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244 合格通知

実技試験から数日が過ぎており、今日は天気も良くて紫外線も柔らかい。

と言うよりもクオナ達のおかげでフロンガスによるオゾン層の破壊も無く、ナノマシンのおかげで日本には穏やかな四季が保たれている。

以前までは気温の上昇による残暑や南極や北極の氷が解けて海面が上昇したと騒いでいたけどそういった事も言われていない。

まあ覚醒者の俺達には関係が無いのだけど季節ごとの匂いや空気の感じ。

それと風景から四季を感じる事が出来る。


そしてアズサ達の許へと試験の通知書が届いており、誰も落ちたとは思っていないけどなんだか凄く緊張する。


「ねえ、ハルヤが緊張してもしょうがないよ。」

「お兄ちゃんは心配性だよね。」

「それも良い所ですけど。」


そう言って3人は緊張を感じさせない動作で封筒を開けた。

そして、そこには見覚えのある文字とカードが入れられている。

それを見て誰もが俺にジト目を向けて来るけどそれは冤罪と言うものだ。

俺は皆が合格する事を信じて疑った事は無いので誰かにお願いなんてしていない。

だけどこんな事が出来る犯人はただ1人だけだ。


「アンドウさんの仕業で間違いない。」

「でも私達って1歳の時から勉強頑張ってたんだけど、その努力は何処に向ければ良いのかな。」

「そうだよね。なんで特殊医療行為許可証まで入ってるのでしょうか。」

「私達ってあんまり治療とかしてないよね。」


するとアケミが何やら気になる事を言っている。

俺も3人をずっと見ていた訳では無いので知らないけど、もしかして何かをやっていたのか?


「もしかして誰か治療してたとか?」

「係の人が腕に火傷したから治してあげたよ。ついでに燃える前から薄そうな頭とか・・・。」

「私は足を挫いて泣いてる子供を治してあげたかな。意外と多いんだよね。」

「私は魔法の暴発をした人を数人直しました。どうしてあれで試験に来たのでしょうか?」


なんだか作為的なものを感じるのは俺だけだろうか。

それにしても俺はハゲを治せないのにアズサは治せるんだな。

これはさすが聖女と言って良いのか分からないけど一部の人には希望の光かも知れない。

まあ、それは置いておいてこれで答えが出たな。


「今回の企画はアンドウさんが立てた物なんだ。もしかすると覆面で別の審査員が居てもおかしくない。もしかすると俺の時みたいに何か伝言が入っていないか?」


そしてそれぞれに書類を漁ると同じ文面の紙がそれぞれに入っていた。

俺の時はしっかりと勉強しておけだったけど3人にはなんて書いてあるんだ?


『お前達の実力は既に分かっているので実技の必要はない。それとハルヤと違ってお前らは頭が良いし頑張ていたのは既に知っている。以前に送ったメールによる模擬試験もパーフェクトだったので申請を通すのも簡単だったぞ。その調子でハルヤの事もビシバシ鍛えてくれ。』


