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259 野外活動 準備 ④

俺達が行く野外活動の予定は夏休みの初日からに決まり、元々ある程度の日数を考慮してこの予定になる事が多いそうだ。

ちなみにもう一方の班は1泊2日で7月の前半に予定を開けて行くらしい。

なんだか作為的な気もしないではないけど修行に行く訳でもなく、遊びに行くような物なので大丈夫だろう。

勉強に関しても元から頭も優秀なので問題は無さそうだ。


そして俺は現在、生徒指導室でココノエ先生と向かい合って座っている。

別に俺が何かをやらかしたのではなく、これから先生に頑張ってもらうために呼び出しておいたのだ。

立場が逆だと思うかもしれないけど今の俺は教官であり、ココノエ先生の方が生徒なのだ。


「それではこれから重要な事を話しますから、しっかりと聞いて自身の身の振り方を考えてください。」

「・・・なんだか立場が逆転してる?」

「それを言うなら班分け後のミーティングからちゃんとしてください。」

「・・・はい。」


納得はしていない様だけど、そんな事を気にしている時間は既に失われている。

このままだと下手をすればココノエ先生の恋は立ち枯れてしまうのだから。


「それでは単刀直入に言いますが、ココノエ先生はコイズミさんに気がありますよね。」

「な、なんでそれを!」

「周りの共通認識です。ただ、コイズミさんも満更ではないようですよ。」

「本当ですか!?」


すると、もう誤魔化す気も無くしたのか、立ち上がってテーブル越しに詰め寄って来る。

しかし2人の間に巨大な壁が存在している事を忘れてはいけない。

それはココノエ先生の普段の姿をコイズミさんが全く知らないという事だ。

あの人はちょっとMな気質があるみたいで、あの時のココノエ先生に胸をときめかせていた。

しかも叱られる度に嬉しそうにしていたので、既にそちらの扉を全壊で開けてしまっている可能性が高い。

そのためココノエ先生にはこれから心身ともに強くなってもらわないと、恋の先にあるであろう望む未来を手にする事が出来なくなる


「もし先生が本気なら俺としてもお手伝いする用意が万全に整っています。どうですか?俺を信じて付いてくる気はありますか?」

「そ、それはもしかして危険な事ではないのですか?」


どうやら今の先生では石橋を叩いて渡る感じで思考が極端に慎重みたいだな。

もちろん覚醒には痛みだけでなく命の危機も伴うのでハイリスク・ハイリターンなのは言うまでもない。

それに俺の仲間になりたいという申請を出させるにはそれなりの覚悟や決意も必要なので、そもそもが狭き門でもある。

だからこそ!俺は先に準備万端だと告げたのだ!


