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51 報告

紹介が終わり食事を始めた俺達は和やかに会話を楽しんでいた。


「もしかしてハルヤの所は家族みんなが覚醒者なの?」

「ああ、言い忘れてたけどそうだな。父さんと飼い犬のリリーもだぞ。ちなみにユウナの所もみんな覚醒者だ。」


今朝ごろから俺達の事を覚醒者と総称で呼ぶようになったばかりなのにみんな意外と知っているようだ。

きっとネットやニュースでバンバン俺達の事をやってるから目にする機会があったのだろう。

それに変な名前で呼ばれるようになる前に覚醒者と定着させたいのかもしれない。

味方によっては異常者、精神破綻者、化物と言われてもおかしくないので世間からそんな風に呼ばれている者に仕事は頼み難い。

特に助けられたことのない、または関りが薄い連中ほど面白半分でそういう事を言い出しそうだ


「ハルヤの説明で驚かないからおかしいと思ったわ。でもこうして関わってみないと分からないわねえ。そう言えばあなたは何処に進学するの?」


すると話の内容が急に変わり進学の話となった。

かなりの変化球だけど娘であるアズサも受験生なので俺の事も気にしているのだろう。

でも、俺は既に今後の事は自分で決定している。


「俺は進学しない事にした。頭も良くないしダンジョンもあるからそれどころじゃないんだ。それにこの中で時間が取れるのは俺だけだから魔物も狩りに行かないとな。」

「そうなんだね・・・。」


なんだかアズサは少しがっかりしてるけどコイツは頭が良さそうだから進学組だろう。

ただ俺の通う高校は大学には行かずに就職する奴が毎年何人か居るそうだ。

それで先生も進路相談の時にボヤいてけど今年は俺がその内の一人となっている。


「俺の方はともかく、アズサは何処に進学するんだ。今まで接点が無かったから何も知らないけど。」

「私は九十九ツクモ大学に入学が決まったよ。」

「あ、私はそこの付属高校に行く事が決まっています。」

「私もです。」


九十九高校と九十九大学は同じ敷地で運営されている。

アケミとユウナは来年からそこへ進学する事が決まっており形としてはアズサは先輩になるのだろう。

でも同じ敷地内にあっても大学には試験に合格しないと通う事は出来ないので完全に先輩という訳ではないのかもしれない。


それと以前までなら高校の受験は新年からだったけど、今年から変わり12月から始まっている所もある。

近年、高校生でも地元から離れる者が増え、遠くの高校に入学が決まるとその準備のために時間が必要だからだ。

おそらく九十九の学校は遠くの地域からも人が集まって来るので今年も県外から多くの新入生がやってくるだろう。


ただダンジョンが悪い影響を与えないかが心配になる。

一般入試に関しては1月から始まるので入学を取り消す者が居るかもしれない。

逆に血気盛んな者がこの周辺に集まる可能性もあるので治安が悪化する可能性もある。

何処にダンジョンがあるかは少し調べればわかる事なので警察の仕事が増えそうだ。


「まあ、1人は仲良くやってくれよ。アズサも何かあれば2人に相談しろ。」

「え!私が相談するの?」

「お前は一般人だからな。これから変なのが集まってくるかもしれないだろ。なるべく登下校は2人に付き添ってもらえ。言っておくけどアケミとユウナはそこらの男より強いからな。」


