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312 追加合宿 1日目 ④

朝の移動から色々あったけど、まだ合宿は始まってすらいない。

俺達はいまだにDJN99との正式な顔合わせすらしておらず、最初の目的地だったホテルに到着しただけだ。

そして受付を済ませるとこのホテルで一番大きなパーティー会場へと向かって行った。

俺達は扉を空けて中に入ると既に全員がこの部屋へと集まっているようだ。

しかし一瞬見ただけでも幾つかのグループで集まって目に見えない壁が出来ているのが分かる。


まず1つ目はDJN99の中でも齢が上の女性達だ。

見た目はアイドルと言うだけあって美人が揃っているけど緊張をしているのが分かる。

きっと彼女達が男性不振になりかけているというメンバーだろう。


それ以外には幼さの残る若いメンバーは普通にしているけど、先輩たちの前では遠慮をしている様に見える。

なので彼女等に関しては前者の子達をどうにかするのが先決と言えるだろう。


そして男性陣はファンの奴等が一塊になって固まっている。

ただし、さっきまではあんなにはしゃいでいたくせに今は緊張でガチガチになっているようだ。

足は震えているし碌に視線すら合わせられていないので、これではパーティを組んでダンジョンに入るのは難しいだろう。


そして、もう1つのグループはAとBチームで死亡し真偽官のお世話になった奴等だ。

そいつ等の殆どは彼女たちのファンではない様でこちらも1カ所に集まって様子を窺っている。

どうやら既に後が無い事をしっかりと理解しているらしく、アイツ等からは崖っぷちに立って居る者たち特有の緊張感が感じられる。


「皆にはDJN99で普通にしてる奴等を任せるよ。マルチにはチーム編成を任せたからな。」

「任されました。」


アズサ達に関しては難しい生徒は任せられない。

見た目もそうだけど指導の経験が浅いのでトラブルがあると対処が難しくなる。

こちらで常に確認は怠らないけど備えておく必要があるのは確かだ。

それにマルチならそれぞれのメンバーに合わせて上手くチームを組む事が可能で、ハルカも協力してくれるようなので2人での話し合いが開始されている。


「それとケイ。お前にも教官をして貰うぞ。」

「癖のある者が多そうですね。」

「その辺は上手くやれ。今までの奴等に比べれば子供と変わらないだろ。」

「まあ、その通りですね。」

「ミドウさんは俺と一緒だ。異論は認めない。」

「お手柔らかに頼むぜ。」

「善処しよう。」


後は男性不振な奴を加えて問題児をトッピングしてやれば俺のパーティが完成する。

今回はササイも来ているのでアイツにもパーティを率いてもらう予定にしており、あんな感じだけどリーダーとしての素質が高い。

この事に関しては既に本人の了承は得ているのでマルチの方でも数に入れており、きっと上手く間を取り持ってくれるだろう。

それ以外にもルリコの両親やココノエ先生なども参加してもらい、どちらも今では熟練の教官となっているので問題は無い。


そして、それぞれのスマホへとチーム分けの編成が送られると、それぞれの許へ向かい移動が開始された。

すると俺の前にはさっき話したミドウさんの他にタチバナと数名の男達がやって来る。

それ以外にも女性が4人来ていて彼女達は実際に被害にあった事のあるDJN99のメンバーだ。

ストーカーや行き過ぎたパーティ勧誘を受けた事があって俺が解決した案件もあるらしい。

俺は覚えていないけど彼女達からは何度も俺に会いたいと申請が来ているそうだ。

まあ、今の俺はあの時と姿が違うので分かる奴は居ないだろう。

しかし正体を知っているタチバナは早速噛みついて来た。


「テメーふざけてんのか!?」

「黙れ。今の俺は山羊教官だ。」

「や、山羊さん!」


すると俺に向かって誰かが飛びついて来たけど、こんな事をするのは1人しか居ないので優しく声を掛けながら注意をしておく。

こういう所ではなるべく公私混同は控えた方が良いからな。


「こらこら、今はそういう時間じゃないだろルリコ。」

「え?私はこちらですよ。」


しかしルリコかと思えばどうやら別の山羊好きが居たみたいだ。

そして抱き着いてる相手を見ると、俺のパーティメンバーに選ばれている日向ヒナタという女性だ。

しかし、どうしてずっと探していた相手に出会った様な顔をしているのだろうか?


