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41 最後は蛇?

森から離れて待っていると正面の木々をなぎ倒して3つの頭が姿を現し、森から出て来た事でその全貌が明らかになる。

その体に手足はないが全長が30メートルはあり胴体に頭が付いている。

簡単に蛇と表現するべきかもしれないけど普通とは大きさが明らかに違う。


まるでモンスター映画に出てくる人食い大蛇のようで人を一呑みに出来そうだ。

ただ映画ではなくリアルにモンスターなんだけど、昔その映画を見て夢にうなされたのが懐かしく感じる。

今だからちょっとビックリと言った感じだけど以前なら確実にトラウマになっていただろう。


それにもう一つ普通の蛇とは大きく違う事があり、コイツの体は途中から3つ又に分かれて頭が3つ付いている。

なのでどうやら3匹の魔物ではなく1匹の魔物だったみたいだ。


すると奴は俺に向かって鋭い牙の並ぶ口を開いて威嚇の声を上げ、3つの首をユラユラとくねらせながら観察するような視線を向け始めた。

どうやら俺が奴を観察している様にあちらも俺を観察しているようだ。

それに相手は魔物だが蛇は慎重で臆病な性格だと聞いたことがあり、両方が当てはまるかは分からないけど慎重であるのは確かだろう。


そして次第に距離が詰まり、間合いが10メートルを切ったあたりで奴が大きく動いた。

自らの尻尾を地面に深く突き刺すと、それを支点として途轍もない突進を繰り出してくる。

しかも頭が3つあるので3方向から同時に鋭い牙が迫り攻撃と防御をする余裕がない。

俺は咄嗟に横に大きく飛ぶとギリギリの所でその牙から逃れ、そのまま水の上を滑りながら距離を取った。

恐らくは水上移動のスキルを覚えていなければ今の一撃を躱せなかっただろう。

又は足元の泥に体を沈めている間に2撃目が来てあの口に捕まっていたかもしれない。


それにしても大きさはそのまま間合いの広さとなるのであの巨体は実に厄介だ。

しかも同時に3方向からの攻撃となると俺の手が足りていない。

2つを受け止めたとしても最後の頭が残るのでどうしても防ぎきれないのだ。

もしやこの土壇場で剣術の二刀流を更に進化させ、何処かの剣士の様に三刀流にでもなれと言うのか。

それにコイツはどう見てもソロで倒せる域を超えている気がする。

今の1撃を受けるだけでも最低2人は仲間が欲しい所だ。


そう考えている間にも奴は地面に刺した尻尾を引き抜き、再び俺へと迫って来た。

ただし今度は先程と違い素早く大胆に近寄ってくるので今の1撃だけで俺との間合いを掴んだようだ。

下手をしたら次は先程よりもキツイ1撃が来るかもしれない。

そうなれば無傷で躱すのは難しく、行き着く未来は明らかだ。

それでも、コイツを倒さない限り俺の明日はない。

俺は剣を構えると神経を研ぎ澄まし次の攻撃に備えた。


(ダメージを受けるのは仕方ないとしてカウンターで奴にダメージを与えるくらいはしないとな。)


