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281 修学旅行 1日目 ③

俺はここで測定を受けながらずっと皆の様子も確認していた。

誰かが監視していないかとか、変なちょっかいを掛けていないか。

本音を言えばバスで待っているか付近を散策してくれていた方が安心できた。

でもこういう流れになった以上は仕方がないと諦めて遠くから見守るだけにしていたのだけど、今の所はおかしな動きをしている者は居そうにない。

これならこのまま無事にここから出られそうだなと思った時に変化が訪れた。


どうやら誰かが結界を張り、アズサ達を閉じ込めたみたいだ

皆なら大した問題にはならないけど、その行為自体があってはならない事なのは間違いない。

しかも、それだけではなく俺の方には直接人員を差し向けて包囲しようとする動きがある。

この程度なら包囲が完成したとしても強行突破は可能であり、転移を使えば囲まれたとしても無駄な事だ。

ただし平和主義を愛する日本人としては肉体言語ではなく言葉という人類が生み出した最も平和的な文化を使って対応したい。

そして歩いていると周囲から陰陽師みたいなコスプレをした奴らがぞろぞろと現れた。


「止まれ!お前は既に包囲されている!」

「止まる理由が無い。お前等がそこを退け。」


言われた事に軽く言葉で返すと平和的に子供が歩く速度で進んで行く。

しかし彼らに避ける意志は無いらしく、それぞれに返事の代わりなのか懐から札を取り出した。


「言う事を聞かないなら拘束して連れて行く!お前たち一斉に行くぞ!」

「「「彼の者の動きを縛り拘束せよ!不動金縛りの術!」」」


すると10人を超える者達が呪文を唱えて札を投げつけてきた。

その札は俺の体の至る所に張り付くと輝きを放って体の動きを阻害してきた・・・様な気がする。

言っては何だけど俺には蚊が止まった程の衝撃もないので、こいつらが一体何がしたいのかが分からない


「お、俺達の金縛りの術が!」

「コイツは化物か!?」

「最近は良く聞く言葉だな。相手の動きを止めたいならこれくらいはしてくれ。」


俺はキメラのスキルによって体の複数の場所に目を作り出すとそれによって不動の魔眼を発動する。

すると下半身が拘束されて微動だに出来なくなった事と俺の姿に男達は驚きと恐怖に表情を強張らせた。


「ほ、本当に化物なのか!?」

「こ、殺さないでくれ!」

「俺には妻と子供が居るんだ!」

「それなら子供を連れ去ろうとなんて考えるな。それにお前らが閉じ込めているのも殆どが子供だぞ。自分の子供だけが大切だと言うなら恥を知れ!」


俺はそれだけ言って男達の間を擦り抜けるとそのまま裏庭の方へと進んで行く。

そして到着と同意に結界に正面からぶつかって破壊すると皆と合流を果たした。


「面白そうなアトラクションだったな。」

「反撃はしない?」


するとハルカが空かさず手に釘の様な暗器を握って問いかけて来る。

どうやら閉じ込められている最中に結界を張った犯人の場所を特定したみたいだ。


「今は必要ないよ。それよりも次の目的地に向かおう。あちらは昼食を準備してくれてるらしいからのんびり出来ると思うぞ。」

「本当!?」

「ああ、本場の京料理を腹一杯に食わしてくれるそうだ。」

「私達はともかくアズサが居るのに確約しても良いの?」


すると5年前からアズサの底無しの胃袋を目撃し続けたアンが心配そうな表情を浮かべながら確認してくる。

しかし相手も既にそれくらいの情報は掴んでいる様で手紙には専用の料理人を10人用意したと書いてあった。

いざとなれば水槽に入ったままの切り分ける前の豆腐や大量の天婦羅各種でも出してくれれば繋ぎ位にはなるだろう。