「やっと会えました。あの時はストーカーから助けて頂いてありがとうございます。」

「メ、メェ~・・・?」

「あ、ごめんなさい。どうしてもお礼が言いたくて。それにあの時も『俺は通りすがりの唯の山羊だ。』って言ってましたね。」


・・・うん。

それは絶対に俺だろうな。

もし被り物ならそいつもストーカーと同じ変質者だ。


「ゴホン!そ、それはきっと別の仲間の山羊だろう。」

「それなら、その方にお礼を伝えてください。」


そう言って彼女は俺の手を取ると優しい微笑みを浮かべてくる。

これは誤魔化しきれていない気がするけど、これは不可抗力だから皆も睨まないでくれ。

立ち上っている威圧の余波で生徒たちが怯えてしまっているぞ。

ただ、このままでは話しが進まないので別の姿に変わるとしよう。

そして姿を変えると・・・。


「狼さん!」

「え?」


すると今度は別の女性が飛びついて来ており、そこを見ると今度は愛菜マナという女性が抱き着いていた。

どうしてこんなに立て続けに飛びついて来るのだと疑問に感じるけど、大人と言える年齢なのだから慎みを持つべきだろう。


「あの時はどうもありがとうございました。」

「どういう事だ?」

「ダンジョン内で皆と逸れた時に変なパーティに絡まれてた所を助けてくれましたよね。」


そう言えばそんな事もあった気がするな。

確かその時に言ったセリフは『豚共、その子は俺がエスコートする事になっている』だったかな。


「それで『豚共、その子は俺がエスコートする事になっている。』って言ってそいつ等を追い払って地上まで送ってくれました。」


俺の心の声と彼女の言葉が完全に被り、キザな狼さんは俺であると証明してくれる。

確かあの時はハードボイルドな漫画を見ている時に依頼を受けたのでその影響でそんな事を言ってしまった。

ある意味では完全な黒歴史と言っても良いだろうから出来れば忘れてもらいたい。


「ゴホン!そ、それはきっと別の仲間の狼だろう。」

「そうかもですね。ならその方にもお礼を伝えてください。」


そう言って彼女は俺に向かって可憐な笑みを浮かべた。

その途端に部屋の温度が下がった様な錯覚を感じたけど、それと同時に誰かが倒れる様な音が聞こえて来る。

もしかするとファンの男共が今の笑顔にやられて気絶したのかもしれない。

しかし、このままでは再び話が進まないので仕方なく別の姿へと変わる事にした。


「ふ~・・・何かデジャブを感じるのは俺だけだろうか。」


見なくても何が起きているのかが分かる。

残りの2人である恵那エナ乃彩ノアが揃って飛び付いて来ている。

それと同時に部屋の温度が氷点下まで急低下したように感じた。

しかし、このホテルの空調は性能が良いのだろうけどちょっと下げ過ぎではないだろうか。


「それでお前らは?」

「ライオン仮面さん。また会えると思っていました。」

「あの時は道に迷っている所を助けてくれてありがとうございます。」


そう言えば有料チャンネルで昔の特撮モノをやっていて、「あれなら俺もなれそうだな。」なんて思ってた時があった。

外では恥ずかしいのでダンジョン内でポーズを取っている所に誰かがやって来てその現場を見られてしまったから咄嗟にそう名乗った記憶がある。

ただ、これも言い換えれば黒歴史という奴なので今なら何であんな馬鹿な事をしてしまったのだろうという反省しか湧いてこない。

やっぱり勢いで行動すると碌な事にならないな。


それに思い出して来たけど確かあの時は一緒に連れて来ていたインストラクターが逃げ出したらしい。

そのため道も分からず帰れなくなっていた所で俺を発見したそうだ。

なんでもダンジョン内で困っているとライオンの姿をした探索者が助けてくれるという噂を聞いていて藁にも縋る思いだったらしい。

でもそんな恥ずかしい事をした覚えはないので別の奴の仕業だろう。


「お、俺はライオン仮面ではない。そ、そうライオンマスクだ。だから君たちを助けたのとは別人だ。」

「それなら、もしその人に会ったらお礼を伝えてください。」

「私達はまた会えるのをいつでも待っています。」


すると2人はまるで清流を思わせる清らかな笑みを浮かべて見せた。

それにしても違うと言っているのにどうして誰も信じてくれないのだろうか。

なんだか室内なのにブリザードが吹き荒れているけど、この部屋にはこんな手の込んだ仕掛けが設置されているようだ。

しかしパーティー会場でこんな寒さはノーサンキューと断言したい。

いったい何処にそんな需要があるのだろうか?


