353 道に迷う ③
俺は2人の前に立つとM78星雲から来た3分ヒーローの様な構えを取った。
しかし勇者はそこから何かを感じ取ったのか片手を剣から放すと指を差して来る。
「お前!絶対にウルティママン見てただろ!」
「わ、私・・・邪神・・・下僕・・宇宙ヒーロー・・・知らない。」
「やっぱり知ってるじゃねーか!」
おっと!どうやらコイツはこの世界から選ばれた勇者ではなく、異世界から呼ばれた召喚勇者だったみたいだ。
ちなみにウルティママンはかなり古くからある特撮シリーズで時代を重ねるごとに世代に合わせた作品を作り出している。
なので日本男児なら半数以上が見た事のある不朽の名作と言える。
そう言えばミルガストのダンジョンから出て来たトキトも召喚勇者で俺の世界と似ている所があるような事を言っていた。
もしかすると世界観だけではなく同じ様な番組も存在するとすれば、まさにウルティママン時空を超えた名作と言えるだろう。
それにアイツは召喚された世界を邪神によって滅ぼされたと言っていたので、この勇者の様に誰か大事な者が居たのかもしれない。
「メェ~~!(さあ、かかって来い!)」
「喋れるなら喋れよ!」
「・・・さあ掛かって来い!」
「しかも普通に喋ってるし!あ~色々とやる気を削ぐ奴だな!」
どうやら俺の精神攻撃が効果を現したようだ。
だからファムはそんな冷たい視線を背中に向けないでもらいたい。
これは相手の精神力を試すための大事な戦いなのだ。
しかし、その直後に雷雲が轟き巨大な稲妻が大地を抉った。
「な、何だ!」
「・・・チッ!邪魔が入ったか。」
外を見れば稲妻が落ちた所に何者かが立っているのが見える。
そいつは俺達に視線を向けると姿を消し、一瞬でこの場まで移動してきた。
「どうやら貴様が俺の仕事を横取りした犯人の様だな。」
「何の事を言っているんだ?」
「しらばっくれても無駄だ。この世界を滅ぼすために俺が呼ばれるはずだったところに貴様が割り込みを掛けたのは分かっている。その証拠にそこの聖女とお前とがパスで繋がっているではないか。しかもそんな極上の聖女を奪っておいて許されると思うなよ。」
奴の言いたい事は何となく理解出来る気がするけど俺にとっては大した事ではない。
ならこいつがやりたいというなら好きにさせてやれば良いだろう。
「それなら聖女は生きてるし、お前に引き継げば問題無いな。勇者を倒して聖女を手に入れれば良いだろう。」
「それは当たり前の事だ。しかし、俺の怒りはその程度では収まらん。貴様を殺しその力の全てを奪ってやるぞ!」
「なら最初に勇者を相手にしてくれ。俺はお前の戦いが終わるのを待っててやるからな。」
「後で後悔しても知らんぞ!」
「お好きな様に。」
俺はそう言って背中を向けるとファムの座る玉座まで下がって行った。
そして姿を戻してその横に腰を下ろすと頬肘を着いて観戦を始める。
「良いの?あの邪神はあの勇者じゃ勝てない相手よ。」
「まあ、最初はそうだろうな。オイ、勇者。選手交代したからそいつに勝ったらこの世界は見逃してやるよ。」
「勝手にコロコロ相手を変えるな!でもコイツの方がお前よりもやり易そうだ。」
「舐めた口を叩くなよ。貴様程度で俺を倒せると思うな!」
そして戦いは誰の合図も無く始まり、勇者は数秒でボロ雑巾の様にされてしまった。
しかし、そこでサーナから回復魔法が放たれ、その体を完全に癒してくれる。
そこで勇者は再び立ち上がり、不屈の精神で邪神へと向かって行った。
「ねえ、さっきサーナから回復魔法が飛んだ時に一緒にアナタの加護も飛んで行ったわよね。」
「気付いたか。さっきので力の使い方にも少し慣れたからサーナとのパスを通して勇者に加護を流し込んでるんだ。あっちの邪神は勇者をいたぶるのに夢中で気付いてないみたいだけどな。」
「サーナも気付いていそうよ。こっちを気にしてるみたいだから。」
「どうせこの戦いが終わったら俺達はここから出て行くんだから気にしないでも良いだろ。」
「それもそうね。」
そして勇者は何度もサーナに回復してもらい、時には蘇生させてもらっている。
それでも心は折れる事が無く、次第にその力を上げて行った。
それに伴いダメージは軽減し、与えるダメージは大きくなり始めている。
「な、何だこの勇者は!?ま、まさか貴様の仕業か!」
