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341 2試合目

昨日の時点でエクレたちに連絡を入れるとすぐに手続きをして来てくれる事になった。

しかし残念な事に呼べばすぐに来れる訳では無い。

この地では精霊が信仰の対象であり、日本とは管理している存在が違う。

そのためアマテラスがこの地の精霊に許可を得てからでないと来られないと簡単には出張できない。

これまで国外のダンジョンに入る時には何度も経験して来た事とはいえ手続きとか凄く面倒臭い。

こんな時くらいは手順を省略出来る仕組みを作っておくべきだ。

今はクオナ達が常にダンジョンを監視してくれているから良いけど、もし今日にでもミルガストが動き出したら闘える力があるのはアズサだけになる。

なので状況が常に待ってくれるとは限らないのでもっと危機感を持って欲しい。


そして今の俺は大会に出場している選手として試合を行う為に舞台へと向かっていた。

ちなみに今日の相手は予選の前に俺へと斬りかかって来た大剣男のボルストで一回戦は快勝だったらしい。

ただ朝にテレビで少しだけ見たけど相手選手の調子が悪かったのか動きがあまり良いとは言えなかった。

きっと朝食で変な物でも食べてお腹を壊しでもしたのだろう。


そして舞台の上に立つとそこにはゲンさんではなく、別の男性が立っていた。

どうやら昨日のアレは仕返しをする為であって正式な審判は別に居たようだ。

そのため、ゲンさんは自分のVIP室で試合を見ているようで、俺達をハメた奴の隣の部屋に居る。

俺が壊した窓も既に修復されているので昨日の男は今日もそこでこちらを睨んでいる。

時々ゲンさんにも鋭い視線を向けているけど仲でも悪いのだろうか?


