215 屋久島
神社に到着するとそこでは既にクレハが待ってくれていた。
そして、ここは島自体が神域に近いらしく、ツクヨミとユカリもかなり楽そうにしている。
ここならまだ土地も多く残っているし近くに小さな家を建てれば生活は可能なはずだ。
ちなみにその家には神棚を置いて拡張する事が既に決定している。
あれなら特別な空間なので家は劣化しないそうだ。
掃除などは俺が浄化すればすぐ終わるし、維持に使う精神力は俺が供給すれば良いだろう。
近くには商人が頻繁に立ち寄る町もあるし仕事や生活に困る事も無さそうだ。
それにこの神社には海を行く商人が頻繁に立ち寄るらしい。
ここでなら診療所を開いても少しは収入になるはずだ。
「お待ちしておりました。」
「これから世話になるよ。」
「はい。私も一緒に居られて嬉しいです。」
そして俺達はここでの生活の為に動き始めた。
最初は社に宿泊しながら生活し、木を切り倒して地面を整地してから家を建てる。
この時には大工のスキルを持っているミズメが活躍してくれた。
俺も余っている取得ポイントでクラフトという幅広い範囲で使用できる作製系のスキルを覚えてミズメの作業を手伝っている。
それと俺の仕事で木材を手に入れて来るのも重要だ。
持って帰って来た生木はアケとユウが魔法で乾燥させ使える様にしてくれる。
何でもそのまま使うと強度が低く、変形したりして良い家が建てれないらしい。
俺だと魔法の調整が下手なので2人には頑張ってもらった。
そして乾燥した木はミズメの指示通りにハルカが切り分けてくれる。
俺も手伝う事があるけど山の奥に行って良い木を探すのが大変なので時々しか出来ない。
虫に食われていない物や真直ぐな物を探すだけでもかなり苦労するので、ちょっと助けを求めて九州に出張する事にした。
今の俺なら片道に30分も掛からないので木材採取の合間で来られる。
そしてヒルコとハナが経営している店に入ると丁度良くシアヌとウシュラを見つけて声を掛けた。
「帰っていてくれて助かったよ。」
「ああ、ハルヤじゃないか。」
「こんにちは。私達も昨日帰って来たばかりなのですよ。」
それは本当に丁度良かった。
2人も祭りの後に船ですぐに帰ったらしいけど、あれから10日程しか経過していない。
帆船での旅は風任せ波任せなので、もし帰っていなければ探すのにかなり苦労しただろう。
すると奥からヒルコも顔を出しこちらへとやって来る。
「ハルヤじゃないか。もしかしてモモカさんからの伝言かい。」
「いや、ちょっとした商売の話をしに来たんだけど聞きたいか?」
「聞こうじゃないか!」
今のヒルコは歴史が変わったおかげで生粋の商人をしている。
組織に所属した事は無く、モモカさんに鍛えられながらこの店の主人をしていた。
だから俺との関わりは薄く直接の恩は何も無い。
今も俺がモモカさんと付き合いがあるので確認で声をかけて来ただけだ。
でもそのおかげで商売にはかなり厳しく、儲け話には真剣に対応してくれる。
だからヒルコと真面に話すなら、まずは利益をちらつかせないといけない。
「お前も最近は京の都で建築ラッシュなのは知ってるな。」
「ああ、何でも材料が不足してるらしいな。しかし、それはこちらも同じだ。だからそれ程あちらに回す余裕は無いぞ。」
「そこで登場するのが屋久島だ。名前くらいは知ってるだろ。」
「それなら知っている。しかし、工芸品以外にめぼしい物は・・・そうか、杉か!」
どうやら、この辺でも少しは取り扱いがあるみたいだ。
知っている工芸品が何で出来ているのかを思い出して少し興奮している。
「あの島には良質な杉があって殆どが手付かずだ。但し、島だから取り過ぎたら全滅するかもしれない。それだとあそこに住んでいる島民にも良い顔はされないだろ。」
「その通りだな。しかし、こうして言って来るということは解決策があるんだろ。」
「ああ、その通りだ。」
そう言って俺は横で様子を眺めていたシアヌに視線を向ける。
コイツなら持っている能力で植物を成長させられるのでたくさんの材木が取れる。
しかもその力を使えば虫食いだらけの木だろうと治せるはずだ。
俺が北海道でコイツの作ったバリケードを破壊した時も元通りに修復させていたから間違いない。
