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32 出発 

俺は船に戻るとその前に待機している自衛官の許に向かた。


「ただいま。」

「お帰りなさい。もう戻って来たんですか?」

「ああ、ちょっと聞きたいんだけど、さっきからヘリみたいなの飛んでけど、あれって俺が乗ったり出来るのか?」


すると俺の言葉を聞いて周囲から驚きの視線が集まった。

俺が何を考えているのか何処となく気付いたのだろう。


「確認してみないと分かりませんが、もしかして行くつもりですか?」

「まあ、ちょっと困ったちゃんな4人が行っちゃってね。死なれると気分が悪くなるかもしれないから先回りして回収したいんだよ。」

「わ、分かりました。すぐに掛け合ってみます。」


そう言って急ぎ足でこの場を離れると傍の車に置かれている無線機へと向かって行った。

どうやら今の会話で別の誰かが助けに向かった事も理解してくれたみたいだ。

無断で行けば地上から行くしかないだろうけど、公に行くなら上から行く道もある。

それに向かう方角からも魔物の群れは迫っているなら、それを迂回して助けに行くとなるとそれなりに時間が掛かるはずだ。

高速道路を使えば1時間の道でも、目的地までそんな物は存在しない。

下手をすると帰って来るのもギリギリになる可能性だってある。


すると確認を取りに行った隊員が此方へと戻って来た。

しかし、その表情は何かに納得できていないのか顔を顰めている。


「何故かアメリカの機体が目的地まで運んでくれるそうです。」

「それは助かる。アイツ等なら正確な位置が分かるだろうからな。」

「それはそうですが・・・。」


きっと見捨てておいて他が動くとそれに同調して意見を変えている事が納得できていないのだろう。

俺としては恨みがある訳でもないので手伝うと言うなら有難いと素直に考えてしまう。

なので問題を起こしたり邪魔さえされなければそれだけで満足だ。。


「向こうとしては失敗しても消費するのは燃料だけだからな。もしかすると失敗を望んでいる可能性もある。」

「それが分かっているなら他を探した方が良いのではないですか!?」

「失敗しなかったら良いだけだ。それじゃあちょっと行って来るよ。」


俺は先程と同様に散歩に行くような感じでヘリの音がする方向へと歩いきはじめた。

すると足元にこの大陸での相棒がやって来て行く道に立ち塞がる。


「一緒に行きたいのか?」

「ワン。」

「なら力を貸してくれ。」

「ワンワン!」


オメガは元気に吠えて答えるとその場でクルリと回ってお座りをする。

すると今度は頭上から声を掛けてくる者が現れた。


「それなら僕も行きたい。」


そして声がした方向を見上げるとそこにはリアムが背中から羽を生やして浮いていた。

どうやら、あちらは夢を1つ叶えた様で恐らくは風の精霊魔法だろう。

それに良い物が見られたのでこれは検証が必要になりそうだ。


「それって俺も飛べるのか?」

「う~ん。たぶん出来るよ。」


それならと俺はリアムに耳元である提案を行った。

今回は連れて行くことは出来ないが、もしかすると別の意味では共に戦う事が出来る。


「う~。僕も行きたいのに~。」

「今回は我慢しろ。お前には妹を護る大事な役目があるだろ。」

「・・・分かった。」


今回リアムを連れて行く事は出来ないのでどうにか説得出来てよかった。

実のところを言うとアメリカの機体がどういう行動を取るかが分からない。

こちらの意向を全く聞き入れないかもしれないし、置き去りにされるかもしれない。

どちらにしても回収する遺体は敵の真っ只中にあるのでステータスが後衛タイプだと足手まといになる。

これが能力を使いこなせる状況なら話は変わって来るのだけど、今の状態は力を使っていると言うよりも使われていると言った方が正しい。

リアムには日本に着いたらダンジョンでしっかりと修行してさらに強くなってもらいた。


そして俺は使わなければ良い保険を持ってリアムと別れると再び歩き出した。

その後しばらく進むとそこには広い道路があり、間隔を空けてヘリなどが置かれている。

戦闘機も置いてあるけどあれはきっと垂直離着陸の出来るハリアーだろう。

それ以外にも輸送ヘリや日本でも話題のオスプレイもある。

ただ白人を見慣れていない俺にとっては誰がアメリカ人かなんて判断できるはずもない。

そのため、その辺にいる軍人ぽい人を適当に捕まえて聞きながら進んでいく。

すると次第に周りから視線を集めている事に気が付いたので少し聞き耳を立ててみると興味深い事を話していた。