なんだか俺とは大きく扱いと言うか信頼感が違う。

しかも模擬試験ってそんな事をしていたのは知らなかった。

流石は2つの時代を駆け抜けたマメ男だな。


「でも筆記試験となると一緒に実技試験を受けた奴が来るかもしれないだろ。」

「そうだよね。『希望の光』はともかく、『エンタイア・ブースト』に関しては覚えてるよね。」

「確かにあの効果は凄いからどんなに鈍くても分かっちゃうから気付いた人が要るかも。」

「それに私達もヤリ過ぎちゃったからきっと誰かが探してるかもしれないよ。」


そういえばアレは俺さえも殺し得た魔法だった。

周りは規模が大き過ぎてどれ程の威力が有るかも気付いてないだろうけど下手をすればあの会場が無くなっていたかもしれない。


「それに悪い事ばっかりじゃないぞ。」

「そうだね。これでずっと準備して来たアレが食べられるもんね。」

「そう言う事だ。」


そしてアズサは台所に行くと自身のアイテムボックスから大量の魚肉を取り出して料理を開始した。

あれは5年前にお預けにしていた魚のクエで今日の為にアズサが時間を掛けて捌いて準備していた物だ。

なにせ2メートルを超えていたので小さなアズサが解体するには時間が掛かる。

しかも勉強やその日の料理等の準備をしていると流石に何度かに区切って作業を行う必要があった。

しかし、その苦労が実りとうとう食べられる日がやって来たのだ。

やって来たけど・・・なんかちょっと?少ない気がするな。

なんだか以前にも同じような事があった様な気が・・・。


「アズサさんや?」

「何かな?今は料理の途中だよ。」

「いやな。頭は無くても分かるんだよ。頬肉とか目とかあるけど味見で食べたんだろうなって。」

「・・・そうだね。味が分からないと料理が出来ないよね。」

「ああ、そうだな。それで腹身はどうしたんだ。一番油が乗ってる所だよな。」

「・・・そ、そうだね。」

「・・・美味しかったか?」

「あ、あのね。お母さんが味見しようって焼いてね。その・・・。」


俺が静かに問いかけるとアズサは勢いよく振り向いてちょっと涙目になった顔で弁明を始めた。

しかし最後に言葉が止まった所を見ると悪かったとは思っているようだ。

なんだか以前にもミズメと鮭を食べていて似た様な事があった事を思い出した。

だから俺にはその時の光景がまるで見て来たように浮かんでくる。


「とても美味しくて箸が止まらず、勢いで全部食べちゃったと?」

「・・・はい。」


しかも今回は共犯者であるアイコさんも一緒だ。

止めるべき存在が率先して食べてるのだから子供が止まるはずは無い。

しかし、その事は既に経験から予想は着いていた。

だから世界の海を股に掛けたこの俺がクエを1匹しかストックして無い筈がないじゃないか。

しかも渡したクエは俺の持っている中では最大級だけど、同じのは何匹も捕獲してある。

だからアズサが反省する事は重要だけど悲しむ必要はない。


「それなら追加で捌いてくれれば問題ないよ。少し大変だろうけど頼めるか?」

「うん!任せて!」


するとアズサは嬉しそうに俯けていた顔を上げると大きく頷いた。

この笑顔が見られれば俺には他に言う事は何もない。


「やっぱりお兄ちゃんはアズサ姉に甘いよね。」

「甘々です。ですから今は私達でお兄さんを独占しましょう。」

「そうしましょう。」


なんだか2人がピッタリと引っ付いて来たけどちゃんとこちらの事も甘やかしているぞ。

一緒に寝たり出かけたりする事に関してはアズサよりも多いくらいだ。

その分アズサに寛容になるのは逆にバランスが取れているはずなんだけど、今は罰としてアズサに料理を任せて2人を甘やかしておこう。


「ふみゅ~。」

「みゃ~。」

「本当に2人は甘えん坊だな。」


アズサにはミズメが使っていた解体包丁一式を渡してあるので一度捌いた魚なら時間は掛からないだろう。


そして、その予想は現実となり数分後にはブロックごとに切り分けられた状態で台所が埋め尽くされた。

当初の予定で言えば5割増しと言った感じだけど摘まみ食いで腹身が無くなるのだから食べきれるだろう。

後は揚げて、煮て、焼いて、刺身にして鍋に入れれば完成だけど、こうして料理を頭の中で思い描くだけでも凄い量だ。

まあ、それを示す様に魚も山盛りだから仕方が無い。

その後に母さん達も料理に加わり無事に夕飯を完成させる事が出来た。


ちなみに俺は庭でクエの頭で兜焼きを作っている。

剣に刺して焼けば出来るので簡単なお仕事だ。

それ以外の繊細な味付けが必要な物は母さん達やアズサが作っている。

それでも以前ならこれさえも任されなかっただろうから俺の進歩も認められているという事だろう。


しかし、こうして思い出してみても串で焼いたり網で焼いたりといつも焼いてばかりだ。

・・・もしかして途中から料理の腕が進歩していないのか!?

待て待て!そんな事は無い筈だ。

そうだ、麦粥が作れたのだから、あれだって立派な料理に違いはない。

牛乳で麦を煮るだけの簡単な物だったけど・・・。

でもそう言えば・・・あの時にナディーの口からボリボリと音がしていた様な気がする。

急いでいて互いに気にしなかったけど、もしかして失敗作だったのか?