その辺の話をヒルコにすると疑う事無く納得してくれた。
「よし!お前は今日から屋久島に行って木材を手に入れてこい!」
「え~~~!ちょっと待ってください。俺は昨日帰って来たばかりですよ。」
「兄さん行きましょう。」
「え!・・・良し!いくぞー!」
さすが妹大好きなシアヌなだけはあり、鶴と言うかウシュラの一声で掌を返してしまった。
「行きは俺が送ってやるから早く準備をしろ。」
「分かりました。それ程は待たせませんのでお待ちください。」
そう言ってウシュラはシアヌの手を引いて店の奥へと消えて行ったので今はここに住み込みで働いているのだろう。
以前に聞いた話では住み込みには衣食住を保証する代わりに給料は出さないか少ないと言っていた。
まだここに来てそれ程の時間は経過していないので家具などは元からあった物でも使っているのだろう。
現代の様に大荷物で来た訳では無いのでアイテムボックスに荷物を片っ端から入れて30秒で戻って来た。
「お待たせしました。」
「何でこんなに積極的なんだ?」
「精霊が私達を呼んでいます!」
ウシュラが言う様に最初から何故か積極的だと思っていれば2人にしか分からない精霊関係みたいだ。
俺にはよく分からないのでまずは連れて行ってみるしかないだろう。
今の2人もステータスを持っていて制限は何も受けていないけど、その能力は後衛タイプと見て間違いない。
だからまずはロープを取り出して2人をしっかりと巻き付けて固定する。
一括りにしているのはちょっとしたサービスなので、これなら少しくらい揺れても文句は出ないだろう。
「おいハルヤ。まさかとは思うけど。」
「ウシュラ。しっかりとシアヌに抱き着いておくんだぞ。」
「はい!『ギュ~!』」
「いざ新天地に向かわん!」
コイツもある意味ではハルアキラぐらい乗せやすくて楽だな。
そしてヒルコが準備してくれた大量の食糧や苗を受け取ると代金を支払っておく。
それと飛び立つ前にヒルコに確認を取るために声をかけた。
「精霊の準備は良いか?」
「ああ、風の精霊に頼んで補助してもらえるようにしてある。」
「良し、それなら行くぞ。」
「おう!」
「はい!」
そして俺達は屋久島へと向かい移動を開始した。
最初はゆっくりと移動し次第に速度を上げていったので覚醒者の2人にとっては大して負担にもならないだろう。
そして、しばらく飛んでいると大きな山が連なる陸地が見えて来た。
昔に見た有名なアニメ映画の知識だとあれで間違いないだろう。
その雄大な森の中からは今にも半透明の巨人が現れそうなので、遭遇した場合には命を吸われない様に気を付けないといけない。
そして島の様子を確認するために周囲を一周すると目立つ場所が3つある。
場所は北側、東側、南側で北は兵士が多く町の様な作りで東は規模が小さい村の様だ。
南側は貿易が主流なのか船が幾つかあり畑の面積も広く、一般人が集まっている感じだ。
恐らくは北は軍港の様な所で東が中継地点。
南が農民なども多く住む貿易港なのだろう。
島全体としては大きな川も多く、自然豊かで北海道に引けを取らない。
ただこの島は降雪量の多い北海道と違い降雨量が多いので環境は今迄と大きく違うけど覚醒者の2人なら問題なく生活できる。
鮭は居ないけど海には魚が豊富なので水の精霊に頼めば捕獲も可能で、住む場所もシアヌならすぐに作る事が可能だ。
後は島民との付き合い方だけどそれに関してはアイデアがある。
「まずは南の町に行くからな」
「分かった。」
そして少し沖に向かいそこで船を出すとその上に2人を下ろした。
「シアヌは操船は出来るか?」
「先日に行きと帰りで少し習った程度だ。」
そういえばコバヤカワの世話になったと言ってたので作りが少し違うだけで教えれば操船は可能だろう。
それにゆっくりと進めれば精霊に頼んで安全に入港できるはずだ。
こうして考えてみると精霊魔法は汎用性が高いスキルなので使えない事が本当に残念でならない。
「それなら精霊にサポートしてもらいながら島まで向かうぞ。」
「それが良さそうだな。水と風の精霊に頼んで操船を手伝ってもらう。」
そう言ってシアヌは2つの精霊を呼び出してから指示を出し、教えた通りに操船をして港へと到着した。
