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54 久しぶりのダンジョン ②

次の階層に到着してすぐに魔物を見つける事が出来たので先程と同じ流れで戦闘が開始された。

どうやらここの魔物は虎男のようで手には鋭い爪を持ちサーベルを装備している。

そして、鑑定して見ると攻撃力150と出ており今までの装備品では一番高い。


ちなみに俺の持つ剣が100でショートソードが70、ナイフが30だ。

父さんの剣と母さんの槍は0なのに攻撃が通用しているのでこれはアクセサリーと同じ追加の効果だと考えられる。

今でも武器に関しては困っているとは言えないけどオーストラリアで戦った鰐男の例もある。

強化できる時にしておく方が理に適っていて今はリリーがアイテムボックスを持っている。

予備として持っておいても良いし、もしかすると打ち直せばいい武器が出来上がる可能性もある。


今までは思いつかなかった事でも一つの事実から多くの可能性が生まれ、試さないといけない事が次々と出てきている。

ここまで来ると俺達だけではどうにもならないので早めに政府が協力してくれるようになって良かった。


俺は接近と同時に振り下ろされた剣を受け止め、反対の手による爪の攻撃を相手が剣を持つ方へと体をズラして躱す。

それと同時に剣を流して逸らすと虎男は自分の手に剣を振り下ろして自分で腕を切り落としてしまった。


「コイツは馬鹿なのか?」


剣を持っているけど唯の棍棒の様な使い方をしてるのでまさに豚に真珠、猫に小判だ。

反応速度や動きは早いけど、この魔物は武器を持たない方が強いのではないだろうか。

またはサーベルよりもコボルト同様にナイフの方が良さそうだ。

もしかすると魔物の持つ武器は本人が望んで手にした物では無いのかもしれない。

俺は腕を失って唸る虎男の首を飛ばして止めを刺しドロップアイテムを拾った。


「この武器は誰か使う?今使っている物よりかは強いと思うんだけど。」

「ハルヤ君は使わないのかい?」

「俺はこれで十分なので。ただこれは片刃なんだよね。」


サーベルは刀と同様に反りがある見た目の武器だ。

だからユウナの両親であるリクさんとナギさんは両刃の剣を使っているので使い心地はかなり変わる。

刀を使っている俺の父さんでも使い心地はかなり変わる事になるだろう。


「それなら今はハルヤが使っておけ。俺達はまだしばらくはこれでどうにかなりそうだからな。」

「それなら手に入れた武器はアンドウさんに頼んで試しに打ち直してもらおうか。もしかするとドロップで作れば能力をそのままにして形を変えられるかもしれないよ。」

「そうね。出来れば私も剣よりはレイピアが欲しいわ。」


俺達が戦い始めて1月と経過していないので武器1つでも問題が山積みだ。

それに剣などの武器があるなら杖があってもおかしくはない。

でも今まで敵の中では魔法を使って来たのは特殊個体のゲイザーだけだ。

アイツは杖を使う手が無かったのでしょうがないけど、持っている敵が居れば無傷で手に入れたい。


ただ、最初の頃に比べればかなりマシになってはいる。

あの時は木刀と物干し竿、頭にはバイクのヘルメットに体は雑誌で守っていた。

それに比べれば今の悩みは贅沢な事かもしれない。

でも、命に関わる事なので手を抜く訳にはいかず、特にアケミとユウナの為にもこれは絶対だ。


「これからは装備を担当する人も居るからどんどん頼っていこうか。」

「それが良さそうね。これは早めに連絡して本格的に話し合いをした方が良いかもしれないわ。」


そして何度か戦闘を行ってもこの階層では俺達の脅威になりえない。

みんな第三ダンジョンでの戦いでかなり地力を上げているみたいで母さんの槍捌きも上達しているので安心して見ていられる。

それに俺が居ればポーションは潤沢に手に入るので負担も少ない。

そして再び俺達は分かれてこの階層を制圧し下の階層へと向かって降り始める。


すると、階段の途中に今まで見た事のない部屋を発見した。


「ここは何だ?」

「魔物は居ないみたいね。」


俺が入って次に母さんが入ってくる。

そして足元を見ると丸いサークルが黒い線で書かれていた。

広さは直径で5メートルと言ったところで、それに合わせる様に部屋も円形をしている。


「ちょっと部屋を鑑定で調べてみる。」


壁、天井を調べて特に目立った内容はない。

出てくる内容もダンジョンの壁、ダンジョンの天井だ。

そして足元のサークルを見るとその内容に変化があった。

通常の場所ならダンジョンの床、又は通路と出る所が転移陣となっている。

ただし、何処に転移するかは書かれておらず、罠かもしれないしショートカット用の陣である可能性もある。

普通なら使わないのが安全策だが、ここまでの移動時間を考えると気分的には使ってみたい。


すると、悩んでいる俺達の耳に何処からともなく声が聞こえて来た。


『心配いりません』


「あれ、今誰かの声が聞こえたよ。」

「私もです。」

「皆聞こえたみたいだな。」


どうやら他の皆はこの声を聞くのが初めてのようだ。

俺は何度か聞いた事があるけど、この声が伝えて来る事は重要な事が多い。

でもこの世界には転移装置の実験で蠅男が生まれてしまったと言うホラー映画がある。

本の中の話ならともかく実際に自分達が使うとなると不安になってくる。


「それじゃあ、折角だから俺が試してみるよ。」

「大丈夫か?罠の可能性もあるぞ。」

「そうなんだけど、一応あの声の主が皆を生き返らせる切っ掛けをくれたから、なるべく信じてあげたいんだよ。」

「ハルヤがそう言うなら任せるか。危険ならすぐに帰って来い。それと1分以内に戻らなかったら俺達も突入するからな。」

「お兄ちゃん、気を付けてね。」

「絶対に帰って来てください。」


父さんは俺を信じて肩を叩きアケミとユウナは心配そうに手を握ってくれる。


「すぐに帰って来るよ。」


そしてサークルの中に入って数秒すると地面が光り始めて一瞬で景色が変わった。

周囲を見回すとそこはコンクリートで囲まれ、上には青い空が見える。

そして目の前には来た時に見たダンジョンの入り口が暗い口を開けており、足元を見ると来る時には無かった大きなサークルが出来ていて、その時点で外へと戻って来たのだと理解した。

