男、物腰柔らかい口調とは裏腹に、無表情のままなのである。ただのサイコパス野郎に見えてしまう。
「いいだろう。何だ、言ってみろ。」
「ありがとうございます。感謝しかありませんね。実は私、人を探しておりまして、これなんですけどね。」
男が取り出した写真にはハピスさんらしき姿があった。
「知らんな。その女に何かあるのか。」
俺は咄嗟に反応しかけてしまったが、ジャクシンさんとアルネロは流石と言うべきか、微塵も反応を見せていなかった。
「いえいえ、ちょっとした知り合いなんですけどね。この辺りに居るというのを聞いたんですよ。彼女、アルケミストなのもので、ダンジョンで素材集めでもしてるのでは無いかと入ってみた次第。お手間を取らせました。」
「そうか、見かけたら留意しておこう。」
「ありがとうございます。それとそちらの方────」
「紫熊ー!取れたでー!ウチもうこんな所いややー!はよ出よー!」
男が俺の方向を見て何かを言いかけようとすると、素材を取っていた男の仲間が叫んできた。
さっきは後ろ姿しか見てなかったが、大きな尻尾を持つ、獣人の女の子の様子だった。
それよりも気になったのは、関西弁を使ってる様に聞こえた所だ。
この世界にも関西弁が!?
「ははは…すみません。ツレはまだ子供でして。私はこれでお邪魔させて頂こうと思います。それでは。」
男は一礼をすると、転送場所に向かい、地上へと帰って行った。
「アルネロ、奴を探れ。すぐにだ。」
「はっ!」
そう指示するジャクシンさんの目はとても怖く、アルネロは先に走って転送装置に向かって行った。
「コースケ、トモ、さあ、行こう。」
こちらを振り向いたジャクシンさんの表情は、いつもの優しい顔に戻っており、差し出された手を、俺は無意識に握り返し地上へと帰った。
探索で得たアイテムを入れている袋が
ずしりと重い




