表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/372

319追加合宿 2日目 ③

俺は組織の支部が見えて来た所でハルカへと視線を送った。

一緒に中に入ると警戒される可能性があり、行動が制限されてしまうかもしれないからだ。


「そっちは任せたからな。」

「ハルヤも囮を頑張ってね。」


ハルカはそのまま裏口へと回り、俺は表から堂々と入って行く。

ただ大人の姿ではなく組織に登録されている実年齢でだ。

そして子供の姿は例え実力があろうと相手の油断や侮りを誘う事が出来る。

地元だと知り合いも多くて通用しないけどここでなら大丈夫だろう。


それにしても、ここの支部の建物は他に比べて作りが立派でとても大きい。

本館は本部に匹敵したサイズがあり、まだ建てて間もない事が伺える。

ダンジョンが傍に在るので保管などの面から当然かもしれないけど、保管庫ではない部屋にかなりお金を掛けている。

誰かの個室だと思うけどまるで大企業の社長室と言うよりは成金部屋みたいだ。


それなのに1階の受付はお金があまり掛けられておらず安物のデスクに価格が1980円程度の椅子。

パソコンも最新型ではなくかなり古い旧式だ。

柱と天井は頑丈だけど壁は薄く軽自動車が衝突しただけで簡単に突き破れそうだ。

それなのに2階に上がる階段には隔壁が何重にも設置され、まるで1階を囮にしている内に上に居る奴等だけが助かろうとしているように見える。


それ以外にも武器、アイテム、食料は最上階に蓄えられ、セキュリティーによって厳重に隔離されている。

あれではあそこから取り出せる人間はそうは居ないだろう。

無断使用を防いだり災害時に失わない為と言えば少しは納得できるけど、それなら監視カメラくらいは付けるべきだ。

しかしカメラも無く開けられる人間が限られていれば明らかにブラックボックスと言える。

書類も多く保管されているので探すならあそこは有力候補だ。


そして自動ドアを潜って中に入るとそこには笑顔を浮かべた小太りの男が揉み手をして待ち構えていた。

しかし俺が入って行くとあからさまに表情を歪めているので、どうやら待っていたのは俺ではないと言う事だろう。

しかも何も取り繕う事もなく不機嫌な顔のまま、こちらを威圧するような態度で声を掛けて来た。


「チッ!ガキが驚かせやがて!ここはお前みたいな奴の遊び場じゃないぞ!」

「俺も遊びに来た訳じゃないからな。頼んだ仕事の進捗状況を確認したいだけだ。」

「生意気なガキだ。そこの受付に言ってとっとと聞いて帰りやがれ。」

「はいはい。」


やけに態度が悪いけどきっと重要な客が急に来る事になって緊張でもしているのだろう。

大人には大人の事情があるのでこの程度の事を気にしても仕方がない。

それに初めて来たので何処に行けば良いか悩んでいた所だ。

それを考慮すればわざわざ教えてくれたのでこちらとしても少しは助かっている。


「クソー!なんで急に最上位の奴が来る事になってるんだ!?明日は視察だってあるって言うのにツイてない!」


ふ~ん・・・俺以外にも最上位の奴がここに来るのか。

誰が視察に来るか知らないけどご愁傷様。

さて、誰に話しかけようか。


受付に居るのは3人だけど男性が2人に女性が1人だ。

さっき対応してくれたのは女性なのでまずはそちらから声を掛けてみる事にした。

それにしてもなんだか疲れた顔をしており、まるで休みもなく激務をこなした後のようだ。


「こんにちわ。」

「こんいち・・・わ!」

「眠いなら少し仮眠を取れば?」


疲れていると思っていたけどまさか目を空けて寝ているとは思わなかった。

返事をした途端に体が傾いて寸前で踏ん張っていたけど絵面はかなり酷い有様だ。

