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30 到着

『ボボボボボボ』


別に昔に放送していたギャグアニメの主人公が降臨した訳ではない。

これは精霊の攻撃によって発生している音で先程とは別物?別人?に変わっているからだ。

その一撃は相手の頭部を炭化させ呆気なく魔石へと変えていく。

魔物に触れた所からは炎が上がり、相手が向かって来るだけで倒してしまう。

しかし横を見るとリアムは頑張って何かに耐える様な顔をしている。

どうやら今の様に激しい戦闘でも体力が消耗するみたいだ。

やっぱり強化しておいてよかったと思いながら下級ポーションを渡す。


「ちょっとずつ飲みながら体力を維持しろ。そして自分に適した戦闘スタイルを探すんだ。」

「うん。」


ポーションを飲んだからと言って楽になる訳ではない。

体力の急激な低下は抑制できても消耗による倦怠感は継続する。

恐らく今の状況は全力疾走から速めのランニングに変更したくらいだろう。

更に消耗するようなら中級ポーションに変更する必要がある。

今は仕方ないとしてもあの精霊には意思がある様なので、その辺も考えて戦わせた方が良いだろう。


ただリアムはいまだに10歳にもならない幼い少年だ。

本当は俺ではなく同じ能力を持ち、自分で検証、判断を下せる奴に教わった方が良い。

今の俺ではもし体力に限界が来た場合の対応が分からない。

精霊に体力を吸い尽くされて死んでしまうのか、それとも寸前で消えるだけか。

自分ならこれ以上はヤバいなと判断できるけど、その辺をリアムに判断させるのは難しいだろう。


それに話した感じからコイツも感情面ではあまり変化をしていないようだ。

これが俺の様な感じならもっとストイックでギリギリの検証が出来るのだけどそれは無理だろう。


それにしてもこれなら俺も参戦した方が良さそうだ。

敵を倒せばドロップアイテムも手に入るので無駄にしたくない。


「オリバー作戦変更だ。俺も戦うから少ししたら戻って来てくれ。」

「分かった気を付けろよ。」


俺はバスから飛び降りるとそのまま魔物の群れへと向かって行った。

そして背後から一気に敵を斬り裂き精霊の許まで向かう。


「後ろは任せたからな。」

『ボボー。』


返事の代わりに炎を噴き上げ俺達は背中合わせで敵と戦い始める。

どうやらこいつらの強さは鰐男なら部下たちとそれほど変わらないようだ。

感じとしては動きが早く防御は低い。

剛力を使うまでもなく剣で簡単に斬り裂けるので後ろさえ取られなければ敵ではない。

それに今は剣からショートソードとナイフに持ち替え小回りを利かせて手数で捌いている。

後ろが一撃必殺の状態なので俺はサポートに回った形だ。


それにリアムも急激にレベルが上がりそれが精霊にも影響して今では身長が2メートルを越えている。

そのためここでの戦闘は予想を上回る速度で終わらせることが出来た。


そして俺達が魔物を倒し終わってドロップも拾い終わった頃にバスが戻って来た。

その時に分かった事は精霊は見た目は炎の塊だけど自身の体温を自由に調節できるみたいだ。

俺と一緒にアイテムを拾ったのだけど手渡された時に全く熱量を感じなかった。

そして物が掴めると言う事は人の持ち上げる事が出来るのかもしれない。

これでリアムが飛べるようになる夢に一歩近づいたと言えるだろう。


そしてバスに戻ると中から子供の泣き声が聞こえて来た。


「生まれたみたいだな。」

「ええ。元気な女の子よ。出来ればお湯で洗ってあげたいのだけど・・・。」


そう言って赤ちゃんをタオルで拭きながら困った顔で言って来る。

しかしガスコンロはあるけどバスの中で火を使う訳にもいかなかったのでお湯までは準備できなかった。

走っている時に揺れてひっくり返ったらそれこそ危ない。

しかし、今はちょうど止まっているのでお湯を準備できないかと思っているのだろう。


「それなら丁度良いのが居るから少し待ってろよ。」


俺はバスの上を見上げてそこに居るリアムに声を掛けた。


「リアム、下りてきて精霊に湯を沸かしてもらえ。オメガは水と鍋を頼む」

「分かった~。」

「ワン。」


リアムは屋根から飛び降りるとオメガから鍋と水を受け取って湯を沸かす準備を始めた。

ちなみに精霊はサイズがある程度は自由に変えられる様で今は最初に現れた時よりも小さく20センチくらいになっている。