そして何人か犠牲者が出たけど外は夏の日差しが照り付けているので移動していれば体も温まるだろう。


「それじゃあダンジョンに向かうぞ。」

「「「「はい!」」」」

「チッ!」

「「「お、お~・・・。」」」


その後、俺達はホテルを出るとまずは目的地であるダンジョンへと向かって行った。

そこには何度も来た事のある石手寺という寺があり、その敷地内にダンジョンが設置されている。

ただホテルを貸し切りにしていてもダンジョンまではそうもいかない。

それにここは以前から一般の観光客も訪れていた場所なので平日でもそれなりの人が居る。

今では外からでも入り口を見ようとする観光客に加え、ダンジョンに入る探索者たちが居るので人を避けないと進めない程だ。

ただ流石にダンジョンへと入らない人は一定以上の距離からは近寄らせない様に警備を含めて警察官が常駐している。

ここでもし問題を起こせば即逮捕もあり得るので大きな問題を起こす奴は殆ど居ない。

起こすとすればここから離れた帰り道かダンジョンの中になる。


しかしDJN99の知名度が高まっているからか、こちらに気付いた人々が手に持っているカメラやスマホを向けて来る。

それに対して彼女たちは胸を張って進んでいるけど、その手に汗を握り締めているのがすぐに分かる。

あれは今が熱いからとか、緊張しているからだけでは無いだろう。

すると、そんな中で更に前に出て胸を張るだけでなく周囲を威圧する者が現れた。


「邪魔だテメー等!遊びなら俺の前に立つんじゃねえ!」

「わ!何するんだ!」

「警察に通報するぞ!」

「騒ぐんじゃねえ!俺の前を遮るなって言ってるんだよ!」


そして、ここで問題寸前のやり取りをしているのは俺達のメンバーであるタチバナだ。

手を触れていなくてもその大きな体と巌の様な筋肉は相手を圧迫し、手足をもつらせた奴等を押し倒している。

あれなら警察が来たとしても逮捕はされずに通してくれるだろう。

その証拠に泣きそうな声で叫んでいても警察官の人達は視線は向けていても動く気配はない。

それにあそこに居る人たちには既に通達がされているだろうから余程のトラブルでない限り俺達の見方をしてくれる。

そして人の壁がタチバナが進むにつれて割れて行き、入り口が見える様になった。


「チッ!ビビるくらいなら最初から文句なんて言うんじゃねえよ。」


しかし悪態をつきながらもその意識が仲間である彼女達へと向いているのを俺は見逃さない。

どうやら先日の合宿は散々な物ではあっても、そこから何も得ていない訳ではなさそうだ。


「フ!」

「な、なんだ山羊野郎!」

「べっつに~~~。」

「ムカつく言い方しやがって!テメー等もとっとと行くぞ!」


するとタチバナも肩を怒らせながら吠えると入口へと向かって行った。

ただ、その顔が赤いのは俺が揶揄ったからだけでは無いだろう。

それに今のやり取りで周りの緊張も解れて笑みが漏れている。

そして入り口でそれぞれの身分証のカードを翳してゲートを潜るとダンジョンへと突入して行った。


すると視界が開けそこには1つのフィールドが広がっている。

ここは以前なら第2ダンジョンと呼ばれていた所でオークなどの獣系の魔物が居た所だ。

それは今も変わらず1階層~5階層まではオークが現れる。

階層を下りるにつれて次第にサイズが大きくなり、子供くらいの大きさから2メートルを超える巨体になる。

その後は猪などの完全な獣型の魔物が現れ始め、狼やウェアウルフなども居る。


「まずは適正階層まで下りるぞ。レベルの低い奴も居るからまずは10階層を目指そう。」

「え、この人たちそんなに弱いの!?」

「ちょっと鍛える時間がなかったんだ。すぐに追いつかせるから今日だけ待っててくれ。」

「アナタが言うなら・・・。」


彼女達にとって俺の言った階層は散歩に出かける様なものだ。

他でもそう言った奴らが数十人は居るので今日は様子見ついでにレベル上げをするだろう。

それに今日はちょっとしたお楽しみを準備してあるので、きっとレベルが上がるのもそれ程の時間を必要としないはずだ。


「タチバナ。今日はお前が副リーダーだ。」

「ならリーダーはお前かよ。」

「リーダーはミドウさんだ。俺は教官として後ろで見てるからな。まずは実力の不足している吉田ヨシダ田中タナカ池田イケダ藤井フジイの4人と一緒に魔物を倒してレベルを上げろ。」

