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6 ダンジョン突入1日目

俺は入ってすぐに空気に異常がないかの確認を行い、気温と湿度にも気を配った。

持って来ている食料には保存に向いていない物も有り、今回は栄養を気にしないで腹が膨れる事を最優先させた。

持って来たリュックに入っているのは食料や水。

蘇生薬を保護するための新聞紙。

食料は食べたり飲んだりすれば減るだろうから5センチくらいの小瓶なら何とか入るだろう。

そして、歩いていると何故か来た方向の道から足音が迫って来た。

その音は獣の様で魔物なら初見の相手になる事が確定する。

俺はショートソードを手にして構えるとやって来た生き物に目を見開いた。


「リリー!」


そこに現れたのは我が家の愛犬リリーだ。

その口には手紙が咥えられており、リリーはそれを俺に向けて来る。

それを受け取って手紙を見るとそこにはこんな事が書かれていた。


『生きて帰って来い。』

『いつ帰って来ても良い様にあなたの大好きな料理を作って待ってるわね。』

『次は私も連れて行ってね。お兄ちゃんとなら何処に逃げてもそこが私の生きる場所なんだから。』


なんだか父さんは俺が何処に行ったのか知っていそうなのでツキミヤさんと男同士のお話でもしたのだろう。

母さんはそんなに無理しなくてもアケミの好物を作ってやれば良いのだが、これは頑張る理由には十分と言える。

それにアケミも俺と同じ物が好きだから一緒なので残してくれているか心配な所だ。

そしてアケミの言葉には反応に困ってしまう。

俺みたいに思いが偏って変な病気をこじらせないと良いけど最近は故意的なスキンシップが激しいので注意しなければならない。

何て言ったって俺とアケミは兄妹なんだからな。


そして最後にこんな事が書いてあった。


『獣は野営には必要不可欠だ。連れていて損は無い。』


そう言えば一人だと寝る事が出来ないかもしれないと今になって気が付いた。

野性味は完全に失った室内犬のリリーでもその聴覚は鋭く、奥の部屋に居ても玄関に誰か立てば気付くほどだ。

恐らく寝る時には良い番犬として活躍してくれるだろう。

そして、その背中には肩掛けの様に左右へとぶら下るリュックが付いている。

そこには水と食料が入っているようで最低限の準備をして来た様なので安心する。

それでも水はギリギリかもしれないし気になる事もあるけど、俺はリリーと並んでダンジョンを進み始めた。


少し暗いけど先が見えない訳でもなく、壁が光っているので遠くまで見通す事が出来る。

それに分かれ道もあるようで一本道ではない事が窺える。

しかし足元にあった血の跡は既に消えていて何処へ向かえば良いのかも分からなくなっていた。

ただし母さんのおかげでマッピングの方は問題がない。

昔のゲームは自分でノートに書きながら進むのが普通だったので書きなれているからだ。

そして20分ほど進むと前方に気配を感じ取ったのだが、恐らくは雑魚ゴブリンだろう。

俺は剣を腰から抜くと敵が此方に向かって来るのを待ち構えた。


「ゲゲ!」


そして俺を見つけた様でこちらに向かって駆け出してきた。

数は5匹と多く手には棍棒が握られている。

あれで頭を殴られれば一撃で死なないとしても行動が鈍ってしまうだろう。

原始的な物でも武器を持たれると言う事はそれだけでかなりの脅威になる。

俺は接近を待ちながら、もう片方の手には秘密兵器を握りしめる。


そして奴等が間合いに入る数歩手前でスイッチに乗せていた指に力を入れた。

それにより業務用のライトから激しい光が飛び出しゴブリンたちの目を眩ませる。

すると先頭のゴブリンが驚いて足を止めたため後ろから押されて俺の前に倒れ込んできた。

やっぱりこいつらは暗い中でも良く見える代わりに光には弱いみたいだ。

目も大きくて猫のようなのでそうだろうとは思っていたけど完全に予想が的中した。

どうやら最初のゴブリンがスマホのライトで動きを止まったのは偶然ではなく、強い光から目を護っていたからだろう。

