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275 帰宅

現在の俺達は囲炉裏のあった休憩室で焼肉と洒落込んでいた。

まずは溶岩が固まった火山岩を適度な大きさと厚さにカットしていく。

それを俺のスキルで強化すると精霊が起こした噴火(悪化させたのは本人)だからか俺との相性も良いみたいだ。

とは言っても行うのは強度を上げるだけなので多くを望んでいる訳では無い。


今後も使い易い様にサイズ調整を付与して、壊れた時の事を考えて再生を付け加えておくくらいだ。

そして、そんな石板で肉を焼きながら俺達はハルカが撮影したある現場を再生していた。

この部屋にテレビは無いけど壁にロールスクリーンを設置できるようになっている。

そこへメモリーカードに複製したデータをプロジェクターで再生している訳だ。

もちろんここにはそれを見る為に全ての女性陣が集合して片手にはお米の入ったお茶碗を握っている。


ただし女性陣の中で唯1人だけはとても恥ずかしそうに手で顔を覆っているのはその人が今から映る映像に登場しているからだ。

もちろん男性陣にも1人だけ上映を阻止しようと暴れている人がいるけど、その人は傍に柱へロープで縛られて動けなくしてある。

この建物の柱は象がぶつかっても壊れないだろうから、あそこから抜け出すには縄抜けをするしか無いだろう。


そして上映が開始されると同時にそれぞれに焼けた肉を取ってご飯を食べる準備を始めた。


「ココノエさん。何があっても君の事は俺が護って見せる。」

「ありがとうコイズミさん。」


そして映像に映されているのは俺達が出撃する少し前から2人っきりで過ごしていたコイズミさんとココノエ先生だ。

2人は外の吹雪を見ながら互いに肩を寄せ合い手を繋いでいる。


(風呂場に居ないと思えばこんな事になっていたのか。)


しかし、それをちゃんの盗撮・・・ゴホン!

記念撮影しているとは流石ハルカだな。

きっと生涯に残る最高の映像になる事だろう。

最近は結婚式の時に映像を流す事も多いので、これはその時にでも使ってもらえば良いかもしれない。


「な、なんだ!急に外に風が!」

「怖いわコイズミさん!」


そう言ってココノエ先生はわざとらしく抱き着いて猛アピールをしている。

しかしコイズミさんもここで表情は緩めず、ココノエ先生の肩に手を回して窓から庇う様に抱きしめ返している。


すると風が収まり俺達が飛び出した辺りから空には赤く激しい光りが何度も点滅し始めた。

きっとあれは火の大精霊が大きな火の球を飛ばして攻撃していた辺りだ。

その後に空が稲光の様に激しく点滅しているのはアズサの攻撃だろう。

改めて思い返せば、とあるアニメの黄金戦士が放っていた、ライトニングなんたらみたいでちょっとカッコ良かった。

俺も何か良い技を再び考えないといけないかもしれない。


そして映像を見ていると、窓の外に背景として写っている山が大噴火を起こした。

それをバックに2人は互いに向かい合い、一瞬も視線を逸らす事無く見詰め合っている。

同時に普通の人には見えない速度でアズサ達が飛び立って行くのが見えるので、スーパースローで確認しても影にしか見えないだろう。

もしかしてあの時に怒っていたのはこれを皆で覗き見してて邪魔されたからか?

アズサ達に視線を向けると映像を見ながらご飯を頬張っていてこちらを見る気配はない。

ただ明らかに様子がおかしいので間違いは無さそうだ。

それはシュリも同じなので、もしかすると急いで戻ったのはこの続きが気になったからかもしれない?


「コイズミさん!」

「ココノエさん!私が付いています。」

「でも、このままだと一緒に死んでしまうかもしれません。その前にこの気持ちだけは伝えておこうと思います。」


ん?なんだかコイズミさんの背後に一瞬だけど何かを持っている手が見えた様な・・・。

もしかして後ろから台本でも読ませているのか?

