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21 帰宅

俺達が外に出るとそれに続いて多くの生存者も姿を現した。

それを見て自衛隊員たちは驚きに目を見張り理性ある数人が報告に駆け出して行くのが見える。

そし、後ろの生存者たちの一部も周囲を見回して驚愕の表情を浮かべていた。


「俺達の家は何処に消えたんだ?」


このダンジョンの周辺は自衛隊の空爆やミサイル攻撃によって荒れ地に変わっている。

ここに居る多くの人がこの周辺の住民なのでそう思うのは当然だろう。

恐らくダンジョンの中では外の影響がなく一切の情報が遮断されていたはずだ。

そして腰を落とした人々を自衛隊員たちは毛布に包んで移動させていった。

それに殆どの人は周りに気を配る余裕もないみたいで家を失っても命が助かっているのでダンジョンから離れる事を優先する人もいる。

すると先ほどまで生存者のリーダーを務めていた男性が諦めたような表情でこちらにやって来た。

そして何やら頭を掻きながら恥ずかしそうな表情を浮かべている。


「まあ・・・なんだ。他の奴等は忘れてるみたいだから代表して言っとくわ。」

「何かあったか?」


罵倒は既に貰い終わったし、俺達からは何も保証をするつもりは無い。

生きて出て来た事が不満なら死にに戻れば良いだけだ。


「あ~、お前のそう言う所が腹立つわ~。・・・だから感謝だよ、カ・ン・シャ!こうして生きて出て来れたからな。」


どうやら思っていた以上に律義な人物だったみたいで、まさかお礼を言われるとは思わなかった。

それなら、せっかく生き残った事を喜んでくれているなら忠告をしておこうと思う。


「それなら俺からは忠告をしておこうか。」

「な、なんだ。やっぱり怒ってたのか?」

「あれ位なら問題ない。今から言うのは現在の状況だ。いま世界各地でこれと同じ事が起きてる。日本でも3カ所で確認がされているけど鎮静化が出来たのはこれで2カ所目だ。それに俺達の様に魔物と戦える人間は今の所20人も見つかっていない。ここを離れるならしっかりと安全な所を探して移り住んだ方が良い。」