もし、この時代で再会が出来た暁には、あの時の事を聞いてみたら良いかもしれない。

都合よく会えるとは思えないけど、もしかしたらという事もある。

その時の為に覚悟だけはしておこう。


そして作られた料理がテーブルに並び、今日の主役である3人も席に着いた。

ちなみに摘まみ食いの主犯であるアイコさんに関してはお仕置として昔手に入れた美味しくない饅頭を100個積み上げている。

それを食べないと美味しい料理が食べられないのでその顔には悲痛な表情が浮かんでいる。

これには流石のハルアキさんも助け舟は出さず、苦笑を浮かべて見ない様にしている。


「それでは3人の試験合格を祝してカンパ~イ。」

「「「カンパ~イ!」」」


それと同時に皆でグラスを掲げて乾杯を行い、飲み物を口へと流し込む。

ちなみに氷は北大西洋で船を助けた時に手に入れた流氷を使ってある。

長い年月をかけて凍った氷は、まるでクリスタルの様に澄んでいて時間が止まっているかの様になかなか溶けない。

父さん達もビールの後に使うと言っていたので既に準備を整えている。

何でも魚料理はお酒と相性が良いらしく今日は祝いとあってかなり飲むつもりのようだ。


そして最近やっと謹慎が解けたツクヨミたちにも話を振った。


「そう言えばツクヨミたちも少しは落ち着いたのか。」

「はい。でも最近はクオナが面白いゲームを持って来てくれたのでそれにハマっています。」

「ああ、あれか。でもアレって日本の家だと不向きなんだよね。」

「そうですねえ。飛んだり跳ねたりと色々するから学校の体育館くらいの大きさが必要になります。」


クオナが持って来てくれたのはワイヤーアクションを可能にしたVRゲームだ。

装置がかなり大きくて普通の家では導入できない。

だから試験運用としてその気になれば自由に形を変えられる我が家にテストプレイの依頼が来たという訳だ。

ちなみにツクヨミたちが遊んでいるのはオマケみたいな物で本命は母さんやアイコさんになる。

母さんはゲーマーとしての視線からプレイし、アイコさんは一般人枠としてプレイしている。

それぞれにかなり楽しんでいるから良い暇潰しになっているだろう。


「ユカリはどうなんだ?」

「最近は神社にも多くの者が来ておるのじゃ。それにクレハもしっかりと手伝ってくれておるぞ。」


ちなみにユカリの神社は恋愛成就の神として祀られていて全国でもトップクラスの人気を誇っている。

なんでも一時期は御利益が薄くなって参拝客が減ったと言っていたけど、それはゲームに夢中になっていたからだろう。

今はそれを取り返す様に既婚者を量産している。

あそこは元々そのつもりで作ってあるのでそう言う建物が幾つか作ってある。

今ではあそこで結婚式を挙げるには1年後くらいまで予約でいっぱいだそうだ。


「クレハは何の仕事をしているんだ?」

「最近はおみくじから御守りにかけて機械が作ってくれるようになりましたから最近は売り子をしていますね。」

「そういえば厳島に居た時は皆で手作業で作ってたもんな。」

「はい。最近はあの頃が少し懐かしいです。」


機械の無い時代は手作業が普通なので皆で墨を磨ったり筆で書いたり大変だった。

でもおみくじには時々遊びで超大凶とか作って入れていた。

書いてある内容は真逆で全て叶うと書いておいたのだけど、何故か凄い人気で一時は作るのが大変だったのを覚えている。

あれは仕事が少ない時だけの遊び心なのであんなに来てると入れられないんだけどな。


「そういえば私は超大凶を引いた事があるわよ。」

「え!」


そう言ったのは饅頭を穴に放り込むように口へと流し込んだ後にクエを食べているアイコさんだ。

噛まずに食べているので胃は大丈夫かと思わないでもないけど、この人を一般人と同列に考えるのは既に諦めている。

きっと何の問題もなく強靭な胃袋と胃液で消化してしまうだろう。

それよりもどうやら今もあの遊びは続いているらしく、それを引き当てるとは流石アイコさんだな。


「もしかして今もやってたりするのか?」

「まあ、何処かの誰かが遊びで始めてしまったので年に数枚だけ入れてますよ。誰かが始めてしまったので。」


なんだか事実に気付いている3人の目が少し痛い。

でもおみくじにご利益なんて無いだろうに、SNSとかに載せるためだろうか?

あれって心の持ちようを正すための切っ掛けみたいな物なので、あまり気にされても困る。

しかし、そう思っていたのにアイコさんはズバズバと否定する様にその後の事を言い始めた。


「でもアレのおかげでハルアキさんとも会えたし、結婚出来てアズサも生まれて仕事だって出来てるのよね。」

「は?」


一体何を言ってるのだろうか?

アイコさんの今は無色でニートのはずだ。

時々旅行に行くけど、それはフードファイトの為じゃないのか?


「え?言ってなかったっけ。私は地元の球団に雇われて仕事をしてるわよ。」


そう言って名刺まで見せてくれるのでどうやら嘘では無いらしい。

俺も時々テレビで見ているけど、どんな仕事をしているのだろうか。

最低でも言える事はこの人をグラウンド内に入れてはいけないという事だ。

そんな事をすれば打った球が際限なく襲い掛かって来るだろう。


「それで、どんな仕事をしているんですか?試合が終わった後のゴミ掃除とか?」


それでもこの人なら拾い食いしそうでちょっと心配だ。

扱いが酷い様だけど、この人はそれくらいには意地汚い。


「それは秘密よ。球団内でもトップシークレットなんだから。」


そう言われると無理には聞けそうにないので機会があれば尾行して確かめてみようよ思う。

アズサ達にも視線を送ると楽しそうな顔で頷いているので同行を希望しているようだ。

ハルアキさんはきっと知っているんだろうけど俺達の事に気が付いて溜息と一緒に苦笑を浮かべている。

どうやら見に行く分には問題が無さそうだ。

そして楽しくて美味しい食事を食い尽くし、俺達は一緒のベットの中で仕事拝見の計画を立てるのだった。

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