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えぴそど106-勇28 前を向く為の歌

ベルはエリシアを連れ、乗合い馬車に揺られながら、帝国西部にある地方都市ブレスを目指していた。


「ベ……ラルさん、正直まだ私は不安です。良かったのでしょうか黙って出てきてしまって。」


「大丈夫よアリア、監視が付いていても私の魔法ですぐに分かるわ。それに、こういうのってワクワクするでしょう?」


「私には分からない感覚です…。」


二人は変装をしそれぞれ偽名で呼び合いながら、他の乗客に聞かれないよう、馬車の音に紛れる程の小声で会話をしていた。


ミュラバレンを出発し、既に二日が経ってぉり、エリシアはその二日間、不安しか口にしていなかった。


「このペースで行けば明日にはブレスに到着できるはずですわ。そこで彼らと無事落ち合う事が出来ればもうこちらのものですわ。」


「交渉が上手くいけばいいのですが…きゃっ!」


急に馬車が止まり、荷台に乗っていた二人は勢いのまま壁に身体を打つ。


「賊だ!!」


「あいさー!!さぁ、仕事だ仕事。行くよ!あんた達!」


「「おぅ!」」


御者が叫ぶと、護衛に付いていた冒険者達が三人、荷台から飛び出し山賊達と対峙した。


「ラルさん!私達も!」


「お待ちなさいアリア、今ここで目立つのは得策では無いわ。様子を見ましょう。それに……相手をよく見てみなさい。」


山賊は五人組だが、見るからに痩せ細っており、武具も刃がかけているものなど、貧相なものだった。


「ほらほらぁ!来るなら来なさーい!」


護衛冒険者の女リーダーが声を上げると、山賊達はその覇気に飲まれてしまい、襲う事無く、お互いの顔を見合わせていた。


「ん?威勢良く出てきた割には芋ってるね!賊行為は死刑だって分かっての行為だよな!?分かって出てきたんだよねあんた達は!」


冒険者の女リーダーは更に語気を強め、剣を構えたまま一歩づつ前に出る。


山賊達は逆に一歩づつ下がり始めてしまった。


「ふんっ………来るのか来ないのかはっきりしな!来ないならこっちから行くよ!!」


片足を地面に強く踏み込み、怒号にも似た言葉を発する女リーダーに、山賊達は観念し武器を地面に置き、両手を組みながら両膝を付いた。


「す、すみません!あの………お、俺達は村を魔物に襲われて、食う物も無くて…それでそれで…」


「そんなの知るかーい!あんた達!あいつらを斬っちまえ。」


「了解!!」


女リーダーが指示すると、仲間の冒険者が武器を構え山賊達に近づいた。


「ひっ!」


そのまま山賊達は冒険者二人に蹂躙され、瞬く間に五人とも殺されてしまった。


「ラルさん…これで良かったのでしょうか。なんだか…不憫に思えてしまいます…」


「何を言うのアリア、如何に同情に値する事情を持っていても、犯罪行為に手を染めても良い訳が無いわ…」


「そうだよ。そっちのおねぇちゃんが言う通りだ。」


冒険者のリーダーが荷台に戻ってきた。


「それにしても肝っ玉の座った子だね。怖くなかった?」


「いえ、とても怖くて震えておりますわよ。特に連れのアリアが。」


「ベ!……ラルさん!私は別に!」


「はははっ!面白い子達だね!詮索するつもりはないけど、さっきの会話を少し聞いちまったんだ。ブレスに行くんだろ?交渉がどうこうって言ってたけど、どうだろうか?交渉の席に女二人ってのは心細いだろう?私達を護衛に雇う気は無いかな?」


残りの二人の冒険者も荷台に上がり、再び馬車は出発した。


「いえ、いらな……………ん……ちょっとお待ちになって………そうね、やはりお願いしようかしら。」


「ラルさん!?」


「あいさ!任せてよ!私の名前はミルミナチカ。ミリーって呼ばれてるよ。こっちは仲間のオースティンとテペリオット。三人ともBランクだ。到着までの間、護衛内容と金額交渉といこういじゃないか。」


ベル達より若干年上の冒険者パーティを護衛として雇い、ベル達はブレスへと向かい続けた。





「カクト様おかえりなさいませ。」


「…ああ。」


自らの城に戻ってきたカクトは、城壁の外にまで迎えに来ていた若いレベリオン兵に出迎えられた。


そのまま馬に乗り城内へと入ると、民衆がレベリオンのシンボルマークが描かれた旗を振り、紙吹雪を降らせながらカクトの入城を歓迎する。


「きゃーカクトさまー!」

「かっこいいー!」

「勇者さまー!」

「おかえりなさいー!」

「カクト様ご無事で何よりです!」

「勇者様!こっちを向いてー!」


道すがら様々な声がカクトを包むが、カクトは城の方向を見たまま反応しなかった。


カクトを出迎えた民衆の半分は、カクトを筆頭にレベリオンが保護活動を行っている孤児達が占めていた。


孤児達は、この町で共同ながら住居と、それぞれがこなせられる仕事を与えられてた。


今までの暮らしを思えば、勇者への感謝無しでは語れない程の高待遇であり、皆それぞれが一生懸命作業をこなしている。


「この町も大分賑やかになって来ましたねカクト様。」


「ああ、うるさくて敵わん。」


最初に出迎えに来たレベリオン兵は、カクトの馬を引きながらカクトへ笑顔を見せていた。


この青年は、かつてマンティコアの襲撃により、親と町を失い、武器を手に子供達を率いて避難していた所をカクト達と出会い拾われた。


この町に付いた時には、カクト達へ何かと反抗していたが、カクト達が次から次へと孤児を受け入れ保護する姿と、文句ばかり言ってられない忙しさから、いつしかレベリオンに志願し、今ではレベリオン少年隊のリーダーをしている。


「そう言わずに。私ももっと鍛えて、カクト様のお役に立てる様にがんばりますから。」


青年が再び笑顔で言うと、カクトも少しだけ表情を崩し口を開いた。


「ああ、期待しておくさ。」



カクトへ送られる賛辞の声は

姿が見えなくなっても止むことは無かった

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