251 能力測定
ルリコの問題を解決して数日が過ぎた。
今ではクラスの全員ともそれなりに仲良くなり、いつものメンバー以外と話す機会も増えた。
ちなみにいつものメンバーというのはアズサ、アケミ、ユウナの3人。
それに加え初日で席が近くになったハルカ、アン、ワラビ、ルリコだ。
ルリコは過去の記憶を取り戻してはいるけど今は先日の事も覚えている様で色々な感情が心を満たして上手く表現できないみたいだ。
それでも次第に落ち着いては居るのか子供らしく笑ってはしゃいで楽しんでいる。
それにもうじき春の遠足があり誰もが楽しみにしている。
ちなみに俺は自然を走り回った記憶があるけど遠足の様に皆で歩き回るのは本当に久しぶりだ。
5歳まで皆は勉強を頑張っていたし、途中からは俺の仕事が忙しくなってしまった。
それに行ける時間が無かった訳では無いけど遊園地には身長制限があり、動物園は小学生では定番のイベントだ。
だから行かずにショッピングや遠出をして食べ歩きなどをしていた。
だから、こういった事は前回の中学校以来だ。
「もう少しで遠足だな!」
「そうだね。私も久しぶりだよ。」
「なんだか今はアフリカから凄いVIPが来てるらしいよ。」
「動物園にVIPですか?もしかして凄い園長でも来てるのでしょうか?」
「それは違う。何でも特別なライオンらしいよ。」
そう言って情報を提供してくれたのは後ろで聞いていたハルカだ。
それに続く様にしてルリコも話に入って来る。
「何でも白くて綺麗なライオンらしいですよ。だから扱いにとても気を遣うそうです。何でも好物が山羊のミルクとか。」
「そういえば、もうじき学園の前に新しい喫茶店がオープンするらしいですね。なんでもあの有名なゴート・カフェでマイスターの称号を得た人が開くそうですよ。」
すると山羊のミルク繋がりでアンが話題を切り替えた。
その話なら俺もしっかりと聞いており、全ての手配をアンドウさんが嬉々としてやっていたのを覚えている。
名目が幾つかあって、その1つは学園の監視。
これからちょっと新しい試みが行われるのでその為の拠点が必要となった。
ただし、そう言った人達が同じ店を使い続けていると店の人に怪しまれる。
しかしカリーナは色々と事情を話しても良い人材なのでその辺の融通が利く。
だからそれなりのビルを1つ買い取って1階と2階をカリーナが経営する喫茶店にして3階から上はアンドウさんの部隊が待機したり装備品などを保管する場所にするそうだ。
税金の無駄使いの様な気がするけど、何も入れないと不自然になりお店が入れば税金も入る。
どうせ何も入れなければダミー会社でも作って誤魔化すのだろうから、それよりもずっと良いだろう。
それにあれからカリーナの喫茶店は色々なメディアで取り上げられて行列が出来るくらいに有名になっている。
きっとマイスターの称号を得られたことが大きい・・・はずだ。
多分だけどアンドウさんが手を回した訳では無いだろう。
あの人はのんびりと静かに飲むのが好きだからな。
ただその為に1階と2階を分けてあるのだろう。
何でも2階は会員制にするらしくて人数や客を制限するらしい。
きっと会員証はアンドウさんが全て買い占めて独占するに違いない。
「それなら今度皆で飲みに行ってみるか。」
「賛成~。」
ちなみに俺は既に会員証を持っており、少し前にカリーナと顔を合わせた時に直接渡されている。
これを使えば同行者も2階に上がれるのでのんびりと飲めるだろう。
この中で騒ぐと言えばワラビだけなので事前に言っておけば大丈夫なはずだ。