ただし、あくまで繋ぎなのでその後に真面な料理が出て来なければ悪魔王よりも怖いアズサの怒りが轟くに違いない。

そこは相手の料理人の実力と根性に期待する事にした。


「そこは相手次第だけど大丈夫だろ。いざとなれば自分で何か作って食べるさ。」

「それもそうね。」


これはいつもの事なので昔の様に驚く者は誰も居ない。

そして既にルンルン気分になっているアズサには今の会話は届かず、周りを引連れてバスへと向かって行った。


「それにしてもこんなに早く動くとはな。」

「ここはアイツ等の勢力圏。これからも注意が必要。」

「それなら俺の手が届かない所は任せたからな。」

「生死は?」

「基本半殺し。間違って死んだら蘇生させておいてくれ。」

「分かった。」


ハルカはあれからも正体こそ明かしていないけど率先して皆の護衛をしてくれている。

今回も案内を買って出てくれたのは怪しい場所を回避したり、勝手に動いて誰かが孤立するのを防ぐ為だ。

そのおかげで俺が審査を終えてドロップ品を売るまでの時間を稼いでくれた。

特にこの施設自体が奴らのお膝元と言える。

俺1人ならともかく、アズサとルリコを連れてはあまり来たくない場所だ。


そしてバスに乗り込むと次の目的地へと向かって移動を開始した。



その頃、黄龍の本部の一室では・・・。


「父上!俺の花嫁がここに来ているとは本当ですか!」

勝人カツトか。学校はどうした?」


入って来たのは中学3年の安倍カツトである。

そして、黄龍は今も安倍家の本家が代々管理しており、今では長い特権階級と言える家柄に加えて選ばれた家系という選民意識が思考を蝕んでいた。


「あんな所は下民が通うものです。我が家の様な選ばれた者は気が向いた時にだけ行けば十分です。」

「それもそうだな。それと花嫁に関しては裏庭で結界に閉じ込めたと連絡があった。すぐここに連れて来るだろう。」

「そうですか。直接会うのが楽しみです。それにしてもハルアキなる男は何を考えているのですか。本家から出家したかと思えばこちらの命令にも従わず娘を寄こさないとは!」


するとカツトは父親の言葉に笑みを浮かべ以前に写真で見た姿を思い出した。

そこからは成長すれば美人になるであろう整った顔立ちが見て取れ、年頃という事もあり強い感情を感じている。

しかし、カツトの頭にあるのは愛ではなく、独占欲と支配欲だけだ。

それは『他人に迷惑を掛けない自由恋愛』を推奨しているハルヤとは真逆の考えでもある。


「それに倉田家のユウマという男もだ。せっかく娘を本家に迎え入れてやろうというのに断るとは何という愚かさだ。」


そして淡々と話していた父親の顔が急に歪んだかと思えば目の前にある机を怒りに任せて殴りつけた。

しかしカツトはそれに驚く事は無く、その言葉に当然だと言う様に頷きを返している。


「確かクラタ家はルリコと言いましたか。そして、もう1人がアズサでしたね。」

「そうだ。ルリコの父親であるユウマからは結婚相手を選ぶのは本人だと返され、アズサの方は既に婚約者が居ると言われた。本当に何処までも馬鹿な事を言う奴等だ!女は子供を産めばそれで良いのだ。婚約者が居るなら脅して手を引かせれば良い。それが出来るのが選ばれた我が安倍家ではないか!」

「その通りです父上。」


すると父親はカツトの強い賛同とこれから行われるであろう悲惨な光景を思い浮かべ黒い笑みを浮かべた。

それに父親の方はその婚約者が既にハルヤだと突き止めており、何度も脅迫まがいの手紙を送っている。

それをハルヤは丁寧に送り返しているが内容が既に過激な物であったのでここまで届いた事は一度もない。


「それに婚約者の男と言うのも丁度ここに来ていたので手は打ってある。今頃は捕らえて拷問を受けている頃だ。何でも九十九でも落ち零れという話だからな。今日中には女の事は諦めるだろう。」