俺は混乱するゴブリンを素早く倒すと、そこに落ちている小瓶と魔石を回収した。


「これで3つか。」


そして鑑定すると下級ポーションが1つと蘇生薬が2つとなっている。

やっぱり回復薬は存在していたみたいだけど、その代わりに蘇生薬が2個になってしまった。

それでもポーションは俺にとっては大事な回復手段となるので怪我をした時にでも効き目を確認しておこうと思う。

自分の体で実験すれば人体実験とか言う奴もいないだろうし、この回復薬は液体みたいだ。

どうしても水分が欲しい時にでも飲んで喉を潤すことも出来るだろう。

出来ればジュースの原液の様に濃い味付けでない事を期待する。


そして進んでいくと再びゴブリンと遭遇した。

しかも今回は以前このダンジョンの外で倒した個体の様に俺と同じくらいの体格がある。

剣は持っていないけど棍棒は持っているみたいで俺が歩み寄るとこちらに気が付いて駆け寄って来た。

今回はマキビシも無いのでその動きはかなり早く警戒が必要になる。

それでも十分に動きは見えるので俺は一撃目を躱すと剣で素早く突きを放った。

するとその一撃は肩口に直撃したことでゴブリンは痛みで棍棒を手放して地面に落としてくれる。

俺は無手になったゴブリンを容赦なく斬り付けて倒すとそこには蘇生薬と魔石が残された。


「コイツ等はドロップ率が良いのかもしれないな。それとそろそろ強化を行うか。」


俺はステータスを確認するとレベルが4に上昇していた

力 23→25

防御 14→16

魔力 3→4


そしてやっぱりというか魔力の上りが悪く俺は完全に前衛タイプみたいだ。

すると俺の動きを見ていたリリーにもステータスが現れたので何気にリリーは頭が良いのかもしれない。

そしてステータスを覗き込むとそこには思いもよらない数値が記載されていた。


リリー

レベル2

力 11

防御 10

魔力19 


「・・・あれ、もしかして疲れてるのかな。魔法使いって頭の良い奴が選ばれるんじゃないの。それに当てはめれば俺はリリーよりも頭が悪いって事になるんじゃね。」


俺は一つの結論に辿り着くとリリーの顔に視線を向けた。

するとその顔は無邪気な笑顔を浮かべており尻尾を左右に振っている。

今の俺にはその動きが嘲笑っている様に見えるからとても不思議だが、これからの事を考えれば中型犬として体の小さなリリーが前線に立つよりも魔法で後方支援をしてもらった方が良い。

俺は自分を無理やり納得させると魔石の使用方法を考えた。

今は手元にある魔石は普通のゴブリンの物が6、少し大きめのゴブリンの魔石が2だ。


俺はレベルアップと以前までの強化で十分に足りているので、それならまだレベルの低いリリーを強化しておくべきだろう。

俺はそう考えて魔石をリリーのステータスに押し当てると魔石ポイントが最初の6個で2ポイント上がり、大きめの魔石で3ポイント上がった。

それを見て俺は再び驚きに頭が真っ白になる。


「もしかして強化に関してはリリーの方が優秀なんじゃあ・・・。」


俺が小さな魔石で2ポイントのポイントを得る為に10個も消費した。

それに比べてリリーは6つでそれを成し遂げている。

もしかすると俺では最後の少し大きめな魔石を使っても2ポイント得られなかったかもしれない。

このままではここでの主役がリリーに変わる日も遠くなさそうだ。


ただレベルアップがリリーをどの様に成長させているのかが分からない。

今後は検証を兼ねてこまめに確認しておく必要がある。

しかし、このポイントをどう使うかだがリリーは自らステータスに顔を近づけると鼻を使ってボタン連打を行った。

その動きはまるでキツツキの様であまりの出来事に俺の思考は止まてしまう。

しかし、気を取り直してポイントを見ると全て魔力に加算し19だった数値が23まで上昇している。

すると更にリリーは操作を続け、スキルの魔法を選択。

そしてそこからさらに攻撃魔法と回復魔法などの表示が現れる。

リリーはその意味が分かっているのか幾つもある選択肢の中から攻撃魔法と回復魔法を選び取った。


(何なんだ?リリーってこんなに頭良かったの?いやいや、これはちょっと異常だろ。)