「そこのそいつは良いのかよ?」

「ミドウさんは既に20階層付近までは単独でも下りられる。お前は他人の心配よりも自分の弱さを自覚しろ。」

「チッ!いつかぶっ殺してやるからな!」

「そう思うんなら早く強くなれ。俺も足踏みしてる訳じゃないからな。」

「あんな化物みたいな強さでまだ上を目指してるのかよ。」

「お前も護る者が出来れば分かる。」

「言ってやがれ!」


やっぱりコイツはステータスに関する理解が足りていないようで、確かに自分一人の為だけに力を高める事も出来る。

しかし、それには自分を極限まで追い込めるだけの精神力と覚悟と才能が必要だ。

そんなのはコイツどころか俺にだって無理だと断言できる。

それにステータスを真に鍛えるには自分の為でなく、自分が大切に思う存在が必要不可欠と言える。

恐らく俺もアズサ達が居なければ過去で命を落としてここには居なかった。

だから俺達の子孫だと言うなら早くそれに気付いてもらいたい。


そして俺の指示があれば下へ降りる階段へは一直線だ。

それまでに現れた魔物は雑魚と言っても間違いではないので倒しながらでも1時間ほどで目的の10階層へと到着した。

すると、そこにはこの階層に現れる階層主と言えるウェアウルフとその取り巻きであるウルフたちが待ち構えていた。


「おい!ちょっと多過ぎないか!?」


するとあまりの数にいつも強気なタチバナも弱腰に声を掛けて来る。

確かに数にすれば300匹は軽く超えているだろう。

例えレベルが相手よりも高いと言っても圧倒的でなければダメージを受けてしまうので戦闘になれば彼らの中で無傷でいられる者は居ない。

それはもちろんDJN99のメンバーでも同じ事だ。

特に5の倍数の階層に居る魔物は通常よりも1ランク~2ランク上の強さを持っている。

この場合はウェアウルフだけがその強さを持っているけど俺とミドウさん以外には一撃で致命傷を与える事が出来る。

そして声を掛けられた俺はと言えば、暢気な顔でスマホを使い外と連絡を取っていた。


「ええ、・・・はい。到着しました。」

『それではこちらで魔物の発生数を調整しておきます。』

「お願いします。まずは1秒に5匹で。」

『了解しました。』


今のダンジョンでは魔物の発生数をある程度は好きに調整できる。

普段は枯渇しない様に調整され、最大で1秒に50匹までは増やす事が可能だ。


「おい待てよテメー!本気でそんなのをやらせるつもりかよ!」

「少なかったら言ってくれ。まだまだ追加は可能だからな。」


ちなみに増やすのはウルフだけでウェアウルフはまだ増やさない。

そんな事をすると流石に全滅してしまうからだ。


「ミドウさんとヒナタたちも参加したかったら好きにして良いぞ。無限湧き状態にしてるから準備運動にはなるだろう。」

「確かに彼らだけだとキツそうだな。」

「それならちょっと行ってきます。」


そして、こちらが動き出すのを待っていたかのようにウェアウルフは片手を振って指示を飛ばした。

するとウルフたちは一斉に走り出しと、こちらへと押し寄せて来る。

その状況に先頭に立つタチバナは僅かに後退し顔には冷や汗を掻いていた。

しかし人間は一度逃げ癖が着くとなかなか治らないというけど本当のようだ。

強がっては居るけどアイツはメガロドンに追われた時の恐怖から今も抜け出せていない。

他の奴らはそうでもなさそうだけど精神面の事なので自分で乗り越えてもらう必要がある。


するとその横をミドウさんとDJN99のメンバーが駆け抜けウルフと正面から激突した。


「アナタって大きいのは態度と体だけなのね。」

「弱い相手にしか威張れないのはカッコ悪いわよ。」


そして通り過ぎる時にそれぞれに声を掛けて行くけど励ましの言葉は1つもない。

きっと今は強制的に組まされているだけの相手という認識をしており、パーティや仲間と言うには互いの関係が希薄過ぎるからだろう。

いまだに実力すら認められていないのだからこんな対応も当然と言える。