「殺した方が早くないですか?」

「娘の方が男にぞっこんらしくてな。諦めさせるには死体よりもボロボロの男を見せてやった方が効果的だろう。」

「それなら花嫁の前で俺自ら痛め付けてやりましょう。ゴミの様な下民でも良い声で鳴いてくれるでしょからね。そのまま男の前で幼い蕾を散らしても良いかもしれません。」

「既成事実という奴か。それも良いかもしれんな。」

「彼女達に俺の妻である証を体の隅から隅まで刻み付けてやりましょう。そうすれば一生逆らう気力も失うでしょうからね。」


そして2人は親子で似た様な笑みを浮かべると捕らえた者達が来るのを待ち続けた。

しかし、しばらくして届いたのは捕獲に失敗したという知らせだけである。

それを聞いた2人は癇癪を起し部屋を滅茶苦茶にしたのは別の話だ。


ちなみに彼らは最上位の資格を更新に来た人物とハルヤを同一視していない。

もしそれに気付いていれば結果は別の形へと向かい未来は変わっていただろう。

しかし組織も今では1枚岩ではなく、幾つもの派閥に別れている。

そのため情報の一部がわざと隠蔽される事になったのだが、それがどんな結果をもたらすかはまだ誰も知らない。




俺達はバスに乗り、かつてここが都と言われていた時代に世話になっていた屋敷へと向かている。

今では京都御所と呼ばれているけど呼び方なんてどうでも良い。

ここには今も天皇の一族が京都に来た時には使っている場所でもあり、バスはそこの前に止まると車内にアナウンスを流した。


『ココより先は一般車両の入場が禁止されています。』

「分かった。ここからは歩くから連絡をするまで駐車場で待機していてくれ。」

『畏まりました。』


バスから降りると自動運転のAIに指示を出して駐車場へと向かわせた。

こういう時には自動運転のシステムはとても便利で空いている駐車場を探す必要がない。

初めての場所で土地勘が無くても道に迷う心配も無く、旅を楽しむなら文句の付けようがないだろう。

そして俺達は歩いてガードマンが何人も待機している門へと向かって行った。

周りの地面には白い砂利が敷かれ、道の左右には綺麗に剪定された松が等間隔に植えてある。

するとガードマンは俺達の存在を目にすると耳に付けた通信機で内部に連絡を入れて確認を取っている。

すると指示を受けたのか警戒はされているようだけど懐に携帯した銃は抜かれる事無く応じてくれた。


「そこで止まってくれ。それと用件を聞きたい。」

「今日の俺達は招待客です。ここに招待状を持参しています。」


俺は1つの封筒とさっき組織で貰った身分証の代わりとなるカードを取り出した。

ちなみに封筒の中に入っている手紙には暗号化された特殊なQRコードが書いてあり、それを読み取って解読するには専用の端末が必要になる。

俺達が来る事が分かっているのだから機械も既に準備がしてあるはずだ。

すると中から出て来た女性がスマホ型端末でその部分を読み取り確認を終えると入場の許可が下りた。


「こちらに出していただいた黄龍のカードとも合わせて確かにハルヤ様だと確認が出来ました。天皇陛下がお待ちしております。食事の準備も出来ていますのでこちらへお越しください。」