そして先程と同じく奴は尻尾を地面に突き刺し、それを合図にして飛び掛かってきた。

どうやら小細工なしでも俺が倒せると判断したようだ。

俺はその動きを見詰め衝撃とタイミングを計る。

するとどういう訳かその光景が突然スローモーションの様に緩やかに流れ始めた。

俺の体は動くけどまるで水の中の様に重く自由に動かせない。

これが死を直前に控えた時に起きると言う不思議な現象なのだろうか。

それなら俺はこの攻撃を躱せないという事になるのだけど、どうも体を動かし続ければ余裕で躱せそうだ。

俺は重い体を全力で動かして攻撃を躱すと剣を振り上げて首の1つへと振り下ろした。


その一撃はゆっくりと大蛇の首を断ち切りそれと同時に俺は後ろに飛んで奴から離れる。

すると再び世界が普通に動き出すと目の前に居る大蛇は頭の一つを失って痛みに暴れ回っている。

これはどういう事かと一瞬考えたけど、こんな事が起こるのはスキルでしかありえないという結論に行き着いた。

俺は奴の動きを警戒しながらステータスを開きスキル欄を確認する。

するとそこには取得した覚えのないスキルが幾つも表示されていた。


・見切り

一度受けた攻撃を躱しやすくなる。


・思考加速

短い時間で多くの事が考えられるようになる。

集中力を高めるとゾーンと言われる世界に入り周囲の動きが遅くなる。


・視覚強化

視力、動体視力が強化される。


そう言えば職業の説明に『一部のスキルが覚えやすくなる』と書いてあった。

そこから考えると命の危機に俺自身が急激に成長したということかもしれない。


そこまで考えた俺はステータスを閉じて奴を観察する。

多頭の蛇と言えば小説だとヒュドラが有名だが、そいつがもっとも厄介なのは毒でもその巨体でもなく不死とも思える再生能力にある。

しかし、コイツにはどうやら再生能力は備わっていない様で斬られた首はそのままだ。

それに日本昔話の様に斬られた頭が単体で動き出すという事も無い。

これならあと二つの首を斬り落とせば倒せそうだ。


昔の俺だったらこんなに急な成長をすれば有頂天になって油断していただろう。

しかし今の俺にはそんな油断はない。

頭に浮かぶのはアケミとユウナの笑顔。

そして家族の顔が浮かび、生きて日本に帰ると言う明確で強い決意が炎の様に燃えている。


俺は剣を構えると今度はこちらから奴に向かって行った。

するとそれに気付いた奴は今度は口ではなくその長い胴体を鞭の様にしならせて尻尾による横薙ぎを放ってくる。

するとその攻撃がしっかりと目で捉えられ集中すれば鱗の数だって数えられそうだ。

きっとこれが視覚強化の効果なのだろう。

そして集中を高めていくと再びゾーンへと突入し周囲の動きが遅くなる。

俺は奴の尻尾攻撃をしゃがんで躱すとその胴体を斬り裂き3つに首が分かれている付け根へと向かう。


するとそれを見た奴は残りの頭を使って襲い掛かってきた。

しかも頭が無くなっても首自体は動かせるようで、まずは先行して巻き付くように襲い掛かってくる。

それを飛んで躱すと胴体を足場にして2つの頭の片方へと襲い掛かり、その首を一閃で切ろ飛ばすと体を捻って着地の体勢を取った。

すると空中であるにも関わらず、足に確かな手応えが伝わってくる。

どうやら豪雨で足の裏に水が溜まり、それが足場になって俺の体を受け止めてくれているようだ。

そして自分の体が停止したタイミングで空中を足場に最後の首へ向かって飛び込み剣を構えた。

奴もまさかこんなに早くに折り返して来るとは思っていないのか、こちらに顔すら向けていない。

こちらへ隙を晒している最後の頭に剣を振り切り完全に切断すると地面に着地して距離を取った。

しかしスキルを通して今までの常識ではありえない事態を俺へと伝えてくれる。


「どういう事だ?」


いまだに消えない気配を感じてすぐさま後ろに振り向くと警戒と共に剣を構え直す。

するとそこには首を失ったままでも体勢を崩さず、今も留まって存在を保ち続ける奴の体があった。

しかし次の瞬間には体の中央部分が膨張し巨大なコブを作ると全体が縮み始める。

そして頭の切り取られた首には縦に線が入り、血を撒き散らしながら幾本もの触手へと姿を変えた。

その頃には30メートルはあった体は3メートル程となり、コブの部分は横に裂けてそこから巨大な瞳が覗き、俺の姿を映し込んでいる。


それにしても大蛇を始末したと思ったら次にこんな魔物になるとは思わなかった。

しかも感じる気配は先程よりも大きくなっているので恐らくこいつが本命で間違いないだろう。

するといまだに変化の途中だったようで奴は最後に一際大きく震えると瞳の下の部分からカエルの様な足が生えた。


「まるで変態途中のオタマジャクシみたいな姿になったな。」


触手と巨大な瞳が無ければそのままオタマジャクシだ。

そしてこれから分かる様に、どうやら俺の戦っていたのは爬虫類ではなく両生類だったみたいだ。

今まで戦っていた奴らが鰐や蜥蜴だったので大きな勘違いをしていた。

しかし俺は奴の姿を見てフとある疑問が頭よ過る。


「奴はどうやって戦うんだ?」


足が生えたと言ってもそれはとても細く、体を支えているのがやっとと言った感じに見える。

尻尾も先程よりも短くなり体を支える補助にしかならなそうだ。

鋭い牙や爪も無く目立つ器官と言えばあの瞳くらいだろう。

まさか厨二病的なあれで『邪眼の力を舐めるなー!』とかそんな類の魔物なのだろうか。

でも、人間がやるとイタい奴で終わりだけど魔物がやると危険極まりない。

こんな得体の知れない奴は早く倒すに越した事はないだろう。


俺はそう結論着けると奴に突撃するため足を動かした。


「な!足が動かない!?」


感覚としては足の裏が地面から離れないと言うよりも下半身が固められた様にビクともしない。

まるで俺ではない誰かがその場に留まる様に指示を出しているようだ。