その後、オープンしたら皆で都合を合わせて行く事となり、事前に告知されているホームページのメニューなどを見て会話は自然と弾んで行った。
そして今日は1つのイベントが控えており、普通の授業の中に初めての体育が入っているのだ。
まずは能力測定という事だけど、このクラスは能力が高い者が集まっている。
その代わり問題児も含まれているらしいけど見るのがとても楽しみだ。
「これからの体育が楽しみだな。」
「ハルヤは手加減しないとダメだよ。」
「普通にやっちゃうと測定できないもんね。」
「今日だけで世界記録を色々と塗り替えそうです。」
あれ?俺って問題児じゃないはずだよね。
なんだか扱いがそっち寄り何だけど、きっと俺の気のせいなはずだ。
「ハルヤは時々手加減を忘れるから気を付けて。」
「グラウンドを壊さない様にね。」
「特にクレーターとかはダメですよ。」
「ハハハハ!問題児同士頑張ろうね。」
するとハルカ、アン、ルリコ、ワラビが追撃の言葉を送って来る。
ちなみに俺は普段からそんな事はしないのに、これでは本当に問題児の様に思えてくる。
ただ、アズサ達が教官をしている所を録画していて皆で密かに鑑賞会を開いていた。
そのせいで周りを破壊すると若干思い込んでいるのだろうけど、それは違うと声を大にして言いたい。
まあ、若干かどうかは置いておくとしてワラビとでは問題児の意味が違う。
俺は毎日10分前には教室に来るけどワラビは5秒前とか出席を取り始めてから現れる事が多い。
すなわち遅刻ギリギリの常習犯として生活態度においての問題児となっている。
それに比べて俺は学校での生活態度は良いつもりなので、今回の件は周りの誤解を解消する良いチャンスかもしれない。
「ワラビ。俺をお前のに巻き込むなよ。」
「はう!まさかの裏切りですか!?」
「それならお前が生活態度を改めろ。」
「うぅ~・・・ハルヤが虐めます~。」
そう言ってワラビはヨヨョ~と泣き真似をするけど誰も取り合ってはくれない。
そして着替えて外に出すとチャイムが鳴り、すぐに体育教師が姿を現した。
この学園では体育となると小学生の時から専用の教師が付く事になっている。
多彩なスキルに高い身体能力がある事もあり、教師にも並みを超える能力が必要だからだ。
トワコ先生ならその心配は無いと思うけど、これも決まりだから仕方がない。
そして俺達の前に現れたのは顔は毛むくじゃらで体は筋肉で覆われた様な大男だ。
髪は長くてぼさぼさで、ちょっとワイルドに見える。
そんな男が黒いジャージに身を包んで一瞬で姿を現したので周りの子供たちは驚いているようだ。
しかし、そんな中でもちろん俺も驚いているのは言うまでもない。
「スサノオがどうして体育教師なんてしてるんだ!?」
そこに居るのは紛れもなくスサノオだ。
しばらく会っていなかったけど、てっきり黄泉に居るものだと思っていた。
もしかして俺が思っている以上に邪神との再戦は近いのだろうか。
「ガァーハッハッハ!驚いたかハルヤ。」
「当たり前だろ!」
「まあ、ぶっちゃければこの学園には色々居るからな。ちなみにお前はここの各学校の校長知ってるか?」
「そう言えば入学式の時に挨拶はしてなかったな。」
確か話をしたのは経営陣だけで校長や教頭は居なかった。
敢えて言えばゲンさんとトウコさんが大学でそういった立ち位置に居るという事くらいだ。
「まあ、みんな気配を消してるから気付かねーのかも知れねーがな。お前等の所はユカリが校長してて、クレハが教頭よ。中学はツクヨミがしてるし高校はアマテラスがやってるぜ。」
それは知らなかったけど、もしかしてこの学園は人外の巣窟なのか?