「やっと気付いたのか。でも遅すぎたな。」
既にこれまでの戦いで勇者には十分な加護を与える事が出来ている。
そのおかげで今では互いに互角の戦いを行い、激しい攻防が繰り広げられていた。
「サーナ。最後の仕上げだ。」
「は、はい!かの者に癒しをギガヒール。」
それと同時に俺は強めの加護を勇者へと直接送り込んだ。
通常なら全身から血を吹き出して戦闘が出来ない程のダメージを受けるだろうけど、サーナの回復魔法で相殺され無事に加護を受け取る事が出来ている。
「これで終わりだ!」
「おのれ!謀ったなー!」
「誰が次に殺すと言う奴に協力するんだ。口は災いの元って言葉を知らないのか?」
よほど友好的な奴でない限りは結果は同じだっただろう。
その場合は過程は同じでも死ぬ前に助けてこの世界から一緒に脱出くらいはしてやった。
しかし明確な敵対宣言をしたのだからこうなるのは当然の事だろう。
まあ、それ以前に俺と勇者はウルティママンを見たという過去を共有しているので同好の士と言えなくもない。
そして勇者の攻撃によって倒された邪神はその場に何も残さずに消えて行った。
すると勇者は剣を鞘に納め俺達の前までやって来る。
「アンタが力を貸してくれていたのか?」
「まあな。アイツが言っていたのは別にして、俺は偶然ここを通り掛っただけだ。」
「もう素直じゃないのね。その子の声に呼ばれたってしっかりと言いなさいよ。」
「あの、どういう事でしょうか?」
「アナタが自分を犠牲にしても世界を救ってほしいって願ったからこの馬鹿が応えたのよ。それに死に掛けていたアナタもコイツが助けたの。」
「そんな事を言わなくても良いんだよ。後はコイツ等が魔王と邪神を倒した事にしとけば世界は平和になるんだから。」
「そう言う所が素直じゃないって言ってるのよ。それにどんな神でも信仰は大事にしないとダメなの。アナタ達もコイツに助けてもらえなかったら死んでいたんだからね。感謝してちゃんと崇めておくのよ。」
「あ、ああ。なんだか分からないがそうしておく。」
「ありがとうございます。」
これで最後も変な流れになってしまったけど話は終了だ。
結局コイツ等がこの後にどうするかは分からないけど、加護もあるのでなんとかするだろう。
「そういう事で俺は約束通りにここから退散するからな。」
「今回の事は本当に感謝する。おかげでサーナを無事に取り戻せた。」
「ああ、勇者なら聖女は大事にしろよ。」
「分かってる。もう2度とこんな事にはさせない。一生サーナの事を守って見せる。」
すると勇者は笑顔を浮かべてこちらに右手を伸ばして来た。
どうやら握手を求めている様なので手を差し出しておく。
下手に握ると潰すかもしれないからな。
「俺は勇者トキトだ。今回の事はありがとう。もし何かあったら今度は俺が力になるからな。」
「トキト?」
俺が知る勇者と一緒の名前か。
偶然だろうけどコイツも伝説に残って神になればいつかまた会えるかもしれない。
そして俺達は空間の裂け目を作ると再びそこへと足を踏み入れた。
「それにしても無駄な道草を食ったな。」
「そうでもないと思うけど。きっと今の出口は何百年か前の世界と繋がっていたのね。ハルヤの力がさらに増してるのを感じるわ。あの子たちは私の言った事を守ってちゃんと真実を世界に広げたみたいよ。」
「この空間はそんな事も起きるのか。」
「普通は滅多にないのだけど、もしかするとアナタとの縁が何処かにあったのかもしれないわね。」
そうなるとミルガストの所で出会ったトキトと同一人物かもしれないな。
しかし確認するにしてもしばらく後になるので気にしても仕方がない。
「それよりも帰る道は分かったのか?」
「ええ、一度ここから出たから方向が分かる様になったわ。だから今度は私の気を散らさないでよ。」
「分かってるって。今回は最初から手も繋いでるしな。」
「え!?」
「なんだ?自分で握って来たのに気付いてなかったのか。」
「いえ!だって!私からって!」
「ハハハ、そんなに慌てているとまた道に迷うぞ。」
「そ、そうよね。ハハハ・・・そろそろ到着するわよ。」
そう言って少し破れかぶれ気味な動きで空間の歪を破壊すると外へと出て行った。
するとそこでは激しい戦いが行われている場所のド真ん中で、傍には山の様な大きな木が生えている。
