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7 ダンジョン突入2日目

俺は一階に戻って食事を済ませると一旦仮眠を取る事にした。

今の所は疲れを感じてはいないけど脳を休める事は大事な事なので一度思考を切ってリセットをかける。

横にはリリーがいるので何かあれば知らせてくれるだろう。

ただ、魔法による疲労が体に蓄積されるのかそれとも精神に蓄積されるのかが分からない。

そのためなるべく熟睡しない様に心掛け、時計を見ながら何度にも分けて睡眠をとる。

そして、4時間ほど休んだ俺とリリーは再び下の階へと進んでいった。


「ここからはまた慎重に進んでいくぞ。」

「ウ~ワウ。」


するとリリーは元気に吠えて返事をしてくれるのだが、コイツの声は遠くまで響くので道の先からそれを聞きつけて気配が近づいて来るのを感じる。

しかし言ったばかりなのに本当に分かっているのだろうか。

なんだかこいつが俺よりも本当に賢いのかという疑問と共に、後ろを任せても大丈夫だろうかと心配になって来た。

でも、今この場での相棒はリリーしか居ないので他の選択肢は存在しない。

贅沢を言っていると限が無いので俺はまず向かって来る敵を倒す事にした。


そして、どうやら向かって来ているのは俺と似た身長の160センチくらいのゴブリンが3匹。

今後は面倒なのでミドルゴブリンとでも命名しておこう。

そして先程までの雑魚をノーマルとすれば、そいつらは一匹も混ざっていない。

今向かって来るのはミドルばかりなので急に敵が強くなった気がするけど昨日の強敵は今日の雑魚。

コイツ等を倒せば質の良い魔石で強化が早まり経験値の関係でレベルの上昇も起きるかもしれない。

昨日の後半でノーマルだとレベルが上がる気がしなくなっていたからこちらとしても都合が良いだろう。


俺はミドルたちに向かい剣を振った。

最初の1匹は手に持つナイフを上に弾き、隙だらけの胴体を上から斬り裂く。

その隙に2匹目と3匹目が左右からナイフを腰だめに突撃してくるけど俺はそのまま右から来るミドルの攻撃を防ぎ、左はリリーに任せる。

俺はこちらも2合目には勝負をつけて左を向きそのまま3匹目の首を斬り裂いて戦闘を終わらせた。

すると足元にはいつもの魔石と2つの蘇生薬がドロップしているので強い敵の方がドロップする可能性が高いのかもしれない。

何処までこの高確率ドロップが続くのかは分からないけど、あまり時間は掛けない方が良いだろう。

出来れば今日中にはこの階層を制覇して次の階層の確認をしておきたい。

昨日と違い時間なら6時間以上は長く戦えるはずなのだが、出来るだけ余裕を持って進んでいきたい。


そしてしばらくはミドルの相手をしながら進んでいくと強い気配を感じ取った。


「コイツはヤバいな。」


俺が見たそいつは、まるで相撲取りの様な体格をしていて手足も太くて逞逞しく今までのゴブリンとは完全に違う。

腹はでっぷりと出ているので速度は早くなさそうだけどかなりの強敵と見て良いだろう。

特にここは横幅が10メートル程のダンジョン内で外と違って今回の地の利はあちらにある。

ゴミすら落ちていないここではマキビシも作る事が出来ない。


俺はリリーに視線を向けて少し道を戻ると分岐を別の方向へと歩き出した。


「ワウ?」

「今はまだアイツとの戦闘は危険だ。もう少し他で鍛えてから戦う事にする。」


言っても分からないかもしれないけど俺の言葉にリリーは何も言わなかった。

恐らくは動物的勘で危険を察知したのだろうけど、コイツも元々は怖がりな奴だから一目で分かってくれたのだろう。


そしてしばらくの戦闘を経て俺とリリーは無事にレベルを2つ上げ、魔石での強化もすることが出来た。


ハルヤ

レベル5→7

力 27→35

防御 20→24

魔力 5→7


リリー

レベル4→6

力 13→15

防御 15→17

魔力26→34


