315 追加合宿 1日目 ⑦
温泉施設に到着した俺達は男女に別れて浴室へと向かう事になった。
しかし、その途中で背後から着いて来ている余分なメンバーに気付き脱衣所に入る前に後ろへと振り向いて声を掛ける。
「どうしてアズサ達が着いて来てるんだ?」
「え、だって小学生以下は一緒に入って良いって1階に書いてあったよ。」
「それならしょうがないか・・・って言うはずないだろ!前世の記憶と換算したら100歳超えてるでしょ。小学生でもいけません!」
「「「ブ~ブ~!」」」
すると多くのメンバーからブーイングが飛んでくるけど、特にツクヨミとかの神勢はダメです。
見た目が変えられるからと言って幼い姿になっても他の男が居るんだから混浴は禁止!
そして皆が女湯へと向かって行くのを確認して脱衣所の入口へと手を掛けた。
「・・・どうしてミキとカナデはあっちに行かないんだ?」
「え?私達は小学生だし~。」
「婚約者でもないので問題ないですよね~。」
「・・・それもそうか。なら一緒に入るか・・・って言うと思ってるのか!?」
「え~大丈夫だよ。」
「ちゃんと両親から直筆で了承の手紙も貰ってますから。」
そう言ってカナデは何やら赤黒い水玉模様の封筒を取り出すと差し出して来る。
なんだか呪いにも似た気配を纏っているみたいだけど俺には関係ないので受け取って中を確認してみる。
『娘に手を出したら殺----』
するとそこで何かが原因で字が大きく乱れたのか紙の外まで線がはみ出している。
そして、ここにも赤黒い染みがあるけどそこからは同じように呪いの様な気配が立ち上っているようだ。
しかし、その下に文章の続きが有る様なのでそちらに視線を走らせてみる。
『ミキとカナデには今まで不自由のない暮らしをさせてきたつもりだ。しかし、その生活を捨て九十九学園に入学したいと言い出した。既に何件か婚約の話しも来ていたのだがそれらを全て断って2人は初めて私達両親に我儘を言って来た。今ではその全ての原因が君にあると言うのは我が家では公然の秘密となっている。あ~~~!ミキちゃんとカナデちゃんが行き遅れたらどうしましょう?』
なんだか最初は男っぽい文章を書いていたのに途中からは女性っぽいな。
字体も途切れるまでは殴り書いているようだったのに、その後は細く滑らかになっている。
これって明らかに途中から書いた人が変わってるよね。
それにこの血は何処かの男性の物だけど状況から考えて村上海運商事の社長であり、ミキとカナデの父親の物で間違いないだろう。
まさか2人が父親を襲って手紙を偽造したとは考え難いのでこの場合は母親と推測するのが妥当な所か。
俺は読み終えた手紙を返り血で彩られた封筒に仕舞うと2人に返した。
「お前等はこの中身は読んでるのか?」
「もちろんでしょ!」
「心の準備は出来ています。」
そして背後ではアズサ達が静かにこちらの様子を窺っている。
しかし、その手には金棒ではなく2つの婚約指輪の入った箱が握られているので既に話は着いているようだ。
なら現婚約者の許可と本人たちの意思。
そしてミキとカナデを大切に思える俺自身の想いが揃った事で2人の覚悟と想いを受け入れる事にした。
「分かった。でも俺は他の男と違って逃がしたりしないぞ。」
「それは私のセリフよ。死んでも逃がさないんだからね。」
「6年後が楽しみです。子供は何人作りますか?」
「それはきっと沢山だな。でもここで重要な事を伝えないといけない。」
「な、何よ!?」
「何でしょうか?」
するとミキは少し警戒して後ろに半歩下がりカナデは首を傾げる。
しかし、その変化に気付いている面々が後ろから忍び寄り2人の体を担ぎ上げた。
「な、なに!」
「まさか、婚約者になったから!?」
「その通りだ。たとえ施設が許しても、周りに居る他の婚約者が許すはずないだろ。ツクヨミ、月に変わってお仕置しておいてくれ。」
「分かりました。こちらでしっかりとルールを教えておきます。」
「ああ頼む。アズサに任せるとワラビの二の舞になりかねないからな。」
「ハルヤ~!図ったわね~!」
「諦めようよ、お姉ちゃん。」
そしてミキは最後まで叫び声を上げ、カナデは早々に諦めて脱衣所へと消えて行った。
その光景を後ろから見ていたゴナラは呆れながら額から一筋の汗を流している。
「俺の婚約者は肉食揃いなんだ。」
「しかし、お前も草食系では無かろう。」