鑑定すると世界樹となっており、周囲で戦っている種族も普通ではないのが半分混ざっているようだ。
こちらも鑑定すると半分は人間だけど、もう半分はエルフや獣人など初めて見る種族になる。
クオナに受けたレクチャーで存在は知っていたけど、こうして見ると異世界に来たんだなと実感してしまう。
「・・・ファルさんや。これはどういう状況かな?」
「・・・。」
「オイ。」
「また道に迷った・・・。」
「は~・・・まあ、仕方ないな。」
俺は気落ちしているファルの頭を軽く撫でてやると、さっきから襲って来る奴等に視線を向けた。
恐らくは急に現れた俺達を敵として認定したのだろう。
襲って来るのは人間勢ばかりだけどエルフや獣人たちも警戒はしているようだ。
「今すぐに戦闘行為を停止しろ。さもないと容赦しない。」
「何を言っている!」
どうやら言葉が通じていない訳では無いようだ。
しかし理解できてもそれに耳を傾けるかどうかは相手の自由となる。
たけど俺は警告をしても襲ってくる相手に対して容赦はしない。
「ならば自身の選択に後悔するが良い!」
俺は悪魔王の姿に変わると枝にぶつからない程度で50メートルくらいに巨大化する。
そして、ファルを掌に乗せて安全を確保してから兵士たちを睨み付けた。
「もう一度だけ警告してやろう。今すぐに戦闘を中断し各陣に引き返せ。この最後通告を無視した軍勢には容赦なく滅んでもらう。」
「ヒィ~~~!助けてくれ!」
「ま、魔王が現れたぞー!」
「魔王は勇者が倒したんじゃなかったのか!」
すると人間たちは口々に叫びながら自陣へと逃げ帰って行った。
それはエルフや獣人たちも同じで、この場に残って居るのは戦いによって既に命を失っていた者と重傷で動く事の出来ない者だけだ。
「仕方ない。今回だけは無料で助けてやるか。」
俺は怪我人に対して神聖魔法を振り撒き倒れている奴等を回復させる。
ただ、予想外の事も起きてしまい死んでいる奴等も何故か動き始めた。
「もしかしてゾンビにでもなったか?」
「そんな訳がないでしょ。あんなに神聖な気の中で動けるゾンビが居たらそれはゾンビじゃない別の何かよ。」
そして起き上がった奴等は周りを見回し、俺の存在に気が付くと一目散に自陣の方へと逃げ出して行った。
見ている限りでは意識や記憶に混濁している様子はないので普通に生き返っただけのようだ。
「まあ、ゴミ掃除が出来たと思っておこう。」
「そこで遺体をゴミと言う所は邪神と変わらないわね。」
「後は周囲の汚れを浄化してっと。」
「ま、待って!・・・ひゃう!」
すると浄化に巻き込まれたファルから可愛らしい悲鳴が上がった。
今回は漏らしていない様だけど座り込んで体中を真赤にしている。
そういえば、この過剰に露出している服をどうにかしないといけない。
まずはしゃがんで子ヤギみたいに足をプルプルさせているファルを下ろすと姿と体を元のサイズに戻す。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。少しは慣れたから。」
「それならまずはその服装をどうにかするぞ。何か服は持ってないのか?」
「これは王女の正装よ。他に服なんて・・・。そんなにジロジロ見ないでよ!恥ずかしいでしょ!(少し前まで全然恥ずかしく無かったのに!)」
するとファルはその場に腰を落とすと、羽織っていたマントで体を覆って隠してしまった。
どうやら彼女の洗脳はこういう所にも影響を与えていたらしい。
きっとファルにスキルを使った奴は『変態!』に違いない。
頭に浮かんだイメージもアンモナイトみたいな顔をしていたので見つけたら早めに始末してしまおう。
「それならこれを着たらどうだ。サイズが少し大きいかもしれないけど着られるはずだ。」
「う、うん。あ・・これハルヤと一緒。」
「嫌なら変えるけど。」
「こ、これが良い!ハルヤも変えちゃダメよ!」
「まあ、着慣れてないと恥ずかしいだろうからな。」
そしてファルは服を受け取るとそのままジーパンを履いて裾の長さを調節する。
さらにマントを外してシャツを着るとボタンを苦労しながら止め始めた。
「自分で服くらいは着られないと恥ずかしいぞ。」
「い、いつもは侍女がしてくれるのよ。」
俺は苦労しているファルの手を避けさせるとこちらで止めてやる。