「それならここはお前らが居るから安全なのか?」

「俺達は救助が終わったら自分達の町に戻る。そっちにも近くにダンジョンがあるから本来の担当はそっちなんだ。」


男性は俺の言葉を真剣に聞きながら頷きを返して来る。

この事はテレビでも毎日しているし、今回の事は大きく取り上げられるだろうからすぐに嘘ではないと分かるはずだ。


「分かった。最後に良い事を聞かせてもらった。せっかく助けてもらった命だから大事に使わせてもらう。」

「その方が良い。普通の人がダンジョンに関わるのは危険すぎる。」

「ああ、今後はよく考えて行動するさ。」


すると会話が終わった所でタイミングを見計らっていた隊員が声を掛けてくる。

どうやら話の邪魔をしないように待っていてくれたようだ。


「それではあなたもこちらへどうぞ。」

「ああ、分かった。あんたらも頑張ってくれたんだな。」

「いえ、我々は大した事はしておりません。」


そして男性と隊員は和やかにこの場から歩き始めたけど少しすると男性は足をもつれさせてその場に膝を付いた。

それに対して自衛隊の人はその場にしゃがむと心配そうに肩へと手をやって倒れないように体を支えている。


「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ。少し疲れが出たみたいだな。そう言えば坊主。」

「なんだ?」

「お前は何の為に戦ってるんだ?国の為か。平和の為か?」

「そんなの家族の為に決まってるだろ。」


すると俺の即答に男性は口角を上げて静かに笑みを浮かべたので、俺もそれに対して見えないと分かっていても笑みを返した。


「ケッ!ナマ言いやがって。理由が俺と一緒かよ。」


そして男性は小声でそう呟くと、隊員に肩を借りて歩き去ってしまった。

もし彼の様な人物が力を手に入れればきっと良いリーダーになってくれるだろう。

俺と違って周りを牽引するだけの行動力があるのでこれからスタートとなるここのダンジョンでは心強い存在となってくれるはずだ。

まあ、誰が力を手に入れるかは誰にも分からないけどな。


そして俺達は再び自衛隊員を連れてダンジョンへと突入して行った。

2・3・5階層の犠牲者を回収しないといけないからだ。

それに今回は制圧を終えているので大人数で突撃している。

しかもツキミヤさんのおかげでバイクでダンジョン内が移動可能と分かったので移動の効率も上がり、その日の内に回収を終える事が出来た。


そして、出会いがあれば別れもあり、現在ツキミヤさんは絶賛マジ泣き中であった。


「い~や~だ~~!俺はフランチェスカと一緒に帰る~!」


ツキミヤさんはバイクのハンドルを握り自衛隊の人達を困らせていた。

ちなみにフランチェスカとは彼が自衛隊から借りていたオフロードバイクの事で、どうやら乗り物好きが拗れて愛が芽生えてしまったようだ。

それを見て周りは困り果ててしまい助けを求める様に俺に視線を向けて来る。

しかし、このバイクは国の持ち物で簡単に買い取る事が出来るはずはない。

それに今回契約を交わしたのは俺達だけでツキミヤさんは数に入っておらず、彼がここに来たのも半分は巻き込まれた形と言える。

だからいくら魔物を倒したからと言って何かを得られる訳ではない。


「ツキミヤさん。いい大人が情けないぞ。」

「お前は妹と引き裂かれそうになったら涙を呑んで耐えるのか?」


そう言われてしまえば俺も追加の言葉が出て来ない。

アケミの為なら相手が軍隊でも戦う事に戸惑いはないだろう。

そうなると残された選択肢は一つしか無い。


俺は困り顔の隊員たちを連れて少し離れた場所に移動すると内緒話を始めた。


「これからあなた達はもう一つのダンジョンへ向かうのでしたね。」

「はい。あちらもここと同じ様に酷い状態だそうですから我々も援護に向かう予定です。話ではあなた方に次の依頼をするそうですが思いの他こちらが早く片付いてしまったため手続きが間に合っていないそうです。」