確かにスキルで見てみると校長室で仕事してるみたいだけど。
「最近は金を稼ぐのも大変だからな。あの爺さんと話してこうなったのよ。」
「それにしては他の皆はちゃんと役職についてるのにお前だけ唯の体育教師なんだな。」
「ガーハッハッハ!でも言っとくけど給料は一番良いんだぜ。何でも危険手当って奴がガッポリ付いてるらしい。」
でもスサノオの場合どちらが危険かで言えば明らかに生徒の方が危険だろうから、その手宛に意味があるのかは大きな疑問を感じる。
まあ、細かい事は後で聞くとして生徒たちも驚きから回復し始めているのでそろそろ能力測定を始めないといけない。
「それなら今日からお願いします。スサノオ先生。」
「任せておけ!お前等も死なねーようにな!」
さっそく死ぬな発言とはこの先が思いやられる。
もしかするとこれまでの生徒の中には自力で回復系のスキルを身に付けた奴が居るかもしれないな。
そんな不安の中で能力測定が開始された。
「まずは握力測定か・・・。てかこれ1トンまで測れるんだけど!」
「そりゃあっち製の特別製だからな。」
「でもスサノオ先生。何度やってもエラーしか出ませんよ。」
「ん?ちょっと貸してみろ。・・・確かにエラーしか出ねえな。壊れてんのか?」
さっそくトラブルとは運が無いな。
なんだかクラスメートの視線が冷たいけど壊したのは俺ではないはずだ。
だって最初からエラーが出ているのだから仕方ない。
「先生、私がやってみます。」
「ああ、ミズ・・・アズサか。お前も試してみてくれ。」
アズサはスサノオから握力計を受け取ると力を込めてから表示を見せてくれる。
するとそこには狙ったかのように777キログラムの表示がされていた。
どうやらこの機械は俺とスサノオの事が嫌いなようで何度試してみてもとエラーなので困ってしまう。
いっそのこと本気を出して握り潰してやろうか。
「仕方ねーからお前のはエラーな。」
「まあ、それも仕方ないか。」
そして背筋測定を試すとこちらもエラーばかりしか出ない。
こちらは10トンまで測れるのに何がイケないのだろうか?
「これもエラーか。このままだとお前赤点になるぞ。」
「それは困ったな。赤点は慣れてるとしてまさか俺が機械音痴の烙印を押される事になるとは思わなかった。」
「まあ、他の競技もあるから頑張れよ。」
そして次は走り幅跳びだ。
これはスキルを使わずに肉体的な力だけで飛ばないといけない。
最近はスキルを多用していたので久しぶりに本気で飛んでみよう。
「おりゃ~~~!」
すると俺は地面を踏み締めた時の衝撃で足元を陥没させ、突風を巻き起こして学校の敷地内から飛び去って行った。
どうやら想像以上に飛び過ぎてしまったようで、危うくビルの窓を突き破るところだ。
「測定器の範囲外か。場外で良いだろう。」
俺は急いで戻ると何故かアズサ達に叱られ壊れた地面を直させられた。
でもスキルを使っちゃダメって言われたから仕方がない。
普段はこうならない様に地面に足が付いている様に見えても空歩で移動しているのに。
「さてと。気を取り直して反復横跳びか。」
「気を付けてね。」
「任せろ。」
そして配置につくと機械が作動し回数がカウントされ始めた。
「残像脚!」
「「「は~・・・。」」」
そして測定が終わりスサノオはデータを書き込んでいる。
これなら単純に500回はカウントできただろう。
「よし5回だな!」
「何ですと!」
「さて、次に行くぞ。」
「ま、待て!どう見ても機械の故障だろ!」
「時間がないから急ぐぞ。」
「「「は~い。」」」
しかし俺の言葉は誰にも届かず、次の測定へと進んでしまった。
だが次の種目は大丈夫だ。
なにせ短距離走だからな。
これにはスキルも使用が許可されているので地面を砕く心配は無い。
「さあ行くぜ。」
「よう~い・・・ドン!」
俺は機械の音声に合わせて一気にゴールへと飛び込んだ。
これで1秒は切る事が出来ただろう。
『エラ~・・・エラ~・・・。』
「しまった。ここでも機械音痴の影響が!」
「よし、エラーっと。」
「ま、待ってくれスサノオ。これはきっと何かの間違いだ!」
「ええい!往生際が悪い。諦めて次に行くぞ。」
おのれ~~~!
