359 世界樹を植える
俺達は最初に島の呼称を考えて中央にある一番大きな物を中央島とした。
それ以外の周囲を回っている4つを単純に1~4番島として、ハルアキさんの所が4番で店をする所を2番島にしている。
そしてナンバー3でブレーンという邪神が管理している島は3番島で、ナンバー1のカルマという邪神が管理している島を1番島にした。
並び順でもあるので間違え難く、覚え易いのでこうなっている。
ちなみに今は2番島へと移動して周囲の確認から始めている所だ。
マジャリを倒した後には配下の邪神が何人も居て倒壊した城の瓦礫を押し退けて這い出していた。
ここは今日から俺の物だとは伝えてはいるけど、もしかすると残っている奴が居るかもしれない。
その時は対処の必要があるので、こうして俺も同行しているという訳だ。
「ん~良い感じに残ってるな~。」
「アイツの配下はこんなに居ないはずだけど?」
「それにどう見てもあれは戦闘態勢だよね。」
確かにさっきは30くらいしか居なかったと思うけど今は100前後の数が集まっている。
これが俗に言うお礼参りという行為なのか、ここに集まっている奴等に友好的な感じは微塵もない。
ハルアキさんも遊び心を出しているのか今はライオン仮面ではなくタイガー仮面へと姿を変えている。
気配は同じなので気付いても良いとは思うけど、神と言われる連中はその辺の感覚が鈍いことが多い。
どうも強者という座に長く居るとそういった危機意識が薄れてしまうようだ。
「あれでも片付けを手伝いに来たボランティアだったら困るから話を聞いてみるよ。」
「そういう所は君らしいけど油断はしないようにね。」
「大丈夫です。こういうのには慣れてますから。」
ちなみに前世でも似たような事が何度かあり、奥さんが綺麗だと無条件で寄って来る連中が居た。
厳島で暮らし始めた初期の頃が一番多く、巷だとあの島には鬼が住んでいるとか鬼ヶ島だと呼ばれていたそうだ。
ただし、その事を知ったのは最近の事でネットで調べるとそんな事が書いてあり絵巻物にもなっていた。
なんでも訪れた旅人を襲ったり女性を攫って島に閉じ込めていたらしいけど、そんな事をした記憶は無い。
殆どの奴を生かして本土へと帰していたので、それが噂になって広がっただけだろう。
話は大きく逸れてしまったけど、邪神たちの前に出ると当たり障りのない感じに声を掛けた。
「それで、お前等はここで何をしてるんだ?」
「ハッハー!ここに踏ん反り返ってたマジャリの奴が倒されたって聞いてな。それで今度は俺達がここを使ってやろうと思っただけだ。それで、お前も仲間に加わりたいのか?後ろに居る連中を手土産にするんなら考えてやっても良いぞ。」
「・・・他の連中もお前と同じ考えか?」
「断れば奪えば良いだけよ!」
「ここは強い奴が権力を握れるんだからな!」
「弱い奴に権利や地位や命を持つ資格はねえのよ!」
その後も次々に馬鹿な言葉を垂れ流しているので俺達を手伝いに来たボランティアではなさそうだ。
それにアズサ達に対して嬲るだの食うだの卑猥な事まで口にしているので手加減の必要は無ない。
それにマジャリの時には不確定な能力を使う余裕が無かったので控えていたけど、今のコイツ等になら幾らでも試す事が出来る。
「それなら、俺がお前たちから全てを奪おう。」
「コイツは何を言ってるんだ?」
「俺達が怖くて頭がおかしくなったんじゃないか?」
「まあ、まずは俺と遊んでくれよ。『怠惰』」
「な!?体に力が入らねえぞ!」
「問題は無さそうだな。」
これは俺が神になった時に再び使えるようになったスキルでボルバディスを封印する時に1度だけ使用した事がある。
効果は相手の能力を10分の1にまで低下させる事でレジスト出来た奴は居ないようだ。
それに、この力は本来なら神だけが使えるような強力な能力なので以前の様に人の身で使用すれば命を削るのも当然のことだ。