そして鍋に水を満たし終わると精霊に声を掛けた。


「お願いするね。」


精霊はその声に頷くとシュワッと飛び上り無駄な捻りと回転を加えて鍋の中に飛び込んだ。

一瞬、水蒸気爆発を起こすんじゃないかと思ったけどその心配は杞憂に終わった。

ただ、なんだか風呂に入る様なゆったりとしたスタイルで鍋に入っているのでちょっと羨ましく感じる。


そして程よく50℃くらいになったお湯をアイコさんへと渡し、後は大きめの鍋に移して水を足せば湯加減は調整できるだろう。


「ありがとう。これなら光熱費が減らせそうね。」

「いいから早く洗ってやれ。それと妊婦に下級ポーションを飲ませればすぐに体調も整うと思うぞ。」

「ありがとう。残った処置は町に着いてから医師を探すつもりだけど体力も消耗してるから試してみるわ。」


そう言って子供を抱えて母親であるイザベラの所に行くとポーションを飲ませ始めた。

すると顔に浮かんでいた疲労が消え去り、お腹などの弛みまで改善されている。

そして驚きながらゆっくり立ち上がると鍋で洗われる赤ちゃんの許へと歩み寄った。


「私にもやらせてください。」

「気を付けてね。」


そう言って変わるとアイコさんは次の新しいお湯を準備し始めた。

少しここで止まる事になるけどこれで速度が上げられる。

まだ早朝なので急がなくても2時間くらいで到着するだろう。

ただ、次の魔物が迫っている可能性もあるので程々で出発したい。

そして、その後は10分ほど停車し、再び俺達の乗るバスは走り始めた。

運転手はアイコさんに交代し、座席では家族4人が笑みを浮かべている。


そして、他の人達も誕生の瞬間を目の当たりにして少しは元気が出て来たみたいだ。

すると運転をしながらアイコさんが手招きをするので俺はそちらへと移動していった。


「ところで船にはどれだけ乗れるの?」

「聞いた範囲では日本人が優先で他は可能な限りという事らしい。」

「そうなると彼らの中に乗れない人が出るかもしれないのね。」


そう言っている時の顔は再び昨夜に見た時の様な険しい表情になっている。

どうやらまた病気が出始めたようで面倒事な気配を感じる。


「一応、幾つかの国が船を集めてるらしいからそれに期待しろ。国の決定に俺達が関与できるはずないだろ。」

「ええ・・・そうよね。」


ちなみにそこの4人ならゴリ押ししようと思えばできる。

せっかくの有能な人材なので連れ帰ればどこのダンジョンでも任せられるだろう。

あの魔法の良い所は使っている本人が戦闘とは離れた所にいる事だ。

ポーションがあれば戦闘持続時間も伸ばせるので自衛隊との連携も取りやすい。

きっと話せば最優先で連れ帰ってくれるけど、それを彼女に言う必要はない。

きっとこれは人を差別した見方なので、この考えにこの人は絶対に納得しないだろう。


そして、その後の移動は順調に終わり前方に町が見えて来た。

海には既に何隻もの船が到着し多くの人々を乗せて大陸から離れて行っている。

それにどの船も外まで人がいっぱいで、もしかするとインドネシアの方へ移動させているのかもしれない。

あそこには大小の島があるのでダンジョンの無い場所もあるかもしれない。


しかし、それでも人が切れる事は無く、我先にと船に乗ろうと人が集まっている

そして俺達は町の手前まで来るとそこで警備している軍服を着た人たちに止められた。


「君たちは何処に行くつもりだ?」


俺はバスから降りると契約書を取り出して彼らへと見せる。

読めるか微妙だけど一瞥してすぐに返してくれた。


「日本からの船は到着していますか?」

「ああ、それならあっちだ。乗っているのは日本人だけか?」

「違いますが親類縁者ですから乗せられるか聞いてみます。」

「そうか。出来るだけ多くの人を乗せて出航してくれる様に伝えてくれ。」


彼らもなるべく多くの人を助けたいのかチェックも無しに俺達を通してくれたが後は船の方がどう対応するかだ。


「分かりました。伝えておきます。」


そして更に進んで人の少ない港の一角までやって来たのだが、どうやらここに停泊している船は乗れる対象が限定されているみたいだ。

そして今度は自衛隊と思われる人たちが船へ上がる階段の前にバリケードを作って警備を行っていた。

きっと生きるために手段を択ばない奴らも居るのだろう。

俺も昨夜は変なヒッチハイカーと出会ったのでこの警戒も納得できる。

