えぴそど112-勇34 はりぼての歌
「……そうか…分かった……お前達は引き続きその男達を探るでしょうよそれ。俺達も予定通りブレスに向かう。」
「はっ……それともう一つ。昨日、勇者が東部方面軍の加勢の為に打って出たとの事です。」
「……タイミング最悪だな……アンは?」
「同行しております。決行なされますか。」
「いや、待て。賢者のネタを握らないと疑われ兼ねないでしょうよそれ。それにアンに何かあっては困る……残念だが今回は勇者の指示通り動くしかないでしょうな。はぁ……お前達はもう下がれこれ。」
「「「はっ」」」
集落のほとり、サブダブは黒い装束に身を纏った小隊と話をしている。
ロクミーとオールシャはその光景を見ながらも、特に口に出す事は無く、遺体を埋める作業を続けていた。
サブダブが俯き加減にこちらに向かってきた。
「さてと、もうこれくらいでいいでしょうよ。後の処理は領兵に任せて俺達は先を急ぐぞこれ。」
「はっ」
「は、はい…でもせめて領兵が来るまで彼女達の傍に…」
「何か言ったかロクミー。」
「い、いえ。なんでもありません。」
若干機嫌の悪いサブダブの威圧感に、ロクミーは萎縮してしまう。
「そうか、なら出発だこれ。目的地までは一日の距離だが時間を食いすぎたぞこれ。急ぐでしょうよこれそれ。」
「「はっ!」」
サブダブ達は馬に戻り、先を目指した。
◇
「申し訳ございません、ユウジ様。私もですがベル様もお酒を口にした事が無いのです。初見でこの様な失態、ベル様の代わりにお詫び申し上げます。」
「うんにゃ!かまへんかまへん!今日はこのままゆっくり寝かしたりーな。疲れもあったんやろ。明日も時間は取っとるしな、大丈夫や。」
「ありがとうございます。」
ベルは始めて酒を呑んでしまい、そのまま顔を真っ赤にし眠りこけてしまった。
エリシアとミルミナチカはベルを抱え、充てがわれた屋敷へと向かって行く。
「……それにしても、体内に入った毒ですら無効化する筈の色欲が、酒で堕ちてしまうなど……笑えますね。」
屋敷に向かう姿を見ながら、ユウジの側近が口を静かに口を開いた。
「なははっ!!そう言うてやるなや紅梟。これもええネタやんけ。今代色欲を始末するには酒を盛ればええっちゅーな!なはははっ!」
「でもでも、ユウジー!あいつらの後を嗅ぎ回っとる奴らどないするんー?ここまで来られるとウチ怖いわー」
獣人の小さな女の子が、ユウジの服の袖を引張りながら不安そうに顔を見上げていた。
「心配あらへんがなー。この森に入った時点で桃犬達が何とかするやろ。いざとなったらワイがなんとかするわ(笑)碧栗鼠はそんなん気にせず、ワイの傍におったらええんや。」
「うんー!」
碧栗鼠と呼ばれた女の子は、嬉しそうにユウジの足に抱きつき、身体と同等の大きさがある尻尾を振っていた。
「んな奴らより緋猫……ハピオラちゃんが勇者と接触してたってのは初耳やな。紫熊、奴は今何してるんや?」
「それが探ってはいるのですが、もう一年近く行方が分からないんですよね。元よりあれの同行を知る方が、世界の真理を探るより難しいかもですよ。」
「ぶははっ!!紫熊ぁ!おもろい事言うやんけ!!ほんまやなぁ!そらそうやわ!…はは………ほんま……困った子猫ちゃんやで。神真機関の情報くらいで調子に乗ってもらわれてもな……これはちょっと、お仕置きが必要やのう。」
ユウジが真顔になると、周りの面子に緊張感が走った。
「ま、放っといてもワイらの邪魔はせんやろ。それよりも今は色欲や。郭東の情報が少しでも欲しい。今の傲慢と違ってアレは頭が良い分ちょろいで。じっくりいったろうやないか。」
ユウジはそう言うと、服の袖を大きく振り、屋敷の中に入っていった。
◇
「カクト様のご到着だ!!指揮官はどこか!」
「はっ!私であります!東部方面軍第三隊副隊長モレッサであります!…み、見張りを残し、総員整列っ!!」
カクト達が帝国東部の町、ローランドに到着したのは、スカイアロー領を出て三日後の事だった。
カクトの到着を聞くと、駐屯していた全兵が集結し整列した。
「状況を報告せよ。」
近衛兵ナインズの隊長であるNo,1が、モレッサに報告を促すと、カクトが左手を伸ばし静止し、直接質問を始めた。
「モレッサと言ったか。」
「はっ!」
「生き残っているのはこれだけか。」
カクトの私兵は一隊につき基本16名が配置されている。
数は減ったとはいえ、二隊の混合と聞いていたが、整列した兵士は5名しかおらず、見張りを含めても7名だった。
「……はい……申し訳ございません。第二隊隊長オーガス、同副隊長ビー、第三隊隊長ウェスペオ、共に戦いの果命を落としました。ここに居るのは第二、第三隊の生き残りの全兵です。序列により私が指揮を取っております……」
「……そうか、魔物の侵攻はどうなっている。」
「分かる範囲では、ここより東に7kmほど先にある集落、モルガンまでの侵攻を確認しております。街道を通り侵攻していれば、早ければ今日中にはここに到達してしまいます。」
「ちっ……」
それを聞くと小さく舌打ちをし、カクトは深く目を瞑ったまま指示を出した。
「ナインズ、見張りを含め任を交代し、モレッサ達に食事と介抱を。No,1以外は全員だ。」
「「「はっ!」」」
「あ、ありがとう御座います!」
「ガーディッシュ、必要なら何人か連れていい、正確な魔物の種類と侵攻場所を探れるか。」
「はいはい!お任せをー!」
「ジョリーアン、ティンバー卿に再度出兵依頼だ。やり方は任せる。無理矢理でもいい、必ず出させろ。必ずだ!」
「あ~いよ~……必ずねぇ……」
カクトは目を閉じたまま、予定通り進まない状況に苛立ちを感じる。
その上で、兵を気遣いながら的確な指示を行ってる自分と、それに従う兵達に気持ち悪さを覚えていた。
そんなカクトの瞼の裏では
その姿を誇らしく思うかの様に
微笑むコルピナの姿が映っていた
 