俺も速度を出し過ぎない範囲で動力源としてペダルを漕ぎ、近くまで来れば後は惰性と精霊たちに任せたので楽が出来た。
念のために木製の方の船を渡しておけば操船をしなくても精霊のサポートで九州との行き来も出来るだろう。
そして島に到着したので桟橋から陸に上がりそこを歩く中年の男性に声を掛けた。
「ちょっと聞きたいんだけど良いかな?」
「ん?その感じだと余所者か。今年は特に作物の出来が悪い。食料なら無いから長居はしない方が良いぞ。」
「そうか。それならこの町の代表は何処に居るか教えてくれ?食料と交換で仕事を頼みたいんだ。」
「なに!」
すると今まで邪険な顔をしていた男の表情が変わりこちらの腕を掴んで来る。
これは想像以上に深刻な状況のようだ。
「本当か!今年は島の反対側に陣取っている奴らが冬の蓄えを持って行っちまって困ってたんだ。・・・あ、今のは内緒にしててくれ。」
「ああ、分かった。」
「それじゃあ長の所に案内するから付いて来てくれ。詳しい事はそこで頼む。ここだと誰が聞いてるか分からねえからな。」
そして俺達は早足で急ぐ男に案内させて長の家へと向かって行った。
それにしても食糧難が解消され始めたと言ってもこういう離島はまだ不足気味みたいだ。
さっき見た時にもお米が主流みたいで芋類は育てていないようだった。
どれ位の人数が居るか知らないけど今の畑を半分でも芋畑に変えればかなりの改善になるだろう。
この島は外周部は標高も低くて年間を通して暖かい筈なので植える時期さえ考えれば年に2回の収穫も出来るかもしれない。
ただし、それは普通に育てた場合なので今は少しズルをして力を示しておくことにする。
「シアヌ。ここではお前の力が頼りだ。しっかり頑張れよ。」
「隠さなくて良いなら簡単だ。土地も空いてるからすぐにでも食料が生産できる。」
「それなら長の所に行く前に力を見せてやれ。」
そしてシアヌは頷くと前を歩く男へと声を掛け足を止めた。
「少し待ってくれ。少し見せたい物がある。」
「何だいったい。今は少しでも早く長と相談しないとイケねーんだ。」
「その前に見てもらいたい。」
すると男は少し迷っていたけど食料という手札はこちらが握っている。
機嫌を損ねられて今回の話が無くなれば自分の責任なので仕方ないと言った顔でこちらへと戻って来た。
「それで何を見せたいんだ?」
「この土地を使わせてもらいたい。」
そしてシアヌは傍にある何も植えられていない畑を指差した。
地面から等間隔に切られた草の束が顔を出しているので元々は水田なのだろう。
今は水は抜かれて硬く乾燥しているけど十分に使えるはずだ。
男はそれを見て首をかしげるが半分諦めているのか大雑把に頷いて答えた。
「ここなら知り合いの畑だ。後で謝っとくから好きに使ってくれ。」
「そうか。それなら少し待っててくれ。」
俺はそんなシアヌの為にヒルコから買い取ったサツマイモの苗、と言うか切り取られた蔦を渡す。
じゃがいもは種芋を使うらしいけどサツマイモはこの蔦を植えても増やせるらしい。
そして蔦を手にしたシアヌはまずは土の精霊に頼んで畑を整えるとそこに蔦を1つ1つ等間隔に置いて行く。
そして今度はそれらに声をかけてやるとまるで早送りでもしている様に急激に成長し始めた。
その様子を途中から呆然と見ていた男は今では顎が外れそうな程に口が開いている。
「これで完成だな。さて、上手く出来てくれてるかな」
シアヌは蔦の根元を掴んで持ち上げると柔らかく整えられた土からは大きなサツマイモが幾つも出て来た。
あれだけでも1人で食べるなら2週間以上は生きられそうだ。
この近辺は黒潮の関係で魚介も豊富なので今からやれば十分に冬を越す事が出来る。
そしてシアヌは芋を手に畑から出るとそれを男の前に突き出した。
「これだけあればしばらく大丈夫だろ。」
「・・・え?あ、ああ!?そ、そうだな。」
男は呆然とサツマイモを受け取ると今度はゆっくりと歩き始めた。
流石に今のはインパクトが大き過ぎたかもしれない。
さすがレベル100となると以前にオーストラリアで見た精霊魔法とは桁が違う。
まるであの映画に出て来たシシ神みたいだ。
そして、しばらく歩くと目的の家に到着したのか男は扉を激しく叩き始めた。
「長、長!話があるんだ!」