そして先程の大型のゴブリンだが、あれがもしかするとホブゴブリンと言う奴かもしれない。

でもそいつを倒すためにはレベルアップだけでは不足していると感じので俺は魔石で力を強化し、リリーは魔力を強化している。

更にリリーのレベルが5を越えた事で新たなスキルを覚えられるようになった。

そしてステータスを開くとリリーは魔法の欄を開いて2つのスキルを見詰めている。

そこには強化魔法と弱体化魔法とあるけど確かにこれがあれば強敵との戦闘はスムーズになるだろう。

しかし、それには一つの問題があり、俺は悩んでいるリリーに自分の考えを伝える事にした。


「リリーが悩んでいるなら強化魔法を取ってくれないか。」

「ク~ン?」


すると俺の言葉にリリーは可愛らしく首を傾げているが恐らくはどういう理由かを知りたいのだろう。


「強化は絶対に掛かると思うんだけど弱体化は相手に対抗されて掛からないかもしれないんだ。」


敵によってはレベル差とか魔法耐性が高い個体がいるかもしれない。

もしアイツがそうだったとすればせっかくの新しいスキルが無駄になってしまう。

その辺を噛み砕いて丁寧に教えるとリリーは納得して頷き、強化魔法を選んでくれた。


そして俺達は準備を整えるとホブの許へと向かって行った。

あそこの道以外は既に調べ尽くしたけど階段が見つからず、そろそろ奴を倒さないと奥へと進めそうにない。

ただしその代わりと言っては何だけど、この階を歩き回る事で昨日とは違って半日で蘇生薬を30個も確保できている。

このペースなら予定に間に合いそうなので俺は急ぎ足で目的の場所へと向かって行った。


するとそこにはまるで通路を護る様に先程のホブが待ち構えている。

そして強化を受けた俺は蘇生薬の入ったバックを下ろすと、ポケットにポーションを数本入れて更に口にもポーションの瓶を咥えた。

実はポーションを少しずつ飲むと乳酸による身体機能の低下を防げる事に気が付いたからだ。

しかも軽い傷なら回復していくのでゲームなどで言う所の継続的回復リジェネが掛かっている状態と同じになる。


準備が整った俺は万全の態勢でホブに向かって行くと相手の間合いの手前で足を停止させる。

相手の獲物は棍棒だけど大きさが俺と同じくらいある。

身長も2メートルを超えているので見上げる感じと言えば良いのか、ハッキリ言って威圧感は半端ない。

少し前の俺なら絶対に勝負を挑もうとすら考えなかっただろう。


そして制限時間もあるので最初に動いたのは俺の方だ。

瞬動のおかげで瞬時に最大速度に達した俺は焦りを浮かべるホブの横をすり抜けてその腹にショートソードをお見舞いする。

しかし、その分厚い脂肪と筋肉を完全に突破する事はできず、深手ではあっても内臓までは届かなかった。

俺は背後に回る形となったのでそのまま体を捻って向きを変えるとその背中へと剣を振り下ろす。


「おっと、少し間に合わないな。」


相手の足を見ると既に俺に向きを変えているのでこの状態なら横なぎが来そうだ。

俺は即座に行動を変更して棍棒の軌道を確認し、その場で限界までしゃがむ。

すると頭のヘルメットを僅かに棍棒が掠めて通り過ぎるのを感じ取ったが、今度は攻撃後の隙をついてその強靭な体を支える足を狙って攻撃を行った。

もちろん大腿部なんて筋肉の鎧に守られている場所は狙わない。

狙うのは足と言っても先端部にある親指の辺りだ。

そして俺は剣を逆手に持つと容赦なく奴の親指を切り落とした。


「グオアーーー。」


人型の生物の足は良く出来ていて足裏なんて機械で言わせればセンサーとバランサーの塊らしい。

そして、その中核を担う1つの要因が親指だと言われており、ここを失うとバランスが崩れて思う様に動けなくなる。

時間があれば訓練で補えるだろうがそんな時間は1秒だろうと与えてやらない。

そして俺は大きく下がると奴の後ろに視線を飛ばした。


「ワウ。」

『ゴオオオーーーー。』


俺が下がって安全圏に退避すると奴の背中に巨大な火球が衝突する。

