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62 とある特殊部隊のお話

年末。

それを聞いて何を思い浮かべるだろうか。

クリスマス、それとも大型連休、それとも冬休みやテレビの特番だろうか。

しかし、そんな事に浮かれた人々の陰では、ちょっとしたうっかりで大事な人や物を失ったり奪われたり・・・又はそう言った人をターゲットにした犯罪が発生している。

これはそう言った事に立ち向かう者達のお話である。



ある日この町に国家規模、又は世界規模の厄災と言えるダンジョンが生まれた。

その日は彼らにとっても大きな分岐点であり、守る者を殺され、自らも命を落とした日でもある。

しかし彼らは再び命を授かり、リーダーと認める者のおかげで力を手に入れた。

そして、そんな彼らは今日も町の平和の為に奮闘を続けている。



それはある日の深夜


「あ、お疲れ様です。すぐに開けますね。」


現在は夜も深まり周りにはその場を警備する警察しか残っていない。

しかし、いつもの事なのか彼は自らのIDカードを使ってゲートを開き、訪れた者達をダンジョンの中へと送り出している。


「それでは今日もよろしくお願いしますね。それと倒した数と階層の報告を後ほどお願いします。」

『コクリ。』


その者は言葉もなく頷くと仲間を連れてダンジョンへと突入して行った。

時刻は既に深夜の1時を過ぎているので新たな魔物が発生しているはずである。

彼らはそれを狙いダンジョン内を走り回って狩りを行っている。

魔物と最初に出会った時には戦う手段もなく傷すら与えられずに蹂躙されたが、今は戦う手段がありミドルゴブリンまでなら単独でも勝利できるまでになっている。

それも全ては彼らがリーダーと仰ぐ者のおかげであり彼女は類まれな魔法の力でホブもトロールすらも倒してしまう。

彼らにとってリーダーとはまさに自分が追い求める理想でもあった。

いつか自分もあそこまでの力を手に入れて家族を守りたい。

そう願わずにはいられなかった。


そして狩りを終えた彼らはダンジョンから出て声を上げた。

すると外の警官が気が付いて扉を開けてくれる。


「ご苦労様でした。それではこちらをお願いします。」


そこにはホワイトボードにマス目が書かれており、階層と討伐数が記されている。

彼らは互いに話し合って集計するとマグネットを張り付けて結果を伝えていく。


「ありがとうございました。ハジメさん達にも伝えておきますね。」

『コクリ。』


そして彼らは今日も寡黙に仕事を終えるとその場から立ち去って行った。

しかし、いつもの様に次の任務へと向かっている彼らの五感に妙な反応が捉えられる。


そして音とニオイの方向へと走り出すと、そこに揺らめくオレンジの光を発見した。

どうやら火事・・・イヤ、こんな家の裏に火元なんて有りはしない。

恐らくは寝込みを襲った放火だろう。

このままでは火は家へと燃え移り大惨事へと発展してしまう。


するとリーダーが一声発すると目の前に大きな水の玉が生まれ、それは燃え上がる炎へと向かって行く。

そして直上で弾けると瞬く間に炎は鎮火してしまった。

壁は焦げているが大事になる前の発見だったため、周りで見ている仲間から安堵の息が洩れる。


しかし仕事はここで終わりではなく、これから犯人の追跡を始めるのだ。

そして彼らは生まれついての追跡のプロであり、如何なる者も逃げる事は出来ない。


しかしリーダーは集団から離れるとそのまま自分の家に駆けこみ受話器を外すと電話を掛けた。


『ピッ!ピッ!ピッ!』

『はい。こちら110番です。』

「・・・。」

『あの、どうされましたか?』


電話口からはオペレーターの女性が出す確認の声が何度も聞こえてくる。

しかし、それに対して返答は一切なく沈黙が続いている。

女性はそれに対して次第に不審に思い隣の同僚女性に声を掛けた。


「なんだか返事がないけど、これって大丈夫ですかね?」

「番号を見せて。」


そう言われて横に居た同僚は電話番号を確認する。

それを見て納得したように頷くと手元を操作して対応を交代した。


「すぐに人間を向かわせます。」

『ガチャ』


すると電話は無言で切られ通話が終了した。