するとバスが近づくのを見て彼らは銃を構えて声を掛けて来た。


「そこのバス止まりなさい。」


その言葉でバスが止まり再び俺は下りて行って返事を返す。


「これは日本行きか?」

「そうだ。お前は日本人だな。他に何人乗っている?」

「日本人は俺を含めて2人だ。他は現地の人達になる。彼らは乗せられるか?」

「余裕があれば乗せる様に言われている。しかし、既にかなりの人数が乗り込んでいるから部屋は無いぞ。」


此処に停泊しているのは巨大な豪華客船だ。

それが埋まると言う事は確かにかなりの人数なのだろう。

でも水と食料は持参しているので乗れれば問題はない。


「それでも構わない。乗れれば十分だ。」

「なら早く乗れ。今日中には出航するぞ。」


すると自衛官の口から予想外の事が伝えられた。

出航は明日のはずなのにどういう事だ。


「出航は明日じゃなかったのか?」

「魔物の群れが迫っていると連絡があった。安全の為に今日中には出航する事に決まった。」

(そう言う事か。)


しかし俺達に追いついた群れ以外にも魔物が迫っているようだが魔物の侵攻が早過ぎる気がする。

討伐隊が組織されているはずだが、彼らはどうしたのだろうか?


「俺の方には討伐隊が出たと情報があるけどそっちはどうなったんだ?」


すると何かを知っているようで彼らの表情が大きく歪んだ。

そこから推察するに、これはかなり不味い状況なのだと分かる。


「彼らは昨日の時点で全滅した。もうこの町にしか戦力は残されていない。」

「それなら仕方ないな。皆もそう言う事だから早く乗ってくれ。」

「ほ、本当に良いのか!?」


するとバスから降りて来たオリバーが驚きの声を上げた。

誰も降りて来ていないと言う事は乗れるとは思っていなかったみたいだ。


「気にしてたら死ぬぞ。せっかく子供が生まれたんだ。無理でも乗るくらいは言ってみろよ。」


そしてバスから降りた人たちを見て自衛隊員たちは驚きの表情を浮かべた。

まさか生まれてすぐの赤ちゃんが出てくるとは思わなかったのだろう。

それに他の人達も服は血塗れなので自然と視線が向けられている。


「途中色々あって拾いながら来たんだ。」

「そうか。かなり苦労したみたいだな。」


そう言って彼らも表情を緩めると労いの視線と言葉をくれた。

日本人にとって赤ちゃん効果は絶大みたいだ。


「そうだアイコさん。この船にオオサワって名前の医者が乗ってるから赤ちゃんを見てもらったら良い。俺の名前を出せば多分見てくれるはずだ。」

「ありがとう。聞いてみるわ。」


そして彼女は頷いて連れて来た人たちと一緒に船に入って行った。

彼らの表情にも安堵が浮かんでいるので俺達のやり取りを見て不安に感じた人もいたのだろう。

俺はそれを笑顔で見送ると見えなくなってから表情を消して自衛官に向き直った。


「それで現在の状況は?」


俺は契約書を見せ何の為にここに居るのかを説明すると彼らも表情を引き締めた。

どうやら、ちゃんと情報は伝達されているようで助かる。


「群れは明日には到着予定です。今のままでは避難は間に合わないだろうと言われています。」

「他の国で戦える人間はどうするか聞いてるか?」

「アメリカは既に撤退を決定しています。救出は・・・しないそうです。」

「場所は分かってるのか?」


そう言って自衛隊員の1人が地図を出して見せてくれる。

ここから100キロほど離れた場所の様で一番大きな魔物の群れが来ている方向だ。


「GPSによって場所は判明しています。移動はしていないそうですが1000を超える蟻の魔物が周りに居るそうです。送られて来ていた戦闘映像から彼らが負けたのもこの蟻達である事が分かっています。」

「映像?誰か物好きが配信でもしてたのか?」

「いえ、理由は聞いていませんが各国政府へリアルタイムで公開されました。その映像がありますが見られますか?」

「頼む。」


すると傍にあったノートパソコンを開いて映像の再生が始まった。

どうするかは後で考えるとして、これで相手の情報が少しは知る事が出来る。

当然それは魔物だけではなく人間に関してもだ。

そして大国と言われるアメリカがどんな者達を送り込ん出来たのか、しっかりと見させてもらうことにした。

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