「それなら次の戦闘でツキミヤさんの報酬をあのバイクにしてはどうですか。金額的にもかなりの削減になると思いますよ。」

「少しお待ちください。」


そう言って隊員の一人が何処かに電話を掛けて幾つかの話をするとその口元に怪しい笑みが浮かんだ。


「許可が出ました。もし、彼がどうしてもあのバイクを欲しいと言うなら報酬の半分で手を打つそうです。」

「それでも半分出すとは善良ですね。」


俺はてっきり先日蘇生薬と回復薬を買い叩きに来た男の様に報酬を全額当てると思ってたので今回の担当は思っていたよりも優しい様だ。


「それでも相場の5倍以上は差し引いているそうですから善良ではなさそうですよ。」

「そうですか。まあ、話が着いたのでそれをネタに交渉してみては?」

「そうしみます。」


まあ俺ならアケミと比較すれば1億でも投げ捨てるけどな。

報酬にがめついのも家族と暮らすための資金が欲しいのと無償で引き受けると後でどんな危険な事をさせられるか分からないからだ。

今でも1000万円の報酬で命を懸けた所なので帰ったら少しのんびりしたいところだ。

ただ今の状況がそれを許さないだろうから数日中には動く事になるだろう。


そして交渉はつつがなく終わりバイク(フランチェスカ)は一時的にだが自衛隊の管理下に戻った。

これで彼らもここから移動できるので俺達も再びヘリへと乗り込み地元の空港まで送ってもらい帰路についた。

ただ、帰る時は空港まで行かずに家の上空に滞空してもらっている。


「本当にこのまま行かれるのですか?」

「はい、ここまでありがとうございました。機会があればまた会いましょう。」


俺達は扉を開けると高度100メートルの上空から庭に向かって飛び降りた。

そして地面にそなまま着地すると旅先から帰宅した気楽さで家の鍵を開けて中に入る。

上空のヘリは俺達の無事を確認してから飛び去り、再び周辺には静かな時が流れ始めた。

時刻も既に17時を回っているので今からどうするか決める必要があるだろう。

すなわち外食にするかこれからご飯を作るかだ。


「今日の夕飯はどうするの?」

「戻って来たばかりだし外食にでもするか。」


すると父さんの一声で外食が決定したので俺達は車に乗って出かけることにした。

目的地は近くにある焼き肉店でここの店長は犬が好きでペット入店可となっている。

しかもそれに文句を言う客は二度と来るなと言う程の徹底ぶりだ。

当然、店内には大小の犬を連れた人も多く、飼い主にとっての人気店となっている。

また、店長は猟師もしていてジビエも提供しており、リリーはここで売っている鹿のアキレスが大好物だ。

そして当然、店長の事も大好きなので姿を見せた所で尻尾が狂喜乱舞していた。


「やあユウキさん。なんかアンタの家の方で事件があったみたいだけど大丈夫かい。」

「ああ、色々あったけど元気にやってるよ。」

「そりゃよかった。少し前からあの辺の人が顔を見せなくなってたから心配してたんだ。」


今の所テレビはここ以外の二つのダンジョンで持ち切りなので情報があまり拡散していない。

大量に出た死者も早期蘇生しており表向きは死亡したことになっていないからだ。

そのためテレビに放送される事もなく一部の人が避難しただけで平穏を保っている。

恐らく、この辺が話題になるのはもう一つのダンジョンが落ち着いた後になるだろう。


そして店内にあるテレビでは先程まで俺達が居たダンジョンが取り上げられている。

入るまではしないみたいだけど戦闘の爪痕が残る風景はまるで日本では無いみたいだ。

現在は自衛隊の監視の元で急ピッチで工事も行われているようで再び魔物が溢れ出さない様に強固な壁を作るのだろう。

完璧な物は無理でも一時しのぎにはなる筈なので何かあればすぐに俺達が向かえば良い。

今ではダンジョンの危険性は人々も理解しているので避難の指示があれば従ってくれるはずだ。

前回は対話を試みた集団が居た様だけど一度死ねば懲りていると思う。

それでも再び同じ事を繰り返すなら助ける必要はない。

蘇生薬は無限ではなく数に限りがあるのでもっと優先されるべき人にこそ使うべきだ。

例えば先日の理事長の様に若くして不幸にも死んでしまった子供とか。


するとフと先程の店長の言葉が頭の隅に引っ掛かった。

そして、その答えはこの店内にある気がして周囲に視線を飛ばしていく。


(人人人犬、人人犬、人犬人犬、・・・ペット!)

「ああ、しまった!」


俺は引っ掛かっていた事が何なのか気付くと勢いよく席を立った。

そして、どうやらリリーも気付いた様で立ち上がるとこちらを見上げてくる。

その様子に驚いた店長が俺に声を掛けて来た。


「どうしたい坊主。」

「すみません。ちょっと忘れ物を思い出しました。」


死んだペットの事を忘れていたとはとても言えない。

もしそんな事を言えばここを出禁になってしまうかもしれないからだ。

当然リリーも忘れてはいたけどこいつは良くも悪くも犬なので何があったとしてもこの店へのフリーパスを持っている。

迎えられる事はあっても追い出される事は絶対にない。


「ゴメン皆。ちょっと行って来る。」

「ああ、行って来い。」

「アナタの分のお肉は私がしっかり頂いておくからね。」

「お兄ちゃん。私も涙を呑み込んで見送る事にするよ。」


3人とも既に気付いているのに誰も付いて来る気は無いみたいだ。

しかも母さんは俺の注文した肉を焼き始めてるしアケミは涙ではなく肉とご飯を飲み込んでいるので何とも優しい家族共だ。

リリーだって涙ではなく涎を滝の様に流しながらもちゃんと付いて来ようとしてくれているのに。

ただ、リリーは歩きながらチラチラと後ろを見て先程まで振っていた尻尾が垂れ下がっている。

恐らく心のダメージはコイツが一番大きいのだろう。

その為お金が入ったら良い肉でも食わせてやろうと心の中のメモ帳に書き足しておく。


「それじゃあ行くぞリリー。」

「ワンワンワン!」


何時になくよく吠えているので未練を断ち切るための気合の叫びだろう。

俺も結局食べれたのは目の前で程よく焼けた肉の煙だけなので本心では叫びたい気持ちでいっぱいだ。

恐らく家族を生き返らせた後で言えば、最も精神的ダメージを受けたかもしれない。

しかし、どんなに後ろ髪を引かれようとも、やらなければいけない事を見落としていたのは自分なので仕方ない。

そして俺とリリーは装備を整える為に自宅に向かって駆け出した。


(今日は夕日が眩しいぜ・・・。)

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