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5 説明 ②

外に出て見なくても誰が来たのかは分かっている。

家の周りは赤いランプで取り囲まれていて隣家を赤く染めているからだ。


「あれから時間もそんなに経過してないのに思っていたよりも早かったな。」


個人情報保護法は何処に行ったのだろうかと疑問に思うが、あまりの犠牲者の多さと猟奇過ぎる現場に超法規的措置が適用されたのかもしれない。

俺は心が壊れてしまったのか怒りしか感じなかったけど普通の感性なら人の所業でないと思うだろう。

それこそが真実なのだけど警察にそれを言って納得してくれるかどうか。


出来れば証拠としてゴブリンが全滅していない事を願うばかりだが俺は時計を見て経過時間を確認する。

もうじき1時間だけど皆がどれくらいで起きるのかは分からない。

俺は今にも突入を開始しそうな警官たちをドアホンのカメラで確認すると急いで扉へと向かった。


「今開けまーす。」


そして扉を開けて外に出ると防護服に身を包んだ警官たちが俺を待ち構えていた。

俺は笑顔を浮かべて外に出ると後ろ手に扉を閉めて声を掛ける。


「それで、こんな早朝からいったい何の御用ですか?」

「君がこの家の長男で結城ユウキハルヤ君だね。」

「そうですが?」

「それにしても落ち着いてるね。普通はもっと慌てたり驚くものなんだけど。」


どうやら俺が普通に接しているのが気に食わないのか先頭の男の視線が鋭くなる。

制服ではないので恐らく刑事だと思うが、制服警官とは纏っている空気が違う。

以前にも早朝に殺人事件があった時もこんな感じの人が家を周っていて話をした事がある。

犬を飼っている人は早朝に散歩をするので目撃している可能性があるからだ。


「すみません。ちょっと事情があって心が上手く機能しないんです。それで、用件は何ですか?」

「君に色々と確認がしたくてね。未成年だから親御さんも一緒にお願いしたいのだけど。」

「すみません。それなら少し待ってもらえませんか。みんなもう少し目を覚まさないので。」


すると俺の言葉に刑事の眉がピクリと動いたので、どうやら俺の言葉を別の意味で解釈したみたいだ。


「今回に関しては超法規的措置が取られている。このまま家に押し入っても良いんだけどな。」


これは脅しと受け取っても良い気がするが、俺も犯人の1人と見なされているのかもしれない。

そうなればウチの家族の安否確認も兼ねているということだろう。


「なら、少し恥ずかしい姿になるのであなただけ入ってください。令状が無くても入るつもりなんでしょ」


すると刑事の顔に驚きの表情が生まれたので、すんなりと入れるとは思っていなかったのかもしれない。

ポケットに手を入れて中の物を確認しているので逆に警戒も強まってしまったようだ


「分かった。ならまずは俺が先行して安全の確認を行う。」

「構いませんよ。一部を除いて普通の民家ですから。」


そして、扉を開けると刑事は俺について家に入って来ると靴はちゃんと脱いでくれたので安心した。

流石に土足は床に傷が付いたりゴミが上がって困るので後で母さんが起こるかもしれない。


「お名前を聞いても良いですか?」

「そうだったな。俺は刑事の月宮ツキミヤ 源太ゲンタだ。」

「それならツキミヤさんとお呼びしましょうか。」

「好きにすると良い。それでご両親は何処にいるんだ?」

「こちらです。」


俺はそう言って居間へと案内していくと扉を開けて中へと入って行った。

しかし寝ていると説明したのでツキミヤさんの顔に疑問と警戒の色が濃くなるのが分かる。

そして視線の先には俺の家族が今も気を失っているのだけど、父さんと母さんの背中は血で赤く染まっているのでそれを見たツキミヤさんは3人に駆け寄って声を荒げる。


「これはどういう事だ!?」


確認の前にツキミヤさんは俺を睨んで声を荒げたせいでリリーが驚いて他所へと逃げてしまった。

慌てずに手順を踏んで行動すればここまで焦る必要は無いのだが、これが普通なのかと思いながら普段通りの声音で返答を返す。


「何って気を失っているだけですよ。」

「そうじゃなくこれはお前がやったのか!?」

「違います。それにちゃんと無傷で生きてるでしょ。」


ツキミヤさんは俺の言葉を確認するために全員の脈を確認する。

アケミに触れた時に小さな殺意が湧いて来たが、この程度のことで感情を爆発させているとこれからの人生に支障をきたしてしまうので全力で我慢する。


「た、確かに。それならこの血は何だ!?」

「そんなに怒鳴らないでください。家のリリーが怖がってしまいます。」

「ふざけているのか!」

「ふざけていませんよ。」


すると俺と視線をぶつけたツキミヤさんは息を呑んで次の言葉を呑み込んだ。

俺も僅かだけど命がけの戦闘をこなして少しはそれらしい貫禄が出ているのかもしれない。


「そろそろ敬語で話すのも面倒なので素で話しますね。・・・そっちはどれ程の情報を持っているんだ?」

「それを言う必要はない。」

「もう一度言うぞ。こちらにはそちらに無い情報がある。それが知りたいならそちらも俺に協力しろ。今の時点で分かってる事なんて大した事じゃないだろ。それに比べて俺の持っている情報の価値はかなりデカい。しっかりと考えて決断してくれ。」