ただ、サークルはあるけど再びあそこに戻れるのだろうかという検証は必要になる。

このサークルも転移陣と出ているので問題はないだろうけど今のところ先程の様な光を放つ反応は見られない。

そのため俺は転移陣から一度外へ出るともう一度乗り直した。

すると先ほどと同じ現象が始まり、目の前の景色が一瞬で切り替わった。

そして今度は先程と違い薄暗く、視界には無骨な岩の壁と皆の姿がある。

どうやら外からここに戻って来る事も可能みたいだ。


「ただいま。これに関しては安全に外に通じてたよ。」


そして俺が戻って声を掛けると先程心配していた2人が飛び付いて来た。


「お帰りなさい。」

「なかなか帰って来ないから心配しました。」


1分も待たせていないのにこれだけ心配されると罪悪感と一緒に嬉しさを感じる。

でも今回に関しては俺にも不安があったので2人を優しく抱きしめてその体温を感じる事で気分を落ち着ける。

そして互いに気分を落ち着けるとみんなで集まって話し合いを始めた。


「これは確かに転移陣だけど今回は使う必要はないかな。」

「え、なんで?これを使ったら早く帰れるんでしょ。」


すると俺の言葉にアケミは首を傾げて問い返して来る。


「帰りはまた魔物を狩りながら戻った方が良いだろ。それに年末も近いからなるべくハジメさん達も休ませてあげないと。」


恐らく、俺達が居ない間は彼ら3人が休みなくダンジョンで戦ってくれたはずだ。

なので少しは体と精神を休める時間をあげたい。


「そうよね。働き過ぎは良くないわね。」

「まあ、俺達は彼らのおかげで時々休ませてもらってるからね。」


帰って来てからも2日連続で休んでいる。

それを思えば帰る時に魔物を狩り尽くすくらいは苦にはならない。

そして話し合いは終わり俺達は10階層へと向かって行った。

次は節目の数として警戒が必要になる。

俺達は慎重に進み出口の手前で足を止めた。


「ちょっと確認してみる。」


そう言ったのも警戒しての事だけど通路の先がいつもよりも明るいからだ。

あれは確実に何かがある事を連想させる。

もしかすると久しぶりにフィールドの階層かもしれない。

そしてスキルの望遠を使って確認すると俺の予想は当たり、そこには大きな湖とそれを囲む様な赤い大地が広がっていた。

ただ魔物の姿はなく動く物は湖面に広がる波紋くらいだ。

その様子を口に出しながら説明するとナギさんが何かに気付いた様で声を上げた。


「そう言えば鰐とか亀とかの爬虫類は長時間潜れるらしいけど、時々呼吸の為に水面に鼻先を出したり、泡を立てたりするらしいわよ。」

「それなら明らかにあの湖には何かが居るってことですね。」

「水の中は覗けないの?」

「ここからだとちょっと遠いですね。」


ここから湖面までは200メートルはあるので今の俺だとそこまでは無理そうだ。

感覚からすると50メートルまで近付けば湖の中も覗けるだろう。


「リリー何か投げる物は無いか?」

「ワン。」


問いかけるとリリーは手ごろな石を取り出して俺の許にやって来る。

俺はそれを受け取ると10階層に入って湖の岸辺に向かって投げつけた。

するとそこから波紋が広がり湖面にはそこに向かって緩やかな波が生まれる。

そして次第に水が盛り上がり湖の中から巨大な蜥蜴が姿を現した。

その体表は真っ黒で目はしきりに周囲をギョロギョロと見回している。

足は3対6本あり大きさは尻尾を含めると6メートルはありそうだ。

そして、問題の尻尾には左右に広がる鋭い鱗が並んでおり、きっとあれに殴られればそれと同時に深く斬り裂かれてしまうだろう。

そのため尻尾の攻撃には特に注意が要りそうだ。


そして蜥蜴を観察していると丁度いい具合に互いの視線が交差した。

大蜥蜴は運命の出会いでも感じたのか俺に向かって凄い勢いで向かって来る。

それはまるで素早い虫が全力で走っている様で、足の回転速度が尋常ではない。

しかし俺は大きな魔物との戦闘経験は何度もあるので、そのお誘いを有難く受け取る事にした。


「それじゃあちょっと様子見をしてくるよ。」


早いと言ってもその突進は鰐男に比べればかなり遅い。

だからと言って初見の魔物で油断する俺ではないのでゾーンへと入って時間の流れを緩やかにすると剣を抜いて駆け出した。

どうやら先日のダンジョンで体が鍛えられたのでレベルは上がっていないけど速度が増したみたいだ。