でも、今に関して言えば心強い事に変わりはないので再びそうやって自分を納得させると立ち上がった。


「それじゃあ後ろは任せたからな。」

「ワン!」


何とも頼もしい鳴き声だが、この声を聞いて周囲からゴブリンたちが集まって来るのを感じる。

ここまで1時間くらい歩いているけど手に入れた蘇生薬は3つ。

ペースを上げる為にもあちらから来てくれるなら大歓迎だ。

俺はスキルの反応を信じて一番気配の小さな道を選ぶとその先へと進んでいった。

するとそこには2匹のゴブリンが此方に向かって来るのが見え、武器は棍棒だけで数も少ない。

そのため勢いのままに1匹のゴブリンと間合いを詰めるとその首を剣で斬り裂いた。

そして残りの1匹はリリーの鳴き声の少し後に手に傷を負って棍棒を落としてしまう。

恐らくは何かの攻撃魔法を使ったのだろうけど、相手の武器と動きを封じる最高のタイミングだ。

使用制限がどの程度か分からないので一度限界まで試してみるしかないが、ステータスにはHPやMPは書かれていないので今は判断のしようがない。


しかし分からない事が多い未知の現象の真只中に居るので、犬と検証するよりも人と検証する必要がある。

他の誰かが魔法を使えることを期待するしかないだろうけど、ここはアケミに期待するしかない。

それにここは敵の本拠地と言える場所なので、こんな所でリリーを限界まで戦わせるわけにもいかない。

しっかりと様子を確認しながら無理のない範囲で魔法を使ってもらうつもりだ。

今のリリーならそれくらいは自力で出来そうなのでこちらでも様子に気を配りつつ任せる事にする。


そして俺達はこの場から移動し、更に3つの蘇生薬を手に入れる事が出来た。

まだまだ足りないけど昨夜に比べれば良いペースだと思う。

俺達はその後も次々と前に進みゴブリンを倒して蘇生薬やポーションを手に入れていく。

すると道の先に下へ降りる階段が現れたのでその前まで行って足を止めた。


「そう言えばゴブリンの姿をほとんど見なくなったな。」


このダンジョンでどのように魔物が生まれるのかは分からない。

しかし急に現れたダンジョンから魔物が姿を現しているので繁殖という可能性は低そうだ。

あるとすれば自然発生的なものだろうと思うけど、この階層であまり見かけなくなったのは出現速度を俺達の討伐速度が上回ったからだろう。

なら、無駄な時間を使わずに次の階層へと突入する事にした。


「行くぞリリー。」

「ワウ!」


そして階段を下りて少し進むと、そこに居たのはナイフを手にしたゴブリンだった。

しかも体格が俺と同じくらいの奴なので今度は剣を構えて距離を詰めると先制攻撃の1撃を放った。

それだけでゴブリンは攻撃を防ぐこともできずに体を斬り裂かれて消えていったのでコイツも既に強敵とは言えなくなっている。

それにここに来るまでに俺とリリーは魔石による更なる強化を行っているだけではなく、リリーはレベルも上がり今では4まで上昇していた。


リリー

レベル2→4

1力 11→13

1防御 10→15

2魔力19→26



そして、俺もレベルが1上がり


レベル5

力 25→27

防御 16→20

魔力 4→5


そしてリリーの場合は強化が優秀な代わりに魔力以外の数値が1しか上がらない事が分かり、俺もなんとか面目を保てたと胸を撫で下ろしている。

そして攻撃力が十分となったので魔石ポイントは互いに防御へと加算する事にした。

これで、どの数値も初期値の2倍以上となったが魔力は初期値が1だったたのでなんと5倍に増えている。

それでもリリーの初期値に遠く及ばないのだけど、そこは気にしたら負けなので触れないでおく。


そして俺のレベルが5になった時に再び自由にスキルが一つ選べるようになった。

俺は早速ステータスを開けると何か有用なスキルが無いかを確認する。

魔法関係は絶望的なのでこれは除外するとして、現在の状況で生産も不要だろう。

補助スキルだと色々あるので何か有益な物が無いかを探してみる。

するとその中で3つのスキルが目についた。


1つ目は身体強化だ。

更なる強化は必要なさそうだけど状況が急激に変化する可能性もある。


2つ目はマップのスキルだ。

これがあればマッピングの手間が無くなりスキルによりステータスボードに自動でマップが加算される。


3つ目が移動系のスキルで瞬動というスキルだ。

これは次第に進化して最初は初動が早くなる程度だけど、次第に速度が上がり出来る事も増えていく。


瞬動→縮地→空歩→飛翔といった感じだ。


ただし進化させるためには時間が掛かるため早めに習得しておきたい。

そして俺は悩んだ結果、瞬動のスキルを使用可能にした。

今の俺に足りないのは早さだと思ったからだ。

ちなみにステータスで力が強くても全力で走るとリリーの方が俺よりも早い。

なのでステータスには無いスピードを強化する事にしたのだ。

そのおかげで少し前までは同格だったゴブリンでも簡単に倒せるようになったという訳だ。


俺は更に蘇生薬を手に入れるためにダンジョンの奥へと進んでいく。

ここまでに手に入れた蘇生薬は25本。

そして時計を見ると既に夕方になろうとしているので、この調子だと5日で200本は不可能と言える。

しかし、ここからは再び多くの魔物が居るので討伐速度も上がるはずだ。

俺は一度休憩を取るために階段を上がって1階へと移動していった。

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