「おい、アイツあの若さで何カ国語喋ってんだ。」

「ああ、俺もさっき聞かれたぜ。その後も隣の奴とヒンディー語で話したかと思ったら次の奴にはロシア語を話してたな。」


どうやら意識を向けて話をしている相手には言葉が通じるけどそうでないと言葉が通じないみたいだ。

しかも俺の言葉が母国語で聞こえている様で相手に会わせて言葉を変えていると思われている。

ただ、ここの人達とは二度と会う機会もないだろうから意識する必要はないだろう。

そして俺はしばらく探しているとようやく目的のグループを発見できた。


「すみません。日本の者ですけどこちらに俺を乗せて飛ぶ話は来てますか?」

「何~!もしかして連絡のあったのはテメーの事か!」


どうやら仲間と一緒にカードゲームをしていた様で何やら面倒臭そうに立ち上がると俺の前にやって来た。

そして見下すような目を向け噛んでいたガムを唾と一緒に吐き出すと笑い声をあげる。


「こりゃ大ウケだぜ。もしかして正義のヒーロー気取りか。しかもそんな犬まで連れて漫画の見すぎだろ。」


これは恐らくバカにされているのだろうけどコイツは大事なアッシー君だ。

腹が立つ訳でもないので好きに言わせておこう。


「前に運んで行ったガキ共も呆気なく死んじまったからな。上の奴らは覚醒者とか言ってるがなんであんな奴らが選ばれるんだ。」


コイツはもしかして自分が力を手に出来なかった事が不満なのか。

そう言えばアメリカの人は自分の意見をしっかり言うと聞いたことがある。


「ならお前も力を手に入れてみるか。魔物の前に立てればだけどな。」

「何言ってんだお前。そんな事したら死んじまうだろうが!ケッ!ガキの浅知恵に付き合うのもバカバカしいぜ。」


そう言って仲間も含めて彼らは再び大声で笑う。

しかし、どうやら魔物を倒せば力が手に入る事は知識共有されていないみたいだ。

まあ、この性格で力を手にしたら暴走するだろうから当然の処置かもしれない。


「それなら話が付いてるなら出発してくれ。」

「チッ、スカしやがって。お前、立場分かってんのか!」


男が声を上げると、さっき一緒にカードゲームをしていた男達も立ち上がって俺を取り囲む。

どうやら止めるどころか加勢するつもりのようだ。


「テメーら殴ってもダメージ無いんだろ。飛ぶ前に俺達のサンドバッグになってくれよ。」


そう言って男は大きく拳を引いた。

それに対して俺は溜息をつくと腰のナイフを引き抜き彼らの首元をザックリと切りつける。

すると見事な血飛沫が上がり彼らは何が起きたのか分からず周りを見回した。

しかし、すぐに状況を理解すると傷を抑えてその場に倒れ込んだ。


「て、テメー何しやがる。」

「お前等の代わりに攻撃しただけだ。他にどう見える。」


俺は表情を動かさず当たり前のように答える。

そんな俺達の周りに人が集まると次第に輪が出来始めた。


「こんな事して俺達が死んだら困るのはお前だぞ。」

「ん?そんなの生き返らせれば良いだろ。それになあ、俺は別に無理に飛んでもらう必要はないんだ。ダメなら行かないだけだからな。」

「強がりは止めるんだな。生き返っても俺達がお前の言う事を聞くと思ってんのか。」


強がりはどちらかは明白だけど他の奴らはかなり限界が近そうなのでコイツだけ少し浅く入ったみたいだ。


「ああ、そう言えばお前らは死体の回収を諦めた奴らだよな。ここは海が近いから捨てればいい餌になるか。」

「バカ野郎。そんな事したら国に帰れなくなるだろうが!」


こんな奴でもやっぱり故郷には帰りたいのか。

でも他人を見捨てて笑ってられる奴が自分になると怒りを露わにする。

まるで手の付けられない不良少年と同じだな。


「別に良いだろう。鮫の腹の中でいつかは国に帰れるだろ。もしかすると上級蘇生薬ならその辺に落ちてるお前らの血で生き返る事が出来るかもしてないぞ。」

「お前・・・狂ってるのか・・・。」


すると会話の最中にも表情筋1つ動かさない俺に彼らは怒りよりも恐怖を感じ始める

そして話している途中で他の仲間は動かなくなり息も止まってしまった。

どうやらこいつと長話をしていたので間に合わなかったようだ。


「死んだみたいだな。それでお前はどうするんだ?」


コイツも既に死という現実が目に見える形で忍び寄っている。

さしずめ首から零れ落ちる血液はカウントダウンの水時計と言ったところか。

そして答えが返って来ないので俺は横に倒れる3人の足を掴むと歩き始めた。


「そいつ等を何処に連れて行くんだ。」

「海に捨てる。お前も死んだら仲良く海に捨ててやるから残り少ない時間でしっかり考えろ。」


俺はそう言って歩き出し、それによって人の輪に道が出来る。