今なら使っても反動は無いようで息をする様に自然と使う事が出来る。
「ついでに『憤怒』。」
「コ、コイツ!さっきまでと強さの次元が変わってるぞ!」
「マジャリどころじゃねえ!コイツはなんなんだ!?」
こっちのスキルはベルセルクと一緒で怒りによって力を上昇させてくれる。
ただし上限は無く、先程から聞いていた奴等の暴言は俺の怒りを天よりも高い所まで押し上げてくれた。
それでなくても能力が10分の1まで低下している状態でこちらが何倍も強くなれば取り乱すのも仕方がない事だ。
そして、ここでスキルの恐怖が進化して得た絶望を使用する。
すると邪神たちの動きが完全に止まり、無気力となった顔でその場に膝を付いた。
「お前等に一度だけチャンスをやろう。これから真っ当な神としてやり直すなら殺さずに生かしておいてやる。」
「だ、だが邪神から普通の神になった奴なんて殆ど知らねえぞ。」
「それに関してはコイツが手伝ってくれるはずだ。ファル、後は任せたからな。」
「頑張ってみる。」
ここでどうしてファルを指名したかと言うと、コイツは以前の時だと相手を邪神へと変化させる能力を持っていた。
しかし正確に言えば邪神へと変えるのではなく、自分と同じ属性へと変化させるのが本当の能力なのだそうだ。
だから今のファルの場合は慈愛と調和を司る地母神なので、そちら寄りに相手を変化させる能力を持っている。
しかも、今のコイツ等は怠惰によって能力が低下し、絶望で心を完全に折っている状態なので抵抗もせずに変化を受け入れるだろう。
そしてファルが俺の横まで来て力を使うと邪神たちの顔に張り付いていた恐怖の表情が消え去り、まるで悟りでも開いたかのように穏やかな物へと変わる。
さらに攻撃的で怪物のような姿が光に包まれると、人や獣のような自然的な姿へとなっている。
「お~。なんと清々しい心の在りようなのだ。こんな気持ちは邪神となる前でも感じた事はない。」
「これまで自分が犯していた事のなんと愚かな事なのか。その罪をどう償えば良いのだ・・・。」
「成功したみたいだな。これからファルの仕事も増えそうだから頑張れよ。」
「そのつもりだけど・・・なんだか私の力が一気に増してる気がする。」
「人からじゃなく神から信仰の対象にされてるからじゃないか。これなら上級の邪神とも渡り合えそうだな。」
これは予想外の結果だけど、今迄は下級にも馬鹿にされていたので良い結果と言えるだろう。
それに彼等にはこれからしっかりと働いて償いをしてもらわなければならない。
それは就職先の斡旋でもあるのでこれから頑張ってもらう必要がある。
「それと店を作るついでにこの島に世界樹を植えてしまおう。世話はオウカに任せても大丈夫そうか?」
「見せてもらっても良いですか?」
「これよオウカ。1つしかないから大事に育ててあげて。」
「・・・大丈夫そうですね。この子には既に強い意志が宿っています。準備も出来ている様なので場所を決めて土に埋めてあげるだけで良いみたいです。」
「それならまずは世界樹を植えてから店を作った方が良いな。これを俺達に譲った奴は富士山よりもデカかったからな。」
ここは一番大きな中央島ではないけど四国くらいのサイズがある。
マジャリが城を立てていたのは中央島寄りの一角で、島を所有していたのに殆ど使われていなかった。
まあ、神に類する存在は食べなくても大丈夫なので家庭菜園をする必要は無いだろうし、そもそもこんな荒れ果てた地を使えるようにするのは一苦労だろう。
特に破壊を好む邪神にはこのような場所の方が居心地が良いのかもしれない。
そして大きさやバランスを考慮して島の中心へと移動し、そこに世界樹の種を埋めた。
「これで後はどうするんだ?」
「後は急いで逃げるくらいでしょうか。」
「逃げる?」
すると既に皆は走り出しており、残されているのは俺だけだ。
その直後に地面が揺れている事に気付いたけど、足元から巨大な幹が伸びると同時に根が地面を砕きながら下から突き上げてくる。