「分かりました。皆も行こうか。」


そして歩きながら敷地内を確認すると前と変わらず懐かしい風景が広がっていた。

庭の木などは変わっている所もあるけど、建物はまるで新築の様な輝きを放っている。

流石はミズメが依頼を受けて屋久杉を使って作り直し、俺が強化しておいただけはある。

逆に言えば今まで壊す事が出来なくてそのまま使っているだけかもしれないけど色々と懐かしい。


「この傷も懐かしいな。」


歩いていると廊下の横にある壁に切り込みの跡がある。

これはここに嫁いで来た俺とヤマネの娘であるヨモギの身長を計った時に付けたものだ。

15歳でここに嫁いで来たので毎月一度は皆で会いに来ていていた。

成長はゆっくりだったけど19歳くらいまでは背が伸びて身長が160センチくらいになった。

この傷はその時の成長を記しているモノで今でもあの時に触れたヨモギの髪の感触を思い出せる。

それにヤマネよりもゼクウに似ている所があってしっかりとした性格に強いカリスマ性を備えていた。

俺が死ぬ数年前には影の女帝と言われて夫である天皇を尻に敷いていた程だ。

それでも母親であるヤマネや皆が死んでいった時には沢山泣いてくれた優しい子だった。

きっとヨモギも俺と同じ様に子や孫に囲まれて幸せに逝けただろう。


その後も当時の事を思い出しながら屋敷の中を歩いて行った。

そして目的地に到着した俺達は大きな部屋へと通され、そこにはテレビで見かけたことがある天皇陛下が床にドッシリと腰を下ろしている。

そして、その前には人数分の座布団が敷かれ1つだけ前に飛び出す形で並べてある。


「なら、俺は慎ましく一番端へ・・・。」

「何をやっているのです。ハルヤ様はココと決まっているでしょう。」


俺は一早く一番端の目立たない座布団に座ったのに女中の人にヒョイッと抱えられると座った時の体勢のまま中央の飛び出している座布団へと座らされた。

するとその光景に天皇を含めて全員が呆れた顔を向けて来るけど、俺は庶民なんだからあんな所に座りたいとは思わない。

ただ、シュリだけはその中で若干笑いを堪えているのでアイツのツボには掠っているらしい。


「他の皆さんは好きにお座りください。食事は話の後にでも・・・。」

「グルルルル~!!」


するとアズサのお腹がまるで「それでは遅すぎます」と言う様に獰猛な唸りを挙げた。

その威圧さえ含んでいそうな重低音に女中の人は天皇へと咄嗟に視線を向ける。


「ハハハ!構わんよ。話は食事を食べながらでも出来るからな。」

「畏まりました。すぐに準備を整えます。」

「ウム。それにしてもお前は腹に猛獣でも飼っているのか?」

「そんな事は無い・・・と思います。」


そこは無いと断言してもらいたいけど俺も断言が出来ないんだよな。

今の俺でもアズサの胃の中は一切のスキルを受け付けず、無限の暗黒が広がっている様にしか見えない。

食べた物は一体どこに消えてどうなったのかまるで謎だ。

もしかすると恵比寿も知らない内に、とても恐ろしいスキルを生み出したのではないだろうか。


「それで俺を呼んだのはアズサの腹の虫が聞きたかったからか?」

「クックック。文献にある通り動じない男だ。」

「チッ!ミチヒトの奴か。要らない物を残しやがって。」

「そちらだけでなくヨモギ様もこうして文献を残されているぞ。」


天皇が取り出した本には『父様(※ハルヤ)の取り扱い説明書』と書いてある。

それをこちらに投げて来たので受け取って中身を確認すると簡潔に色々な事が書かれている。

それを後ろに居る皆も興味があるのか傍に来て覗き込んできた。


何々『父様は怒らせると歯止めが効かないので、もしもの時は母様たちを頼るべし。』


「ハハハ、温厚な俺が怒る訳ないよな。」

「「「ハハハハハ。」」」


あれ、なんで同意じゃなくて笑い声なんだ?

まあ良いか。

それで次は何が書いてあるんだ?


何々『父様に危険な仕事を依頼する時は被害が通常の10倍になると覚悟せよ。』


「ん?俺ってそんなに壊してるかな?」

「キッチン。」

「魔法の練習場。」

「火山。」

「グラウンド。」

「教室。」

「山。」

「森。」


すると皆の口から俺が今まで壊した色々な物が次々に出て来る。

こうして言われると色々な物を壊している気がしてくるから不思議だ。

まあ、気分を入れ替えて次に行こう次に。


何々『父様の奥さんに手を出すべからず。出した者には神ですら恐れる報復が待っている。』


「何処となく合ってるかな。」

「普通そこは一番否定する所では?」

「ルリコは否定して欲しいか?」

「・・・そこがアナタの素敵な所ですね。」

「ん?」

「何でもありません。次です次!」


俺が聞き返すとルリコは口の中でゴニョゴニョと呟いているだけだったので聞き直したら怒鳴られてしまった。

やっぱり女の子の心は秋の空の様に変わり易いのかもしれない。

それに顔を真っ赤にして睨んでいるので早く次を見てみよう。


何々『父様は心の本音が度々漏れるので聞こえて来ても優しい心で見守るべし。』


「俺ってそんなに独り言が多いか?」

『『『コク!』』』


気になって周りに確認すると揃って力強く頷かれてしまった。

これは日頃から飴でも舐めながら気を付けるしかないか。


「飴食べるなら頂戴。」

「・・・昼食が来るから後にしような。」

「それもそうだね。」


フッ・・・以心伝心という奴か。

アズサには敵わないな。


そして周りからいつもの様な暖かい視線を向けられながら説明書を何ページか読み進んだ。

すると最後には俺に宛てたと思われる一文が現れた。


『私は父様の娘で幸せでした。いつか遠い未来で再び出会える事を期待しています。』

「そうだな。出来ればもう一度会いたいよ。」

「一度だけですか?」


すると後ろから記憶に残る懐かしい声が聞こえて来たのでそちらを向くと、懐かしい顔が並び笑みを向けている。

もしかしてこれは白昼夢という奴だろうか?

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