8 ゴブリン決戦
ツキミヤさん達が撤退してすぐにミドルゴブリンたちが家から溢れ出し、俺の前に壁を作り始めた。
しかし、その中にはやはりホブは混ざってはおらず、奴らは足が遅いので到着はもう少し先になるだろう。
しかもここまで俺を追って来たコイツ等はかなり疲労しているみたいだ。
俺はポーションを飲んで体力を回復させると剣を構えた。
「掛かって来いやー。ゴブリンキラーの力を見せてやるぜ。」
「「「ガアーーー!!」」」
そして俺の気合の声に対抗するように、奴らは集団で襲い掛かって来た。
しかし、その瞬間ミドルたちの体は見事に切り裂かれ数匹が一撃で散っていく。
そして更に体を回転させながら足元の小瓶を踏まない様に気を付け独楽の様に回って攻撃を仕掛ける。
そして、その陰ではリリーが魔法を放って密かに数を減らしていく。
そんな中で俺は手数が足りない事に苛立ちを覚えた。
たとえミドルでもその爪は鋭く、触れれが皮膚は裂かれて血を流す事になる。
そんなのが周囲から大量に押し寄せれば流石に限界があるので、やはり数は最大の暴力と言えるかもしれない。
しかし50ほどを倒したところで門の方向から声が掛かった。
「帰って来たみたいだな。」
「待ってたわよ。」
「お兄ちゃん。帰って来たなら連絡してよね。」
そちらに視線を向けると俺の家族が笑顔を浮かべ、それぞれの手に何かを持っている。
そしてよく見ると何処で手に入れて来たのか、父さんは120センチを超える大太刀を肩に担ぎ、母さんは槍を構えている。
アケミは棍棒の様な物を構え魔物たちへと向けていた。
俺は思考を加速させると即座に対応を検討し結論に至った所で素早く指示を出した。
こんな時に年齢や親である事なんて関係ないく、家で皆とネットゲームをする時はいつもこんな感じだ。
「そちらに弾いた奴を倒してくれ。」
「任せろ。」
そして最初の1匹を弾くと父さんは容赦なくミドルを斬り捨てた。
元々体格が良いので俺よりも戦闘に向いているのだろう。
スポーツ系の部活をしていない俺とジムで体を鍛えている父さんでは元々のスペックが違う。
恐らくレベルを上げればすぐに俺に追いつくだろう。
そして母さんは槍の長さを生かしてミドルたちの背後から攻撃を加えていく。
倒す事までは出来なくても意識が向けば俺への攻撃が少なくなる。
そして弱った相手にアケミは的確に魔法を放って敵を葬って行く。
これが集団の力かと感心しながら俺はアケミにいくつか魔石を蹴りつけた。
「ステータスから魔石を吸収できる。そのポイントを使って魔力を強化するんだ。」
「分かったお兄ちゃん。」
「母さんも可能なら力を強化して攻撃力をあげてくれ。父さんはその間にサポートをお願い。」
「フフ、少しは大人になったのかしらね。」
「任せておけハルヤ。お前は安心して目の前の敵と戦え。」
ここに来てようやく背中が安心できるようになり、俺は容赦なく剣を振るってミドルたちを討伐していく。
そして新たにポーションを飲み干して体の傷と疲れを消し次に備える。
「余裕が出来たら足元の小瓶と魔石を回収しておいて。こいつらが終わったら強力な集団が来るから。」
「そいつらは俺達で倒せない程の奴らか?」
「ここだと苦戦しそうだから市街地戦で勝負する。スナイパーに協力は取り付けてるからこちらの地の利を生かして戦う。」
「分かった。後の事は任せたぞ。」
そして最後のミドルを倒して魔石と蘇生薬を回収すると3人はここから離れていった。
すると少ししてまるで地面が揺れている様な振動が発生し、家が崩壊し始めた。
しかし、その残骸は周囲へと弾け飛び、瓦礫の中からホブの群れが姿を現し瓦礫を踏み砕きながらこちらへとやってくる。
そして俺はそいつらと目を合わせると背中を見せて走り出した。
「ついて来いウスノロ共。」
「「「ゴオアーーー」」」
すると俺の挑発が成功したようでホブたちは俺の後を追って来る。
そして、予定通りに狭い道に入ると振り向き様にホブの首に目掛けて剣を振り切った。
その攻撃で1匹のホブの始末に成功すると霞の様に消えていく。
しかし俺はその体が消える前にホブの体を足場にして後ろに跳び、距離を稼いで再び走り出した。