有名な魔法名ならファイヤーボールと言ったところだろうけど、下がっている俺にまで高温と肉の焼ける臭いが押し寄せてくる。

そして、どうやら魔法に対する耐性は低いのか体中に火傷を負ってその場に膝をついた。


「リリー止めを差せ。」


火事場の馬鹿力で最後に何かされたら堪ったものじゃない。

別に俺が倒す事には拘っていないので魔法に弱いなら遠慮なく弱点で攻撃させてもらう。

そして、リリーからは複数の風神が迫りその体を斬り裂いていきホブは10の深い傷を刻まれた頃にようやく消えていった。

すなわち俺なら全力であと10回は攻撃しなければならなかったと言う事になる。

その間に逆襲があったかもしれないと考えるとリリーに任せて正解だった。

俺は落ちている魔石と小瓶を拾って鑑定を行うと魔石は今までの物に比べて10倍はある。

それだけ強力な敵だったと言う事が分かり、これは頑張ってくれたリリーに使わせることにした。

そして蘇生薬を鑑定すると詳細に中級蘇生薬と出た。

効果は死後1か月まで延長され、部位欠損も回復させると書いてある。

どうやら下級だとパーツが足りない状態の場合、傷は癒えても元には戻らないみたいだ。

俺の家族もユウナの家族も指の数などは揃っていたし、眼球はくり抜かれたのではなく圧し潰された状態だった。

そのおかげで無事に蘇生できたのだろうけど、あの時にアケミの綺麗な瞳が戻って来た時の嬉しさと感動は一生忘れないだろう。


そして、俺はそれらをバックに収めるとステータスを確認し、レベルが2つも上がっている事に気が付いた。


ハルヤ

レベル7→9

力 35→39

防御 24→28

魔力 7→9


リリー

レベル6→8

力 15→17

防御 17→19

魔力34→38


そして、互いに称号としてゴブリンキラーと言うのが付いている。

効果はゴブリンに攻撃する際に攻撃力1.5倍だそうだ。

これがあれば再びホブが出たとしても苦戦はしなくなるだろう。

そして1人と1匹はその後もダンジョンを進んで行き、ゴブリンキラーのおかげでミドルゴブリン位なら簡単に倒せるようになった。

そして、その後も順調に進み階段を発見する事に成功したので明日は下の階層に進めそうだな。


そして俺達は確認の為に階段を下へと降りていくとそこには驚くべき光景が広がっていた。


「あれは・・・村か?」


そこには直径が数百メートルはありそうな大きな空間があり、その中心にはエリアの4分の1ほどを埋める村が存在した。

目を凝らして慎重に確認するとホブの他にもミドルが大量に居るようで見える範囲でもホブが50以上、ミドルは数百はいそうだ。

もし今の混乱している地上にあんなのが出てきたら一溜りもない。

そして村の門に視線を向けるとマネキンの様な何かが飾られており、ここからだと確証はないけど恐らく人間だろう。

もしかすると行方不明の警官かもしれない。

するとで村の中から甲高い悲鳴が聞こえた。

見ると村の中央に奴らが集まり円になって何かをしている。

そして見ていると1匹のホブの前に小さな影が押し出された。

俺は詳細を確認するためにリリーに強化魔法をお願いすると視力が強化されて何が起きているのかが分かった。


どうやらここまで連れて来られた女性が・・・いや、少女がいたみたいだ。

しかもそいつは俺の知っている奴で学校も同じ同級生でクラスも一緒になった事がある。

確か倉田クラタ アズサとか言う名前だった気がするが女子とは縁が無いのでよく覚えていない。

そしてその姿は一糸まとわぬ姿で手足には縛られた跡や顔には殴られた痕も見える。


そんな彼女にホブはゆっくりと近寄るとその体を掴み上げて顔の高さまで持ち上げた。

すると腰蓑の中からは人間では受け入れるのが不可能な物が姿を現す。

それを見てクラタは必死に暴れ回って叫び声をあげているので、きっとこれから何をされるのかを知っているのだろう。

少し離れている所を見ると死んでいる女性の死体が幾つもあり、まるで壊れたマネキンの様に捨てられている。