「何じゃいきなり。また兵士たちでも来たのか?・・・と、お前は何を持っておるんじゃ?」
すると中から白髭の老人が現れ目の前の男が手にしているサツマイモを見て首を傾げた。
それに対して男は芋を持ち上げて長に見せると落ち着きのない言葉で説明を始める。
「長!そこの兄ちゃんが畑でボコボコやったら草を置いてビューって生えたんだ。」
「落ち着きなさい。それでは説明になっておらん。それよりもどうやら客人の様だな。おもてなしは出来んが中へ入りなさい。そこでゆっくりと説明をしてもらいましょう。」
きっとこの人が長で間違いないだろう。
落ち着きと言うか貫禄があり、目の前に食料があるのに冷静に状況を把握しようとしている。
俺達は言われるままに中に入り、そこにある囲炉裏の周りに腰を下ろした。
「それでは話を聞こうかのう。」
「それならこちらから話させてもらう。まずは仕事を頼みたい。こちらが指定した木を切ってこのシアヌに納入するだけで良い。こちらはそれに見合う対価として食料を提供する。」
「それはそこのケンジが持っておるイモの事かの。最近になってここにも少し入ってきておる。甘くて人気があるが殆どは手に入らん。食料の多くは北側の兵士が持って行ってしまうからな。」
どうやら、この辺では今も戦国時代と同じ事が行われているみたいだ。
それに海を隔てた島なので流石にアンドウさんでもケアしきれていないのだろう。
これはちょっと懲らしめる必要があるかもしれない。
「これからはその心配はない。その辺の事は全部コイツが解決してくれる。」
そして俺はこの場の主役であるシアヌを指差した。
ここからはコイツの仕事なので俺はあまり手を出さないつもりだ。
これから長い付き合いになるのだから他人に頼らず自分の力と意思で信頼を勝ち取ってもらいたい。
能力的な事だけを言うならそれくらいのスペックは十分にあるはずだ。
「俺はシアヌと言います。その芋はサツマイモと言いますが俺がさっき作った物です。仕事をこなして畑を使わせてくれれば十分な量を保証しましょう。」
すると長の首が再び傾くと少し考え始める。
そして先程のケンジと呼ばれた男の話と合わせて答えに行き着いたようだ。
「最近ここに来る商人から不思議な力を持つ者が居ると聞いた事がある。もしかしてお主も何かの力を持っておるのか?」
「あまり声を大きくしては言えませんがこの世界に満ちる精霊と会話して力を借りる事が出来ます。その力で植物を成長させ、こうして食料を供給できます。」
「うむ、それで切った木をどうするんじゃ?」
「今は京の都で寺や神社の建材が不足している様です。そこに売って使ってもらいます。そのお金で食料や物を買えばこの島も豊かになると思うのですが。」
話しは良い方向には持って行っているけどそれだと一つの問題がある。
それに長も気付いているのか表情はあまり晴れやかではない。
「しかし兵士たちはどうする。奴らはまた奪いに来るぞ。」
「そこは俺がどうにかします。ですからまずは食料と交換で仕事をしてもらえませんか。」
「うむ、それならこの冬はその話を受けよう。出来れば季節が一巡するごとに契約の更新がしたいのじゃが。」
この老人はなかなかに強かだな。
きっとシアヌが零した情報から来年は他人に頼らなくても大丈夫と思っているのだろう。
その狡猾さは嫌いではないけど恩を感じないなら話は別だ。
「良しシアヌ。帰るぞ。ここにはもう用はない。」
「お、おい!良いのか!?」
俺は立ち上がるとシアヌの腕を取って無理やり立たせる。
そして横で話を聞いていたウシュラも何も言わずに立ち上がった。
「俺達も慈善活動で来てるわけじゃないからな。それに俺が居れば十分に事は足りる。」
「ホッホッホ。この島の木は手強いぞ。お前等だけでどうにか成るとは思わん事じゃ。」
「なら見に来るか?良い物を見せてやるぞ。」
すると長は笑みを浮かべ自信のある顔で立ち上がった。
そして俺達に付いて歩くと山へと向かって行く。
そこには太く大きな杉があり、男達が斧と鋸を必死に動かしていた。
「これなんてどうじゃ。これでもこの島では普通の太さじゃがお主に切れるか?」
そう言って幹を叩きながら笑っているので結果を想像しているのだろう。
確かに幹だけで太さは1メートル以上あるので俺の見た目だと切るだけで何日掛かるか分からない程だ。