そして階段に到達すると俺はマイクに向かって声を掛けた。
「先頭の奴の頭と足を狙え。」
すると数秒後には2発の球が同時に着弾し先頭のホブがバランスを崩して後ろに倒れていく。
俺は再び振り向くと奴らを足場にしながら数匹の首を斬り裂き息の根を止める。
そして再び走り出すと奴らは怒りの咆哮と共に再び後を追って来た。
それにしても大口径と言う話だったけど出来たのはバランスを崩させることくらいだ。
傷と言えるものは一切見当たらなかったので、これでは自衛隊が突入したとしても勝てる見込みは無いだろう。
そして俺は走り続けると道の先にある急な下り坂に差し掛かった。
俺はそこまで来るといっきに駆け下りて奴らが来るのを待ち構える。
すると奴らも一気に坂を駆け下りてこちらに向かって来た。
しかしホブにも物理法則が働くのは先程の狙撃で確認済みだ。
俺は駆け下りて来る奴らに向かって今度は一気に距離を詰めていく。
そして、下り坂で速度が乗った奴らに自分の足を止める術はない。
俺は奴らを倒した事でのレベルアップと不意を突くことで間を駆け抜けながら体を斬り裂いて行った。
それに何もここで殺し切る必要はなく、必要なのは敵の体力を削ぐ事だ。
それと今の俺が奴らに勝つには今の密集している状態を解消する必要もある。
1匹を倒しても次のホブがすぐ横にいたのでは簡単に殺されてしまう。
だから今は足を止めず、殺すのではなく相手を弱らす事を主体に行動している。
しかし、今回の攻撃は俺の予想以上に奴らの肉の鎧を貫通してくれた。
あれならしばらくすれば勝手に死ぬ個体もいるだろう。
そして俺は次の指示をスナイパーに下した。
「傷を狙って球を打ち込め。」
すると飛来した弾丸は見事に指示した場所へと命中し、ホブの腹の中で暴れ回って命を奪い取った。
しかし、突然インカムの向こうから焦りに満ちた声が響き渡る。
「異常事態発生!」
「どうした?」
「視界が利かなくなりました。変なメッセージを確認。」
どうやら彼らは魔物を倒してしまった事でステータスを得る機会に巡り合えたみたいだ。
俺の時とは違う形だけど、これは一つの新たな可能性に繋がるだろう。
「そのまま待機してくれ。後でメッセージの内容を確認して指示を出す。」
俺とは違うケースなので文章が違うかもしれない。
無責任な指示は出せないし今は戦闘に集中したい。
なので命に関係の無い課題は後回しだ。
そして、見た感じでは半数が既に戦闘不能か命を落としている。
こうなると敵も怒りよりも慎重さを重視する様だ。
しかし、そんな事では困る。
俺は相手に冷静な判断をさせないために、その場で「撃て」と大声を響かせた。
すると空から高速の石槍が大量に降り注ぎホブたちを貫いていく。
その中でも刺さりが浅いのはアケミが放った槍だと思うが、どうやらリリーと協力しての同時攻撃みたいだな。
それに今の攻撃で更に数体が頭を貫かれて霞の様に消えていった。
これでホブたちに軽傷な者は完全に居なくなり、先程まで放っていた威圧感が消え去っている。
そして混乱している事を感じ取ると最後の仕上げへと入った。
「身体強化を覚えてっと。」
俺はリリーの強化魔法に自分の身体強化のスキルを重ね掛けした。
そして跳ね上がった力を使って的確に相手を倒して数を減らしていく。
既に逃げ出した奴もいるけど戦意を失った敵なんて怖くはない。
スキルの索敵で感じている敵の気配が消えて行っているので父さん達がリリーと協力して各個撃破してくれているみたいだ。
そして、しばらくすると全てのゴブリンが地上から消え去り、貴重な蘇生薬を大量に手に入れる事が出来た。
「ミッションコンプリートかな。」
後はあの村に戻って死体を回収するだけだ。
俺は再びダンジョンの前に戻って行き、少し待っているとツキミヤさんと黒ずくめの男性3人が肩を借りながら現れたので、どうやらこの人たちが力を手に入れた人達みたいだ。
「その人たちがそうですね。」
「ああ、話を聞いてやってくれ。」
そして確認した所では俺達と同じ内容のメッセージを受け取っていたので、これなら後は本人の意思しだいだろう。
俺はある程度の事を伝え、Yesを選ぶと激しい痛みが起きる事を伝えた。