そういえば視線が時々チラチラと逸れていた様な気がするぞ。

その事に気付いていないのかコイズミさんは人差し指をココノエ先生の唇に当てて言葉を止めさせた。

そういえば雰囲気のある場所で自分から気持ちを伝えたいと話していたので今がその時だと判断したのだろう

目の前で山が噴火している最中なので絶好のシチュエーションと言っても良いだろう。

それに、このような状況で告白できたカップルが世界にどれだけ居るだろうか。

しかも噴火の衝撃で飛んで来た噴石が目の前の窓に何度も衝突して激しい音を立てている。

あの程度では壊れないけど臨場感だけなら下手な映画よりもバッチリと確保が出来ていると言える。


「お・・・俺は以前からアナタが好きでした。ど、どうかここから無事に帰れたら・・・け、結婚してください!」

「・・・喜んでお受けします。」


そして雰囲気が最高潮となった所で次第に火山も沈静化し、2人は並んで窓から火山を見詰めている。

すると互いにまだ赤い溶岩の残る山頂をバックに向き合い熱い口付けを交わした。

その直後にここに集まる女性陣も最高潮を迎えて手に持つご飯が無くなるまで口へと放り込んでいる。

ただ、それと同時にコイズミさんは縛られたままで燃え尽きた様な姿へと変わり、その横でココノエ先生はイヤイヤと顔を左右へと振っていた。

しかし顔が見えなくても、まるでそこだけは赤いハートが咲き乱れているように見える。


そして、そこでFinの文字が表示され上映は終わった。

かに見えたけど再びリプレイ再生されて今の映像が再び流れ始めている。

ここまでするとちょっと晒し者みたいで可哀相に思えて来るのは気のせいだろうか?