やっぱりステータスの数値だけでなく肉体の強さにも影響を受けるのは間違いない。


俺は接近と共に襲い掛かる牙を飛んで躱し、空歩を使って空気を足場にした。

そして目の前を通り過ぎる足に剣を振ってダメージを与えると襲い掛かってくる尻尾をジャンプして躱す。

その後さらに空中を足場にして一気に尻尾の付け根へと移動すると全力で剣を振り下ろして完全に切断した。

これで、コイツの移動速度と危険な尻尾攻撃を封じる事が出来たので後は皆の攻撃がコイツに通るかの確認だ。

特に魔法の効き目をしっかりと確認しないといけない。

どれか1つでも弱点となる属性があれば、以前のトロールの様に倒す事が容易になる。

念の為にもう片方の足も切り裂いて更に安全を確保しておいた。。


「どうやら、旅はお主を大きく成長させたみたいじゃな。」

「母さん。そんな事言ってないで試し切り。」

「は~い。」


母さんのゲーム好きにも困ったものだ。

まあ、冗談が言えるくらいに余裕があると言う事はここでの戦闘も問題なさそうだ。

そして、まずはリリーたちが魔法を放って効き目を確認していく。


「業火よ。」

「激流よ」

「ワン!ワン!」


そして、アケミが炎を、ユウナが水刃を、リリーが風刃と石槍を飛ばす。

その結果どうやら一番効果的なのは石槍である事が分かった。

劇的にとは言えないけど他の魔法に比べればダメージも大きいので、この階層では土属性の魔法で決定のようだ。


「それじゃあ他の皆も攻撃してみて。」


そして攻撃を加えると問題なく刃は外皮を突破してダメージを与えている。

俺も斬った感触としても硬いのはそこだけで、それもそんなに分厚い印象は受けなかった。

あれなら鰐男の方がまだ硬い感じがしたけどアクセサリーによる強化もあるのでこの辺りの階層ではまだまだ余裕そうだ。

これならと俺は水辺に近付くと水面を軽く触って波紋を広げながら敵を誘き寄せる。

なんだか小さい頃に旅館でやった鯉の餌やりみたいだ。


「それじゃあ適当に痛め付けるから止めはそちらでお願い。」

「任せておけ。」


そして俺という獲物に気が付いた大蜥蜴たちは水面に顔を出すと一斉にこちらへと向かって来る。

感じるだけでもその数は約40弱は居るけど湖が広いために位置はまばらでそれぞれに到着には時間差がある。

だから面倒なのはタイミングが重なり易い後半に入ってからだろう。


俺は先程と同じ様に足を斬り裂いて動きを鈍らせ尻尾を斬り飛ばしてから後ろへと思い切り蹴り飛ばす。

その際に大蜥蜴から骨が何本か折れる様な音が聞こえたけど気にする事ではないだろう。

足の力は腕の3倍とも言われているので俺が思っていたよりも威力が高かっただけだ。

そして半数が片付いた頃になると上陸する大蜥蜴が密集してきた。

2匹、3匹と連なり、我先にと犇めき合って向かって来る。

こうなると後ろに回すのも一苦労なので複数の場合は単体になるまで容赦なく葬り、適当なタイミングで後ろへと回す。

そして最後の2匹は1匹を俺が貰い、残り1匹はそのまま後ろへと回した。


「活きの良いのが来たぞ。」

「ワンワン!」

「これでもくらえ。石槍」

「その足貰った。」

「それじゃあこちらは私が行くわ。」

「容赦しません。石槍」

「止めは私の一突きで決めてやるわ。」


流石に少し過保護だったか、6人と1匹の連携により大蜥蜴は瞬く間にボロボロになり、母さんの放った最後の一突きで消えて行った。


「「「完勝!」」」


そう言って皆は喜びあって手を叩きアケミとユウナは俺の前に駆けてくると同じように手を差し出してきた。

どうやら俺にも同じようにして欲しいみたいなので苦笑を浮かべてそれに習うと掌を打ち付けて勝利を祝い合う。

しかし、それが終わると俺は再び視線を湖へと向けた。


「さて、そろそろ最後の奴が出てきそうだな。」

「え、まだ居たの!?」


そう言ってアケミとユウナも俺の視線を追って湖へと顔を向ける。


「ああ、一番強い奴が控えてる。どうやらこのダンジョンはセオリーを弁えているみたいだ。」


そして、俺が湖に視線を向けていると中央に水柱が立ち上がり、そこからは巨大な鰐が姿を現した。

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