するとすぐに病院が手配されて彼らはこの場から去って行ったので。きっと初めて変化を測定できるので大きな病院へ連れて行かれたのだろう。
経験者の俺でも分からない事が殆どなのでしっかりと調べて出来れば結果を知らせて欲しいものだ。
そして、それが終わるとツキミヤさんは再び俺の前にやって来た。
「それで、攫われた人たちは生きてるのか?」
「最低限、10人近くの死体を確認した。行方不明と思われる警官の死体も含めて。」
「そうか・・・。」
俺の言葉を聞いてツキミヤさんは深い溜息をついているので、やはり死んでいない事を願っていたのだろうか。
しかし、それは現場を見ていないから思える事だ。
恐らくあそこでは死んだ方がマシな生き地獄の様な状態が続いていたはずだ。
これから生き返らせた時に何人が正気でいてくれるか。
「それで、同行者は何時になったら到着するんだ?」
「もう少し待ってくれ。惨状に耐性が無い奴は連れて行けない。」
きっと心的外傷後ストレス障害(PTSD)になる事を危惧してるのだろう。
俺も今のような心でなければ確実にトラウマになるレベルで特に今回は俺の指示で同級生を殺している。
あれは俺が殺したと言っても間違いではなく、それにどんな過程があったとしても、その事実が俺を苦しめ続けただろう。
でもこれは俺と彼女の問題なので後でちゃんと説明して謝罪をしておこう。
そして、しばらくするとこの場に複数の警官が到着した。
その中には若手はおらず誰もがそれなりに年齢を重ねているのでベテランと言える人たちなんだろうな。
そして、俺達は揃うとすぐにダンジョンへと入って行った。
先頭は俺で横には何故かアケミが陣取っている。
後方は父さん、母さん、リリーが警戒する形を取ったが、リリーは父さんが大好きなのでその腕の中で存分に甘えている。
あれで警戒は大丈夫なのかと心配していると背後から来ていたゴブリンが一瞬で始末された。
どうやらハッピータイムを邪魔する相手には容赦しないみたいだ。
そして横に視線を向けるとアケミが俺と腕を組んで歩いているのだけど、いざと言う時に動けないので出来れば手を繋ぐくらいにして欲しい。
そんな俺だけど、なんだか久しぶりに再会したような気持になって嬉しさを隠しきれずに声を掛けた。
「俺が居ない間は大丈夫だったか?」
「もう、大丈夫じゃないよ!」
アケミは頬を膨らませて上目遣いに睨んでくるが、もしかして俺のいない間に何か起きたのかと胸を不安が満たしてくる。
なにせ表向きは容疑者である俺が逃げた事になっているはずなのでマスコミや同級生から酷い事でも言われたんじゃないだろうか。
「だって、お兄ちゃんが家に居ないんだよ。それだけで寂しくてどうにかなっちゃいそうだよ。ご飯だって喉を通らなかったし。」
しかし最後のそれは嘘だろうなと確信を持って言える。
だって口元に何かの食べカスが残ってるし、きっと俺が戻って来た事を誰かから聞いてご飯の途中で来てくれたんだろう。
助かったのは確かだけど、なんだか微妙な気持ちになってくる。
これで家に帰って食べかけのオカズが置いてあったら笑ってしまいそうだ。
「そう言えば、どうして俺の居場所を知ってたんだ?」
「え、だって私とお兄ちゃんは赤い糸で繋がってるんだからすぐに分かるよ。」
「それは本当か?」
俺はアケミではなく先程から疲れた顔をしているツキミヤさんに視線を移した。
「それはもうとっても太い赤い糸で繋がってるんだろ。俺の言う事をまったく信じなかったしな。お前さん、発信機でも付けられてるんじゃないか?」
確かにその可能性も否定できないな。
昔からアケミは俺の居場所を見つけるのが天才を通り越して異常な程に上手い。
だから赤い糸は冗談として発信機に関しては今度調べてもらう必要があるかもしれない。
「もう、そんな事あるはずないでしょ。ははははは~。」
「それもそうか。アケミがそんな事をするはずないもんな。」
なんだか凄く怪しいけど妹を疑う兄は最低なので、ここはアケミを信じてしばらく様子を見る事にした。
それに彼女とかいる訳じゃないしアケミなら良いかなと感じてしまう。
これも心が壊れた影響だろうか。
その後は数度の戦闘を行ったけど全員が無事にゴブリンの村へと到着できた。