しかし、それでも女に侮られたくないタチバナとしては十分な効果があったみたいだ。


「うるせえ!タイミングを計ってただけだ!」

「それなら私達のお尻を負わずに前に出て戦いなさいな。」


既に最初の衝突から彼女たちはそれぞれに10を超えるウルフを始末している。

ミドウさんは何も言わないけど危険な片端を1人で担当し、その倍以上のウルフを片付け、更に状況を見守っている。

そして反対の端へとタチバナたちが加わり殲滅速度が更に上昇した。


「あ~あ~聞こえますか~。」

『感度良好。どうかしましたか?』

「発生速度を2・・いや4倍にしてください。」

『了解。』

「ちょっと待てやテメー!俺達を殺すつもりか!」


するとこの状況でもしっかりと周りの状況を確認していたタチバナから怒号が飛んでくる。

性格や実力に難はあるけど、こういう所はリーダー向きなんだよな。

激戦をしていてもちゃんと周囲の確認を怠らないのは十分に評価が出来る。

しかし、このままでは1分と経たずに魔物が居なくなってしまうので、1秒に20匹程度がベストだろう。


「死にたくなかったら頑張って戦え。」

「そうよ!アナタは口よりも手を動かしなさい!」

「クソー!覚えてやがれ!」


そしてウルフたちの勢いは衰えず、少しずつだけど傷が目立ち始めた。

今の段階で無傷なのは装備とレベルの高いミドウさんくらいだ。

するとウェアウルフが動き、その爪と牙がミドウさんへと襲い掛かる。


「うお!ボスの登場かよ!」

「すみませんがフォローが出来そうにありません。」

「こっちはこっちでどうにかする。お前等は自分の事に集中しろ!」

「「「はい!」」」


ミドウさんにはウルフの攻撃が通らないのでそちらは問題が無い。

しかし、手足を噛まれれば動きが鈍り隙を作ってしまう。

そこを突いて攻撃の通るウェアウルフが襲い掛かり僅かずつでもダメージを与えていた。

それでも今はまだ余裕が消えただけで互いの戦力は何とか拮抗している。

何故なら男性陣のレベルが少し上がった事と、タチバナが奮起している事が大きく作用しているからだ。

そうでなければ今頃は敗走を余儀なくされているだろう。


「・・・ここだ!」

「グオアーー!」


するとミドウさんが相手の攻撃に合わせてカウンターを狙いウェアウルフに深い傷を負わせた。

その1撃は明らかに致命傷で例えその場を離れても放っておけばいずれは命を落とすだろう。

しかし魔物は手傷を負っても滅多に下がったりはしない。

その闘争心は衰える事無く鈍った動きで最後の特攻を仕掛けた。


「動きが丸見えだぜ!」

「気を付けろ!まだいるぞ!」


すると反対の端からタチバナの声が飛んで来た。

それによりミドウさんは僅かに早く行動に移す事が出来たので相手の攻撃を紙一重で躱し、手負いのウェアウルフの首を斬り飛ばす事に成功する。

そして、すぐに攻撃が放たれた所へと視線を移すとそこには新たなウェアウルフが2匹居てミドウさんへと襲い掛かろうとしていた。


「おいおい!ボスは1匹じゃないのか!?」

「ああ、さっき俺が頼んで新しく湧かせてもらった。これからはウルフに混じってウエアウルフも出て来るから気を付けてくれ。」

「聞いてたのよりずっとハードだね~。」


とは言ってもミドウさんには相手の攻撃がしっかりと見えており、今の不意打ちも見切って躱しているので問題にならないだろう。

なのでここで大変になるのはその他のメンバー達だ。

女性陣は軽傷だけど男性陣には既にかなりの量で血を流している者も居る。

このままでは数分もすれば流れが変わるのは間違いない。


しかし、いまだに目立った成果を見せないので俺が手を出す事は無く、このままでは敗走するか全滅するかの2択しか無いだろう。

そして魔物は相手の成長なんて待つ必要などないので、更なる窮地へと追い込まれて行った。

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