俺は咄嗟に上に飛んで後方に下がると距離を取りながら状況の確認を行った。
「凄い急成長だな。」
既に上と横に対して4キロくらいまでは広がっており、幹に関しては直径が100メートルを越えている。
さすがファンタジー世界では定番とも言える存在なので自重で折れたりする様子は無く、今もスクスクと巨大化を継続中だ。
「大丈夫でしたか?」
「なんで皆が少し後ろに下がってたのか分かった気がする。」
「ちょっとした悪戯です。」
「まあ、これくらいは可愛いものだけど、次からは先に教えてくれな。」
「善処します。」
俺は苦笑しながらオウカの頭を撫でてやると、楽しそうに笑みを返してくる。
そして巨木となった世界樹は枝先に大きな蕾を作り出すと、桜のような形をした綺麗な花を咲かせた。
「これなら花見も出来そうだ。」
「それならお店の名前は異世界食事処 サクラにしようか。」
「良い考えだな。この後はどうやって世界を修復するかだけどオウカは何か分かるか?」
「この子には既に意思があるので聞いてみます。・・・どうやら既に破壊された世界については周辺にある世界樹とリンクを結ぶ事で再構築を開始しているようです。」
「そんな事が可能なのか。でもそれならこれまではなんでしなかったんだ?」
「どうやら本来なら世界を修復するためにはそれが可能な神の協力が不可欠のようです。でも力を貸してくれる者が現れず、ずっと保留のままになっていたそうです。それをこの子が持っている再構築の能力が代行しているので可能になったと言っています。ただ、世界を修復するにはエネルギーが必要のようですね。」
「それなら丁度良いのが100人くらい居るからそいつ等に協力させるか。」
さっきの奴等も償いをしたいと言っていたので協力は惜しまないだろう。
そして予想した通り彼等は二つ返事で了承してくれたので、ついでに復活した世界の管理も任せる事にした。
これで、この世界に滞在している行き場の無い連中の受け皿も同時に確保が出来て一石二鳥だ。
「後は店を作って宣伝する必要があるけど、問題はどうやってするかだよな。ここにはパソコンとかプリンターも無さそうだし。」
「それについてはこれを作って来たよ。それに売り込むなら目立ってなんぼだよね。」
「お兄ちゃんはこういう服が好きそうだよね。」
「合わせてイメージキャラも作ったんですよ。」
「これはまた俺好みなのになってるな。」
渡されたのは体を前後に挟むように紐で括られた看板で、それには良い感じにキャラクター化されたヒュドラが描かれている。
そして異世界食事処 ニューオープンと書かれており、追加で店名のサクラと場所が書き込まれた。
更にチラシまで準備されており、これを配れば宣伝になるという事だろう。
しかもクオナが準備してくれたのかコンセントが無くても動く印刷機まであってチラシの増産も可能のようだ。
既にユウナが手際よくタブレットを操作して追加の内容を入力しており、足りなくなったら追加で作ってもらえる。
「それならちょっと中央に行ってチラシを配って来るよ。」
「お願いね。私達の方も準備を急いでおくから。」
この場をアズサ達に任せると中央島の外周部に点在する村へと向かって行った。
そこには邪神ではない普通の神々が静かに細々と暮らし生活を営んでいる。
彼等はここ以外に行く場所の無い者達で、元から住んでいた世界から追い出されたり破壊されて帰る場所を失ってしまったらしい。
それ以外にも訳ありの者も居るようだけど、戦う力を持っていない連中ばかりだ。
「さて、まずはここからだな。」
「何だお前は?・・・グヘ!!」
「仕事の邪魔はしないでもらいたいな。」
こういった村は邪神によって管理されている事が基本で、出入りも厳しく制限されている。
監禁されていると言うのが正しいのか、彼等は力が回復する度にその分を奪われ家畜のような暮らしを強いられているようだ。