子供の前だから残りの2人の男性も苦笑をしているけど、そちらもかなりの疲労が蓄積している。

女性の方は化粧で誤魔化しているけど、男性の方は目の下にクッキリと隈が出来ているのが分かる。

すると女性は辛そうに笑いながら前のめりになってカウンター越しにこちらを見下ろして来る。

それだけでも今にも眠りそうなのでギリギリの所で踏ん張っているようだ。

きっとこんな顔でなければ10人中7人は視線を向ける程の美人だろうに勿体ない。


「それで、どういった御用ですか?」

「さっき連絡を入れたハルヤだ。」

「ハルヤ?ハル・・ヤ。ハル・ルル・・ルルル・・ヤ様~!失礼しましたハルヤ様。」


てっきり眠気で脳がバグったのかと本気で心配してしまった。

しかしどうやら驚いていただけで俺の名前を理解すると顔面蒼白で勢いよく立ち上がった。

それによって安物の椅子は激しい音を立てて倒れ、さっきこの受付を教えてくれた男が不機嫌そうにこちらへとやって来た。


「何をしている!最終日くらいちゃんと働けないのか!」

「は、はい!すみません支部長!」

「お前は良いから静かにガキの相手でもしていろ!もうじき過去の英雄とか言う迷惑極まりない奴が来るんだ!不始末などしたら明日の天皇の視察に支障が出る!」

「あ、あの~・・・。」

「黙ってお前は言う事を聞・い・て・い・ろ!良いか!ここを辞めた後も余計な事は言うんじゃないぞ!俺にとってお前1人を消す事くらい簡単なんだからな!」

「・・・はい。」

「分かったらそのガキを連れてとっとと失せろ!」

「・・・はい。」


そして受付から出て来た事で胸にあるネームプレートが見える様になった。

彼女の名前は青山アオヤマ 小春コハル・・・となっているけど本名は水瀬ミズセ 秋帆アキホだ。

なんで名前を偽っているか知らないけど何か理由があるのか、あの支部長にそうさせられているのか。

ただ、ここに支部長が居る時点で俺の役目は果たされている。

既に上の階には殆ど人が残っておらず、定時帰宅しているようだ。

居るのはここに居る受付の3人と支部長だけとなる。


俺はミズセさんの手を取ると顔色が変わらない程度に回復魔法を掛けながら一番端のベンチへと移動して行く。

そして椅子に座らせるとその横に座り、ちょっと無理にでも横にさせた。


「あの?」

「この支部に私物は残ってますか?」

『フルフル。』


するとミズセさんは俺に膝枕をされながら首を横に振って答えた。

そして濡れタオルを出すとそれで目元を隠す様にゆっくりと被せて視界を塞いだ。


「少し楽にしていれば良い。今のミズセさんはちゃんと俺の相手をしている。たとえ何があろうと文句は言わせない。」

「うぅ・・・。ありがとう・・・ございます。」


そして彼女はタオルの下で涙を流すとそのまま深い眠りへと落ちて行った。

きっとこのままそっとしておけば明日一杯は目を覚まさないだろう。

それ程までに彼女は心と体が疲弊し限界を迎えている。

しかし、そんな安らかな眠りを邪魔しようとする者が荒々しい足取りでこちらへと向かって来た。


「アオヤマ!お前何をサボっている!」

「黙れ。」

「聞こえないのか!」

「俺は黙れと言ったはずだ!」


既にミズセさんは俺の魔法で深い眠りに落ちている。

音も遮断しているので目の前の耳障りな声も聞こえていない。


「ガキが!何を偉そうに俺に命令しているんだ!」

「お前こそ誰かを待つならしっかりと相手の事を調べておくんだな。」


俺は組織の登録証を取り出すとそれを支部長へと見える様に翳した。


「そ、それはまさか!こ、こんな子供が英雄だと!本部は何をしているのだ!どうせ偽物に決まっている!すぐに警察に突き出してやる!」


すると俺の身分を信じないどころか本部を罵倒し襲い掛かって来た。