「あと6年は山羊の皮を被るつもりだよ。」
「フフフ・・・山羊だけにか?」
「そういう事だ。」
これでのんびりと風呂に入る事が出来る。
それに以前は大きな湯船があるだけだったこの施設も、今ではスーパー銭湯並みの施設へと生まれ変わっている。
のんびり入って終わりにする予定だったけど、これはかなり楽しめそうだ。
ただ俺はこの時代の科学や技術の発展を甘く見ていたのかもしれない。
まさかこの施設にあんな仕掛けがあるとは油断をしていた
そんな俺はタオルを腰に巻いて中に入るとそこには水着の美女と美少女が待ち構えて・・・。
「って、何で皆が男湯に居るんだ!?間に壁があっただろ!」
「え、入り口が違うだけで壁なんてなかったよ。」
「もしかしてアレかな?」
「そう言えばここに不自然な境目がありますね。」
そう言ってアケミは天井を指差し、ユウナは床を指差した。
そこを見ると確かに天井には何かが上がった様な不自然な物体がぶら下がっている。
そして、床には部屋の中央付近に変な境目が確かにある。
そうなるとやっぱりさっき見た時に壁があったのは間違いない様だ。
「おい、ゴナラ容疑者。何か弁明は有るか?」
「さ、さあ~の~?歳を取ると物忘れが酷くなってイカんわい。」
「ホホ~・・・。もう1度だけ聞こうか。悪魔王に嘘をつくとどうなるか知ってるよな?」
聖書によれば悪魔王は嘘つきを嫌い、嘘を言った者の舌を抜き生皮を剥がしたと記載されている。
俺はそんな事を1度もした事が無いのだけど、今なら回復させながら心臓を何度か握り潰すくらいはしても良い気がする。
今の状況は明らかにそれくらいの罪があったとしてもヤリ過ぎでは無いはずだ。
「ま、まあ、落ち着くのだ。ちょっとしたサプライズじゃ。」
「そうか。なら俺もサプライズをくれてやらないと失礼だろうな。」
俺はそれだけ言ってゴナラの頭を掴んで持ち上げると備え付けのサウナ室へと連れて行った。
そして周囲をしっかりと強化するとその中にあるセンサーに水をかけてスチームを発生させ、そのまま放り込んで扉を固定する。
ちなみに、この行為は一般の施設だと故障や怪我の原因になるので禁止されている行為だ。
まあ、死ねば生き返らせて壊れたら弁償をしても良いだろう。
「な、何をするか!?」
「のぼせる前に出してやる。」
「おのれ~今の俺を舐めるなよ!」
「ならオマケを付けてやるよ。」
俺はそう言ってサウナ室内に魔法の炎を発生させた。
一応さっきまで確認していたけどサウナ室のスチームくらいでは神の加護を強く受けたゴナラを蒸し上げる事は出来ないらしい。
しかし魔法なら防御を突き破って熱さを感じさせる事が出来る。
それに魔法の火は酸素を消費しない事は既に分かっていて学校でも習っているので窒息の心配は無い。
「おい!洒落になっておらんぞ。」
「洒落じゃないから安心しろ。生きてるうちに俺の説明書をもう一度ちゃんと読むんだな。」
「誰でも良いから助けてくれ~!」
「「「・・・」」」
しかし、その声に応える者は誰も居らず、既に神々は酒盛りを始めてアズサ達は施設を堪能している。
条件もなく助ける様な事はまずしないだろう。
するとゴナラは俺の言葉通りに説明書を取り出すと必死な顔で捲り始めた。
ちゃんと普段から持ち歩いているとは殊勝な心掛けだ。
すると捲っている最中に1枚の手書きのメモが足元へと落ちたのでそれはヨモギが潜ませておいた物に違いない。
それを手に取って目を通すと周りに聞こえる声で叫び始めた。
「結婚式は私の権限で好きな所で開かせてやるぞ!」
すると婚約者たちの耳が一瞬でこちらへと向けられ、流石と言うかヨモギは皆を動かすツボを心得てる。
しかし、それでも動こうとはしないのはまだ何か引き出せる物がありそうだと感じているからだろう。
それにメモ用紙に書かれている事は皆が予想している通り1つではない。
「ならば一部の者・・・そうだな。この国で貢献度の高い者の結婚年齢を2歳引き下げるぞ!」
『『『ザパ~~~!』』』
その声が鶴の一声となり皆は立ち上がった。
どうやら結婚を待つ期間の短縮は彼女たちにとって魅力的過ぎたという事だろう。
俺の肉体年齢は既に大人と言える状態にいつでもシフトできるので法律さえ問題なければ今すぐにでも結婚できる。
ただ、その場合は子作りに関してのみ、皆の体が成熟するのを持ってもらうだけだ。
そしてサウナ室の炎が消え、代わりに大量の水が発生すると扉を開いてゴナラを中から流し出した。