胸の辺りで少し体が震えさせていたけど相手が男なので仕方ないだろう。
「これで良いな。苦しくはないな。」
「あ、ありがとう。」
「気にするな。昔は妹の服を着せたりして慣れてる。」
「そう・・・その妹は幸せ者ね。」
「まあな。」
これで準備も整ったので話を聞きに行かなければならない。
出た途端に襲われて介入したけど、このまま去るのは無責任が過ぎると言うものだ。
それにさっきから念話で声を掛けられていたけど完全に無視ってたから、そっちの話も聞いてやらないといけない。
「それで、さっきから俺に話しかけていたのはお前だな世界樹。」
『あまりに反応をしないので聞こえていないのかと思いましたよ。』
「こちらにはこちらのタイミングがある。それで、何の用だ?」
『実はお願いがあるのですが聞いてもらえますか?』
「有料なら聞いてやっても良いかもしれない。俺にも出来る事と出来ない事があるからな。」
『分かりました。もし聞いてもらえるなら私からは世界樹の種を差し上げましょう。そうすればきっとアナタの助けになるはずです。』
「具体的には?」
『神が世界を作る時には何処かに世界樹を植えて基礎とします。そして各世界は世界樹によってリンクされ、情報が保存されているのです。』
「それは滅んだ世界もか?」
『そうです。もし何者かによって滅ぼされようと創造神の力を借りられれば滅びる前の状態で世界を再構築する事が出来ます。アナタも創造神の端くれ?なら分かるでしょう。』
「残念だけど俺は創造神じゃないぞ。」
『それだけの力を持っているのにですか!?・・・もしかすると自覚がないだけかもしれませんね。それで、この種で不足ですか?そちらの女神は喉から手が出そうな顔をしていますが。』
女神って、まあ邪神でも女性なら女神で間違いないか。
それに世界樹の種があれば何かと便利かもしれないからな。
「それならその報酬を条件にまずは話を聞こう。」
『ええ、それではまず現状の説明から始めましょう。』
そして聞いてみればバカバカしいけど物語でも読んだ事のあるような話だった。
この世界は魔王によって滅ぼされかけたけど勇者によって救われている。
ただ、その勇者が送還された事で人間の中に野心に燃える者が現れた。
そいつは世界征服の為に旗揚げを行い、戦いによって疲弊していた人間の国を数年で統一してしまった。
そして今ではその矛先がエルフや獣人へと向けていてこの戦争が起きている。
しかし人間側の国は自分達こそが至上の存在だとして人間至上主義を謳っているそうだ。
そのため、この戦いが負けで終われば人間以外が処刑されるか奴隷以下の扱いを受ける事になるらしい。
「それでこの争いを俺に止めて欲しいという訳か。」
『その通りです。』
「損害はどの程度まで許してもらえる。」
『エルフや獣人たちは私が言えば戦いを止めるでしょう。運が良い事に初戦闘での犠牲者はアナタが蘇らせているので精神的なシコリも最小限で済みそうです。』
「そうなれば後は人間側の対応をすれば良いのか。」
『そういう事です。』
すると話を聞いていたファルが横から袖を引いて来た。
しかし、そちらに顔を向けるとなんだか心配そうな表情を浮かべている。
「ねえ、ハルヤに人が殺せるの?私が言うのも何だけど魔物や邪神相手とは違うのよ。」
「その事なら問題無い。俺の手は既に血で汚れているし、何万と言う人間も殺してきてる。ただ心配だけは有難く受け取っておくな。」
「やっぱり私よりも邪神らしいじゃない。」
そして今のお礼にファルの頭を撫でながら世界樹へと視線を戻した。
「そういう訳だから損害は50パーセントだな。」
『それだと人間が絶滅しませんか?』
「それを含めての意味なんだ。もし平和な世界に馴染む気が無いならそんな相手は残しておくだけ害悪にしかならないだろ。」
『・・・私は頼むべき相手を間違えたのかもしれませんね。』
「残念だけど俺にはクーリングオフ制度は無いからな。やる時は徹底的にやらせてもらう。お前もエルフと獣人が暴走しない様にしっかりと言い聞かせるんだな。」
『分かりました。』
今回も変な話に巻き込まれてしまったけど報酬もあるし悪い話ではない。
そのため、さっそく人間軍が逃げ帰った方向に向かって歩き始めた。
どうやら久しぶりに邪悪なる悪魔王の出番が来たようだ。