でも、ここに居る女性陣はこれが楽しみでこのキャンプに参加している者ばかりなので止めたり止めようとする者は誰も現れるはずがない。

まさか、このキャンプの間に婚約までするとは誰も思ってはいなかっただろうけど結果としては大成功と言えるだろう。

そこから考えれば山が1つ噴火した事さえ些細な事に思えて来てくる。

これできっと帰ってから俺が叱られる事は無いだろう。


そう思って肉を食べようと箸を伸ばすと急にシュリから声が掛けられた。


「ハルヤ君。」

「なんだ?」

「山の修復をお願いしますね。」

「これを食べたら・・・。」

「お願いしますね。」

「・・・了解。」


どうやら俺の方は映像と違って無事にFinとはいかなかった様だ。

それに本気ではないと言っても俺が轟砲を放って吹き飛ばした結果、山頂が50メートル程低くなっている。

その内部は何倍も深く抉れた噴火口は溶岩が埋めてくれたと言っても、確かにアレをそのままにしておく事も出来ないだろう。

俺は仕方なく伸ばした箸を引き戻すと立ち上がって外へと向かって行った。

それにしても肉を食おうとした時に邪魔が入るのは何かの呪いだろうか。


そして、この中で唯一冷静な判断力を残しているソウマさんだけが哀れみの籠った何とも言えない顔で見送ってくれる。

きっと他のメンバーがこの事に気付くのはしばらく後の事だろう。

ただし今ならたかが50メートル程の山を修正するのは簡単な事だ。


俺は山の上に山を作るイメージで魔法を使い元の高さへと調整し、植物関係はシュリ達に任せる事にする。

それに少しくらい形や高さが違ったとしてもそこは仕方ないだろう。

後は流れ出て冷えたマグマを回収したり、火が燻ぶっている所は水をかけて消火したりと細かく見ていると1時間ほどの時間が経過してしまった。


「後は俺達がやっとくぜ。」


すると粗方終わった辺りでダイチとシュリがやって来て仕事を引き継いでくれる。

どうやら頼まなくても仕上げはやってくれるみたいなので後の事は任せれば良いだろう。


「このままだと禿山になる所だったから声を掛けに行こうと思ってたんだ。。」

「そこは適材適所って奴だからな。」


もしもの時はその辺の山から木を運んできて植林する必要があるかもと思っていたけど、この2人なら植物を急成長させて山を元に戻す事も出来る。

これまで山に住んでいた精霊たちの力を借りれば雑作も無い事だろう。


「それなら俺は戻るから後は任せるからな。」

「そうですね。アズサさん達がアナタの事を首を長くして待っていますよ。」

「俺の事を?」


すると何故かダイチの視線が逃げる様に逸れていき、逆にシュリは口元を手で隠すと朗らかに笑い始めた。

今の両極端な仕草だけでどんな用件が俺を待っているのかが想像できる。


「お仕置が途中だったと言っていましたね。朝までは長いのでのんびりと叱られてください。」

「お前は何時からそんなに性格が捻くれたんだ?」

「アナタほどではないですよ。」


そう言ってシュリはダイチの手を取って仲良く山頂の方へと消えて行った。

そして俺はと言うとアズサ達が金棒を持って待ち構えている姿を思い浮かべながらトボトボとキャンプ場へと戻って行く。

そして到着するとこちらの方は既に修復も終わっており、吹き飛ばされた黒松の松林が赤松に入れ替えられ炊事場や管理棟も元通りになっている。

どうやら俺が山を修復している間に皆はこちらを元に戻してくれていたようだ。

ただ、どうして皆は地面にしゃがんで何かを探しているのだろうか?

お仕置が待っていると思って帰って来たのでちょっと意外な光景に見える。


「ただいま。みんな何してるんだ?」

「ハルヤ!どうして早く戻って来ないの!?」


さすがにお仕置が怖かったとな今は言えないだろう。

しかし、それどころではないと言った感じなので、このまま触れなければ忘れてくれるかもしれない。


「それでいったい何を探してるんだ?確か誰もコンタクトなんてしてなかったよな。」


ちなみに今では眼鏡やコンタクトをしている者は極端に少ない。

魔法があるので後天的に視力が低下した者に関しては簡単に治す事が出来るからだ。

先天的に悪い者だけは今の魔法技術ではどうしても時間が掛かってしまうため、その間だけ眼鏡やコンタクトを使用している。

なので大人でそういった物をしているとすれば趣味やファッションによるものが多い。

たとえ歴史が変わり世界が変わったとしても、萌えや病は回避できなかったという事だ。

そしてアズサは立ち上がって俺に詰め寄ると何をしているのかを教えてくれる。


「そんなのじゃなくて探してるのはマツタケなの!シュリがここの松林を作り変えたついでにマツタケを生やしてくれたのよ。でもなかなか見つけられないの。」


それで皆でしゃがんで探している訳か。

予定には無かったけどちょっとしたサプライズの宝探しと言ったところか。

周りを見ると探す事が得意なハルカだけが幾つか発見している。

確かにシュリが冗談で言ったのではなく現物もしっかりと生えている様だ。


「見つけたら今日の事は許してくれますか?」

「え、もう怒ってないけどどうしたの?」


・・・あの野郎~!

野郎じゃないけど俺を嵌めやがったな~!

最初から用件はマツタケ探しじゃねえか。

それなら時間を掛けて戻って来た分を取り戻さないと逆に怒られそうだ。


「フッフッフ!それなら俺に任せろ。フォームチェンジ『狼』タイプ!そして空間把握!」


俺は狼の姿に変わると空間把握と鼻を使ってマツタケの在処を瞬時に探し出した。

ヨーロッパでは豚がトリュフを探し出すらしいけど似た様なものだろう。

今だけはマツタケを探すための豚になろうじゃないか!


そしてアズサを連れて林を駆け回り1つ1つ確実に見つけて採取して行く。

ただ、見つけてみるとどのタケノコも地面から1センチくらいしか出ていないのでこれは確かに見つけ難そうだ。

しかし今の俺にかかればこの程度の事は雑作も無い!