「今回もヨモギに感謝しておくんだな。」
「お前は最近ゲンに似て来てるぞ。」
「これでも1番弟子だからな。師の方はあそこで酒を飲んでるけど、以前なら俺と一緒にここに立ってたぞ。」
ここにはトウコさんも含まれているので、以前のゲンさんならたとえ古い知り合いだとしても容赦はしなかっただろう。
死に別れてから再び会うまでかなりの年月が空いているので、あの2人も今ではかなり丸くなっている。
やっぱり学校を経営していると子供から影響を受けてしまうのだろうか。
そう言えば俺も少し性格が丸くなっている気がするので、きっと人間に戻ってからたくさんの生徒たちと触れ合って来たからだろう。
しかし、なんだか神に類するメンバーが肩でもこっているのか、何度か首を横に振っているのが目に入る。
それなら酒なんて飲まないで温泉にゆっくりと肩まで浸かれば良いだろうに。
俺は呆れた表情を浮かべると息の荒いゴナラを回復させてアズサ達の許へと向かって行った。
不本意ではあるけどせっかく混浴になったので皆の成長をこの目と脳内メモリーに保存しておかないといけない。
ただ、混浴なれどマナーとルールは護らないといけない。
今の状態では裸と変わらないので素早く水着に着替えてからみんなと一緒の湯船へと浸かる。
「そういえば、こうして沢山で風呂に入るのは転生してからは初めてだったな。」
「以前は秘境に温泉を掘ったり厳島の家で入ってたけどね。」
「でもこの人数で入るなら大浴場を貸し切りにしないとダメっぽいよね。」
「でもお湯が汚れそうです。」
「そうよね。ハルヤの汚れは浄化でもなかなか無くならないから困り物ね。」
それは一体どんな汚れを想定してるんだ?
俺は人様の迷惑になる様な事はなるべくしないと決めているんだけど。
「いざとなればアズサの聖光があるから大丈夫だろ。」
「ハワワ・・・。まさかハルヤさんがこんな公衆の面前で性交なんて言葉が出て来るなんて。」
すると何故か言葉が変な方向に変換されてしまったらしくカナデが顔を赤らめている。
しかし、ここで更にこういう事ではジョーカーと呼べるユウナが俺よりも早く、言葉のキャッチボールを受け止めてしまった。
「カナデちゃん、お兄さんも我慢しているのですからそこは突っ込んじゃダメですよ。」
「そ、そうでした。ごめんなさいハルヤさん。」
「・・・いや、聞き間違い?は誰にでもある。」
「そうですよ。私達は突っ込むのではなく突っ込まれる側ですからそれまで貝の様に防御を固めて貞操を守らないといけません。」
「はい!」
あれ?なんでこんな話の流れになってるんだっけ?
確か最初は皆で風呂に入っていた思い出話だったはずなんだけど、どう暴走したら今みたいな状態になるんだ?
しかし早く話を修正しておかないと先走る者が出るかもしれない。
俺ではガソリンを注いでしまうかもしれないので、まずは火消し役であるアズサへとアイコンタクトを送った。
(ボスケテ下さい。)
(仕方ないな~。)
そしてアイコンタクトと言っても種を明かせば意思疎通のスキルで助けて欲しいと漠然とした思いを伝えただけだ。
それでもアズサはちゃんと分かってくれた様で苦笑しながら頷いてくれる。
「さあ皆。良い話の途中だけど抜け駆けはダメだからね。順番を守らない人は容赦なくお仕置するからやるなら覚悟して。」
「「「は~い。」」」
まさかまだ何年も先の事なのに順番まで決めているのか。
まあ、今は避妊具の性能が素晴らしいのでその時が来るまでにちゃんと購入しておかないとな。
確か薬局に行けば売っているはずだから暇な時に確認をしておこう。
そして、なんとか状況が落ち着いたのでバブルバスで横に並んで一緒に入ったり、広い浴槽でラッコみたいに誰かをお腹に乗せて漂ったり、髪を洗ったり背中を流したりして存分に楽しんだ。
「何だかんだ言ってあの者が一番楽しんでおるな。」
「我が弟子1号は切り替えだけは早いからな。これに懲りたらこの手の事であまり揶揄わん事だ。」
「まさに薬にも猛毒にもなる奴だな。」
「あら?あの子はあれで扱い易いのよ。大事な人が関わってなければ怒らないもの。今回はやらかした対象が悪かっただけよ。」
そんな会話がゲンさん達から聞こえて来たけど、今後の為にしっかりと言い聞かせておいてほしい。
そして俺達は施設を十分に堪能してから浴室を後にした。