「・・・分かった。」


そしてツキミヤさんは現在判明している事を話し始めた。

今回の犠牲者が100人を超えていること。

正体不明な生物が数匹捕獲されたこと。

そして被害にあった家には必ず二十歳未満の子供がいた事などだ。

しかし、その中で生き残っているのは2軒だけで、それがウチとユウナの所だけらしい。

しかも現場となった家は殺人だけが目的だったかのように家具などが無駄に荒らされた形跡がない。

ただし死体の状況だけは酷い有様だったらしく、同一犯か同一集団による犯行を疑っているようだ

幾つかの家では例外もあるそうだけどゴブリンたちは頭が悪そうだったのでバラツキがあるのだろう。

救出された3人は全員が二十歳以上であった事もついでに教えてくれたのだが、そこから考えればユウナは完全にあの3匹の独断だったのかもしれない。


「それで、お前の方の情報は何だ。これでつまらなかったら唯じゃ置かないぞ。」

「問題ない。ちなみに、その殺された100名以上の人間には生き返るチャンスがある。」

「何を馬鹿な事を。」

「信じられないのも分かるけどこっちに来てこれを見れば少しは信じる気になるだろ。」


俺はツキミヤさんを連れて両親の寝室へと案内すると、そこには血に染まった二つのベットが並んでいた。

臭いもだがこれだけの光景を見ればここで誰かが殺された事くらいは想像できるだろう。


「これは・・・他の事件現場に近い・・・。」

「両親は首を斬り落とされただけだけで妹も一緒に2階の部屋で殺されていた。それに俺も下手をしたら殺される所だったが、犯人を返り討ちにして生き残った。」

「それじゃあ、本当に生き返ったというのか。お前の家族は!」

「でも期限は1週間しかない。それまでに必要な蘇生薬を手に入れないと生き返らせることが不可能になる。だからもしそれを望むなら協力してもらいたい。」

「何をすれば良いんだ?」


やっと少しは信頼してくれたみたいなので少しは話をしやすくなった。


「俺は神を名乗る存在からメッセージを受け取って力を得た。でもそれは物語の勇者の様に大きなものじゃない。そして、その少し後にこの周囲は襲われているはずだが、死亡時刻を調べれば分かると思うけど昨夜の深夜2時~3時くらいになるはずだ。そしてこの近辺に魔物の巣となるダンジョンが何処かにあるはずなんだ。それを警察の力を使って探して欲しい。」

「神とか魔物とかお前は本気で言っているのか?」


普通の人ならこんな反応をしても仕方のない事だろうな。

コイツには家族を理不尽に奪われた経験が無いのなら俺の抱えている怒りは理解できない。

あの気持ちを経験していれば、または生き残った当事者が居ればこんな言葉は返って来ないはずだ。


「信じないならそうしてくれ。こうしている間にも時間が経過して可能性は下がって行く。先に言っとくけど俺は一晩で6本しか手に入れる事が出来なかった。そこから考えて100を越える蘇生薬を手に入れる困難さを早く理解してほしい。」