「悩んでいる様ならこちらの映像を見てください。」

「一体何を見せてくれるのですか?」

「ちょっと知り合いに頼んである人の身辺調査を依頼しましてね。」


俺は前置きをしてスマホからココノエ先生のスマホへと盗撮・・ゴホン。

ハルカに頼んで入手してもらった映像を送信した。


「こ、これはまさか!」

「コイズミさんは顔も良い好青年ですからね。狙っている人も多い様ですよ。彼を指名している人はどれも綺麗な人ばかりですね。ほら、こっちも、こちらだって。」

「ムググググ・・・!」


俺はあれからコイズミさんの情報を集めてもらい仕事中の映像を手に入れた。

中には明らかに過度なスキンシップをされている場面もあり、それを見せている内にココノエ先生の目が次第にナイフのような輝きを放つ様になっていく。


「これは負けられませんね!」

「言っておきますがコイズミさんはどの女性に対してもアナタに向ける様な表情は浮かべていませんよ。だからカホさんは協力してくれているのです。」

「分かりました!ユウキ君の言う通り私も女として覚悟を決める時ですね!そう・・・行き遅れにならない為に!!」


やっぱりそこがココノエ先生にとっては最大の原動力かもしれない。

ここに映っている女性は全員が20代前半の様な若い人たちばかりで、それに比べてココノエ先生は既に20代後半。


「そう言えばもう少しで三十路・・・。」

「あ~言わないで~!同級生たちは皆結婚してるのに同窓会に行くといつも言われるのよ!『あれ、コイズミはまだコイズミのままなの?』って!」


なんだか大人は大人で苦労してるんだな。

この部屋が防音になってなければ学校中に今の叫びが広がる所だった。

流石に今の内容は小学生に聞かせるには重た過ぎるだろう。

500年前にも同じように悩む女性は居たけど、時代が変わっても女性の悩みに変わりは無いようだ。


「それでは俺を信じて付いて来ますか?」

「よろしくお願いします!!」


あ、やっと申請が届いたから、これで覚醒をさせる事が出来る。


「それではかなり痛いので覚悟してください。」

「え?そんなの聞いてない!」

「ポチっと。」

「きゃーーーー!」


この部屋が防音になっていて本当に良かった。

こんな叫びが学校に轟いたら警察が・・・通報しないから来ないか。

ちょっと他の生徒たちを怯えさせるだけだな。


「生きてますか先生~。」

「・・・。」

「返事がない。ただの屍の様だ。」

「・・・い、生きてるわよ。飛び降りた事もある私を舐めないで!」

「これは驚いた。」


この時代の一般人であの痛みに耐える人物が居るとは思わなかった。

それにやっぱりあの時の女性がココノエ先生で間違いなさそうだ。


「それで気分はどうですか?」

「・・・胸が変。鼓動の高まりが抑えられないんだけど!」

「それならこれを見たらどうですか?」


俺はここでコイズミさんの写真を見せてみる。

すると先生は「クフ!」と胸を押さえると俺からスマホを奪い取ってデータを自分のスマホへと送信した。

どうやら、ちょっと危ない人になってしまった気はするけど無事に覚醒が出来たみたいだ。


「もしかするとメイクをすれば少しは落ち着くのではないですか?」

「そ、そうね。ちょっと待ってて。」


そう言って俺の前で手持ちの化粧道具を使って目元や口元へと化粧道具を走らせる。

すると瞬く間に雰囲気が変わり、まるで大企業で仕事をしている敏腕秘書の様な顔へと変わった。


「これで少しは大丈夫になりました。それよりもアナタは私に何をしたのですか?」

「大した事じゃないですよ。世間一般的にあるステータスと俺の持つものは少し違うってだけです。今後はダンジョンで魔物を狩ってレベルを上げる予定なので覚悟だけはしておいてください。」

「しかし以前から思っていましたがユウキ君には中身と姿に明らかな乖離があります。不躾ですが私にはアナタが子供にはとても思えません。」


ここに入学してから子供らしい行動なんてほとんど取った記憶が無いから、そんな風に思われても仕方が無いだろう。

学生からは背伸びしているとか生意気だと言われてはいるけど確信を突いた指摘は初めてだ。


「もし俺が200歳だと言ったら信じるのか?」

「私は200年も生きた人を見た事がありません。しかし、大人と言われれば信じるでしょうね。」

「まあ、それでも良いですよ。今夜からダンジョンに入るのでそのつもりで居てください。」

「しかしダンジョンに入るには日本政府と異界大使館の許可が居るはずですが。」


ここで言う異界大使館とはクオナが代表を務めている所で一般ではそう言われている。

確か正式にはもっと長い名前があるんだけど彼らは色々な物を番号で表すらしくて誰も覚えていない。

あちら側もそれで納得している為に公式の場では知らないけど普段は異界大使館と呼んでいる。


「どちらにも個人的なコネがあるから問題ないですよ。装備類もこちらで準備してあるのでそれを使ってもらいます。」

「分かりました。色々とツッコミどころは多いですが今は時間がありません。」

「そう言ってくれると思って防具と武器は持って来てあります。放課後になったらそれを着てダンジョンの前に集合してください。」


ちなみに今のステータスの仕様だと、二十歳くらいになるとレベルが10を超えるらしく、殆どの人がアイテムボックスを持っている。

なので物の受け渡しがとても楽になっていてとても便利だ。

それに渡したのは先日ダンジョンに入って手に入れた90階層クラスのドロップ品をアズサが調整してくれた物だ。

アズサなら先日のジムの更衣室で着替えた際にココノエ先生のボディーラインを見ていて適任だった。


「あの?これはライダースーツですか?」

「性能に関しては保証します。防御力4000はダテじゃない!」

「いえ、そういう意味では・・・。は~仕方ないですね。」

「それと武器はこれです。」


そう言って取り出したのはダンジョンの最下層付近で手に入れた剣を短く研磨して整えたショートソードだ。

最初に鞭を考えたけど、あれはリーチは長いけど取り回しや扱いが難しい。

この短時間で使いこなすのは難しいと考えて最初は剣で戦ってもらう事になった。

ただし作ってはあるので渡すだけは渡しておこう。


「こちらは剣に・・・鞭ですか。これは冗句と受け取れば良いのでしょうか?」


そう言いながらも鞭を手にして見事に振り回しているけどもしかして最初から才能があったのだろうか。

流石はジムで女王様と言われているだけはある。


「もしかして何か称号かスキルを持ってませんか?」

「そういえば、氷の女王という称号があります。スキルには氷の魔眼に氷の吐息。それと鞭術が・・・。それと氷の女王の所に『女王は鞭を使えないとダメでしょ!!』と意味不明な文字が?」