それを見て最初に受けた女性は訳が分からず首を捻っている。


「あんな電話にまともな対応をして良かったんですか?」

「アナタは今日来たばかりで知らないだろうけど、あの町には優秀な子たちが居るのよ。」


すると同僚の言葉に周りに居る仲間からも笑みが零れている。

これは別に嘲笑しているのではなく説明している女性の言葉が面白いからだ。

しかし、何も知らない女性としては揶揄われている様で面白くない。


そこで女性は直接的な質問を投げかけた。


「いったい何者なんですか?」


そう言われて同僚の女性は口元に手を当て「コホン」と咳払いをしてから告げた。


「お巡りさんよ。」


すると、途端にオペレーター室から笑い声が上がり明るい雰囲気に包まれる。

そして何も知らない新人オペレーターは更に首を傾げるのだった。


その後、出動の連絡を受けた警官がパトカーに乗って予定の場所へと到着した。

そこには目的の相手が静かに座っており、到着と同時に腰を上げる。


「お待たせしました。それでは案内をお願いします。」


そして合流するとすぐに警官を引連れ、先程の火が燃えていた場所へと向かって行く。

警官は到着してすぐに道路から中を覗き、その様子を確認すると頷いて家のベルを鳴らした。

しかし時刻は既に深夜となっているので家主はなかなか出て来ない。

それでも警官は根気強くベルを鳴らしていると家の灯りが点灯して玄関から人が現れた。


「今何時だと思っているんだ!?」


叩き起こされた家主の男性は理由も知らないためあからさまに不機嫌な様子だ。

しかし、そこにいるのが警官であると気が付くと先程の態度を誤魔化す様に頭を掻きながら口調を変えた。


「どうかしましたか?もしかしてまたダンジョンで何か問題でも?」

「いえ、実はあなたの家に放火をされた可能性があります。令状はありませんが調べさせていただいても良いでしょうか?」

「え!マジですか!?ど、どうぞ入ってください!」


男性は急いで了承すると門を開けて警官を敷地内に入れた。

そして男性と一緒に裏に回りそこに積み重ねられた段ボールを確認する。

すると、その周囲は濡れてはいるが段ボールは半分以上が燃えており、家の壁も焦げて黒くなっていた。

もしあと少し遅れていれば、この家は火事によって死者さえ出ていたかもしれない。

それを見た家主の男性は目を大きく見開いて現場に駆け寄った。


「な!誰がこんな事しやがったんだ!?」

「この付近に種火となるものは置いていませんでしたか?」

「そんなの置いてあるわけねえだろ・・あ、ありません。」


男性は怒りからか八つ当たりの様に声を荒げる。

しかし相手が警官である事を思い出して感情を抑え言葉を言い直した。


「分かりました。すぐに応援を呼びますが良いですね。」

「お願いします。」


そう言って男は警官に返答すると家の中へと戻って行った。

それを確認して敷地から出るとパトカーへと向かい無線で応援を呼ぶ。

そして、ここまで来れば次は犯人逮捕である。


「それで犯人の居場所は既にお分かりですか?」

『コクリ。』

「それではそちらへの誘導もお願いします。次の被害が出る前に捕まえなければ。」


そして警官は再び案内されて近くの公園へと到着した。

どうやらまだ遠くへは逃げておらず、この辺で様子を窺っていたようだ。

または火が大きくなって火事となった時に野次馬として現場を見に行くつもりだったのかもしれない。


そして案内された先には堂々とタバコを吹かす男がベンチへと座っていた。

時々時計を確認しているのは誰かと待ち合わせをしているのか、それとも火を点けて時間が経っているのに騒ぎになっていないのを気にしているのか。

そして、痺れを切らしたように立ち上がると荒々しい足運びで移動を開始した。


「あの男がそうですか?」

『コクリ。』

「分かりました。証拠を撮影したいのでいつもの様にお願いします。」

『コクコク。』


そして警官は距離を取って尾行を行い、男を最初から尾行していた者達にここを預ける事となった。

すると男は住宅街をキョロキョロしながら歩き回り、何かを見つけたのか、進路を変えて他人の家の庭へと入り込んだ。