それに普通は取り尽くしたり引き抜いてしまうのはあまり良くないらしいけど、無くなったらシュリにまた生やしてもらえば良い。

そういえば今の時代でもマツタケの人工栽培には成功していないそうなのでその気になったら良い小遣い稼ぎになるのではないだろうか。

今回の報酬はそんなに高額では無かった気がするので帰ったら言ってみよう。


そして、ちょっとだけ秋の味覚を先取りした俺達は再び囲炉裏の前に集合していた。


「まさか、ここで天然物が食えるとはな。」

「本当に着いて来て良かったわ~。」


ソウマさんとカホさんは普段は絶対に食べられない純日本産の天然マツタケを焼きながらご満悦だ。

その横ではコイズミさんも開き直ってココノエ先生と食べさせ合ったりしながら楽しんでいる。

俺達もお土産を別にしても十分な数が取れたので焼き、吸い物、炊き込みご飯と3段構えだ。

夜食を通り越して、既に朝食と言っても良いかもしれない。

それに空も白み始めているので時間的にも丁度良い。

なんだか昨夜は色々と大変だったけど思い出に残る1日だった。


「そういえば昨夜でミッションが終わって帰っても良い事になってますけどこれからどうしますか?」


今から始まるのは5日目なのでキャンプを満喫しようと思えばあと2日は可能だ。

ただ河童と遭遇したり、大物のジビエを捌いたり、季節外れの大雪に見舞われたり、竜巻に呑まれたり、目の前で火山が噴火したり、マツタケ狩りをしたりで想定外の事もたくさん体験できた。


「一夏の思い出にするとすれば十分だと思いますが。『チラリ』」

(おっと!一夏どころか一生の思い出を作った人が2人混ざってるけど。)