また恵比寿の仕業か。

それにしても最初から魔眼に特殊なスキルまであるとは大盤振る舞いだな。

それならついでなので少し試してみた方が良いだろう。


「それなら試しにスキルを使ってみてください。」

「でも危険ではないですか?」

「俺なら問題ないのでお願いします。」

「それなら氷の魔眼から。」


そう言ってココノエ先生がスキルを使うとその目が青く冷たい光を放ち俺の周囲を冷気が包み込んだ。

そして体の周りを数十センチの氷が覆って動きを封じて来る。

これは俺の不動の魔眼とは違い拘束だけではなく相手にダメージを与える事も出来そうだ。

完全に氷に閉ざされてそれを破壊できなければそのまま凍死か窒息させる事も出来るだろう。


「もう良いですよ。」

「・・・フゥ~。体力をそれなりに使いますね。」

「それはレベルが低いからですよ。これから鍛えればその点は解決できます。次は氷の吐息をお願いします。」

「はい。」


俺は体を覆っている氷を砕いて払い落すと次のスキルを使う様に指示を出した。

感じから言って同レベルの相手ならこう容易くは行かないだろう。

そして氷の吐息を使ってもらうと瞬時にダーツほどの氷の礫が発生して襲い掛かって来た。

ココノエ先生もこれには驚いてしまってスキルをすぐに止めたけど10を超える鋭い氷が襲い掛かって来る。

俺はそれを全て素手で受け止めるとテーブルに並べて確認に入った。


「サイズは15センチくらいですね。今後のレベルアップと強化でこれがどう変化するかが楽しみです。」

「ユウキ君がどれ程の力を持っているのか知りませんが落ち着き過ぎではないですか?」

「この程度は大した問題じゃありませんよ。部屋を壊すと後が面倒なので受け止めただけです。しかし戦闘向きなスキルで良かったですね。これなら10階層付近でも戦えそうですよ。」


俺はスキルの効果を確認すると氷を握り潰して傍の水道へと溶かして流しておく。

強度は通常の氷よりもあるみたいなので、これならゴブリン程度は瞬殺できそうだ。


「装備品は好きに選んでください。おすすめは中距離が鞭、近距離は剣を使うかですね。」


鞭は下層の魔物からドロップした皮を使ってるので攻撃力2000を超えているから十分なはずだ。

当日までにはアンドウさんに依頼してあるゴ〇ラモドキの皮を使った物も届く。

あれならレベルの上昇と合わせれば下層でも通用するだろう。


ただしココノエ先生に下層まで潜ってもらうつもりは無い。

これから行く場所へはこれくらいの備えが無いともしもの時に危険だと判断したからだ。

備えておいて損は無いだろうから早く適正階層を見つけてガンガンレベルを上げえもらおう。

そして昼休憩もチャイムと共に終わりを迎え、俺達は生徒指導室を後にして行った。

ただ少しして職員室から何か声が上がったけどきっと虫でも出たのだろう。

その後、俺達は午後の授業を終えてからダンジョンの前へと集合した。


「それじゃあ行こうか。」

「はい・・・と言いたのですがこの子達もですか?」

「そうですよ。」


俺の横にはアン、ミキ、カナデが並んでいてココノエ先生と同じ様な服装を身に着けている。

彼女達は他のメンバーに比べるとレベルが低く訓練が必要だと判断したから一緒に行ってレベルを上げてもらう。

ただ強制をした訳では無く声を掛けると快く了承してくれた。


ちなみにアンは剣を装備していてレベルは20と子供にしては高いと言っても良い。

ただミキとカナデに関しては普通の子供と変わらず、レベルは5と低くてこれから鍛える必要がある。

それでも家で稽古をしていたらしくスキルには槍術と棍術があるので槍を持たせてある。

なので構成としては前衛1人、中衛2人、中後衛1人とバランスとしては悪くない。

これに俺がサポートに入れば危険も無いだろう。


「それよりも早く行かないと部活の時間が無くなってしまいますよ。」

「え・・・部活?」

「はい。実は理事長から言われてダンジョン部を作る事になりました。メンバーは理事長が選んだ者に限られるそうで顧問はスサノオ先生です。教師は保護者として同行が可能ですけどね。」


