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えぴそど107-勇29 終わらない歌

地方都市ブレスに到着したベルは、護衛契約をした冒険者ミルミナチカ達と、フットプリンツとの待ち合わせ場所として指定された酒場に来ていた。


「何をおどおどしてるんだよ二人共、まさか酒場は始めてだなんて言うんじゃないだろう?」


「はははは初めてじゃないです!」


元々パーフラ教では酒類が禁止されている。


その為、ベルとエリシアは酒場に入った事が無く、戦場とは違う異様な雰囲気に緊張していた。


「ぷはははっ!まあそういう事にしとこーか!」


ミルミナチカは不安そうな二人を見て、機嫌良く笑っていた。


「ベ…ラルさん。それで、これからどうされるんですか?」


「う……分からないわ。今夜、この酒場で待てとしか言われていないもの。一先ず待ちましょう。」


「ラルさんよ、酒場で酒も飲まずに座ってるってのは却って目立つよ。私達だけでも頼んでいいかい?なに、仕事に支障が出るほど飲むつもりはないさ。」


「そ、そうね。私達はお酒が苦手だから、あなた達だけでも頼んでおいてちょうだい。」


その言葉を聞くと、オースティンとテペリオットは笑顔でハイタッチをして店員を呼んでいた。


酒が運ばれ、護衛の三人は談笑しながら呑みだすと、エリシアがベルに向かい小声で喋りかける。


「まさか、この為にこの方々をお雇いになられたのですか?」


「え?ええ!そ、そうよ。こんな場所で二人で居たらちょっかいかけられる未来しか見えないわ。これでも私は考えてるのよアリア。」


「…………」


ベルの目は明らかに泳いでいた。


きっと当初の目的は違う所にあったか、あまり考えていなかっただと、エリシアはなんとなく察した。


しかし、二時間が過ぎ、三時間が過ぎ、ついに閉店の時間が来てしまう。


「お客さん、そろそろ店を閉めさせてもらうが、帰ってもらっていいかい。」


店主の男が不機嫌そうに言ってきた。


「ラルさん…。」


「どうする、一旦出るか?」


エリシアとミルミナチカがベルの顔色をうかがう。


「………いえ、待つわ。」


「いや!店を閉めるって言ってるだろ!帰ってくれよ!」


店主は『何言ってんだこいつ』とばかりに呆れつつ怒り始めていた。


「私はこの店で人を待っています!とても大切な事なのですわ!お金なら言い値で払います。お願い、もう少しだけ居させて下さい!」


「……んな事言ったって……ん?」


ベルと店主が押し問答をしていると、店の入口から三人の男が入ってきた。


「お客さんすみません。もう閉店なんですよ。」


「ああ、すぐ済む。」


男達は一直線にベルの所に近づいてきた。


護衛の三人はすかさず武器を手にし、構える。


「それ以上近づくな。私は彼女達の護衛を請け負っている。要件はそこからでも聞こえるだろ。」


ミルミナチカがベルと男達の間に立ち、剣を構え言い放つと、男達はその場で膝を付いた。


「配慮に欠けた行動でした。すみません護衛の方よ。」


その姿を見てベルは席を立ち、ミルミナチカの腕にそっと手を置き武器を収めさせた。


「遅くなってしまい重ね重ね申し訳ございません御方よ。お迎えに上がりました。外に馬車を用意しております。ご同行願います。」


「ご苦労様ですわ。さ、みんな行きますわよ。店主の方、ご迷惑をおかけしましたわ。これはチップです。お受け取りください。」


ベルが店主に高額な金貨を渡すと、店主は口を開いたままベルと金貨を交互に見ていた。


男達の後に付いて店を出ると、ベルはミルミナチカの腕を引き、耳元で囁いた。


「この先、何かあればアリアを最優先で守ってちょうだい。」


「……承知した。」


全員で馬車に乗り、一行はブレス郊外へと連れていかれた。





「北部方面軍の報告は以上です。」


「うむ………次、東部方面軍はどうか。」


「はっ、二日前の情報になります。東部方面軍、全隊損耗激しく、第二・第三隊は既に中隊を維持出来ず合流し、守備線を下げ、ローランド周辺の守備を続けています。更に援軍要請をした帝国軍とティンバー領主の私兵は共に参戦せず、このままでは補給路も閉ざされる深刻な状況です。」


「……やはり問題は東部のみか。どうするカクト。」


カクトの居城内にあるレベリオンの会議室では、アズを中心としたレベリオン幹部達による、定例報告会議が行われていた。


「キリが無いな。結局俺が行くのだろう。集落程度の防備に貴族のクソ野郎共は兵を出すのを渋っている……アズ、これが貴様の言った守るべき国の姿なのか。」


カクトは円卓からは離れた場所に座り、報告を聞きながら手にした魔鉱石を眺めていた。


カクトの言葉を聞き、アズは一旦目を伏せると、伏目がちのまま口を開く。


「だからこその我々レベリオンだろうカクト。こうしている間にも、国に、貴族に見捨てられる集落がある。まずはか弱き民を救い────」


ガシャン!


「いつなんだ!!!」


手に持った魔鉱石を壁に投げつけ、カクトが激昂した。


「いったい、いつになったらアスタリアに攻め入るんだ!!俺は侵攻する為の兵を作れと言ったんだぞ!!!練兵の為に魔物の被害を受ける奴らを助ける行為も黙認しているだろ!!」


「カクト…」


「それが何だ!!!いつから俺達は弱者救済の団体になったんだ!!賢者だって現れたじゃないか!俺は何をしている!?何をこれ以上待てばいい!!答えろアズ!!!」


「……すまんカクト。今はまだレベリオンは軍としてアスタリアはおろか、帝国軍にすら太刀打ち出来るレベルではない。今無理に攻め入っても全滅の憂き目に遭うだけだ。だが、ようやく人材が揃いつつある。今一時、堪え忍んでくれカクト。頼む。」


その言葉を聞くと、目を血走らせたカクトが立ち上がる。


「………クソがっ!!!!馬を出せ!俺は東部軍に合流する!それでいいんだな!!!アズ!!!」


「ああ………勇者様のご出陣だ!すぐに準備をしろ!解散!」


「「「「「はっ!」」」」」


カクトは勢い良く部屋の扉を開けると、振り向くこと無く外へと出ていった。


その後を追う様に幹部達も部屋を出ていく。


奥歯を噛み締めながら考え込むアズの肩を、煙草を咥えたジョリーアンが軽く叩き笑顔を見せる。


「おやっさん~あんまり考え込むと老化が早まるよ~」


「うるさい!早くカクトに付いて行けジョリーアン!」


「あ~いよ~」


「ジョリーアン!!」


部屋を出ていこうとしたジョリーアンを再びアズが呼び止める。


「も~~あーに?」


「カクトを頼む。くれぐれも早まらせるな。まだ、我々には早すぎる。今動けば、帝国と水面下で交渉している内容が全て水の泡だぞ。」


「ん~~あ~はいはい~政治の事は興味無いけど大丈夫大丈夫~任せてよ~」


そう言うと、ジョリーアンは手をひらひらと振りながら部屋から出て行った。



残されたアズは

頭を抱えながら卓上の地図を見つめた

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