そのため俺は片腕だけを部分変化とサイズ調整を行って巨大化させると奴の全身を覆う様に掴んで拘束する。


「バ、バケモノ!?」

「俺が化物ならお前は醜い豚か?」

「は、離せ!そ、そうだ、探索者共!コイツを倒せた者には特別報酬を出すぞ!」


しかし、この場に居る誰もが動こうとはしない。

一瞬だけ報酬に釣られて動こうとした奴も居たけど俺の威圧を受けてその場に倒れて意識を失っている。

手加減はしたので死んだ奴は居ないだろう。


「ここに居る奴等程度で俺を止められると思っているのか。それともこのまま握り潰してやろうか?」

「や、止めてくれ!」

『ビキ・・・・ベキ!』

「ぎゃーーー止めてくれーーー!」

『バギバギバギ!』

「ギャアアアーーー。」

「おっと、ヤリ過ぎると殺す所だった。」


俺は適度に骨を砕いて行動力を奪うと掌を開いて支部長を解放する。

するとスマホの音が鳴ると自動で通話へと切り替わりマルチの声が聞こえて来た。


『サーバーから全情報のコピーを完了しました。』

「分かった。情報の整理を頼む。」

『了解です。』


すると数秒もしない内に次の通話が入る。

どうやら今度はハルカからのようだ。


「何か見つかったか?」

『色々見つけたわ。不正の証拠にヤベさんからの捜索願の揉み消しの証拠もよ。旦那さんの名前は矢部 命心メイシンダンジョンが解放されて1月後に行方不明になってるわ。それ以外にも数人の捜索願が出てるけど全部が握り潰されてる。』

「詳しい事は後で聞く。俺の目の前に犯人が居るからそのままアンドウさんと天皇に報告してくれ。」

『了解。』


これでここも少しは良くなるかもしれない。

ただ、それだけで俺が許すとは思わない事だ。


「おい!色々と歌ってもらうぞ。」

「な、何の事だ!い、いつの間にか傷が!」

「俺の前で楽に死ねると思うなよ。死んだら生き返らせて幾らでも肉を磨り潰して骨を砕いてやる。」

「や、止めろ!止めてくれーーー!!」


そして周囲は荒れ果て血肉が散乱し、支部長の心がバキバキに折れた所で天皇がさっそうと支部へと入って来た。

しかし室内の様子を眺めると目元を覆って大きな溜息を零した。


「ヤリ過ぎだ。これではまともな聞き取りも出来んぞ。」

「それなら大丈夫だ。」


俺はそう言って支部長の首を斬り飛ばして殺すと、すぐさま蘇生薬を掛けて蘇生させる。

それによって記憶が消去されて元の精神状態へと戻される。

但し、俺を見た途端に顔面を蒼白にさせ這う様にして逃げ出していった。


「既にこの辺の実験は終了している。程よくトラウマを植え付けといたから聞けば素直に話してくれるだろ。」

「お前は本当に敵には容赦が無いな。」

「そっちも仕事が早く片付いて湯治が楽しめるだろ。」

「・・・それもそうだな。協力感謝するぞ。」


そして考えを改めたのか一瞬で意識を切り替えてしまった。

その間に上の階に向かった者から保管庫が空いている事や、証拠の押収を開始した事が伝えられる。

しかし1つだけどうしても知っておきたい事がある。

普通なら行方不明になった者が居れば、救出隊が結成されるか俺に仕事の依頼が来るはずだ。

そうでなければダンジョンを管理しているクオナの仲間が動く事になっているはずなのにどうしてこんな事になっているんだ。


「それで行方不明者がどうして放置されているんだ?」

「実はここのダンジョンは異界の者達と初期の頃に衝突してな。その時にここの支部が一時期ダンジョンでの人の出入りを管理していた時期がある。しかし、それがずさんだったらしく入って行った正確な人数や状況を把握できていない時があったそうだ。それを俺の方で指示を出して異界の者達に任せる様になったのだが、その時には既に手遅れだったみたいだな。」