それに年末にはダンジョンに籠るのでもっと強くなる。

更に強化方法もこれから検証するのであの細腕でも怪力を出せるようになるかもしれない。

そんな事を考えていると彼女たちのテーブルに置かれていたベルが元気に鳴り響いた。


『ピピピピピッ』

「しまった!話に夢中で手が遅くなってたわ。」

「私も御代わりするの忘れてた!」


すると、そんな彼女たちの死角から、こちらに親指を立てるスタッフの姿があった。

どうやら損害は最小限に止められたようで陰から別のスタッフがやって来て丁寧に声を掛ける。


「そろそろお時間の様ですね。」

「グヌヌヌ。」

「謀ったわねハルヤ君!」


そして2人は悔しそうに誘導に従い外へと向かって行った。

あれだけ食べてまだ食べれるのだからあの2人は別の意味で化物だ。

するとその横を通り過ぎてアンドウさんが姿を現した。


「話をしに来たぞ。」

「どうやってここを突き止めたんだ?」


こんなホテルのバイキングで食事をしている所を簡単に見つけられるはずがない。

確実に運や偶然ではないだろうから見張られていると判断するべきだろう。


「言ってなかったが君たちにはそれぞれに監視が付いている。それと先に言っておくが女性の監視は女性が担当しているから安心してくれ。」


それの何処に安心する要素が含まれているのかじっくりと聞かせてもらいたい。

それにきっと監視しているだけで、よっぽどの事が無い限りは動かない様に言われているはずだ。

そうでなければ昨日の強盗の時に俺が処理する前に誰かが現れている。

しかし考えてみれば覚醒者同士の戦いでは役に立たないし、それ以外だと俺達に傷を付ける事は出来ない。

目撃者として見ているだけでも十分に助かりそうだ。


「そちらの言い分は分かった。それじゃあ話をするけど出来れば人があまり居ない所の方が良い内容なんだ。」

「ならしばらくここを貸し切ろう。丁度最後のお客も出て行ったみたいだからな。」


そう言われて周りを見るとクラタ家の他にも何人か居たのにその姿が消えている。

どうやらここは彼らによって閉鎖されているらしく、既に外には黒いサングラスにスーツを着た見張りまで立っているようだ。

俺達が入店して30分は経過しているのに誰も入って来ていないのはそのせいだろう。

気配を探るとこの周辺にも数人は感じ取れるので営業妨害も良い所だ。

ただ、その近くに先程の二人の気配もあるので俺達が出て来るのを待っているみたいだ。


「それならアンドウさん。ちょっと2人追加して良いか?」

「そちらが問題なければ構わんぞ。もしかして先程のお嬢さんたちか?」

「片方はお嬢さんじゃないけどな。」


俺はそう言って席を立つと店の外へと向かって行った。

そこには見張りの人に見られながらも粘り強く立ち続けているアズサ達が居り、俺は手招きをしながら腹具合を問いかけた。


「まだ腹は空いてるか?」

「「当然!」」

(やっぱりまだ食えるのか。)


俺は2人を呼び寄せると親子そろって同じように首を傾げながら一緒に店内へと戻って行った。


「奢ってくれるの?」

「この人がな。店を貸し切りにしたから幾ら食っても今日は問題ないらしいぞ。」

「やったわねアズサ!風林火山の火の如く一気に責めるわよ!」

「そうだね!風の如く素早く食べ尽くそ!」


どうやらこの2人には静かな林と不動の山は存在しないらしく、料理を攻めて攻めて攻め尽くすつもりのようだ。

そして無邪気な笑顔で料理へと突撃して行くと、先程まで遠慮していたことが分かり程に料理を盛り上げ席へと戻って来た。

それでも今回はいくら食べてもここの売り上げがマイナスになる事は無いのでスタッフたちも明らかに表情が和んでいる。

昨日少しだけ話した肉コーナーのスタッフも景気よくケバブを切り分けており、素晴らしいナイフ捌きを披露してくれる。

ただし、その陰でしっかりとノートを書いているスタッフがいる事は秘密にしておいた方が良いだろう。

そんな彼等を見てアンドウさんは僅かに笑みを浮かべると勘違い気味な言葉を掛けて来る。


「思っていたよりも友達思いなんだな。」

「いや、アンドウさんにもあの母親の顔をしっかり覚えておいてもらおうと思たんだ。」


俺はそう言ってアイコさんを指差し、アンドウさんは鋭い視線を向ける。

実のところ、言っておかなければいけないベスト3がこれなので、あそこに居てくれて本当に助かった。


「アイツは周りを巻き込む程の途轍もないトラブルメーカーなんだ。だから絶対に覚醒者にはさせないでほしい。」

「お前が言うなら気を付けるがそれ程なのか?」


俺は仮説も含めて説明を行いそれを聞いたアンドウさんも真剣な顔で頷いた。

大半は俺の苦労話だが、始まりには必ずアイコさんが関わっている。


「かなり厄介な体質だな。稀に居るんだ。周りを巻き込んで問題を大きくする奴が。オカルトじみているがこうしてダンジョンや魔物が存在し、神の存在すら示唆されている今となっては危険かもしれないな。」