すると相手のボルストも入場してくると舞台に上がって俺の前までやって来た。


「今日は先日とは違うからな英雄さん。」

「好きに言ってろ。」


ただし言うだけあって今日のボルストは持てるだけの装備を身に付けたフル装備状態になっている。

これなら1つ1つの効果は小さくても総合すれば2倍以上のステータスになっているので60階層付近でも余裕で戦う事が出来るだろう。

数値的には力と防御が1400台で魔力が500と言ったところだ。

そこへ更に武器や防具の効果も加算されるとすれば総合力は3倍になったと言えるだろう。


しかし今はステータスが普及して誰でも持っているけど職業が無いので能力的には以前よりも劣ってしまっている。

それを装備品で補うのは仕方ないとしても頼り過ぎていないだろうか。


「それでは試合を開始する。・・・始め!」

「くたばれーーー!」


そして試合直後にボルストは圧倒的なステータス差を生かして襲い掛かって来た。

しかし、それでは工夫が足りず、先が読めてしまうので今の俺でも避ける事が出来てしまう。

こんな調子ではステータスで勝っていても70階層以上の魔物には勝てないだろう。


ダンジョンは下に行けば行く程に魔物が強くなるだけではなく、知恵も高まり対処が難しくなる。

いくら外から操作して数を調整しているとは言ってもサポートは完全ではない。

それに70階層を過ぎた辺りから魔物が格段に狡猾になるので注意が必要だ。


そして俺はボルトスの剣を完全に見切って躱すとその腕にスキルを込めた攻撃を放った。

しかし、ボルトスはステータス差からダメージが無いのでその事には気付いていない。

代わりに躱されるとは思っていなかったのか、その顔には驚きの表情を浮かべている。


「この能力差でどうして避けられる!?」

「攻撃が単純過ぎるからだろ。」

「そんな事で差が埋まる訳がねえ!」


そして1撃でリングを半分に割ったボルストは力任せに大剣を反すと今度は下から攻撃を放って来る。

しかし、その時には俺のスキルの効果で片腕が固まり始めており、その異変に気付いて動きが止まった。


「もう少し動いてくれれば片腕が砕けていたのにな。」

「テメー!何をしやがった!」


声に出してまで説明はしないけど単純に石化攻撃のスキルを使用しただけだ。

しかし通常は60階層まで潜ると何処かで似た様な攻撃をして来る魔物に出会うので耐性を手に入れるチャンスはいくらでもある。

それなのにコイツが耐性系のスキルで持っているのは毒耐性だけなので、今までレベルだけ上げてスキルを習得する努力をしてこなかったのだろう。

日本で俺が教えた生徒なら、毒、麻痺、石化、邪眼、魅了、呪いくらいは既に全員が習得している。


そして片腕が石になった所で石化が止まり視線が俺から外れて別の方向へと向けられた。

そこには俺とゲンさんをハメた男が居り、その首が縦に振られているのが分かる。

それと同時に石化が解除され始めボルストの腕が元に戻って行った。


「審判さん?」

「・・・。」


そして問いかける俺を見てボルストの口元がニヤリと笑みの形へと変わった。

どうやらこの審判は既に買収をされている様で、反則を取るつもりは無いらしい。

ちなみにボルストには石化を解除するためのスキルも装備もないので、今の様に回復するには外から何者かによって魔法による回復を受けるしかない。

試合では自力や装備による回復ならば許されているけど、回復アイテムや外野からの魔法による回復は禁止されている。

それに堂々と回復を受けているけど、観客の中にそれを理解できる者は殆ど居ないだろう。


「こういった大会でズルは良くないな。」

「ズル?それをジャッジする審判は何も言ってないぞ。それに俺の受けた依頼だとお前を倒せばそれで終いだ。それだけで俺はビッグなスポンサーを手に入れ大金も転がり込んでくる。」