「へへ、今の時期は落ち葉に空箱。何でもあるぜ。そして、こうやってライターのオイルを染込ませてやれば~。あっと言う間に準備は完了っときたもんだ。」


どうやら先程の現場は確認せずに新たな犯罪現場を作る事にしたようだ。

男はライターの火を点けるとそれをオイルの染込んだ段ボールへと近づけていく。

そして火が付いた瞬間を狙っていたかのように背後から声が掛かった。


「放火の現行犯で逮捕する!」

「な、いつから居やがった!」

「今来たところだ!」


男は焦りながらもまだ大きくなっていない火を踏み消して証拠の隠滅を図る。


「へ、へへ。だ、旦那。俺はちょっと迷い込んだだけで火なんて点けてないぜ。」

「観念しろ。証拠は揃ってるんだぞ!」


そう言って警官は手に持つドライブレコーダーの様な小型カメラを突き出し映像を見せる。

するとそこには男が行っていた一部始終が音声付きで録画されていた。


「クソッ!捕まってたまるか!」


男は叫ぶと背中を見せて逃亡を始める。

しかし、いつの間に現れたのか男は既に多くの者に囲まれていた。


「邪魔だー!どきやがれーーー!」


男は傍にあった箒を手にしてその者達へと襲い掛かる。

しかし殴ろうが突こうがまったく倒れる気配がない。

そして彼らは男に向かって容赦なく自らの身に宿る武器を向けた。


「ギャーーー、た、助けてくれ、警官さーーん!」


すると男はあまりの痛みに逃げ出すと警官へと縋り付いて助けを求めた。

その時を待ってましたと言わんばかりに男は手錠を嵌められ逮捕が完了する。

その時には周囲から彼らの姿は消え去り、そこには警官と放火魔だけが残されていた。


「ご協力ありがとうございます。」


警官はそう言って誰も居なくなった場所へと敬礼しお礼の言葉を伝える。

その後、夜は平和に包まれて朝日が昇り、彼らはそれぞれの家に帰って行った。

ある者は大事な人のベッドに潜り込み、ある者は自分のベッドで眠りに着く。

そして、ある者はまだ見ぬ悪を求めて朝日の昇る町を駆けて行った。



「あ、またリリーが寝ながら足動かしてるよ。」

「本当だな。きっと何処かで駆け回ってる夢でも見てるんだろ。」


すると急に眼を開けたリリーはバッと飛び起きて周囲を見回し始めた。

しかし、そこが自分が居るべき場所である事に気付くと可愛らしく首を傾げている。


「アウ?」


どうやら寝ぼけていた様でリリーは再び寝転がると目を瞑って2度寝を始める。

それを見たリリーの家族は笑みを浮かべてその顔を見詰めるのであった。



そして、その日の夜。

近くの公園ではこの周辺に住む飼い犬たちが集まってミーティングを行っていた。


「リリーの姉さん。昨日の放火魔は捕まって良かったですね。」

「アナタが首に付けたカメラで撮影していたからよ。あれが決め手になったってテレビでやってたわ。」

「この町では、もう悪い奴の好きにはさせないよ。」

「そうね。ここに居る皆はあの夜に大事な人を護れなかった悔しさをバネにここまで頑張って来たものね。魔物でも悪人でも容赦はしないわ。」

「そうだぜ。今まで育ててもらって、守ってもらった恩を返さねーとな。」


そして周囲に集まる犬たちの士気は高く、それぞれに自らが持つ強い思いを口にする。

そんな中でリリーは軽く吠えて視線を集めると今日の要件を話し始めた。


「皆も知って通り、日本にある3つのダンジョンが落ち着いたわ。でも今度はそれが目的で色々な人がこの地に集まると私の僕が予想してるの。そいつらからこの町を護るためには今まで以上の力が要るわ。皆もそのつもりで励んでちょうだい。」

「「「ワン!」」」

「それじゃあ今日のレベル上げに向かうわよ。みんな気を抜かないようにね。」


リリーの掛け声で全ての犬たちは一斉に移動を開始しダンジョンへと向かって行く。

ハルヤはハジメたちが魔物を倒していると思っている様だが実は彼らこそがそれを担っていたのだ。

しかし、それを知るのは一部の人間のみで当然、飼い主は誰も知らない。

そして彼らは犬のお巡りさんとして、又は夜の町を守護する者としての地位を獲得していた。

更に彼らを知る者はこう呼んでいる。


リリー特殊部隊と。

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