「言っとくけど苦労して連れ帰ったんだから処分はするなよ。」

「ギリギリまでは考慮しよう。」

「それで十分だ。」


知らなければ対策も無くいきなり処分されそうなので今のような状況では仕方がない。

これからも俺達と付き合っていけば必然的に見張りの人員から報告が上がるだろうから俺が言わなくてもいずれは分かる事だ。


「それと報告する事も色々増えてるんだ。」

「それは聞くのが楽しみだな。」


俺は覚醒者をどうやれば一般人でも殺せるかやアクセサリーの効果などから話し、魔物が人を殺せば強くなる可能性なども伝えた。

特に今回は色々な検証が出来た有意義な旅でもあったので報告する事は多い。

アンドウさんは俺の言った事をノートパソコンに纏めると満足そうに頷いた。


「まさか殺し方まで教えてもらえるとは思わなかったな。」

「死ぬ条件が分からないと抑止力にならないだろ。それにどんな時に助けが必要なのかもな。」


今のところ覚醒者が犯人である事件は起きていない。

でもいつかは起きるかもしれないし外国の覚醒者は俺達と違って感情豊かだ。

いつかはこの国にもやって来るかも知れないのでルールを作るうえでも必要になる。


「お前はそういった所がドライで助かるよ。それじゃあ何か分かったらまた教えてくれ。」

「そう言えば今回は何人確保できたんだ?」

「・・・。」

「頼むから勘弁してくれよ。」

「ははは、今回は5人も確保したんだから良いじゃないか。」

「笑ってる場合か!どうすんだよこの人手不足。」

「いや~面目ない。一応は副案はあるから後日にまとめて資料を持って行く。」


そう言ってアンドウさんは逃げる様に去っていったが都合が悪くなるといつもこれだ。

まあ、5人でも入れば1カ所くらいならどうにかなるだろう。

依頼が来ないって事は今の所はそいつらでどうにかなってるって事だからな。


(また何かあれば連絡があるだろ。)


そう思っていると何故か再びアンドウさんが此方に戻って来た。

どうやら鞄を漁っている様なので渡し忘れた物があるみたいだ。


「これを渡すのを忘れていた。」


そう言ってアンドウさんは8枚のカードをテーブルに並べた。


「これはダンジョンに入るためのIDカードだ。これを使えばゲートが開いてダンジョンに入る事が出来る。それと1日以上潜る時は入る際にパネルで入力してくれ。細かい事は現地の者にマニュアルを持たせてある。難しくないから必ず頼むぞ。」


どうやらかなり大事な物を渡し忘れていたみたいだな。

明日からダンジョンに入ろうと思っていたので危うく入れない所だった。

それにどうやらダンジョンの周りの壁もある程度出来て既にゲートまで付いているようだ。

一般人が入れば危ないし近くに居れば危険もあるので人命を尊重するなら必要な処置だろう。


「分かった。父さん達にも渡しておくよ。」


そして俺達はカードを仕舞うと食事を終えて立ち上がった。

横を見れば満足そうに腹を擦るアイコさんと今もケーキを食べているアズサが居る。

いったい何人前食べたのか知らないけど魔物と違う意味で化物だと感じる。

そして全員で外の出る時にクラタ家は何かを言い渡されていたけど何も見なかった事にした。

やっぱり何に関しても節度って大切だと思うが、あの2人がオメガに養われる日も遠くないのかもしれない。


そして俺達はショッピングモールへと戻って店を回り始めた。


「まずはこの店だな。」


入ったのは昨日最初に入店した店で銀や鉄を使った物が置かれている。

その他にも熊の爪や鳥の羽を使った物が置かれているので色々鑑定して確認していく。

昨日はアクセサリーの効果なんて気が付かなかったけど、もしかすると何かの効果があるかもしれない。


そして鑑定すると。


熊爪のネックレス

物理攻撃5パーセントUP


銀の腕輪

アンデットにダメージ5パーセントUP


鉄の腕輪

力が5パーセントUP


鳥の羽飾り

速度2パーセントUP


そして、同じような物でも強化されない物が複数混ざっていてどちらかと言えばそちらの方が明らかに多い。

もしかすると作った時期によって違いが出ているのかもしれない。

これは指輪を買った店の店長であるアカツキさんに聞くのが一番だろう。

そして効果のある物をデザインやサイズとは関係なしに籠へと入れ、店内を見て回っている皆に声を掛けた。


「ついでに少し買って帰る事にするよ。」

「そうね。悪いけど後で分別をお願いね。」

「そうするよ。道具とかも揃えないといけないね。」


強化の値は小さくても検証の必要はある。

まずは一度に何個まで装備できるかだだが幾らでも装備できるなら良いのだけどそんなに都合よくは行かないだろう。

俺は50個ほどのアクセサリーを持ってレジの男性に差し出した。


「これだけ下さい。」

「こんなにかい?こちらとしてはありがたいけど、これだけ買ってくれるなら料金もオマケしてあげるよ。」


そう言って男性はレジを操作して1割ほどオマケしてくれた。

20万円ほどかかったけどお金で強化が出来るのなら安いものだ。

それにダンジョンで魔物を倒していると安全マージンが少ない様な気がしていたのでこれで少しは余裕を持って戦う事が出来る。


「それじゃあまた買いに来てね。」

「はい、時々顔を出させてもらいます。」


そしてエレベーターに乗り込むと上の階へと登って行った。

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