「やっぱり誰かが裏に居るみたいだな。」

「言っておくが依頼主については口が裂けても言えないぜ。ただ、そいつの目的はお前じゃなくてライバル会社に恥を掻かせる事らしいがな。」


そうなると今回の俺は偶然に巻き込まれただけなのだろう。

本当のターゲットはゲンさんかトウコさんの方で、黒幕も見当が付いたのでそろそろ終わりにさせて貰おう。

しかしボルストは笑みを浮かべたまま更に説明を続けた。


「おっと、あまり下手な事をしない方が身の為だ。お前の連れが使っている部屋に爆弾が仕掛けられているらしいからな。」

「そんな事までしているのか。まさか昨日の選手にも何かしたのか?」

「昨日の奴に関しては必要ないと言ったんだがな。依頼人は用心深いらしく観戦に来ていた家族を人質に取ったらしい。」

「そうか。・・・お前は選択を誤ったみたいだな。」


俺はそう言って右の拳を握り締めるとそこに嵌っていた指輪を全て砕きステータスを解放する。

そして拳をリングに振り下ろすと完全に粉砕し周囲へと砂埃と破片を撒き散らした。

それにより審判は体中を貫かれて即死し、シールドは砕けて観客へと襲い掛かる。

しかし、その寸前で他の者が張ったシールドによって防がれ死亡したのは審判1人だけだ。


「この気配は・・・教皇か。」


どうやらアンの祖父である教皇が咄嗟にシールドを張って被害を防いみたいだ。

さすが神に認められて真の覚醒者と成り、更に強い加護を授かっているだけはある。

レベルは高いとは言えないけど回復と防御に関しては高い能力を持っている。

ただ、俺が欲しかったのは視界を塞ぐ土煙だけだ。

なので丁度良くシールドが空間を密閉してくれているので少しの間は観客も中が見えないだろう。

それを利用して俺は空間把握で掴んだある場所へ向かい転移で移動して行った。



「俺の家族を解放しろ!」

「残念だがお前たちには消えてもら『グシャ』」


なにやら話をしていたようだけど俺が転移した先で銃を構えた男が居たので拳を振り下ろしておいた

うっかり原型が無くなる程の攻撃を放ってしまったけどもし何かの勘違いなら銃を向けられていた奴が勝手に蘇生させるだろう。

ただ銃を向けられていた奴と言うのが昨日の試合でボルストに負けた青年で、その横には中年の男女と少女が居る。

少しの時間しか見ていないので状況は良く分からないけど、どう見てもピンチであったのは間違いない。

ただし俺はここに居ない事になっているので1秒にも満たない時間でその場から再び元の場所へと戻って行った。


「さて、後はこちらの始末をするだけか。」

「見つけたぜ!」


すると戻った直後にボルストがこちらを発見して斬りかかって来た。

しかし俺のステータスは50パーセントが解放されているのでこの程度の攻撃は避けるまでもない。

それでも今は敢えて後ろへと下がりながらギリギリで避け、こちらが手を出せない風を装っておく。


「上手く避けるな。だが、お前が視界を悪くしてくれたおかげで堂々とこれを取り出せるぜ。」


するとボルストは手で握れば隠せる大きさのリモコンを取り出した。

どうやらアレが爆弾のスイッチのようで奴はそれを持ったまま大剣の柄を握り締める。


「これでお前が次の攻撃を躱せばスイッチを簡単に押す事が出来る。さあ、仲間の命か自分の命か!?どっちを選ぶんだ!?」


そして狂気的な笑みを浮かべると上段に大剣を構えて全力で振り下ろして来た。

しかし、これでは俺が避けなくても強く握りしめた事によってスイッチは押されてしまうだろう。

その証拠に俺の背後からは爆発音が聞こえ悲鳴まで聞こえて来る。


「ハハハハハ!死ねーーー!」

「お前が死ね。」


そう言って振り下ろされた大剣に向かって拳を振り上げた。

そして衝突と同時に大剣は砕け散り、ボルストはそれにも気付けないまま粉々になって消えて行った。


「さてと。後は土埃を晴らしてしまえば試合終了だな。」


そして土埃を晴らして爆発の音がした方向に視線を向けると、黒幕の男が使っていたボックス席が吹き飛んでいた。

もちろんアズサ達の居る部屋には被害はなく、室内からハルカがサムズアップをしている。

俺はそれに手を振って応えて笑顔を返しておいた。


「まあ、ハルカが居てあんな物を見過ごすはずがないよな。それ以前にあの程度の爆発で俺の仲間が死ぬと思っている方が腹立たしい。」


既に全員が核爆弾を受けても死なない様に真の覚醒者へとなっている。

ただし今は原子力発電所も核兵器も存在しないので試す機会は訪れないだろう。


ちなみに俺が皆と別れてここに立つ前からハルカは爆弾を仕掛けた犯人を知っていて、その本人へと返却を行っている。

その結果、黒幕の男が部屋ごと吹き飛び原型すら留めておらず、悲鳴が聞こえていたけど被害が出たのは部屋に居た者だけだ。

その周りの観客席に関してはアズサ達が張ったシールドで護られていたので驚いた以上の被害は出ていない。

しかし今日は俺の分の仕返しをするつもりだったのに流石にあれ以上は何も出来そうにない。

しかし、この状況だと近日中に上級蘇生薬を売ってくれと言う人物が現れる可能性がありそうだ。

その時はゲンさんと相談して高値で売り付けてやろう。


そして出入り口のゲートから数名のスタッフが姿を現し1人がこちらへと向かって来る。

他のスタッフは死んだボルストと審判の確認に向かい、壊れたリングの撤去も行っている。

そして確認が終わるとスタッフが俺の手を取り持っているマイクに声を掛けた。


「勝者!日本代表ユウキ ハルヤ!」

「「「ウオ~~~~!」」」


すると先程起きたトラブルを吹き飛ばす様な歓声が会場中から上がり空気を揺るがした。

後半はあまり見せられなかったので残念だろうけど、次の試合ではもっと楽しめる様に頑張ろうと思う。

それに都合上から今日はベスト4を決める3回戦まではするらしく午後からここに再び来ないといけない。


そして今のところアーロンとアイラは順当に勝ち進んでおり、このままならここで戦えそうだ。

ただ、アイラはやる気満々と言った感じだけどアーロンは少し元気が無さそうだ。

もし対戦するとなると位置的には決勝戦だけど、そこまで勝ち上って来る気があるのか疑問に感じる。


そして、その後は皆の待っている部屋に戻り昼まで試合を見ながら過ごす事が出来た。

そこにはジーナも居るので試合をしている選手たちの解説を色々としてくれている。

どうやら今残っている選手に関してはある程度の情報を既に持っているらしい。

ただ、アズサが用意してくれた料理を摘まみながらなのでしばしば試合から意識が逸れるのはご愛敬というやつだ。


そして腹を十分に膨らませた俺は次の試合の順番が回って来たので気合を入れて部屋を出て行った。

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