そして彼女たちは瞳を失った暗い眼窩で今も必死に暴れるクラタを見詰め続けていた。

するとクラタの体はゆっくると下へと降ろされ、それと同時に恐怖に首を左右へと振って目から涙を流している。

あんな物で貫かれては痛いではすまず、確実に体を破壊されてしまうだろう。

このままだと蘇生させても心の傷によってまともな人生は送れないかもしれない。

俺は一つの決断を下すとリリーへと確認の為に声を掛ける


「リリー、ここからあの女を狙えるか?」

「ク~ン?」


リリーは首を傾げているけど、これは「本当に良いのか?」という最期の確認だろう。

無理ならこいつはハッキリと首を横へ振る。

だから俺は明確に言葉で返事を返すだけだ。


「構わない。」


そして、リリーは頷くと小さく鳴いて目の前に石の矢を形作る。

すると次の瞬間には突風と同時にクラタへと飛んで行き見事に頚椎を貫いて命を絶った。

既に彼女は奴のモノが接触しており、あと少し遅ければ地獄の苦しみを味わっていただろう。


そして俺の方はと言えば同級生を殺す事にも何の躊躇いも感じない事に自然と苦笑が浮かんでくる。

しかし本当の問題はこれからだ。

俺達の攻撃によってお楽しみを中断させられた奴らは集団でこちらに向かって来ており、その数は300を越えている。

それにどのゴブリンも目を血走らせて一直線に俺達を睨みつけている事から居場所も特定されているようだ。

なので俺は即座にリリーを抱えると撤退を決意してその場から逃げ去って行った。

そして走り続けてダンジョンから飛び出した俺は周囲へと視線を走らせる。

するとそこには警備の警官が集まり、厳重な警戒が行われていた。


時刻はもうじき日が沈む様で辺りは暗くなり星が見え始めているいるが、外の庭には疲れた顔のツキミヤさんが待機しているのが見える。

俺はそちらに駆け出すとその疲れた顔に声を掛けた。


「状況はどうなってる。」

「戻って来たのか!蘇生薬はどうなった!?」

「今も数は揃ってない。それよりもこの辺にスナイパーは待機させてるか?」


俺はすぐに肝心な事を問いかけた。

早くしないと奴らがここから溢れ出てきてしまう。


「あ、ああ。警察が装備する拳銃は効果が無かったが大口径のライフルならと言う話が出て待機させている。周辺の住人も避難は完了してるぞ。それよりもなんでそんなに慌てているんだ?」

「ゴブリンの群れがここに迫っているからすぐに仲間を避難させろ。それとゴブリンの村には攫われた人が残っている。後で救出しに行くから人選をしておいてくれ。」

「ちょっと待って・・・。」

「待てるか!とにかくスナイパーに指示を出して準備をさせておけ。狙うのは大柄な相撲取りみたいな奴らだけでいい。それ以外は俺が全部始末する。」


そしてようやく俺の慌て様に意識が追いついて来たのかツキミヤさんも本格的に動き出して周囲へと声を掛け始めた。


「ヤバい状況になったみたいだ。すぐにここから離れる。」

「し、しかし、現場を放棄しては・・・。」

「死にたい奴は残れ。俺はこの場から撤退して指揮所を移す。」


そう言ってツキミヤさんは俺にインカムとマイクを投げて来たので耳に着けながら視線を返す。


「それは俺のだがお前が必要だというスナイパーたちに繋がっている。詳細が分からない俺よりもお前が指示を出せ。奴らは既にスコープでこの場を監視してるから協力してくれるはずだ。」

「分かった。一応引き継ぎは頼むぞ。それとこれを渡しておく。蘇生薬が100くらい回収したから保管しておいてくれ。」

「ああ、わかった。それじゃあ後で会おう。」

「そちらも早く逃げろよ。それがあれば撤退の面目も立つだろ。」

「・・・感謝する。生きて帰って来い。」


ツキミヤさんはそう言って急いで周りの人達とこの場から離れていく。

そして、その直後に家の中からゴブリンたちがあふれ出し俺の前に壁を作り始めた。

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