魔物は邪神の化身の様な存在ではないかと思っているのだが、現代兵器が通用しない可能性もある。

それに一晩と言っても昨日は2時間で6本の蘇生薬を入れているが次回もそう上手く行く保証は何処にもない。

そこは言わなくても良いとして一番問題なのは数が足りなかった時の事だ。

どの命を見捨てるのかを誰が決めたにしても必ず問題になるので1人救うのなら全員救う必要がある。

又は全員を見捨てるかだが出来ればその選択肢は選びたくはない。


「・・・上に聞いてみないと俺に判断は出来ないな。」

「その上の人間はこの惨状の空気を理解している奴か?」

「・・・。」


俺の問いに答えは返って来なかった。

上に行くやつが現場での叩き上げである可能性は低く、それは何処の組織でも変わらないと言う事だ。

飲食店に行くと大人たちがよくそんな愚痴をこぼしているので子供と違って大人は大変なのだろう。


「それならこの周辺の被害状況の地図を見せてくれ。」

「分かった。これがそれだ。」


警察には町内の詳しい地図があるからそれを見せてもらう事にした。

ちなみに配達を請け負う所もこういった地図が載っている大きな本を所有している。

そこには家の名前なども書いてあり、被害がどんな感じに広がっているのかが分かった。


「この家が怪しいな。」

「ここはお前が被害者を救出した場所だ。そう言えば周囲の探索だけでこの家に入った者からの連絡が来ていないな。」


もしかするとその人はダンジョンを発見してそのまま中に入り犠牲になったのかもしれない。


「聞くけど俺はそちらに同行する義務はあるのか?」

「お前は未成年だから義務は発生しない。あくまでも任意と言う形になる。」

「それなら、俺はこれから姿を眩ませた少年Aになる。蘇生薬が集まったら連絡する。」

「本当にやるつもりか?」

「選択肢は少ない。捕まったら出られるかも分からないから可能な限り5日以内に帰って来る。だからアンタらはそれまでに死体の修復を頼む。」


俺は現場を見ていないけどおそらくはバラバラになっていたはずだ。

素人の俺だと大変だしそこはプロにお願いするのが一番早い。


「分かった。遺体の引き渡しはそれまで引き延ばそう。」

「それじゃあ頼みます。俺の家族にはそちらから説明をしてください。絶対に俺の行き先を教えない様に。」

「善処する。」


俺達は互いに拳をぶつけるとツキミヤさんはそのまま外へと向かって行った。

そして救急車やパトカーを解散させると残った車に乗り込み、俺が外に出ると彼は助手席にある服を指差した。


「防弾ベストだ。無いよりましだから持って行け。」

「感謝します。体を護るものだけはどうしても代用品が無くて。」

「バレたら始末書を書かないといけないから必ず返しに来いよ。」


そう言ってツキミヤさんは軽く笑い俺はベストを受け取って車から離る。

そして車が去った後に俺は装備を整えると目的地へと向かって行った。

腰にはショートソードとナイフ。

頭にはヘルメットに体には防弾ベスト。

自衛隊の戦闘服ならもっと良い装備があるのだろうけど、誰か力を得た人で製造特化の人はいないのだろうか。


そして目的地に到着するとその場所はとても静かで鳥の鳴き声も無く周囲には誰も居ない。

現場なので見張りの人がいるかと思ったけどパトカーがあるのに人だけが見当たらなかった。

しかし突然中から悲鳴と発砲音が響き渡り静寂を破壊し助けを求める声が聞こえてくる。


「だ、誰かーーー。」

『パン、パン』


俺は急いでその場に向かうとそこには一人の警官が拳銃を家の中に向かって構えていた。

そして中からは昨夜見たお馴染みのゴブリンが姿を現し銃弾に何の痛痒も感じていない顔でゆっくりと歩み出ている。


「下がれ!」

「こ、子供!どうしてここに!?」

「いいから下がれ。」


しかし、なかなか下がらないので俺は警官の襟を掴んで外に放り投げると、そこにゴブリンのナイフが通過し警官はなんとかピンチを脱した。

俺は腰のナイフを抜くとそのゴブリンを斬り裂き始末を終わらせるが、どうやら力が上昇してゴブリンなら雑魚になったみたい。

あとはこの武器が何処まで耐えるかだけど奴らは時々武器を運んで来てくれる。

それを交換しながら進んで行けばしばらくは大丈夫なはずだ。

それに思いもよらない所でゴブリンに現代兵器が通用しない事も分かった。

これは大きな収穫なので彼には証人として生きて帰ってもらい報告をしてもらわなければあらない。


「すぐに応援を呼んでここを封鎖しろ。」

「し、しかし、仲間が一人・・・」

「誰か居れば回収して来てやる。だからすぐに刑事のツキミヤさんに連絡しろ。」

「わ、分かった。」

「後の事は任せたからな。絶対に俺を追って来るなよ」


しかし返事はあったけど、あの様子だと早い対応は期待できそうにない。

俺は軽く溜息を吐くとゴブリンが落とした魔石と小瓶を回収して家の中へと向かって行った。

するとそこには大きな岩でできた門が異様な存在感を主張している。

どうやらここが入り口で正解だったみたいだったらしく周りを見回すと門に向かって二筋の血の道が出来ている。

きっとツキミヤさんに聞いた調べに入った警官と、先程の警官の仲間だろう。

これで必要な蘇生薬が2本追加されたことになり、分かっているだけでも犠牲者は100人以上になる。

予備も考えれば200は必要になりそうだが、絶対に今回の事は達成しなければならない。

何故なら俺は家族以外の事はどうでも良いのだけど、家族が心無い誹謗中傷に晒される可能性がある。

そのため、どうやってもこのエリアの犠牲者を0にしなければならないので強い意志を持って中へと突入していった。

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