えぴそど108-勇30 森の歌
「サブダブ隊長、あちらを御覧ください。」
「あー大丈夫だってよオールシャ、見えてるってこれ。」
サブダブはオールシャとロクミーを連れ、賢者ベル・ホロントの意向を探る為、馬に乗り山道を北東に向け進んでいた。
「ま、魔物でしょうか。声も聞こえます。」
三人が眼下にある麓の集落を見ると、木々で詳しくは見えなかったが、煙が上がり、微かに悲鳴の様な物が聞こえていた。
「姿は……見えないなこれ。賊かも知れない、どちらにしても俺達の任務外の事でしょうよ。進むでしょうよそれ。」
「み、見殺しにするのですか!?」
「はぁ………あのさのさロクミー君。俺達はカクトから直々に司令を受けて行動してるのよこれ。それに、この人数で何が出来るって事も無いでしょうよ。」
「し、しかし…」
「サブダブ隊長、私からも進言させて下さい。私とサブダブ隊長であれば、魔物の侵攻を少しでも遅らせる事が出来、避難出来る人も増やせるかもしれません。」
「おいおいおいおいオールシャまで……まったく困った部下達だぜこれ………」
面倒臭そうに頭を書きながら、サブダブは再び麓の集落の様子を確認すると、ため息を一つ付き口を開く。
「条件があるでしょそれこれ。馬をここに置き、三人で下に降りるが、その先は俺が先行して状況を確認する。それで無理だと判断した場合は、諦めると約束してもらうでしょうよ。その判断力まで疑うのならレベリオンを脱退してもらう。いいかこれ。」
「はっ!」
「は、はい!」
「はぁ…面倒くさいでしょうよこれ………」
三人は馬を近くの木につなぐと、斜面を駆け下り、集落の方向へと向かった。
「うっ!」
「オールシャ!大丈夫!?」
巨躯な上に重装備のオールシャが斜面を降りると、勢いが付き過ぎてしまい、岩にぶつかってしまった。
「あ、ああ。すまないロクミー。急ごう。」
「うん。」
二人はほんの一瞬立ち止まっただけだったが、サブダブの姿を見失いそうな程距離を離されてしまった。
二人は必死にサブダブの背を追い走り続けると、サブダブが立ち止まり、こちらにサインを送ってきた。
「待機の合図だ。ロクミー周りを警戒しておいてくれ。」
「わ、分かった。」
オールシャがサブダブに合図を返すと、サブダブは更に森の奥へと入って行く。
辺りには焦げ臭い匂いと、先程よりは鮮明に人の悲鳴が聞こえていた。
直ぐにサブダブが視界に戻って来ると、二人を呼ぶ合図を送ってきた。
二人は顔を見合わせ、集落の人を救える喜びに一時口元を緩めると、張り詰めた表情に切り替え、サブダブの方向へ走り出した。
◇
ベル達は馬車に揺られながらブレスの町を出ると、そのまま森へと続く道へと進んで行った。
「夜の森に入るのに護衛も付けず馬車一台って、大丈夫なんだろーねこいつら。」
ミルミナチカが案内をする男達に聞こえる様にぼやいた。
「護衛の方、ご心配無く。この森は我々の監理下にあります。この道には魔物避けの魔鉱石も配置しておりますので早々襲われる事はありませんよ。」
「そんな高価なもんを…ふんっ。」
正面に座る男は表情を変えず淡々と話し、ミルミナチカはどこか気に入らない様に表情を曇らせた。
「御方には何ぶん窮屈かと思いますが、今しばらくご辛抱を、時期に到着します。」
「ええ、構いませんわ。それよりも……監理下と言っておりましたが、馬車を囲う様に付いて来るこの気配はお仲間と言う事でよろしいのですね?」
その言葉を聞くと、流石だなと言わんばかりに、男は少しだけ表情を崩した。
「ええ、全て我々の組織の者ですのでご安心を。」
「………分かりましたわ。」
しばらく夜道を進むと、馬車が切り立った崖の前で止まった。
「お降りください。あちらが入り口となります。」
馬車を降りた一行が男の指差す方向を見ると、崖の一部に鉄製の扉が設置されている。
「付いて来て下さい。」
男に付いて開かられた扉の中に入ると、奥へと続く穴が開いていた。
所々には発光する魔鉱石が当て込まれているものの、足場は舗装されておらず、滴り落ちる水滴で滑りやすくなっていた。
「ふふ、思い出しますねベ…ラルさん。あの洞窟を。」
「そうね。アリア、何が起こるか分からないわ。気だけは抜かない様にしておきなさい。」
「わ、分かりました。」
突き当りと思われた場所に再び鉄の扉が現れると、ベル達が扉に達する前に開かれて行った。
扉の奥側は大空洞になっており、地面には土が敷かれ、家屋等が建ち並んでいた。
「こいつはたまげたね。こんな洞窟の中にまるで町がある様じゃないか。だけど、なんだ…何か違和感が…」
ミルミナチカはそう言うと、口を開けたまま大空洞に築かれた町並みを眺めていた。
「さぁ、ゲートを閉めますので中に入って下さい。あちらの建物で我々の代表がお待ちされています。」
「分かりましたわ。ミルミー、行きますわよ。」
「え?あ、ああ!」
ベル達が中に入ると
鉄の扉は音も立てずに静かに閉まっていった




