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えぴそど104-勇26 忘れない歌

「どうしたベル、随分と荒れてるな。」


「ううん、何でも無いわ!……あぁ、キラハ、キラハキラハ。」


ベルはキラハの胸に顔を埋め、名前を何度も呼んだ。


「あらキラハ、怪我をしておりますわ。魔物の討伐でもされていましたの?手をこちらへ、私が治してあげます。」


「あぁ、ガジャ遺跡にネームドが居ると聞いてな。」


「ガジャ遺跡?」


ベルはキラハの傷を魔法で治しながらも、顔はキラハを見つめ続けている。


「国境沿いにある遺跡型ダンジョンですベル様。あそこのネームドと言えばガムルシンのはず。流石キラハ様です。」


「いや、エリシア。逃げられてしまったから流石も何もない。あそこは罠が多すぎた。面倒この上無い。二度とごめんだな。」


キラハはそう言うと、エリシアに向かい優しく微笑んだ。


その表情を見て、ベルは嫉妬の眼差しをエリシアに送ると、エリシアは慌てる素振りを見せた。


「それで、今日はどうなさいましたの?急に来られる事には慣れましたけれど、その格好は?」


キラハはまるで変装をしているかの如く、普段とは違う服装をしていた。


「ああ、勇者が近くにいるんだろう?どんな奴か面を拝みに来たんだ。」


「そうでありましたか、で、如何でしたか勇者は。」


「一対一ならいけるな。だが、厄介なのが横にいやがった。」


「あの女ですわね!ぐぎぎぃ!私のキラハに何かしたらただじゃおきませんことよ!」


「い、いや違うぞベル……男の方だ……。」


キラハはそう言うと曇った表情を見せる。


「サブダブの事ですの?拳闘家の?……確かに帝国国内ではトップクラスの実力の持ち主だとは聞いておりますけれど…キラハに敵うとは思いません。」


ベルはキラハの頬に手を当てながら、恍惚の表情でキラハを見つめた。


キラハはベルの手を握り顔から離す。


「7年前、アスタリア各地で拳闘家が襲撃を受ける事件があった……戦い敗れた者は、まるでトラ様を模倣するかの様に、両腕を切り取られ、両足を杭で地面に固定され、立ったまま絶命していたんだ。」


「それがあの男の仕業だと言うのですの?」


「確証は無い。だが、この件を熱心に調べていた人を俺は知っている。その資料にあった特徴が奴そのものだ。」


「ですがキラハ様、アスタリアに行くには本来通行証が必要となります。一拳闘家のあの御方が通りますでしょうか。」


エリシアの言葉に、キラハ一度視線を外し何かを考える素振りをし、口を開く。


「強いて言えば、格闘術をある程度極めた人間にしか抜けられない国境線があるとだけ言っておこう。もちろん俺もそこを通って勝手にこっちに来てるからな。」


「左様でございましたか。キラハ様らしいです。」


「それで?なぜ厄介なのです?キラハは拳王。いくらサブダブが拳闘術で強かろうとも、所詮劣化版なのでしょう?」


キラハは再び何かを考え込む様な様子を見せ、ゆっくり顔を上げると、笑顔を見せた。


「奴には………いや、そうだな。まあ、この俺が負ける事は無いな。ははっ。」


「そうですわよキラハ。私のキラハはこの世界で最強なのですもの!」


「ありがとうベル……。」


キラハがベルの顔に手を当てると、ベルは目を瞑り、二人は口づけを交わす。


エリシアは顔を手で覆いながら、バッチリとその光景を見続けていた。





「カクトよぉーむっちゃくちゃ嫌われてるでしょうよ、あれこれ。女の子にはもう少し優しくしてやるもんでしょうが。」


「た、隊長!勘弁してください!」


聖ミュラバレン大聖堂を背に、帰路に着いていたレベリオン一行。


サブダブは部下の頭を脇に挟みながら、賢者へのカクトの態度を戒めていた。


「……あぁ……奴の目が……」


「目?何かあったか?」


「あの目は何かを含んでいる奴の目だ。俺を利用しようする様な…今まで沢山見てきた目だった。」


カクトの眉間にシワが寄る。


「ん~賢者ってのが嘘の可能性とか~?」


「アン、そういう事じゃないでしょうよ。ほれっ!お・ま・え・は!隊列に戻れー!」パシっ!


「は、はいっ!」


「ははっ………つまり、二心あるって事でしょうよ。それにしても賢者様が寄りにも寄ってねぇ。」


「サブダブ。」


「おいよー?」


「奴を調べられるか?」


「任せろってよ、カクト。諜報と暗殺は俺の得意分野だって言ってんでしょうが、これそれ。」


「すまんが、頼む。」


「おーいーよーっと、オールシャ!ロクミー!」


「はっ!」

「は、はい!!」


「俺に付いてこいってよ!行くぞー」


「「はっ!」」


サブダブは部下を連れ隊列から離れて行った。


その姿を少し眺めた後、ジョリーアンが煙草を吸いながら、心配そうにカクトの顔を覗き込む。


「大丈夫~?」


「……何がだ。」


「心配なら………うんにゃ、何でもない~」


「…ふんっ。」


今ではすっかり自分の身長より大きくなったカクトを見て、ジョリーアンは頼もしさと共に、どこか心寂しい気持ちを感じている。



紛らわす様に吐いた煙は

風に誘われ何処かへと飛んでいった

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