えぴそど105-勇27 罪深き歌
「隊長、どちらへ行かれるのですか?」
サブダブの後ろを、レベリオン兵であるオールシャとロクミーが付いて歩いていた。
「あー?お前らはそんな事知らなくていいっての。勇者様直々の任務だよ任務。ロクミーは本当に心配症だなってこれそれ。」
「サブダブ隊長、先に行き、馬の手配を致しましょうか。」
「さっすがオールシャだっての。頼むわー。あーあ、ロクミーもこれくらい気を利かせろって言ってんでしょうが。」
「す、すみません……」
オールシャが走って離れて行くのを見守りながら、二人はゆっくりとその後を追って行った。
巨躯のタンクであるオールシャが走る度、鎧がガッシャガッシャと大きな音を立てていた。
ミュラバレン大聖堂は小高い山の上に建っており、その麓には囲む様に四箇所に別れた小さな町がある。
サブダブ達は、スカイアロー家領に戻るカクト達は別の方向へと下山していた。
町は簡単な商店や民家が並んでいるくらいで、強固な防備を担う様なものでは無く、信徒が聖地と崇め、自然に集まり集落を築いた程度のものだった。
町に入ってすぐ、サブダブが何かに気付く。
「おー?ありゃ獣人だな。帝国じゃ珍しいでしょうよ。流石に聖地ともなると色んな種族が居るんだなこれ。」
「言われてみればそうですね。私も帝国領で獣人を見るのは何年ぶりでしょうか。」
「ロクミー、お前獣人とヤった事あるか?」
「ななな!!!???」
突然の言葉にロクミーは目を丸くし、顔を赤らめてしまった。
「どうしたんだってよ。獣人と寝た事があるのか聞いてるんでしょうが……あ、もしかしてお前、童貞か?」
「!?………は……はい……悪いでしょうか…」
ロクミーは顔を更に赤く染め、完全にうつむいてしまった。
「だっははー!わりぃわりぃ!上官として配慮が足りなかったってよ!!はははははっ!」
完全に口を閉ざし、黙り込んでしまったロクミーに対し、サブダブは笑いながら肩を組む。
「ははっ…………なぁ、あの獣人捕まえてヤっちまうかこれ。獣人は人とまた一味違うもんだってよ。」
「え!?な、何を!?そ、そんなの駄目ですよ!もし勇者様にバレたら!」
「バレなかったら良いって事だなこれ。」
「違います!その様な行為をしては駄目だと言う事です!冗談にしても度が過ぎますよ隊長!」
「ふー、お前はほんっと面白味も可愛気も無い奴だってのよこれそれ。これくらいかるーく躱せなきゃ駄目でしょうが。」
「う……す…すみません。あ、オールシャがもう馬を手配している様です。私も手伝って来たほうがいいでしょうか。」
「おー、すぐ行くから手伝ってきてやれってよこれ。」
「はっ!」
走ってオールシャの手伝いに行くロクミーの背中を見ながら、サブダブは目を細めていた。
「ははっ…若いって良いねー………冗談か……女を無理矢理ってのは良いもんなんだぜこれ。」
◇
「もう行ってしまいますの?」
日が暮れ始めた湖畔のほとりで、ベルとキラハは談笑を続けていた。
「ああ、日がじき暮れる。夜になればこの辺りは警備を強く敷くだろ?今の内に離れておこうと思う。」
「……寂しいですわ。」
「もうすぐだ。俺が正式にジャクシンの次期当主になれば、兵を使い戦を仕掛けられる。それまで辛抱してくれ。」
ベルはキラハの胸に再び飛び込み、強くしがみつくと、身を引き笑顔を見せた。
「ええ、もちろん信じておりますわキラハ。もし……約束を破られたら……私が貴方を殺しに行きますわよ?」
「ははっ、お前に殺されるなら本望だベル。じゃぁそろそろ行く。エリシア、ベルをしっかり支えてやってくれ。」
「はい。お任せ下さいキラハ様。」
「お気をつけてキラハ。」
「ああ、じゃあな。」
そう言い残すと、キラハは湖畔の淵を沿うように歩き、そのまま森の奥へと消えていった。
「さ、エリシア。遅くなってしまいましたわ。私達も動いていきますわよ。」
「はい、ベル様!………でも、具体的にどうされるおつもりですか?」
ベルの立場はかなり複雑なものとなっている。
レベリオン直下ワルキューレの所属からは完全に離れたものの、パーフラ教の圧力は当然の事、皇族や貴族からも囲わんとばかりに様々な組織への誘いがあり、簡単には動きにくい状況になっていた。
「そうですわね。まずは仲間を増やさない事には始まりませんわね………いえ、違いますわね。仲間では無く、私の手足になる者が必要ですわ。」
「周りはベル様を利用されようと目論む者ばかりです。簡単にいくでしょうか。」
「一つ心当たりがあるの。私が持つ情報を欲しがっている組織がね。」
「まさか、神真機関ですか!?パーフラ教とは対立しておりますし、天舞の情報なら喉から手が出る程欲しいはずですが、果たして勇者を相手に、あの重い腰を上げますでしょうか!?」
エリシアの言葉に、口元を緩め目を細めるベル。
「違うわよエリシア。あんな気持ち悪い奴らに私が組み敷かれるなんてごめんだわ。」
「では…」
「フットプリンツよ。」
「フット?足跡ですか?聞いた事がありません。」
「ふふっ、やってやりますわよ!明日から忙しくなるわエリシア!付いてきなさい!」
「は、はい!」
力強く踏み出されるその一歩一歩が
彼女の決意を表していた