そう言って俺はトウコさんが作成した説明書をココノエ先生へと渡した。

きっと数日中には教師に対しても説明を行うだろう。

その時にココノエ先生から中の様子が説明される事になる。

だからそれらの事を全て含めてこの土地を提供したそうだ。

ただし、あの時に失敗していたらここを中心に被害が出るので損害としては計り知れないことになっていた。

それでも生徒を選抜してダンジョンに送り込む権利を得られるなら、成功した後の見返りは計り知れない。


「ちなみに手に入れたアイテムの一部は学園に納めないといけません。それ以外は俺達の部活で備品や運営資金になるのでそのつもりで居てください。」

「なんだか私よりも先生らしいですね。」

「慣れてますから。」


以前の時にも同じようなシステムだったので要点は既に分かっている。

それに命を賭けてダンジョンに潜るのだから同行した教師にも報酬は分配される。


「今の相場は下級ポーションが1本500円です。中級になると1本5万円ですね。」


以前なら魔法が無かったので下級が5万円、中級は15万円とかなりの高額商品だった。

しかし、今では初級は100分の1の値段になり、中級は3分の1まで下がっている。

でもそれも仕方がないと言っても良いだろう『ニヤリ』。


「どうしたのよ?そんな悪人みたいな顔をして。」


すると笑みを浮かべた俺にミキが声を掛けて来る。

確かに普通の中級ならば5万円だけど、俺にはアイテムブーストがあるので話が変わってくる。

だから通常なら部位欠損の治せない中級でも欠損部を治せるようになるのだ。

今の世界の常識だと部位欠損が治せる人間は限りなく少なく、ヨーロッパの方では教皇と一部の聖人と呼ばれる人間だけになる。

世界中を探しても20人と居ないらしいので、これはお金を生み出すには十分な条件と言える。


「実は俺には回復アイテムを強化するスキルがある。」

「ふ~ん。でも強化してどうなるのよ?」

「中級ポーションで部位欠損が治療可能になる。」

「は?なに馬鹿な事を言ってるのよ。そんなの無理に決まってるでしょ。」

「それが可能なんだよ。」


俺は片手に中級ポーション・改を取り出すと片腕を切り落として見せる。

その突然の行動に周囲は驚きの表情を浮かべ、こちらへと駆け寄って来た。


「ちょっと正気なの!」

「ああ、至って正常だ。腕からも血が出てる・・・早く飲まないと新しいのが生えて来るな。」


既に腕から噴き出していた血は止まり、肉が盛り上がって回復を始めている。

その様子にミキたちは驚きながらも息を呑んだ。


「アンタの体ってどうなってるのよ!?」

「今はそんな事よりも急がないとな。」


俺はそう言ってポーションを飲むと切り落として回復途中の腕が光に包まれ元の腕が生えて来た。

そして落ちている腕は炎で焼き尽くして一滴の血すら残さずに綺麗に掃除をしておく。


「話を続けるけど、この中級ポーション・改なら1本を100万で買い取ってくれるそうだ。これからしっかりと稼ぐつもりだから頑張ってくれよ。」

「で、でも魔物からそんなに手に入らないって話よ。」

「でも噂では稀に凄い沢山のポーションが手に入った時もあるって聞きました。」

「ああ、それは俺が参加した時だな。回復アイテム系のドロップ率を高める称号を持ってるからポーションはザクザクだ。」

「「「・・・。」」」


なんだか周りの視線が変な気がするけど何か気になる事でもあるのだろうか?

説明も終わったからそろそろダンジョンに入りたいんだけどな。


「ねえ、それを私達に話して大丈夫なの?話が漏れたら狙われるわよ。」

「俺はお前等を信じてるからな。もしそれで俺が狙われても気にはしないよ。それにいつかは誰かが突き止める事だから隠しても仕方がない。」

「そ、そういう事なら仕方がないわね!しばらくの間は秘密にしててあげるわよ。」

「私もそうします。でも巻き込んだら責任は取ってくださいね。」

「その時は相手を磨り潰すだけだ。」

「私は教師としてアナタからの信頼に応えないといけないわね。」

「私は以前から覚悟は出来ています。」


すると、それぞれに信頼に応えようと言葉を返してくれる。

それに、これから年単位で長い付き合いになるのだから彼女達から隠し通すのは不可能とも言える。

それにこれで誰かに知られても俺に悔いはないので怒りならその事を利用しようとする奴らに向けるべきだ。


「そういう事だからここに10本の中級ポーション・改があるから部費は1000万円からスタートだな。お菓子やお茶とかは食べ放題だから買う時は領収を貰って来いよ。」


ちなみにアズサ達が今後に備えて既に買い出しには向かっている。

今日はお試しなので軽くで終わらせて戻るつもりだ。

だからそんな微妙な目で見るのは止めてもらいたい。

こう見えても俺はこの部活を今後も成功させるために頑張っているのだから。

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