えぴそど103-勇25 始まりの歌
「カクト様。こちらへ。」
「………」
パーフラ教の総本部である、聖ミュラバレン大聖堂に来ていたレベリオンの一行。
その先頭で、白いローブに身を包んだ信徒に案内を受ける、漆黒の鎧を着た勇者の姿があった。
「カクト~返事くらいしなよ~。」
「……あぁ……。」
「でもあれだな。何度来てもこの雰囲気は胡散臭すぎるでしょが。」
サブダブとジョリーアンが、白金の装備に身を包み勇者の脇を固めていた。
「サブダブ隊長、滅多な場所で滅多な事言ってると、バーネット総司令にまたどやされますよ。」
後方には10人程のレベリオン兵がおり、その中にはアムドのマンティコア戦での生き残りである、ボルサダ、ドナルド、ロクミー、オールシャの姿があった。
「う…おやっさんも人が悪いってよ。俺は自由気ままな冒険者だったてのに、人を率いて戦いに出てる。これじゃぁ軍人と変わらないでしょうが。なぁ、ロクミー。」
「え!?あ、は、はいであります!サブダブ隊長!」
「サブダブさん~あんまり部下をいじめないであげてくださいよ~。」
「アン!俺がいつ可愛いこいつらをイジメたって言うんだってよ!むちゃくちゃ優しくしてるでしょうが!」
「た、隊長お静かに!ほ、ほら!大聖堂に着きましたよ!」
案内の足が止まると、一行の前には派手な装飾が施された巨大な教会が姿を現した。
協会の前には信徒が跪き、勇者の到着を待っていた。
「カクト様、私の案内はこちらまでとなります。」
「あぁ…ご苦労だった。」
「!!」
その言葉を聞くと、案内していた信徒は、嬉しさのあまり気を失いそうになるを必死に堪え、顔を紅潮させ、後退りしながら道を開けた。
大聖堂の扉が開かれ勇者達が中に入ると、パーフラ教の幹部が勢揃いしており、その中心に白髪の女が立っていた。
勇者が中心に向かい歩みを進めると、中心に居た女も勇者に向かい歩き出す。
「わざわざお出迎え頂き誠にありがとうございます。私が偉大なる郭東神より、七代目賢者の神託を受託しました、ベル・ホロントと申します。以後お見知り置きを。」
女は不敵に笑みをこぼし、他の信徒が向ける様な信仰の眼差しとは違う、まるで勇者を見定める様な視線を送ってきた。
「……貴様はワルキューレに居たと聞く、そのまま俺達の指揮下で動いてもらう。」
「………あら?勇者様。私は賢者の神託を受けたと申し上げましたはず。上も下もありませんわ。作戦に対する提案はお受け致しますが、実行するかどうかは私の意見も聞いて下さらないと。」
賢者はクスクスと笑いながら答えた。
「なんだと……。」
「私が居なければ魔族領にも攻め入られないのでしょう?」
「あ?」
明らかに不機嫌になる勇者と、にやついたままの賢者の間に不穏な空気が流れた。
「こ、これ!ベル様!勇者様に向かいなんと失礼な態度を!申し訳ございません勇者様!」
司教の一人が慌てて勇者と賢者の間に入り、賢者を戒める。
「女、勘違いするな。俺は約束を守る為に賢者が出てくるの待っていただけだ。お前の力など無くとも魔族など滅ぼせる。」
「さすが勇者様ですわ。ならばその意気で是非、民をお救いなさいませ。」
ギリッ!
「貴様……。」
「ベル・ホロント、いい加減になさい。」
「…………はっ、申し訳ございませんでした。」
祭壇の上に立っていた、一際派手な装飾が施されたローブを身に纏った老女が賢者を一喝し、司教の手を借りながら降りてきた。
賢者は膝を付き、老女の到着を待つ。
「勇者様、この者には厳しく言いつけておきます。何卒、お気を悪くなされませんよう。」
老女は勇者の前に跪き、頭を下げた。
その姿に、勇者以外のレベリオンを含めたその場の全員が膝を付き、頭を下げる。
「教皇、いや前賢者よ。その女に賢者とは何かをしっかり教えてやれ。」
「はい、必ずや勇者様のお力になれる様心を清めさせてただきます。」
「ふんっ、お前ら、行くぞ。」
勇者はマントを翻し、協会を後にした。
「ちっ…。」
賢者は周りに聞こえない程度の小さな舌打ちをした。
◇
「あーもぅなんなのなんなの!なんなんですの!!あの上から目線!ねぇエリシア!そう思いませんこと!?」
「はい(笑)、ベル様。ですがヒヤヒヤしました。勇者様の前であんな態度を取られるなんて。」
湖畔の淵を歩く賢者は口を尖らせたまま振り返り、後ろを付いて来ている侍女の肩を掴み言った。
「私だって勇者が頭を下げて来るなら話の一つや二つ聞いてあげますわよ!マウントを取るのに必死なのか知りませんけど、あんな言い方ないでしょう!?」
「ええ、そうですね。ベ、ベル様…痛いです…。」
「…ごめんなさい、エリシア。はぁ、アイーツ教皇様にもお説教されるし、ダメダコ司教とツギイッテミ司教からもお説教だし…私は賢者よ!?なんでいつまでも信徒扱いなのよ!」
賢者は怒りが収まらないまま近くにあった石を湖畔に向け投げた。
パシっ
投げた石は水面に落ちる事無く、男の手により拾われる。
「キラハ!」
目を輝かせ、笑顔を見せる賢者。
そのまま賢者は男に走って駆け寄り抱きついた。
殺伐としていた場に甘い風が吹き始めた