「その責任を隠すために捜索届を握り潰していた訳か。」

「今回は俺の所に嘆願書が届いたので急いで視察に来た訳だ。」


どうやら遊びに来ただけでは無かったと言う事だけど、仕事なら仕事と事前に言ってくれれば少しは手伝ったかもしれないのにな。

結果としては今回もタダ働きなのであちらは得をした形になっている。


「それなら俺は次の用事を片付けて来る。」

「すまんがそちらは任せる。俺にも立場があるからな簡単には動けん。」

「ならこれからの事は報酬を貰うからな。」

「まあ、良いだろう。何か希望は有るか?」

「昨日の蟹が良いな。」

「それなら軽い物だな。明日には準備をさせよう。」

「助かる。」


そして俺は報酬を取り付けるとまずは情報を得る為にホテルへと向かって行った。

すると到着した頃には既に情報の整理が出来ていて部屋での報告会となる。

そこでは既にアンドウさんとクオナには情報リンクと共にテレビ電話が設置され会話が可能になっていた。


「まずはクオナの方に聞きたい。今の状況で魂のサルベージは可能か?」

『可能ではありますが誰かがダンジョンに入り一度は倒す必要があります。レベルから考えて20~30階層のエリアボスとその取り巻きと言ったところでしょうか。』

「それなら問題ない。どれくらい待てば良い?」

『数日中には。準備が出来たらマルチに知らせましょう。』

「分かった。それとアンドウさんは動けそうか?」

『それに関しては既に準備は整えてある。今日中には部隊を派遣し重要参考人の確保は可能だ。』

「マルチとハルカの手に入れた資料は?」

『目を通している最中だ。かなりの横領にアイテム類の横流しもあるみたいだな。国の内外にも顧客が居るようだ。ハルヤには勿体ない人材だな。』

「マルチは俺のだ。」

『取ったりしないから安心しろ。依頼を出して手伝ってもらう事はあるだろうがな。』

「それなら問題ない。マルチも良いか?」

「は、はい!」


なんだかマルチの顔が凄い真っ赤だけど一応了承はしてくれたな。

それにダンジョン以外にも仕事があると、もしもの時に役に立つかもしれない。


「それなら準備が出来たら教えてくれ。」

『なるべく急がせましょう。』

「急ぐよりも可能な限りベストな状態で頼む。今回は出来るだけ失敗をしたくない。」

『分かりました。担当にはそう伝えておきましょう。』

「頼む。」


そして通話が切れると周りから溜息が聞こえて来る。

しかし誰かが袖を掴んだのでそちらを向くとマルチが傍まで来ていた。


「どうしたマルチ?」

「私はアナタの物ですか?」


そういえばさっきアンドウさんへ勢いでそんな事を言ったな。

でもマルチの言い方は俺が望んでいる認識ではない。


「マルチは物じゃなくて家族だろ。それに俺達の関係は一方が独占する様な事じゃない。互いに互いを共有するのが正しいかな。俺はこう言う事を言葉にするのが苦手だから上手く言えないけど、マルチにもそう思っていて欲しい。」

「分かりましたマスター。」


そしてマルチは今までで一番いい笑顔を浮かべて頷いてくれた。

俺はそんなマルチの頭を自然と撫でると周りも嬉しそうに微笑みを浮かべてくれる。


「だから俺にだけは遠慮はするなよ。」

「はい。私はアナタの傍に居られて幸せです。」


ただ、そろそろ空気を引き締めて本格的に動く必要がある。

皆には負担を掛ける事になるけど時間は有限でそれ程は残されていない。


「ちょっとダンジョンに籠ろうと思う。」

「そう言うと思ってたよ。」

「途中で投げ出すみたいで悪いけどここは任せる。」

「大丈夫だから私達に任せて。」


すると他の皆も予想が出来ていたのか快く了承してくれた。

それに今日で更にパーティが出来ているので少しは楽になっているはずだ。


そして俺は部屋から出るとマルチが事前に送ってくれた部屋割りからアイリの部屋を確認してその前に立った。


「アイリ居るか?」

「は~い。」


すると出て来たのは相部屋のスミレだ。

顔が少し赤いのは俺が突然訪ねて来たからだろう。

出来れば事前に部屋に連絡を入れておきたかったけど、その時間も欲しい程だ。


「アイリは居るか?」

「そういえば夕食後から戻って来てないですね。お風呂にも居ませんでしたし。」

「そうか。ありがとう。」

「どうかしたのですか?」

「いや、もしかしたらしばらく戻らないかもしれない。その時はアズサ達が事情を知ってるから聞くと良い。」

「はあ。分かりました。」


もしルームメイトが戻らないと流石に心配するだろうからな。

変な噂を避けるために近しい者には説明が必要だ。

俺はそう言った説明が苦手なので得意なアズサかハルカ辺りにお願いしておこう。


しかし問題があるとすればアイリの姿がホテル内に無い事だ。

店の方にも居ないので後は単純に考えればダンジョンの中だろう。

あそこは入らないと中の確認が出来ないので危険性を考慮すれば最初に消しておきたい選択肢だ。

しかし今の時点で最も可能性の高い場所でもある。

俺は転移でダンジョンの上空まで移動すると中へと向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