「そうね。私達は『普通』の参加者だからそろそろ疲れたわね。」

「そうだな。『普通』な俺達には下手なサバイバルよりもスリリングで過酷なキャンプだった。飯だけは美味かったのが救いだな。」


するとソウマさんとカホさんは何故か俺を見て『普通』という言葉を強調している。

でも、これくらいは俺にとってちょっとオマケが付いただけの普通なんだけどな。


「私も早く戻って結婚式場を予約したいわ。」

「俺も家族にココノエさんを紹介しないといけないから早く終わるなら助かるよ。」


そうなるとトワコ先生は別にして他の大人組は帰宅を希望と言う訳だ。

それならここに拘る必要はないのでそろそろ帰っても良いだろう。

どうせ片付けは終わっているのでバスに乗って帰るだけだ。

バスの無事は確認が済んでいるので乗り込めば地元までは一直線で帰る事が出来る。


「それなら保護者がこう言ってるから帰ろうか。」

「「「賛成!」」」


そして全員の意見が一致して俺達は帰る事を決定した。

最後に部屋を綺麗にして修復された管理棟へは色々な手紙を書いて置いておく。

今回のお礼や、温泉にマツタケが施設内で取れる様にしてある事など書くだけでかなりの量になった。


そして俺達はバスに乗り込むと皆もキャンプの疲れが出たのかスヤスヤと寝息が聞こえ始める。

アズサ達も通路を挟んだ横の席で眠っており、心地良さそうな表情を浮かべている。

そんな中で俺の横に座っているのは唯一眠っていないトワコだ。

今回はキャンプ場でのファインプレーの他にも色々とお世話になったので自然な流れでこの席順となっている。

どうやらコイツも順調に皆と仲良くなりつつあるようで上手く溶け込めているようだ。

ただ、この席順になった理由はそれだけではなく帰りに話したい事があると言われたのも大きいだろう。


「それで何の話なんだ?」

「実は現世に来るにあたって数柱の神々から依頼があったの。」

「依頼?その依頼を受けたからトワコは現世に来れたって事か?」

「そうね。色々と条件があったけど、その大半を満たせるのが私だったみたいなの。」


そう言って条件と言うのを教えてもらうと性格、見た目、知識などがあったらしい。

確かに元人間であるトワコなら人間としての常識や、穏やかな性格から言って現代に溶け込むのは難しくないだろう。


「それとアナタと面識がある事ね。」

「俺とか。なら仕事の内容は俺の補助か監視のどちらかだな。」

「ハルヤはそう言う所が鋭いって皆言ってたわ。選考の最後にカブトと接戦になったけど閻魔が行かせたくないってゴネて私に決まったの。」


そう言えばカブトとも再会を約束していたので、あの世で待っているかもしれない。

かなり間が開いているから次に死んだら小言くらいは言われそうだ。


「それで役目はどっちなんだ?」

「一応は両方ね。ハルヤは鋭くない所は頻繁に抜けてるから。」

「弁明のしようもございません。」


そこは俺の数ある欠点の1つだと素直に認めよう。

私生活の中でもアズサ達には頻繁にフォローされてるから自覚もしている。

それにどんなに強くなっても力で解決が出来ない事の方が多いのだから有難く頼らせてもらおう。


「でも監視の仕事は次に報告書を送れば終了ね。だってハルヤは神の座に足を踏み入れたのでしょ。」

「まあ、半神とか言うのにはなったな。」

「神になるのはこの世界だと凄く稀で強ければ成れる訳じゃないの。色々な条件が奇跡的に重なり合って初めてなれるのよ。」


その条件に付いても色々と教えてくれた。

まず大事なのは信仰らしく、多くの人に知られて信じられてなければいけないらしい。

そして何らかの形ある物として本、絵、像などになっていて安定した形で人々に知られる必要があるそうだ。

そうでなければ神に成れてもすぐに神としての力を失ってしまい輪廻の輪へと戻されてしまう。

ただし、それはこの世界にもともと住んでいる俺みたいな奴の話であって、ツクヨミの様に別系統の神には適用されないらしい。

だから邪神を倒したとしても滅ぼす事が出来ないので皆が困っている訳だ。


それ以外にも強い神の加護だとか、神の力をその身に取り込んでいるだとか、人間離れした精神力や強い思いなど色々とあるらしい。

それが料理で言う所の絶妙な味付けでブレンドされると神に成れる。

だから1000年以上を生きている八百比丘尼ですら神に至ってはいないのでその難しさが分かる。


「でも俺はまだ半神だぞ。」

「私に依頼をした神達が言うには神の領域に足を踏み入れると今度は登るんではなく落下して行くそうよ。」

「それはまた優しくないな。拒否権は無いという事か。」

「そうね。それで半神の時に次第に方向性が定まってどんな神になるかが決まるらしいわ。私が受けた中にはアナタを良い方向に導く事も含まれてるの。ハルヤは滅多に怒らないけど、それで時々だけど自分を見失う事があるでしょ。」

「そうだな。怒りに呑まれそうになる時がある。いつもはアズサ達が呼び戻してくれるけど。」


しかし、それはたまたま皆が傍に居てくれるからだ。

今後もその幸運が続くかも分からないので注意する必要は十分にある。


「もし闇に呑まれたらあなた自身が邪神になってこの世界に牙を剥くかもしれないでしょ。そうなると恐らくは最初の犠牲者はここに居る誰かだから気を付けてね。」

「ああ、気を付けておくよ。」


もし、そうなった時は意地でも自分でケジメを付けよう。

もう二度とアズサを殺すなんてしたくはない。

それにアケミやユウナだって大事な家族だ。

それを失う位なら俺はどんな手段を使っても自分を殺してみせる。


「時々その子達が羨ましいわ。アナタにそこまで思われてるのだから。」

「声に出てたか?」

「言わなくても伝わるものがあるのよ。私も早くその子達みたいにアナタに思われたいわね。」


トワコはそう言って笑うと優しく抱きしめて来る。

するとアズサ達3人の目がカッと開き俺を奪い取る様にして引き寄せられてしまった。


「あらあら、まだちょっと早かったみたいね。」


トワコはその姿を見て苦笑を浮かべると、アズサ達は何も言わず抱き着いたまま再び眠り始めた。

どうやら今のは何かを感じ取っての咄嗟の動きだったみたいだ。

俺は抱き着かれる様に固定されてしまい身動きが取れなくなってしまった。


「アナタに愛されている分をちゃんと愛で返してるのね。」

「俺のなんてまだまだだよ。こうしてここに居られるのも皆が居てくれたからだ。その分もしっかりと利息を付けて返して行かないと。」


その後なんとか腕だけでも拘束から抜け出すと、皆が落ちない様に態勢を整えてやる。

そして夏の暑い日差しの中を進むバスから外を見ると昨夜の事を感じさせない穏やかな山の景色が過ぎ去っていく。

俺はそれを見ながらこれからも皆が幸せでいられるように頑張る事を誓い拳を握り締めた。

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