「それじゃあ試させてもらうか。」
「あ!少し待ってください。」
そう言ってウシュラは駆け出すと切る予定の木に手で触れ何事か呟き始める。
「この木に宿る精霊さん。今からあなたを切るのでこちらに来てください。」
するとウシュラの掌に光が集まり始める。
そして手の平サイズの球になるとそれを山に向かって解き放った。
「何をしてるんだ?」
「この木に宿っていた精霊に避難してもらいました。しばらくすれば新しい幼木になって戻って来るでしょう。ここは特に精霊が活発なので気を付けないと怒りをかってしまいます。」
「それは初めて聞く話だな。」
俺はそう言う事もあるのかと思いながら刀を抜くと木の幹に向かって無造作に振り切って見せる。
しかし水平に切ったので木は倒れず今は元の通りに立ち続けている。
「さあ早く切って見せてくれんかの?」
「ああ、見えなかったのか。もう切ってるんだ。」
「は?何処がじゃ?」
「この通り。」
俺は切った幹よりも上を掴むとそのまま持ち上げて地面へと降ろした。
下手に倒すと人を巻き込んで怪我をするかもしれないので念の為だ。
「それじゃあ、俺達は行かせてもらう。欲をかいた事を後悔しながら冬を越すんだな。餓死した奴を見てお前は何を思うのか楽しみだ。」
そして俺達は浮かび上がると山の奥へと移動を開始した。
しかし、すぐに山へと響き渡るような大声で長は俺達を呼び止めて来る。
「ま、待ってくれ!儂が悪かった!もう一度話をさせてくれ!」
「それで何年だ?」
「・・・3年。」
「それじゃあな。」
「待ってくれ!5年、5年でどうじゃ!」
「5年か。」
それだけあれば周囲の状況も変化し、こちらもその間に色々と動けるので十分な時間だ。
しかし、どうしてシアヌはそんなジットリとした目で俺を見てるんだ?
ウシュラなんてさっきから笑顔なのに変な奴だ。
「お前っていつもこんな事してるのか?」
「そんな訳ないだろ。偶然だよ偶然。」
「そうですよ兄さん。そうでなければハルヤさんに9人もお嫁さんが居るはずがありません。」
ん?まだこの2人には結婚の事は何も話してないはずだけど何でウシュラは知ってるんだ。
しかも9人って事はユカリも数に入ってるよな。
「ウシュラは何でその事知ってるんだ?」
「精霊から話を聞きました。」
そう言えば2人は精霊と話が出来るので、もしかすると既に色々と知っているのかもしれない。
「シアヌも知ってたのか?」
「いや、精霊は俺とはあまり話してくれないんだ。ウシュラには何でも話すのにどうしてだろうな。」
もしかしてウシュラって諜報員向きなのか?
そうなると下手をしたら世界最強の諜報員になれる可能性があるかもしれない。
精霊は何処にでも居ると言っていたので隠し事は不可能だ。
何か聞きたい事がある時は菓子折りを持参してここに来れば良いだろう。
しかし、ちょっと話が脱線してしまったので、そろそろ返事をしないと長が下で顔色を悪くしている。
俺はシアヌに視線を向けると、どうするかの判断は任せる事にした。
「俺はそれで良いと思うぞ。と言うか1年でも良いと思ってたからな。」
「それは足元を見られ過ぎだ。これからはウシュラと相談しながらしっかりと交渉をしろよ。」
「そうするよ。」
そして契約は交わされ俺はその後に数本の杉を受け取ると皆の許へと戻って行った。
ちなみにこれは後で知ったけどシアヌの得た職業は精霊使い。
ウシュラの職業は精霊の統率者らしい。
そしてその後、長が言っていた通りに北に居た兵士たちがシアヌたちの生活する町へと船を出した。
しかし、その時は局所的な嵐に見舞われ全ての船が転覆し、一部の者が命を落としたそうだ。
すると生き残った者達は神を見たとか精霊を見たと言い始め、兵士を止めて島に家族と永住したらしい。
それと俺の方でもちょっと動いて屋久島を早い段階で天皇家の直轄地にしてもらった。
これで利権を狙う種子島の連中を退ける大義名分が出来、シアヌはこの島を守る守護の役を任される事になった。
そしてウシュラがこの地は精霊が活発だと言っていた通り、2人の意思を受けて死後も長い間この地は精霊たちに護られる事となる。
それが終わる日がいつ来るのか、今はまだ誰も知らない。