そこまで考えて俺は目の前の魔物に視線を向けた。


すると瞳の下の瞼が横に裂けるとそこに大きな口が生まれ、血の様に赤い舌を垂らしてニタ~とした笑みを浮かべる。

そして頭上と言って良いのか分からないけど、そこにある触手たちの先端にも裂け目ができて大量の口へと姿を変えた。


「$&%!%&#¥・・・」

「>%$!=¥&*・・・」

「=~¥”%$?+・・・」


そして、その口は俺にはよく分から言葉を発し始めたけど、それが何を意味するかは現実に起きている事を見ればすぐに理解できた。


「ここに来て魔法かよ。」


動けない今の俺では奴の口の1つ1つから魔法が生み出されるのを見詰め続けるしかない。

そして奴の口から発せられる言葉が止まるとそれらの魔法が俺に襲い掛かって来た。

それを防ぐために頭部と胸を剣と腕で覆い防御の体勢に入る。

これでダメージを受けても即死しなければポーションでの回復が可能だ。

するとその直後に体中へと魔法が命中し体を斬り裂き、穿ち、焼いていく。

しかし俺には一つのある予感があり体に魔法を受けながらその場を耐え続けた。


「ぐ・・・予想は的中したけど数があると削られるな。」


そして魔法を受けてみて俺の予想が外れていない事に気が付いた。

それは1つの魔法で受けているダメージが俺を即死させるだけの威力が無いと言う事だ。

すなわち如何に魔法のスキルを持っていようとコイツ自身は俺と同じ前衛タイプで魔力は高くないと言う事だ。

なにせ、最初に相対した時は俺を上回る力を持っていた。

その状況で魔法までが同じだけの実力があるとは思えない。

魔物の事情は分からないので両方とも俺を上回っている可能性はあったけど、今回の賭けに限っては俺の勝ちだ。


そして魔法が全て打ち尽くされると、そこには疲労困憊の魔物の姿がある。

どうやら魔物も魔法を使うと体力を消耗するらしく、これで2つ目の賭けにも勝利を収めた事になる。

あそこまで消耗すればそれこそ移動も困難になり魔法を使う事も難しくなるだろう。


俺は装備しているナイフを抜くとそれに先程手に入れた毒を垂らす。

そしてそれを振りかぶると魔物に向けて全力で投げ付けた。


「キゲギャーー。」


するとナイフは瞳の中心に突き刺さり、まるで噴水の様な勢いで血液を噴出させる。

しかし手元に毒はまだ残っておりナイフもまだまだ余裕がある。

俺は閉じた瞳を縫い付ける様に時間の遅くなった世界の中で連続投擲を行った。


「グゲギャーーー。」


するとようやく俺の下半身を固定していた戒めが外れ、俺は自由になった体で魔物へと駆け寄った。

そして相手が次の動きを見せる前にその体を両断し、更に足も尻尾も触手すらも容赦なく切り刻んでやる。


「今回は消えるまで手を抜かないからな。」


俺は徹底的に奴の体を解体し、魔石が落ちて気配が消えるまで剣を振り続けた。

これで第3形態なんてあったとしても変身すら許すつもりはない。

無敵時間が存在しようと変身終了直後から徹底的に切り刻んでやる。

するとそのおかげなのか奴はようやく魔石とドロップを残して姿を消していった。

しかも最後に大きな置き土産まで残してくれたみたいだ。


『特殊個体ゲイザーを単騎で撃破した為その能力の一部がアナタに移植されました。』

「今のは家族を皆殺しにされた時に聞いたのと一緒の声だな。」


特殊個体が何なのか分からないけど確かに変わった奴ではあった。

それと声によれば何やら能力が増えたみたいだ。

俺はステータスを開くとそこに書かれているスキルを見て「なるほど」と納得する。


不動の魔眼

相手を見続ける事で移動を封じる。

相手との力量差、耐性によって封じるまでの時間が変化する。


邪眼耐性

あらゆる邪眼に対して耐性を持つ。


中々に有用なスキルだ。

後で説明に書かれていないデメリットがあるか確認してみよう。


それと耐性が習得できたのは有難い。

ただしあくまで耐性であって無効ではない事から今後も油断は出来そうにない。


更にようやくここに来て縮地が空歩に進化した。

これで空中を足場にしながらでも素早い動きも可能になる。

もしかしたらあの時の空中移動はこれも関係があったのかもしれない。

又はあの時の成功が進化に繋がったの可能性もある。


しかし喜べるのはここまでで俺は称号に目を向けると、何やら変なものが1つ混じっているのに気が付いた。

そこには今回この大陸で得た称号が幾つか書かれているのだけど最後に手に入れた称号は目の錯覚かと思ったほどだ。


称号

・アントキラー

アントに対して攻撃力1.5倍

・コボルトキラー

コボルトに対して攻撃力1.5倍

・リザードマンキラー

リザードマンに対して攻撃力1.5倍


ここまでは問題ない。

あれだけ倒したのだから称号が得られてもおかしくないだろう。

しかし、その下には俺の理解を超えた名前が書かれていた。


・厨二戦士

魔眼を持つ戦士に送られる称号。

魔眼を発動すると片目の色が変わる様になる。


これは俺に対する神からの虐めか?

それにこの役に立たない称号は何だ!

こんな設定を盛り込んだ奴とは半日ほどじっくりと話す必要がありそうだ。

しかも、この称号が原因でどうやら発動させると片目だけ瞳の色が変わるらしい。

何とも迷惑な称号だけど後でしっかりと確認しておこう。


そして俺は人生最大の溜息を吐くとステータスを消して他の奴らの許へと戻って行った。

ここでの戦闘は10分程度だと思うけど実際は時間の感覚がゴチャゴチャしているのであまり自信がない。

俺の抜けた穴はかなり大きい筈なので早く戻った方が良いだろう。

それに今なら奴ら1000匹くらいなら俺一人でも倒す事が出来る。


そして、嵐の続く中で先程の場所に戻ると予想通り戦闘は継続されていた。

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