この事をファムは知らないようだけど、気付く前に俺の方で処理をさせてもらう。
「これで門番の処理は終ったな。さっそくチラシを配って店を宣伝するか。」
「貴様!そこで何をしている!?『グシャ!』」
「邪魔をするな。さて、ここに暮らすお前たちに良い物をくれてやろう。」
そして邪魔をしに来る邪神を磨り潰しながら周囲で見ている者達にチラシを配り始めた。
そこにはこの世界の盟主であるファムと四天王の1人であるセイメイの連名でオススメ店とも書いてあり、裏には提供できる料理のメニューなども載っている。
「あ、あの・・・これは絶対に来いという命令書ですか?」
「こことは違って平和な所だ。飯も美味いし移住にも良い所だぞ。今は何も無いけど普通の暮らしに向けての手助けもしてもらえる。」
「しかし、追手が来たら・・・。」
「それは俺達が磨り潰す。今は恐怖に打ち勝ち前に踏み出す時だ。」
「俺は行くぞ!何処に行ってもここよりは良い場所のはずだ!」
「そうだな。1人でも逃げれば報復は免れない。それなら全員で移住するのが一番だろう。」
「そうと決まれば準備をして移動をするぞ!」
「ここには何も残す必要は無い!全てを持って書かれている島に向かうぞ!」
「「「おお~~~!」」」
そして彼等は家さえも収納すると本当に何も残さずにこの場から旅立って行った。
そんな村を幾つも周りながら邪魔をする邪神を片付けて大移動を行っていく。
時々は悪魔王として脅しを掛けたりもしたけど、今のところは順調に進んでいる。
「今日はこれくらいで良いか。」
中央島は広いけど島が外周を回るには1週間の時間が掛かる。
村の数もそれ程に多くは無いけど、タイミングを合わせないと移動が大変になってしまう。
特に力の弱った者は神と言っても貧弱で、飛ぶ事は出来ても転移が出来ない者も居る。
今日は5つの村が中央島から消えたので、そろそろ様子を見に戻ろうと思う。
そしてアズサ達の許へと戻ると大きなガラス張りの要塞が出来ており、その中で避難して来た者達が暮らしていた。
てっきり店を作ったのかと思っていたけど、なんでこうなっているのだろうか?
「ただいま。これはどうしたんだ?」
「おかえり~。実はハルヤが出掛けた後に追加で邪神が来て攻撃して来たの。」
「大丈夫だったか?」
「うん。でも喫茶店風に作ったお店だと次に攻められた時に入りきらないでしょ。だから大きくしてシェルターにもしたの。ちなみにサクラは1階スペースを広く取って開店準備中だよ。問題が無ければ今日からでも始めたかったけど、邪魔が入ったから仕方ないよね。」
「それで攻めて来た奴等はどうしたんだ?」
「半数はお父さんが始末して、半数はファムに処理してもらったよ。邪神じゃなくなった人達は世界樹担当になって自主的に頑張ってくれてる。」
それなら問題無いだろうから明日からも任せて良さそうだ。
今のところは他の四天王にも動きは無いようだし、このまま進めても大丈夫そうだ。
そしてミーナの方は現実に復帰したようで店の方で料理を作りまくっている。
営業は明日からと言っていたけど、今日は宣伝効果を狙っているのだろう。
今でも匂いに釣られた者が押し掛けており、以前に何処かで見た光景が出来上がっている。
「希望者から賄い付きでバイトを募集したらどうだ。」
「それなら既に確保済みだよ。それと料金は世界樹の手伝いで相殺にしてあるから在庫も減って一石二鳥。ハルヤの方もお肉に含まれてる毒の処理をお願いね。」
「ああ。すぐにやっておくよ。」
移住してきた神は100人程度で人数は少ないけど人の数倍は食べられるようだ。
限界は高くは無いようだけど、量としては大食いチャンピオン並みが100人なので大変な事に変わりはない。
予定では1000人くらいまでは増えるので、早めにバイトを雇ったのは正解と言えるだろう。
そして初日は色々と大変だったけど無事に終了し、元気に明日を迎えるのだった。