こんな場所で騒ぎに巻き込まれたい奴が居るとは思えないので当然の対応だろう。


「ま、待ってくれ!」


そして歩き出してすぐに後ろから声が掛けられた。

俺はゆっくりと振り向いて時間が残されていない男の顔に視線を向ける。


「・・・もう決心したのか?」


すると男は奥歯を一度噛み締めると吐き捨てる様に言い放った。


「クソったれがー!今回だけは運んでやるよ!」

「そうか。それならすぐに飛んでもらおう。」


最初から素直にそう言ってくれれば時間も手間もアイテムも無駄にせずに終わっていたのにな。

これで下級ポーション1つと、下級蘇生薬を3つも使ってしまった。

昨夜の戦闘で大量に在庫はあると言っても無駄使いはしたくない。

なので次に殺した時はそのまま放置しておく事にした。

きっと仲間の誰かが見つけて助けてくれるだろう。


俺は引き摺っていた男達を離すと適当に蘇生を行ってまだ生きている方にはポーションを投げ渡した。

普通は死なんて体験したくないので男は受け取ったポーションを一気に飲み干すとホッと息を零して立ち上り再び表情を歪める。


「お前イカレてるぜ。」

「ここに来て良く言われる。」

「ケッ、皮肉も分からねえのかよ!」


男は悪態をつくと輸送ヘリの一つに入って行きエンジンを始動してから再びこちらへとやって来た。


「乗りな。ただ行きは送って行ってやるが帰りはその時次第だな。まあ、俺個人の意見なら置き去りにしてやりたいがな。」


確かに殺されそうになれば誰もがそう思うだろう。

最悪でも送ってくれれば良いので俺としても異論はない。


そして、ようやく出発するとヘリは東へと進路を取って進み始めた。。


「場所は分かってるのか?」

「当たり前だ。アイツ等が死ななかったら俺達が迎えに行く事になってたんだからな。正確な場所が分かる様に機材はちゃんと積んである。」


そう言って操縦席の横に付いているタブレットを指差するとそこには向かっている方向に反応があり、こちらに居場所を教えてくれている。

そして次第に地図の縮尺が切り替わり近付いている事が分かる。

しかし進んでいると俺達の進路上から何かが押し寄せてくるのが見え始めた。

どうやら、あれが問題の魔物の群れのようで1000匹は軽く越えているだろう赤い蟻の群れが町へと向かっている。

その中で一際大きな数匹の個体が個別に群れを形成しており指揮を執っている様だ。

周りとの比較からして4メートル以上はあり、今から向かう先にも最低1匹は今のような奴が居るはずなので回収が終わればすぐに逃げるつもりだ。

それに蟻と言っても魔物なので油断はしない方が良いだろう。


そして蟻の群れを通り過ぎると映像で見た山岳地帯が見えて来た。

正確な場所はタブレットが教えてくれているが、ここから数キロほど行った先に彼等の死体が纏めてあるようだ。


「アイツ等を降ろしたのがこの辺だな。」

「映像を見たからわかる。何があるか分からないから高度は高めでも良いぞ。」

「それだと降下用のロープが届かないが良いのか?」

「飛び降りるから良い。」


男は明らかに呆れた様な顔をして何かを言おうとしているけど結局は口を閉じた。

それにしても殴ってもダメージが来ない事が分かってるのに飛び降りるのは気にするので変わった奴だ。


そして目的地が迫ると俺は立ち上がって準備に入り、まずはオメガを抱えて目的地を確認する。


「止まらなくて良いからそのまま通り過ぎてくれ。」

「そのまま戻って来ないかもしれないぞ。」

「その時は自分でどうにかする。飛び降りる合図だけ頼む。」


俺が後ろへ行くと自動で後部ハッチが開いたので、いつでも飛び降りられるように際まで歩み寄る。


「もうじきだ。3・・2・・1・・GO!」


俺は指示に従ってそのまま飛び降りると地面に着くまでの僅かな時間で周囲の気配を探り魔物を確認する。

しかし、いたる所に気配は感じるのに姿は確認できない。

もしかすると地下に巣の様なトンネルを作っていて各所に出口があるのかもしれない。


そして地面に着地・・・というか激突すると、即座に態勢を整えて走り出した。


「オメガ、方向はどっちだ。」

「ワンワン。」


オメガは俺の進む先をジッと見て声を上げると方向を示してくれる。

どうやら運よく走っている先が目的地らしく、さっきの端末が正確ならそんなに離れてはいない筈だ。

そして、しばらく走って目的の場所に到着すると、そこには自然物ではなさそうな白い物体が周囲の岩を巻き込むように固定されていた。

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