これは何者かの陰謀に違いない。
それとも歴史の修正力が俺に赤点を取れと言っているのだろうか。
そうなれば俺にあがなう術はない。
仕方ないから今は甘んじて不名誉を受け入れよう・・・。
「ハルヤは本気で気付いてないみたいだね。」
「お兄ちゃん張り切り過ぎなんだよ。」
「でも見てて面白いから誰も教えてあげてませんね。」
そしてその後もエラーを連発させて能力測定を終了させた・・・いや、してしまった。
この結果は後で張り出されるそうなので俺が最下位なのは確定だろう。
機械は異世界製という事なのでクレームではないけどハクレイに言って点検してもらおう。
そして数日後に測定結果が張り出され、その前で自分の名前を探していた。
順位も付いていて俺はだんとつの学年最下位でこの学園が始まって以来の最低点を更新している。
まさか上を塗り替えるつもりが下を塗り替えるとは思わなかったけど、今後もこれを下回られる事は無いだろう。
隣のクラスの奴等からも陰でクスクスと笑われて後ろ指を指されているし、なんだか昔に戻った気分だ。
「は~・・・まさか再び赤点を取る事になるとはな。」
「味方によれば一番だよ。」
「私より下ってマジでウケた。」
「ワラビは止めを刺すのが達人級だな。」
俺は机に顔を押し付ける様にして呟くと周りの皆がよしよしと後頭部を撫でてくれる。
ただ、唯一の救いはこのクラスの奴等は俺の実力をある程度はその目にしているので態度が変わらないという事だ。
この程度の事は既に慣れているし、既に大学卒業までの確約は貰っている。
留年は休まない限りは無いので気にはしてないけど、やっぱり少しはショックを感じているようだ。
するとそんな俺の所へと1組の男女がやって来た。
「あの・・・。」
「ああ、シュリさんか。どうしたの?」
「いえ・・その。周りの人がアナタの陰口を言ってるって精霊たちが・・・。」
「そうなんだ。シュリさんは精霊使いで親和性が高いんだね。気にしなくても良いよ慣れてるから。」
するとシュリさんは驚きに目を見張り、それは隣にいるダイチも一緒だ。
ただ常識的な事を言っただけなのに何を驚いているんだ?
「お前はどうして俺達の事をそんなに詳しく知っている!」
「知り合いに似た様な人がいただけだ。困った時に聞きに行くと国家機密でも教えてくれたから色々と助かった。」
「そ、それは凄いですね。」
「ああ、だから君らも不要な事をいっぱい聞けて大変だろ。まあ、しばらくは俺の話でもちきりだろうからそっちは気にしないで良いよ。さっきも言ったけど慣れてるから。」
「は、はあ・・・。」
「言うだけの事は言ったぞ。行こうシュリ。」
「はい。」
そしてダイチに促される形でシュリは自分の席へと戻って行った。
今みたいに教えてくれるという事は気は良い連中なのだろう。
ただ俺も耳は良いのでダイチはともかくシュリの噂はよく耳に入る。
時々空中に視線を向けて笑いかけてるとか独り言が多いと彼女も色々と言われている。
確かに知らなければ頭がおかしいかったり気味悪がられる事もあるだろうけど、あれは単純に精霊と話をしているだけだ。
それに普通は精霊が見えないので自覚が無い者は多いけど、それ自体は何処にでも居る。
それを理解しないとは小学生と言っても九十九学園の生徒ならもう少し勉強をした方が良いのではないだろうか。
まあ俺は本ではなく現物を見て覚えたので彼らとは少し違うけど。
そんなこんなで時間は経過し、とうとう楽しみにしていた遠足の日がやって来た。




